「アブサン」とはどんなお酒?「禁断のリキュール」と呼ばれる理由や製造・販売禁止となった歴史も紹介

「アブサン」とはどんなお酒?「禁断のリキュール」と呼ばれる理由や製造・販売禁止となった歴史も紹介
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「アブサン」はニガヨモギを原料とした薄緑色のハーブリキュール。1900年代初頭から約1世紀にわたって製造を禁止された歴史があります。今回は、多くの芸術家たちを虜(とりこ)にした伝説のお酒「アブサン」の数奇な運命、おすすめの銘柄、おいしい飲み方を紹介します。

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「アブサン」というお酒の基本情報からみていきます。

「アブサン」とはどんなリキュール?

ハーブの薄緑色に染まった「アブサン」のグラス

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「アブサン」は、生まれてから200年以上の歴史をもつリキュールにもかかわらず、手に入りやすくなったのはここ20年くらい、という不思議なお酒。フランス語では「アブサント」と呼ばれています。
さっそく、数奇な運命をたどった「アブサン」の歴史をひもといてみましょう。

ハーブやスパイスを使った薬草系リキュール

「アブサン」は、18世紀のスイスが発祥地とされるハーブリキュールです。

「アブサン」の香味を構成するおもな原料は、独特の苦味や芳香をもつニガヨモギというハーブ。そのほかの原料としてアニス、フェンネル(ウイキョウ)、アンジェリカ(アンゼリカ)、ヒソップ、スターアニス、メリッサ(レモンバーム)、ミント、コリアンダー、カモミールなど、多彩なハーブやスパイスが使われています。

芳香原料の風味を引き出す製法は銘柄により異なりますが、伝統的な製法は、ベースとなるスピリッツにハーブやスパイスを浸漬し、蒸溜して抽出する方法です。

「アブサン」の特徴は、なんといってもその力強いハーブの味わい。ボトルのキャップを開けただけで芳醇なアロマが立ちのぼり、舌にのせるといかにも薬草系の苦味が口内に広がります。その苦味のなかにほんのり心地よい甘味があり、後味にはさわやかな清涼感も感じられます。

好き嫌いがはっきりわかれる味ですが、ほかの香草・薬草系のリキュールに慣れた人や、個性的なクラフトジンを好む人ならすんなり受け入れ、複雑な味わいの虜(とりこ)になってしまうかもしれません。

「アブサン」の香味の主原料となるニガヨモギ

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「アブサン」の名前の由来はニガヨモギ

「アブサン」の主原料のひとつであるニガヨモギはヨーロッパ原産のキク科ヨモギ属の多年草で、夏に可憐な黄色い花を咲かせます。

ニガヨモギの独特な香りと苦味は「アブサン」をはじめとしたビター系ハーブリキュールなどの香味原料として使われるほか、葉、茎、花を乾燥させたものや精製したエッセンシャルオイルには芳香性健胃や駆虫に使われることもあるようです。

ニガヨモギの英名は「worm wood(ワームウッド)」、生薬名を「苦𦫿(くがい)」、学名を「Artemisia absinthium(アルテミシア・アブシンティウム)」といいます。

「Artemisia(アルテミシア)」はキク科ヨモギ属の総称で、「absinthium(アブシンティウム)」がニガヨモギという種の名前。「アブサン(absinthe)」という酒名の由来には諸説ありますが、この「absinthium(アブシンティウム)」が元になっているといわれています。

エッセンシャルオイルにも使われるニガヨモギ

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「アブサン」のアルコール度数

「アブサン」のアルコール度数は銘柄によって26〜90度付近までさまざまです。国内のバーやECサイトなどで比較的入手しやすい「アブサン」に限ると、アルコール度数のボリュームゾーンは50度台〜70度台。「強いお酒」という印象のテキーラやウォッカ、ジンといったスピリッツやほかのリキュールと比べても高めです。

「アブサン」の歴史

「アブサン」が生まれたスイスのヴァル・ド・トラヴェールの絶景

isidro Lopez / Shutterstock.com

「アブサン」を開発した人物については諸説ありますが、有名なのはフランス人医師ピエール・オルディネール博士。フランス革命を逃れてスイスに亡命し、ヌーシャテル州ヴァル・ド・トラヴェール地方のクーヴェ村に移り住んでいたオルディネール博士が18世紀にニガヨモギを中心とした15種類ほどのハーブやスパイスをスピリッツに浸漬、蒸溜して最初の「アブサン」を創出しました。

博士の逝去後は信頼されていた家政婦アンリオ姉妹が「アブサン」のレシピを受け継ぎ、さらにそれがアンリ・デュビエ氏の手に渡って、1979年に娘婿アンリ・ルイ・ペルノ氏と共同で蒸溜所を開設。「ペルノ・アブサン」は1805年にフランスに建設した新しい工場で量産化され、人気を集めていく、というのが「アブサン」の大まかなヒストリーといわれています。

禁断のリキュールと呼ばれたアブサン

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「禁断のリキュール」と呼ばれた理由と製造・販売が禁止された背景

