「雪国」は日本生まれのスタンダードカクテル!味わいや誕生秘話、おいしいレシピまで紹介

「雪国」は、日本が誇る傑作カクテルのひとつ。ウォッカ(ウオツカ)をベースにしたスノースタイルの美しい一杯で、甘味と酸味の絶妙なバランスを感じさせてくれます。ここでは「雪国」の基本情報から作者や誕生のいきさつ、おいしい作り方まで、詳しく紹介します。
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まずはカクテル「雪国」の基本情報からみていきましょう。
「雪国」は山形県で生まれたスノースタイルのカクテル

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「雪国」は、ウォッカ(ウオツカ)とホワイトキュラソー、ライムジュースをシェイクしてスノースタイルにしたグラスに注ぎ、最後に色鮮やかなグリーンのミントチェリーを沈めるカクテルです。
「スノースタイル」とは、グラスのフチを砂糖や塩でデコレーションするカクテル技法のこと。「スノースタイル」というと、「ソルティドッグ」や「マルガリータ」のようにグラスのフチに塩をまぶすカクテルが有名ですが、「雪国」は塩ではなく砂糖をまぶすのが特徴です。
「雪国」が生まれたのは、かつて北前船の寄港地として栄えた山形の港町・酒田のとある喫茶店兼バー。北国生まれのカクテル「雪国」のグラスを彩る砂糖はしんしんと降り積もる純白の雪景色のようです。
そして、幻想的な色合いのカクテルの底に沈められたミントチェリーは、春の訪れを予感させるアクセント。厳冬の雪の下で春を待つ新緑を思わせる、情緒豊かな一杯です。
「雪国」は甘味と酸味のバランスが絶妙な親しみやすい味

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カクテル「雪国」は、キリッとしたウォッカの口あたりと柑橘の酸味に、スノースタイルの砂糖がやさしく調和する絶妙な味わいが魅力です。
無味無臭でキリッとしたのどごしをもつウォッカと、オレンジ果皮の華やかな甘味とほのかな苦味が特徴のホワイトキュラソー、そして独特な酸味のライムジュース。その3つの組み合わせは、どちらかというとさわやかでシャープな飲み口になります。
そこで「雪国」ならではのオリジナリティを発揮するのが、グラスを縁取る砂糖。グラスの中の液体をフチの砂糖と一緒に口に含むことで甘味と酸味がみごとに溶け合い、ひとくちごとに新鮮で奥深い味わいを演出してくれるのです。
飲むたびにほんの少しグラスを回し、しっかり甘味を加えながら飲むのもよし、グラスの砂糖がなくなったところから飲んで柑橘の酸味をたのしむのもよし。さまざまな味わいの変化を堪能しながら飲みすすめられるのも、「雪国」の魅力のひとつといえそうです。
「雪国」のアルコール度数はやや高め

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「雪国」のアルコール度数は28〜35度くらい。使用する銘柄によって多少前後しますが、ベースとなるウォッカのアルコール度数が40〜60度あり、そこに38〜40度のホワイトキュラソーが加わるため、やはり度数高めの仕上がりになります。
参考までに同じウォッカベースの代表的なカクテルとアルコール度数を比較してみましょう。
ウォッカにノンアルコールのジュースやソフトドリンクを加えてステアするタイプの以下のようなカクテルは、おおむねアルコール度数10〜13度程度です。
◆スクリュードライバー:ウォッカ+オレンジジュース
◆ソルティドッグ:ウォッカ+グレープフルーツジュース
◆ブラッディメアリー:ウォッカ+トマトジュース
◆モスコーミュール:ウォッカ+ライムジュース+ジンジャーエール
一方、「雪国」と同じくウォッカにフレーバードワインやリキュールなどのお酒を加えて作るタイプのカクテルは、アルコール度数33〜37度程度。アルコール度数の高い仕上がりになります。
◆ウォッカマティーニ:ウォッカ+ドライベルモット
◆ゴッドマザー:ウォッカ+アマレット
◆ブラックルシアン:ウォッカ+コーヒーリキュール
◆マリリンモンロー:ウォッカ+カンパリⓇ+スイートベルモット
「雪国」は、お酒が苦手な人でも親しみやすい味わいです。その飲みやすさから、ついついグラスを重ねてしまうこともあるので、適量をたのしむよう注意しましょう。
「雪国」の誕生秘話

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ここからは「雪国」の誕生にまつわる逸話を紹介します。
「雪国」の生みの親は映画『YUKIGUNI』でも話題になった伝説のバーテンダー
「雪国」の作者は、2021年5月に95歳で天寿をまっとうするまで生涯現役であり続けた伝説のバーテンダー、井山計一氏です。井山氏は1926年(大正15年)生まれ。社交ダンスの講師を経て27歳でバーテンダーの道に進みました。東北各地で修行を重ねたのち、故郷の山形県酒田市に戻り1955年に喫茶店・バー「ケルン」を開業。数年後に、日本生まれの名作カクテル「雪国」が誕生しました。
半世紀以上も飲み継がれ、ウォッカベースのスタンダードカクテルとして定着した「雪国」は、その作者・井山氏の半生を追った2018年製作のドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』でも大いに注目を集めました。
「私は日本一幸せなバーテンダー」。
『YUKIGUNI』は井山氏が語ったこの言葉から始まります。当時90歳を超えてなお現役のバーテンダーとしてカウンターに立つ井山氏と彼を慕う後輩バーテンダー、全国からやってくる常連客やバー愛好家たちの想いを丁寧に描いた『YUKIGUNI』からは、カクテルがもたらす幸せな時間、人と人との繋がりも含めたバーの魅力が感じられます。
居心地の良い小さなバーで、ベテランバーテンダーが出してくれるいつもの一杯、カウンター越しに交わす何気ない会話、グラスの中で氷が溶ける音…そんなイメージを描きながら「雪国」を味わってみてはいかがでしょうか。
映画『YUKIGUNI』公式サイト

