「ポットスチル」はウイスキー造りの要となる装置【ウイスキー用語集】
「ポットスチル」とは、ウイスキー造りの要となる蒸溜工程で使用される蒸溜器のこと。その形状がウイスキーの味わいを決めるとも言われるポットスチルの重要性について、そもそも「蒸溜」とはどんな工程かも含めて説明します。
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ポットスチルが活躍する蒸溜工程とは?
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そもそも「蒸溜」とは何か?
蒸溜とは、さまざまな成分が混ざった液体を熱し、沸点の違いを利用して成分ごとに分離すること。子どもの頃、理科の実験で学んだことを覚えている人もいるかもしれません。
この蒸溜を利用して造られるのが、ウイスキーなどの「蒸溜酒(スピリッツ)」。アルコールの沸点が水より低い(約78度)ことを利用して、アルコール分だけを抽出・凝縮することで、ビールなどの「醸造酒」よりもアルコール度数の高いお酒ができるのです。
ウイスキー造りにおける蒸溜工程とは?
ウイスキーの製造工程を簡単に説明すると、原料(大麦など)を発芽させたあと乾燥・粉砕し、温水を加えて糖化をすすめ、ろ過して麦汁を造り、そこに酵母を加えてアルコール発酵させます。そうしてできる、どろどろの液体(もろみ)を蒸溜して、アルコール濃度の高い液体(ニューポット)を取り出します。
このニューポットを樽に詰め、じっくり熟成させることで、ウイスキー原酒が完成します。ウイスキー造りにおける蒸溜工程は、熟成前のウイスキーの性格を決定づける大きな役割を担っているのです。
ポットスチル(単式蒸溜器)とその他の蒸溜器の違い
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ポットスチル(単式蒸溜器)とは?
ポットスチルとは、もろみを蒸溜するための銅製の釜のことで、毎回、中身を入れ替えるので「単式蒸溜器」とも呼ばれています。
もろみの状態でのアルコール度数は7%程度ですが、これを蒸溜することで、65〜70%程度までアルコール度数が上がります。なお、実際に瓶詰めされる際には、加水により40度ほどに調整されるのが主流です。
単式蒸溜では、アルコール以外の多くの成分も同時に蒸溜されるため、香味成分を多く含んだ個性の強い蒸溜酒になります。
ポットスチル以外の蒸溜器とは?
ポットスチルを使用した単式蒸留は、モルトウイスキー造りの伝統的な手法ですが、近代になって新たに開発されたのが「パテントスチル」と呼ばれる連続蒸溜器を使用した手法です。
連続蒸溜は、たとえるなら単式蒸留機が複数あるような仕組みで、連続的に蒸溜できることから、短期間で大量の蒸溜ができることと、原料の風味が残りにくく、クリアな味わいの蒸溜酒ができるのが特徴です。おもにグレーンウイスキーの製造に用いられる方式です。
ポットスチルの形状で変わるウイスキーの味わい
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ポットスチルの構造を知ろう
ポットスチルの構造は、もろみを入れて加熱・蒸発させる「蒸溜釜」、蒸気を冷却して凝縮させる「冷却器(コンデンサ)」、釜と冷却器をつなぐ「パイプ」の3つに分かれています。
パイプは、「ラインアーム」あるいは「ライパイプ」とも呼ばれますが、白鳥の首のような形状から「スワンネック(単に「ネック」とも)」と呼ばれることもあります。
スピリッツの特徴に影響を与えるネックやヘッド
パイプとつながる釜の頭の部分は「かぶと」、あるいは「ヘッド」と呼ばれ、その形状によって、真っ直ぐに立ち上がっている「ストレートヘッド型」、付け根にくぼみのある「ランタン型」、膨らみを持った「バルジ型」に分類されます。
こうした釜の形状と、そこから伸びるパイプの向きによって、蒸溜後のウイスキーの質が変化します。一般的な傾向としては、「ストレートヘッド型」で下向きのパイプからは力強く香り高いモルトが、「バルジ型」で上向きのパイプからは華やかでやわらかなモルトが生まれると言われています。
ポットスチルは、ウイスキー蒸溜所のなかでも、その独特の形がひときわ存在感を示しています。ウイスキーの愛好家が蒸溜所を見学に訪れるのは、ウイスキーの品質を左右する、ポットスチルの形状をその目で確かめるのも目的のひとつ。一度はウイスキー蒸溜所を訪問して、実際に目にしたいものです。