「掛米(かけまい)」ってどんなお米? 日本酒造りに使われるお米を解説
「掛米」や「麹米」「酒母米」など、日本酒造りに使われる米を指す言葉は複数あります。これらを耳にしたことはあっても、意味はよく知らないという人も多いのではないでしょうか。今回は、これらの米の意味と役割を、日本酒造りの工程と併せて解説します。
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「掛米(かけまい)」とは何か
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「掛米」は「醪(もろみ)」造りに不可欠な米
「掛米」とは、日本酒造りの仕込みの工程で、「醪造り」に使われる米のことを指します。醪とはかんたんにいうと、日本酒のもとになるどろっとした液体のことです。
日本酒は米と米麹、水だけを原料に造られます(純米酒の場合)が、日本酒造りではまず原料となる米を研いで洗い、水に浸し、蒸すという原料処理から始まります。米は「麹米」「酒母(しゅぼ)米」「掛米」の3つの用途に分けられ、それぞれの役割に合わせたタイミングで蒸して使用されます。
なお、日本酒造りに使用される米の割合は、「麹米」と「酒母米」の合計が全体の3割程度に対し「掛米」は7割程度と、原料米の大半は「掛米」として使用されるのが一般的。そのため、蔵元や目指す酒質によっては掛米に使う米を、麹米と酒母米に使う米よりも割安な種類に変える場合もあるようです。
「掛米」などに使用される米の種類
「掛米」や「麹米」「酒母米」として日本酒造りに使用することを目的に品種改良し、その特性が認められた米を「酒造好適米」といいます。類似した言葉として「酒米」がありますが、酒米は一般米も含む日本酒の原料米全般を指すのに対し、酒造好適米は農林水産省によって「醸造用玄米」と定められている米を指します。酒造好適米には約100種類もの品種があり、代表的なものとしては「山田錦」「五百万石」「雄町」「美山錦」などが挙げられます。
酒造好適米は、高品質な日本酒造りがしやすいよう品種改良された米です。そのため、米粒が大きく精米時に砕けにくい、「心白(しんぱく)」と呼ばれる米の中心部分が大きい、雑味のもととなるタンパク質や脂質の含有率が低い、吸水性がよく保湿性が高いなど、日本酒造りに適した特徴を備えています。
とはいえ、酒造好適米でなければおいしい日本酒を醸せないわけというではありません。酒造好適米に指定されていない米を使った良質な日本酒もたくさん造られています。
「掛米」の仕込みの前に使用される「麹米」「酒母米」の役割とは
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「掛米」を始めとした米の用途
前述のとおり、蒸した原料米は用途別に「麹米」「酒母米」「掛米」の3つに分けられます。
◇麹米:麹(こうじ)を造るための米
◇酒母米:酒母(しゅぼ)を造るための米
◇掛米:醪造りの際にタンクに直接仕込まれる米
醪造りではまず、「麹米」を使った「麹造り」、「酒母米」を使った「酒母造り」を行い、麹と酒母を造ります。次いで、麹、酒母、仕込み水、そして「掛米」を複数回に分けてタンクに仕込み、発酵を進めることで日本酒のもととなる醪を造ります。3つに分けられた原料米は、このような用途で使われているのです。
それでは次に、「麹米」「酒母米」の役割についてもう少し詳しく見ていきましょう。
麹のもとになる「麹米」
「麹米」は麹のもとになる米のことで、蒸し米(麹米)に麹菌をまぶし、増殖させたものが「麹」となります。
日本酒造りにおいては、「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という格言があり、「麹造りはもっとも重要な工程」といわれています。
麹造りは「製麹(せいきく)」とも呼ばれ、通常、麹室(こうじむろ)という作業部屋のなかで杜氏や蔵人によって慎重に行われます。
麹は、米に含まれるでんぷんを糖に変える、糖化酵素を生み出す、酵母が増殖するための栄養を与える、日本酒の味や香りをもたらすといった重要な働きをします。日本酒そのものの質や味に関わる大切な原料として、よい麹は不可欠です。
酒母造りに使用される「酒母米」
酒母とは、一言でいうと日本酒を醸造するために培養された酵母のことです。酒母造りでは、麹、水、酵母、乳酸に「酒母米」を加え、通常2週間~1カ月程度培養して酒母を造ります。
酒母の種類は、蔵に棲む天然の乳酸菌のみを利用した「生酛(きもと)系」と、醸造用の液体乳酸を添加した「速醸(そくじょう)系」の2種類あります。前者は非常に手間暇がかかりますが、濃醇で豊かな味わいの日本酒を生むといわれています。後者は、短期間で酒母が造れるうえ管理しやすいというメリットがあります。
酒母には、酵母菌を増やしてアルコール発酵を促す効果があります。また、日本酒に吟醸香などの香りをもたらす効果もあるといわれています。
前述の「一麹、二酛、三造り」における「酛」とは酒母のこと。日本酒の香りや味わいを左右する酒母は、麹と並んで非常に重要なものとして位置づけられています。
「掛米」を仕込む「醪造り」の基本
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醪造りは日本酒造りにおいて重要な工程のひとつ
麹造りと酒母造りが完了したら、いよいよ「掛米」を使った醪造りの工程に進みます。「一麹、二酛、三造り」の「三造り」にあたるプロセスが醪造りです。
醪造りでは、増殖させた酒母に麹と水、そして蒸しあげたあと適温まで冷ました「掛米」を入れてアルコール発酵を進める仕込みを行います。仕込みでポイントのひとつとなるのは、酒母・麹・水・「掛米」の配合比率である「仕込配合」。日本酒の味わいを左右する仕込配合は、蔵元や醸す銘柄によって異なります。
また、仕込みの回数もポイント。原料を一気に加えて一度で仕込むことはせず、酵母の様子を見ながら複数回に分けて原料を投入していきます。この段階的に仕込む方法を「段仕込み」といい、通常は3回に分けて仕込む「三段仕込み」が行われます。なお、四段、五段とより多くの回数に分けて仕込む場合もあります。
「掛米」を段階的に仕込む理由
醪造りにおいて主流の仕込み方法である三段仕込みでは、原料を3回に分け、4日間かけて仕込みます。三段仕込みは、初添(はつぞえ)、仲添(なかぞえ)、留添(とめぞえ)の順に進められ、「掛米」などの原料はそれぞれの段階に適した量が投入されていきます。
このように、原料を段階的に仕込む理由は、雑菌の繁殖を防ぐため。一度にたくさんの掛米を加えると、酒母のなかの酸度が薄まって雑菌の繁殖を抑制する働きが低下するうえ、酵母菌の増殖が進まずにほかの菌が繁殖する可能性が高まるのです。そのため、一般的には適切な発酵を促せるように複数回に分けて仕込まれます。
仕込みを追えたあとは、発酵管理をしながら通常3週間~1カ月ほどかけてタンクのなかで発酵させます。そうして、日本酒のもととなる醪ができあがります。
「掛米」や「麹米」、「酒母米」は、日本酒造りの原料として使用される米で、それぞれ異なる役割があります。これらの言葉の意味や日本酒造りの工程を知ることで、より深く日本酒をたのしめそうですね。