おちょこ(お猪口)の種類や魅力、粋な注ぎ方を知って日本酒を味わいつくそう
おちょこは日本酒を味わう酒器のひとつ。一口サイズの小さな器で、たいていはとっくり(徳利)とセットで使われます。ここでは、おちょこの種類や魅力、ほかの酒器との違いなどに触れつつ、日本酒をたのしむための粋な注ぎ方やマナーを紹介します。
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おちょこ(お猪口)は日本酒を飲む際の代表的な酒器
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おちょことは?
おちょことは小さな器のこと。形状や材質に決まりはなく、色や柄もまちまちですが、シンプルなものやコレクション性の高いもの、アンティーク、名のある陶芸家による作品まで、バラエティ豊富に流通しています。
おもに日本酒をたのしむ酒器として知られているおちょこですが、お酒を飲むために用いられるようになったのは、江戸時代中期以降のこと。もともとは和え物など少量の料理を入れる和食器として使われていたそう。
また、そばやそうめんのつけ汁に使われる「そばちょこ(蕎麦猪口)」という和食器もありますが、日本酒に使われるおちょこに比べて、こちらはやや大ぶりです。
おちょこという名前の由来
おちょこの語源には諸説あります。ひとつは「猪口(ちょく)」から転じたという説。「ちょく」とは、「ちょっとしたもの」を指すとも、「飾り気のない」ことを表すとも、安直を意味する「直」からきているともいわれています。
飲んだ酒の量や盃(桝)を表す「鍾(しょう)」という言葉の、福建音(中国語読み)や朝鮮音(韓国語読み)に由来するという説もありますが、明確にはわかっていません。
おちょこで日本酒を飲むメリット
最近は、ガラスのコップやワイングラスで日本酒を飲む人も増えているようですが、日本酒の平均的なアルコール度数は約15〜16度。日本酒は一般に、水で割らずストレートで飲むお酒なので、大きな器になみなみと注いでテンポよく飲んでしまうと、あっという間に酔いが回ってしまいます。加えて、おいしい日本酒ほどペースが速まってしまうので、つい飲みすぎたり二日酔いになったりする可能性も。その点、おちょこのような小ぶりの器は、ゆっくり味わいながらたのしむのに向いていそうです。
あの有名なおちょこの正体
おちょこに、「これぞ定番」というデザインはありませんが、つるんとした質感の白地の器で、内側の底面に青い二重丸があしらわれたものを見たことがある人も多いのではないでしょうか?
これは「蛇の目猪口(ちょこ)」と呼ばれる器で、きき酒に用いられるもの。「きき猪口(ちょこ)」の名でも知られています。白地に際立つ青の二重丸は、日本酒の色や透明度の確認に役立つそうです。
おちょことぐい呑みの違い
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ぐい呑みってどんな酒器?
おちょこと似たものに、ぐい呑みがあります。ぐい呑みも日本酒をたのしむための酒器で、「グイグイ呑む」「グイッと呑む」がその名の由来といわれています。おちょこと同じく種類が豊富で、さまざまな形状や材質のものが流通しているため、日本酒ファンの間では工芸品やコレクターズアイテムとしても注目を浴びています。
おちょこがかつて和食器として用いられていたのと同様に、ぐい呑みもまた懐石用の向付(むこうづけ)として使われていました。向付とは、膳の向こう側(奥)に置く料理やその器を指す言葉で、刺身や酢の物、なますなどを入れるのが一般的とされていました。これがお酒を飲む器に使われるようになったのは、安土桃山時代後期といわれています。
おちょことぐい呑みの違い
おちょことぐい呑みの決定的な違いは、その大きさにあります。おちょこは片手に乗るほどの小ぶりなものが主流で、その容量はおよそ40〜60ミリリットル。一口で飲み干せる大きさです。
一方、ぐい呑みはおちょこよりひとまわりほど大きく、茶碗よりもやや小さいものを指します。容量に明確な定義はありませんが、グイグイと心地よく飲み続けられる量が入るのがぐい呑みです。
おちょこの形状や素材で日本酒の味が変わるって本当?
