ウイスキーの原酒不足とは? その理由を解説します

ウイスキーの原酒不足とは? その理由を解説します
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昨今、ウイスキーの原酒不足によって、ニッカウヰスキーやサントリー、キリンなど日本メーカーの人気ウイスキーが次々に販売休止や終売に至っています。ウイスキーの原酒不足はなぜ起こったのでしょうか。今回は原酒不足の背景や、増産できない理由などを解説します。

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日本のウイスキーが原酒不足の理由

日本のウイスキーが原酒不足の理由

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日本のウイスキーが原酒不足の理由1:長い間の需要低迷

ウイスキーの原酒不足の理由のひとつに、需要の低迷が挙げられます。

1973年(昭和48年)のオイルショックを契機に、それまで好調だったウイスキーの需要が減少し、世界的に余剰在庫を抱える状況に陥りました。日本でも90年代初頭にバブルが弾けてから、ウイスキーが売れなくなり、商品が余るように。日本ではそれからウイスキー業界の低迷期が20年ほども続いたのです。

こうした需要の減少を受け、各蒸溜所やメーカーは、原酒の製造量を減らしていきました。これが、現在の原酒不足の一因です。

日本のウイスキーが原酒不足の理由2:ウイスキーブーム

近年のウイスキーブームも、原酒不足の理由のひとつです。
酒類課税数量(出荷数量)の推移を見ると、2007年(平成19年)は約7万6千キロリットルまで落ち込んでいたものの、これを底に右肩上がりで増加。2018年度(平成30年度)には、約18万3千キロリットルと倍以上の出荷数量に跳ね上がっています。

この需要回復のきっかけを作ったのがサントリー。2008年(平成20年)ころにサントリーが「ハイボール」のたのしみ方を大々的に提案したところ、お店や家庭でのハイボール人気が高まり、ウイスキーの需要が回復傾向に。また、2014年(平成26年)9月からNHKの連続テレビ小説「マッサン」が放送されると、ジャパニーズウイスキーの需要がさらに拡大します。

もともと生産量が少なかったところに、予測を超える需要増となったため、ウイスキーの原酒が不足していったというわけです。

日本のウイスキーが原酒不足の理由3:世界的に高評価を獲得

もうひとつ、原酒不足に拍車をかけた出来事があります。2015年(平成27年)、ウイスキー評論家のジム・マーレイが、自身の著書「ワールド・ウイスキー・バイブル」にて、世界最高のウイスキーに「山崎シェリーカスク」を選出。これによって、ジャパニーズウイスキーに対する評価が格段に高まったのです。

このほかにも、サントリー、ニッカ、キリン、イチローズモルトなどのジャパニーズウイスキーが、相次いで金メダルを受賞しました。

世界的な評価を獲得したことで、日本のみならず世界中でジャパニーズウイスキーの需要が増加し、原酒がますます足りなくなりました。

なぜウイスキーの原酒を増産できないの?

なぜウイスキーの原酒を増産できないの?

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ウイスキーの原酒不足をすぐに解消できない理由1:大量生産できない

「ジャパニーズウイスキーの人気が急激に高まったのなら、すぐに増産して需要に応えればよいのに」と思いますよね。でも、そんなにかんたんに増産できないのがウイスキーです。

ウイスキーの原酒は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの大きく2種類に分けられます。このうち、原酒不足が問題になっているのはモルトウイスキーです。

連続式蒸溜機で大量生産が可能なグレーンウイスキーに対して、モルトウイスキーはシンプルな単式蒸溜機で蒸溜するため、蒸溜技術が向上しているとはいっても、たくさん生産することができません。

ウイスキーの原酒不足をすぐに解消できない理由2:熟成に時間がかかる

モルトウイスキーは、蒸溜してすぐに出荷するのではなく、樽に詰めて長期間熟成させるのが一般的です。長い樽熟成の年月を経ることで、酒質が安定し、ウイスキーらしい色合いや、若いウイスキーにはないまろやかな風味が生まれます。

熟成期間は、5年以上を要するものが多数。長期熟成タイプには、17年や18年、なかには20年を超えるものもあります。つまり、増産しようにも、高品質のものを造るにはそれなりの年月がかかるのです。

熟成期間が短くてもおいしいウイスキー?

熟成期間が短くてもおいしいウイスキー?

Africa Studio / Shutterstock.com

熟成期間を表示しない「NAS」銘柄が増えている

熟成期間を表示しないウイスキーを、「NAS(ナス)」といいます。NASは「Non Age Statement(ノンエイジステートメント)」の略。日本では、略して「ノンエイジ」と呼ぶこともあります。近年は、世界的なウイスキーの原酒不足によって、NASが増加傾向にあります。

NASの大きなメリットは、「おいしいウイスキーを安く味わえること」です。そのおもな理由として、熟成期間にとらわれずに自由に原酒を掛け合わせることができるため、ブレンダーの腕で理想の味わいを生みだしやすいこと、長期熟成にかかるコストを抑えられるため、販売価格を低く設定できることなどが挙げられます。

(「NAS」は必ずしも熟成期間の短い原酒だけをブレンドして造るものではなく、一部に若い原酒のブレンドも可能なので、自由度が増すのです。)

アイリッシュやアメリカンウイスキーにはNASが多い

もともとアイリッシュウイスキーやアメリカンウイスキーには、NAS銘柄が多くあります。それは、ウイスキー造りの根底に「ウイスキーのおいしさは熟成年数で決まるものではない」という考え方があるからなのだとか。NASを試したい場合は、ラインナップが豊富なアイリッシュウイスキーやアメリカンウイスキーから始めてもよいかもしれませんね。

ジャパニーズウイスキーのNAS銘柄

ジャパニーズウイスキーにもNASは増えています。近年注目のNAS銘柄をいくつか紹介しましょう。

【サントリー】

◇シングルモルトウイスキー山崎
ミズナラ樽やワイン樽で貯蔵した複数のモルトを、絶妙にブレンドしたウイスキー。やわらかく華やかな香りと甘くなめらかな味わいが特徴です。

◇シングルモルトウイスキー白州
森の若葉を思わせる、さわやかでみずみずしい香りが特徴のウイスキー。ほのかなスモーキーフレーバと、軽快な味わいをたのしめます。

◇サントリーウイスキー響 JAPANESE HARMONY
華やかに広がる香りと、奥深くやわらかい味わいが特徴のウイスキー。バランスのとれたハーモニーをたのしめます。

製造元:サントリー
公式サイトはこちら

【ニッカウヰスキー】

◇シングルモルト余市
力強く重厚なシングルモルト。ウッディな風味とピートの香り、ややソルティさも感じられる、個性的なウイスキーです。

◇シングルモルト宮城峡
華やかでフルーティーな香りのシングルモルト。さわやかな余韻が印象的なウイスキーです。

◇竹鶴ピュアモルト
モルトのみをブレンドしたウイスキー。なめらかな口当たりと豊かなふくらみをたのしめます。

製造元:ニッカウヰスキー
公式サイトはこちら

ウイスキーの原酒不足によって、一部の銘柄にはプレミアがついて価格が高騰しているものもあります。しかし、必ずしもプレミア銘柄にこだわる必要はありません。現在、各メーカーでは将来に向けて準備を進めている最中なので、NASも取り入れながら、気長に完成を待ちたいですね。

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