「アブサン」が「禁断のお酒」「美しき狂気」「悪魔の酒」などと呼ばれる理由は、かつて幻覚作用があると懸念され、1900年代の初頭から約1世紀にわたって各国で製造が禁止された希有なお酒だからです。

「アブサン」の流行は1800年代の初頭から始まり、1840年代以降さらに高まりを見せます。「アブサン」は解熱薬としてフランス軍に採り入れられ、その味に魅せられた兵士たちが帰国後も「アブサン」を「une verte(緑の飲み物)」と呼んで愛飲。「アブサン」の人気は街のバーやビストロ、カフェなどに広がっていきます。

1860年代には、「アブサン」独特の香りがあたりに漂い始める午後5時ごろを「L'heure verte(緑の時間)」と呼ぶほどでした。

蒸溜所も増え、大量生産によって手に入りやすくなった「アブサン」はさらに幅広い層に浸透していきます。しかし、もともとアルコール度数の高いお酒であることに加え、粗悪な混ぜ物をした模造品も少なからずあったようで、1800年代の終盤に入ると「アブサン」による健康被害が大いに問題視されるようになります。

「『アブサン』の過剰摂取は単なるアルコール中毒とは異なるアブサン症候群を生み、『アブサン』の主原料ニガヨモギに含まれる『thujone(ツジョン/トゥジョン)※』という香気成分がアブサン症候群特有の幻覚やせん妄、けいれんを引き起こす」。そんな悪評が過剰に流布した結果、「アブサン」は向精神薬にも似た危険な薬物と結論づけられ、ついに各国で生産や販売が禁止され始めるのです。
※文献によっては「thuyone(ツヨン/ツヨネ)」

「アブサン中毒を引き起こす危険なお酒」のイメージ

Victor Moussa / Shutterstock.com

「アブサン」禁止国で解禁されたのは2000年以降

「アブサン」の飲用や製造、所持、販売などの禁止はおもに1900年代の初頭から各国で始まります。
1905年ごろからはベルギーやブラジル、1908年ごろには「アブサン」発祥の地であるスイスで全面禁止になり、オランダやアメリカなども続きます。1915年にはついにフランスで禁止され、1932年ごろまでにはドイツやイタリアでも禁止となりました。

なおイギリスやスペイン、ポルトガル、チェコスロバキア(当時)などで「アブサン」が禁止されることはありませんでした。日本でも「アブサン」の禁止措置がとられた記録はなく、その時代に国内のメーカーで製造された「アブサン」が存在しています。

さて、社会が抱えるアルコール問題のすべての責を負わされるようなかたちで姿を消した「アブサン」。しかし、そもそも過剰に摂取すればアルコール中毒に陥るのは「アブサン」に限らずほかのお酒も同じで、「アブサン」だけの特別な症状の原因とされたツジョンの麻薬性を疑問視する研究結果も報告されるようになり、流れが変わっていきます。

1981年、WHOによってツジョンの残存許容量が定められ、ニガヨモギをリキュールの製造に使用することが認められると各国で順次法律や政令が見直され、たとえばスイスでは2005年、フランスでは2011年に「アブサン」が合法化されました。
およそ1世紀の時を越えて、歴史あるリキュール「アブサン」が公に復活したのです。

多くの芸術家を魅了!? 絵画や小説に登場する「アブサン」

約1世紀にわたる雌伏の時を経て再び「アブサン」に取り組む作り手のイメージ

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「アブサン」は1800年代を通して多くの芸術家や知識人たちにインスピレーションを与えたといわれています。

ヴェルレーヌやランボー、オスカー・ワイルド、マネ、ドガ、ロートレック、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソといった偉大な芸術家たちが「アブサン」に魅了され、作品のテーマにも採り入れていました。

アルベール・メニャンの『緑色のミューズ』とヴィクトル・オリヴィア『アブサンを飲む男』という作品には、ともに女性の形をした緑色の幻覚が描かれ、当時の「アブサン」にまつわる空気感をうかがわせています。

「アブサン」は日本の作品にも登場します。
作家・太宰治は『人間失格』のなかで、「永遠に償い難いような喪失感」を「飲み残した一杯のアブサン。」とたとえています。

また水島新司による野球漫画『あぶさん』では、初登場シーンから大衆酒場で「アブサン」のボトルを前に酔い潰れる主人公が描かれています。「あぶさん」とは「安武(やすたけ)」という名前を「あぶ」と音読みにした愛称で、「アブサン」のような強い酒を愛飲しつつ打席に入れば豪快にボールをかっとばす主人公が印象的な作品になっています。

「アブサン」のおすすめ銘柄

日本で手に入りやすいアブサンのおすすめ銘柄を2つ紹介します。

ペルノ・アブサン|多くの芸術家を魅了したフランス産のアブサン

元祖のレシピを継ぐ「ペルノ・アブサン」

出典:ペルノ・リカール・ジャパン株式会社サイト

1805年、アンリ・ルイ・ペルノ氏が設立した蒸溜所で製品化され、数々の芸術家を魅了した「アブサンの源流」ともいえる銘柄。およそ1世紀の製造禁止期間を経て、2011年に伝説のレシピが復活。複雑なハーブの芳香と清涼感のある飲み口が人気です。
アルコール度数は68%。