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おちょこの形状
おちょこの形状は千差万別。飲み口の広いものや狭いもの、深いものや浅いもの、筒胴や丸胴、お椀型やラッパ型、チューリップ型など、さまざまな形のものが存在します。厚みや柄、触感もまちまちで、お酒の器としてはもちろんですが、目で見て触れるたのしみがあるのも魅力です。
では、おちょこの形状は日本酒の味や香りに影響するのでしょうか。答えはイエスです。たとえば、口径の広いものは香りが立ち上りやすく、まろやかな味わいを感じやすくなります。逆に口の狭いものはすっきりとした印象がたのしめます。胴部分の形状によっても香りや味わいは変わり、飲み口の厚みは温度感や舌触りなどに影響します。
おちょこの材質
おちょこといえば陶器を思い浮かべる人が多いと思いますが、実際は磁器やガラス、漆器、錫(すず)など、などさまざまな素材が採用されています。こうした材質の違いも、日本酒の味わいや香りを左右します。
もっともポピュラーな陶器のおちょこは、日本酒の味をやわらかくする性質を持っているため、どんな日本酒とも合わせやすいのが利点。とくに厚みのあるタイプは熱が伝わりにくいため、冷酒でも燗酒でも重宝しそうです。磁器のおちょこは厚みがなく、ひんやりとした感触が特徴。こちらも陶器と同じく万能選手です。
見た目がさわやかなガラスのおちょこは、華やかな香りの冷酒と相性抜群。また、木の温かみが感じられる漆器は日本酒をマイルドな印象に、錫など金属製のものはお酒の雑味を抑えてまろやかにしてくれます。
おちょこととっくり(徳利)の関係
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とっくりの役割
とっくりとは、おもに日本酒を注ぐのに使われる酒器のこと。形や材質、大きさは多種多様で、容量も1合(180ミリリットル)から1升(1.8リットル)と幅広く作られています。古くはしょうゆや油、酢などの貯蔵にも用いられていたほか、酒瓶が出回る以前は、このとっくりにお酒を入れて販売されていたそうです。
酒器に注ぐときの「とくりとくり」という音が特徴で、これが転じてとっくりになったという説がありますが、真偽は不明です。
おちょこととっくりの関係
とっくりから注がれる酒を受けるのが、おちょこの役割です。とっくり1本、おちょこ2つの酒器3点セットとして販売されることが多く、組み合わせて使えば酒の席に統一感が生まれます。もちろん、お揃いのとっくりとおちょこでいただく日本酒は格別です。
おちょこととっくりは冷酒にも燗酒にも使えますが、向き不向きは材質によって異なります。たとえば、ガラス製は冷酒には向きますが、燗酒には向きません。それぞれの用途や気分、好みのお酒に合わせてセレクトするとよいでしょう。
おちょこのマナーと日本酒の注ぎ方
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おちょこで日本酒を飲むときのマナー
おちょこには、公家流と武家流という2通りの持ち方があります。
両手を使って持つのが公家流です。まず、おちょこの底を左手の人差し指と中指で支え、飲み口の縁に親指を添えます。さらに、右手の親指を手前側に添え、人差し指と中指、薬指を外側にそっと添えるのが公家流の持ち方。酒宴の同席者に敬意を払っているように見えます。
一方、親指と人差し指で縁を持ち、薬指と中指で底を支えるスタイルが武家流です。おちょこを片手で掴んでいるように見えるので、豪快な印象があります。
前者が女性向きで後者が男性向きといわれていますが、シチュエーションに合わせて使い分けてもよいでしょう。
日本酒の粋な注ぎ方
おちょこには注ぎ方のマナーもあります。基本的な注ぎ方をマスターしましょう。
右手でとっくりの胴体部分を持ち、注ぎ口の近くに左手を添えてゆっくりと注ぎます。その際、とっくりとおちょこを触れさせないのがポイントです。量はおちょこの八分目が目安。これくらいがもっとも飲みやすく、おいしくたのしめる量なのだそう。注いだあとにとっくりを軽く回すようにすると、雫がこぼれにくくなります。
おちょこは日本酒をたのしむためのこだわりアイテム。銘柄や飲み方、気分、シチュエーションなどに合わせて使い分けができるように、複数種類のおちょこを用意してみてはいかがでしょうか。