「ミズナラ樽」は、他のウイスキー樽とどう違う?【ウイスキー用語集】
「ミズナラ樽」とは、ウイスキーの熟成に使われる木樽の一種で、日本に多く自生するミズナラの木を使った樽のこと。白檀(ビャクダン)や伽羅(キャラ)などの香木を思わせる、独特の香りが特徴です。そんなミズナラ樽の歴史や、ジャパニーズウイスキーとの深い関わりを紹介します。
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「ミズナラ樽」独自の特徴を知ろう
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ミズナラ樽はウイスキーを熟成する木樽の一種
ミズナラ樽は、ウイスキーの熟成工程に欠かせない木樽の種類のひとつです。
「ミズナラ」とは、ドングリのなる落葉広葉樹、楢(ナラ)の木の一種。ナラの木は英語で「オーク」と呼ばれ、古くから床材や家具、船舶などの材料に使われていて、ウイスキー樽もオーク材で造られます。
ナラの木は世界中に数百もの種類がありますが、「ミズナラ」は、日本の広葉樹林を構成する主要な樹木として、北海道から九州まで広く分布しています。
ミズナラ樽は、ほかのウイスキー樽とどう違う?
ミズナラ樽のほかにも、ウイスキー樽には「シェリー樽」「バーボン樽」などの種類があります。
これらは、いずれもシェリー酒やバーボンウイスキーなど、他のお酒を貯蔵していた樽を再利用したもの。それぞれのお酒の香りや成分が浸透した樽にウイスキーを詰めることで、熟成時に独特の香味やコクが生まれます。
ミズナラ樽で熟成すると、これらの樽と違って、ミズナラ材そのものの香りや成分がウイスキーを彩ります。ジャパニーズウイスキーに特徴的な香りの源として、ミズナラ樽は近年、「ジャパニーズオーク」と呼ばれ、世界中のウイスキー愛好家の注目を集めています。
ミズナラ樽とジャパニーズウイスキー
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ミズナラ樽は、当初はシェリー樽の代用品
ミズナラ樽をウイスキーの熟成に初めて利用したのは、国産ウイスキーの創始者、サントリーでした。
サントリーが山崎蒸溜所で国産ウイスキーの製造を始めた当初は、ヨーロッパから輸入したシェリー樽で貯蔵・熟成を行っていました。しかし、第二次世界大戦にともない、シェリー樽の輸入が困難になり、樽不足の状態に。そこで、国内で調達できるさまざまなオーク材を比較した結果、ミズナラ材が選ばれたのです。
ミズナラ樽がジャパニーズウイスキーの象徴となるまで
ミズナラは、樽材としては加工が難しいうえに、木の香りが強く、当初は必ずしも評価が高くなかったのだとか。しかし、粘り強く創意工夫を重ねるうちに、ミズナラ樽ならではの魅力が明らかになってきました。
新樽で熟成した場合は強すぎた木香が、樽を繰り返し使用するうちに、白檀(ビャクダン)や伽羅(キャラ)などの香木を思わせる、独特の香りをウイスキーにもたらすことがわかってきました。
ミズナラ樽で長期熟成されたジャパニーズウイスキーは、そのオリエンタルな香りで世界的な評価を獲得。今やミズナラ樽はジャパニーズウイスキーを象徴する存在のひとつとなっています。
ミズナラ樽の今とこれから
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ミズナラ樽は近年、貴重な存在に
ミズナラ樽は、ジャパニーズウイスキーの象徴的な存在ではありますが、じつは、ミズナラ樽が主流だったのは戦後しばらくまでのことでした。
ミズナラの木が樽材に使用できるほど成長するまでには長い年月がかかり、加工の難しさもあってコストも高くなります。安価な海外産のオーク材が輸入できるようになると、次第にミズナラ樽からの代替が進むようになりました。
ミズナラ樽でのウイスキー造りを未来に受け継ぐために
ミズナラ樽が減少しつつあるとは言え、その独特の香りにこだわるウイスキーメーカーは少なくありません。
たとえばサントリーでは、稀少なミズナラ樽を維持するために、ミズナラ林の保護・育成にも注力していて、樽用の樹木を選定する際はブレンダー自らが森へ赴くほどだとか。
また、富山県砺波市の三郎丸蒸溜所では、地元の林業家や工務店との富山産のミズナラを使ったウイスキー造りに挑戦しています。
このように、国産ミズナラの可能性を引き出す取り組みが広がることで、ジャパニーズウイスキーの存在感もさらに高まっていくことを期待します。
ミズナラ樽で熟成されたジャパニーズウイスキーは、日本はもちろん、世界中のウイスキー愛好家を魅了しています。ウイスキーを味わうときには、大自然の恵みへの感謝を忘れないでおきたいものです。