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「雪国」の名前の由来とカクテル言葉
「雪国」というと、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」という印象的な書き出しで知られる川端康成の小説『雪国』を思い浮かべる人が多いかもしれません。「雪国」というカクテル名もこの小説からつけられたと思われがちですが、じつのところ、カクテル「雪国」に小説「雪国」との結びつきはありません。
カクテル「雪国」が生まれたのは山形県酒田市ですが、小説『雪国』の舞台は新潟県の湯沢温泉。「雪国」の考案者である井山計一氏ご本人も、生前ある記事で「よくお客さんから『雪国は川端康成の小説からですか』と尋ねられるが、そうではない。バーの壁に誰かが書いた一節『人里離れた雪国の宿』が由来である。」と語っています。
ちなみに「雪国」のカクテル言葉は「恋を占う」。これはおそらく小説『雪国』のストーリーからインスピレーションを得てつけられたワードなのでしょう。

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1958年、サントリー主催のカクテルコンクールで優勝し有名に
井山計一氏が喫茶店・バー「ケルン」を開業したのは1955年。その3年後の1958年、サントリー(当時は「株式会社 寿屋」)が発行するPR誌『洋酒天国』主催の第3回「ホーム・カクテル・コンクール」に、創作カクテル「雪国」を出品しました。
「雪国」は東北ブロックでは3位入賞でしたが、翌年の全国大会、つまり決勝ではグランプリを受賞。2万を超える応募作品のなかから選ばれ、今も飲み継がれる名作が誕生した瞬間です。
ウォッカ、ホワイトキュラソー、ライムジュースというたった3つのシンプルな材料にスノースタイルの砂糖をプラスして、甘味と酸味の絶妙なバランスを創り上げた「雪国」。にもかかわらず作者の井山氏は、いっさいお酒を飲めない下戸なのだとか。ほんの少し舐めた記憶をもとに、イメージをふくらませてレシピを作っていたというから驚きです。
カクテル「雪国」のおいしい作り方

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日本で生まれ、海外でも知られるスタンダードカクテル「雪国」の概要をおさえたところで、ここからは実際の作り方を紹介します。
「雪国」のスタンダードなレシピ
「雪国」の一般的なレシピは、ウォッカ:ホワイトキュラソー:ライムジュースの比率が2:1:1。シンプルで覚えやすいレシピです。
<「雪国」の分量例>
ウォッカ…30ミリリットル
ホワイトキュラソー…15ミリリットル
ライムジュース…15ミリリットル
ミントチェリー…1個
レモンまたはライム…適量
砂糖…適量
氷…適量
<作り方>
1. グラスのフチに砂糖をまぶしてスノースタイルにしておきます。
2. シェイカーに氷とウォッカ、ホワイトキュラソー、ライムジュースを入れ、材料が均等に混ざるようしっかりシェイクします。
3. 氷を除いてスノースタイルにしたグラスに注ぎ、ミントチェリーをそっと沈めてできあがりです。
<おいしく作るコツ>
ライムジュースは、カクテル用に加糖・着色されたコーディアルタイプ、無糖の100パーセント果汁、絞ったフレッシュライムなど、好みのものを使いましょう。コーディアルタイプを使うと甘めで淡い薄緑色の仕上がりになり、フレッシュライム果汁を使うとさっぱりとした酸味の薄い乳白色に仕上がります。
またスノースタイルを美しく仕上げるには、あらかじめ砂糖もしくはグラニュー糖を皿などに薄く平らに広げておきます。グラスのフチにカットレモン(ライム)をあてて一周させたあと、果汁が垂れないようグラスを下に向けて砂糖にあて、回転させながらフチにまんべんなく砂糖を付着させます。最後にグラスをトントンと軽く叩いて余分な砂糖を落とします。
このやり方を覚えると、ソルティドッグやマルガリータなど、塩を使ったスノースタイルのカクテルにも応用できるので、せひチャレンジしてみてください。

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「雪国」のこだわりレシピ
「雪国」がサントリー(当時は前身の寿屋)のカクテルコンクールで優勝したときのレシピは以下のようなものでした。
<「雪国」グランプリ受賞時のレシピ>
ヘルメスウオツカ…2/3
ヘルメスホワイトキュラソー…1/3
トリスライムジュース(コーディアル)…2tsp
ミントチェリー…1個
砂糖…適量
井山氏の作る「雪国」のポイントは、スノースタイルの砂糖。上白糖をミキサーにかけ、ふわふわの粉雪にしていたそうです。砂糖のつけ方にも「グラスの外側だけにつける」というこだわりがあったとか。映画『YUKIGUNI』のなかで井山氏ご本人が「内側に砂糖がつくと(飲んでいるうちに中の液体に)糖分が入って味が変わっちゃうから」と語っています。
グラスは創作当時から変わらず細身な逆三角形のカクテルグラスを使用していましたが、後年は甘口志向から辛口志向への時流の変化に合わせてホワイトキュラソーやライムジュース(コーディアル)の量を調節。ベースにしていた「サントリーウオツカ」もアルコール度数50度と40度のものをお客様に合わせて使い分けていたそうです。
戦後の混乱期を強く生き、故郷の酒田で不朽の名作カクテル「雪国」を創ったバーテンダー界のレジェンド、井山計一氏。シンプルで手に入りやすい材料で作れる「雪国」を、ぜひ自宅でもたのしんでみてください。
