伝統酒器「ソラキュウ」こだわりの酒器で味わう焼酎の魅力【焼酎用語集】
「ソラキュウ」は焼酎をたのしむための伝統的な酒器。人吉・球磨地方に伝わるその独特な形状と歴史を、焼酎文化の魅力をお伝えします。ユニークな酒器を通じて、九州の焼酎文化に触れてみませんか?
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「ソラキュウ」は宴席から生まれたこだわりの酒器
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「ソラキュウ」のふるさと人吉・球磨地方とは
「ソラキュウ」は、熊本県の人吉・球磨地方に伝わるユニークな酒器。その魅力を知るには、この地域の焼酎文化を知る必要があります。
熊本県南部に位置する人吉球磨地方。険しい山々に囲まれたこの地域は九州有数の米処として知られていますが、起伏に富む地形上、米作りには不向きと思われる場所もありました。ところが江戸時代の人々は、こうした山陰の土地に隠し田を作り、年貢の徴収を逃れていたのだとか。隠し田で収穫された米は、山並みにろ過された良質な水とともに米焼酎造りに活用。かくれ里という地形も手伝って、独特な焼酎文化が形成されてきました。
「ソラキュウ」誕生の背景にある米焼酎「球磨焼酎」
人吉・球磨地方で焼酎造りが始まったのは、16世紀前半のことです。当時から身分の差を問わず、多くの人々に愛されてきました。江戸時代に入り、幕府による酒造統制が始まってからは、酒造株を得た約20の蔵元による米焼酎造りがスタート。武士や上流階級の間で珍重され、相良藩の収入源となったため、庶民にまでは行き渡らなくなりました。地域で広く飲まれるようになったのは、明治時代に入ってからのことです。
長い年月をかけてその製法を磨き上げてきた球磨地方の焼酎は、「球磨焼酎」の名で親しまれ、1995年には世界貿易機構(WTO)によって地理的表示の産地指定を受けました。米のみを原料に、人吉・球磨地方の水で仕上げた「球磨焼酎」は、現在、ウイスキーのスコッチやブランデーのコニャック、ワインのボルドーやシャンパンなどと並ぶ焼酎ブランドとして、世界中から注目を集めています。
「ソラキュウ」を生んだ人吉・球磨地方の焼酎文化
500年もの歴史を持つ人吉・球磨地方の焼酎文化には、古くから伝わる習慣や宴席の作法がいくつも存在します。たとえば、昔は焼酎を飲む際は、室内なら囲炉裏の隅や床の間の隅などに、屋外なら座席の付近に1雫だけ落としてから、口へ運ぶというしきたりがありました。宴席においては、アルコール度数30度ほどの焼酎を直燗で40〜45度程度に温めてからいただきます。薄めて飲む場合もありましたが、最初から加水した焼酎を出すのは恥と考えられていたのだそう。
「ソラキュウ」というユニークな酒器は、このような人吉・球磨地方特有の焼酎文化から生まれたといわれています。
「ソラキュウ」の形状と名前の由来
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「ソラキュウ」の形状
「ソラキュウ」は、底がとがった駒のような形状がユニークなお猪口の名前。テーブルに置くことができないため、焼酎を注がれたらそのまま飲み干すしかないことから、宴会やお座敷遊びの席で重宝されました。なかには、底の方に小さな穴が開いているものもあり、指先で穴を塞ぎながら、こぼれないうちに飲み干すしかないそうです。
「ソラキュウ」の名前の由来
宴会の席などで「ソラ」と差し出され、お酒を注がれたら、「キュッ」と飲み干す。これこそが、「ソラキュウ」という名前の由来です。焼酎が文化として浸透してきた人吉・球磨地方ならではの習慣から生まれた、まさに焼酎をたのしむための酒器といっても過言ではありません。
「ソラキュウ」と合わせて入手したい焼酎用の酒器
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九州地方に伝わる焼酎用の酒器をいくつか紹介しましょう。
沖縄生まれの「カラカラ」
丸みのある胴体に注ぎ口があしらわれた陶製の徳利。名前の由来には諸説ありますが、泡盛が残っているかどうか振って確かめるとカラカラと音がするという説が有力のようです。
人吉・球磨地方伝統の酒器「ガラとチョク」
30度ほどの焼酎を40〜45度に温めるときに使用したのが、フラスコ型の器に注ぎ口がついた直燗用徳利「ガラ」と、やや小さめのお猪口「チョク」。「ガラ」は沖縄の酒器「カラカラ」が球磨地方に伝わったといわれています。
鹿児島で愛される「黒千代香(黒ぢょか)」
芋焼酎のお燗に用いられる鹿児島伝統の酒器。平べったい形状が特徴の陶磁器の土瓶で、直火にかけることができます。
鳩ぢょか
焼酎王国宮崎に伝わる、鳩の形をした徳利。こちらも沖縄の「カラカラ」が変形したものといわれています。
「ソラキュウ」をはじめ、九州地方には、焼酎や泡盛をたのしむために生まれた個性的な酒器がいくつも存在します。機会があったら手に取って、お気に入りの焼酎を味わってみてください。