国内販売元:ペルノ・リカール・ジャパン株式会社
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キュブラー スイスアブサン【ヌシャテル】|1863年から守り続けた秘伝のレシピ

100%オーガニックのピュアアブサン「ヌシャテル」

出典:オザキトレーディングサイト

アブサン誕生の地スイス・クーヴェ村で1863年に創業。一族秘伝のレシピを継ぐ「ヌシャテル」は有機栽培されたオーガニックハーブのみを使用し、合成添加物は一切加えないピュアアブサンです。加水したときの神秘的な青白い乳白色も魅力。スイスのベストセラーです。

製造元:ブラックミント社(Blackmint SA)
国内販売元:オザキトレーディング

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「アブサン」のおいしい飲み方

「アブサン」専用のスプーンに乗せた角砂糖

Jesse Kunerth / Shutterstock.com

「アブサン」はアルコール度数の高いお酒なので、基本的には水で割って飲むのが一般的。ただし「アブサン」には、フランスのカフェやバーで確立した「ritual(リチュアル)=儀式」というものが存在します。それがフレンチ・リチュアル、もしくはアブサン・ドリップと呼ばれる飲み方です。

ここでは、フランスで生まれた「アブサン」の儀式と、かんたんな家飲みスタイルの両方を紹介します。

フレンチ リチュアル|角砂糖でたのしむ伝統的な飲み方

まず、グラスに15〜30ミリリットル、大さじ1〜2杯程度のアブサンを注ぎます。次に、平らで穴の開いたアブサン専用スプーンをグラスの縁に置き、角砂糖を1個乗せます。その上から角砂糖を溶かすように冷えた水を1滴1滴注ぎ、「アブサン」と水が1:3から1:5になったら完成です。

この「儀式」のポイントは、冷たい水を少しずつゆっくり滴下すること。こうすることで、澄んだ緑色だった「アブサン」が乳白色に変化。香りが広がり、飲み口が柔らかくなるのです。

本格的なバーでは水を滴下するための蛇口のついた「アブサン・ファウンテン」なるディスペンサーを完備しています。

アブサン専用スプーンもディスペンサーもECサイトなどで購入できるので、こだわり派はそろえてみるのもいいかもしれません。

専用の道具や角砂糖がなくても、グラスに穴あきのおたまや茶こしを乗せ、大ぶりの氷と砂糖を入れて上から水を垂らすことで代用できます。砂糖は「アブサン」の苦味を和らげるのが目的なので、甘めの「アブサン」なら砂糖は省いてもかまいません。

また「アブサン」に浸した角砂糖に火をつける「チェコスタイル」や「ボヘミアンスタイル」と呼ばれる方法もありますが、クラブやパーティなどでの盛り上げ演出、といった側面が強いようです。自宅で試すときは、くれぐれも火の扱いに注意しましょう。

明るいカフェの窓辺に置かれたアブサンディスペンサー

Studio46 Photography / Shutterstock.com

アブサン×炭酸飲料|ソーダやコーラ、ジンジャーエールと合わせて

豊かで複雑な味わいをもつ「アブサン」は、さまざまな炭酸飲料とも好相性です。

「アブサン」独特の苦味を和らげるなら、コーラで割った「アブサン・コーラ」。ピリッとしたスパイス感と甘味のバランスを探るならトニックウォーターで割った「アブサン・トニック」や、ジンジャーエールで割った「アブサン・バック」を試してみましょう。

「アブサン」の味わいや香りはそのままにアルコール度数を下げたいときは、無糖のソーダ(炭酸水)で割る「アブサン・ソーダ」がおすすめです。

アブサンのおいしい飲み方

Eric Litton / Shutterstock.com

「アブサン」を使ったカクテルも人気

「アブサン」のハーブ感を堪能できるカクテル2種を紹介します。

【アブサングラスホッパー】

甘いチョコミント味にアブサンのハーバルな芳香をプラスした、クリーミーなショートカクテル。アブサンが飲みやすく仕上がります。

<材料>
アブサン20ml
クレームドミント(グリーン)10ml
クレームドカカオ(ホワイト)15ml
生クリーム15ml

<作り方>
すべての材料と氷をシェイカーに入れてシェイク、氷を除いてグラスに注ぎます。

チョコミント味のカクテル「アブサン・グラスホッパー」

NatalyaBond / Shutterstock.com

【アースクエイク】

アブサン、ジン、ウイスキー、3種のお酒で作るショートカクテル。アルコール度数の高さとドライな味わいから飲むと身体が揺れるほどの衝撃を味わえる大人のカクテルです。

<材料>
アブサン20ml
ジン20ml
ウイスキー20ml

<作り方>
すべての材料と氷をシェイカーに入れてシェイク、氷を除いてグラスに注ぎます。

蒸溜酒を手がける国内の酒造メーカーでも、オーガニックハーブなど素材や製法にこだわった「アブサン」が続々登場しています。「アブサン」の味が気に入ったら、ぜひいろいろな銘柄を試してみてください。

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