東京都・広尾『アンコム』/ベトナム料理と日本酒のペアリングを提案するベトナミーズが今夏オープン!

東京都・広尾『アンコム』/ベトナム料理と日本酒のペアリングを提案するベトナミーズが今夏オープン!

2020年7月にオープンしたばかりの『アンコム』は、おしゃれなベトナム料理をカジュアルにいただける店。でも魅力はそこに留まりません。じつは、オーナーでソムリエの大越基裕さんによる日本酒とモダンベトナミーズのペアリングの妙を体験できる稀有なレストランでもあるのです。

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スタイリッシュな横丁スタイルのフロアに誕生!

カウンター8席とテーブル8席というコンパクトでカジュアルな店内。「アンコム」とは、 “ごはんを食べる”というベトナム語です。

お店の説明の前に、まずはオーナーの大越基裕(おおこし・もとひろ)さんの紹介から。大越さんは2001年日本のフランス料理店の老舗『銀座レカン』に入社しシェフソムリエを務めた後に独立、現在は、ワインテイスターや飲食店業界でコンサルティングの仕事に携わっていらっしゃいます。

ちなみに以前、『たのしいお酒jp』で監修されている焼鳥店におけるワインペアリング記事に、ご協力をいただいたことがありました。覚えている読者もいらっしゃるのではないでしょうか?

じつは、今回開業した『アンコム』の3年前、東京都・外苑前に『アンディ』というやはりモダンベトナミーズのレストランをオープンさせていて、予約の取れない店として有名です。しかし、そもそもフレンチのグランメゾン出身の大越さんが、どうしてベトナム料理店を営むことになったのでしょう?

「独立して現在の職に就いてから、国内外を問わずたくさんの食材の生産者さんやお酒の造り手さんに出会い、勉強させていただきました。こうして得た知識や経験は、もちろんコンサルティングに活かすことができますが、自らも店を創って提供することで恩返しがしたいと考えたのです」と大越さん。

「ただ、コンサルタントやアドバイザーを生業としている私が営む店が、閑古鳥が鳴いていては示しがつきません。どういうジャンルでオープンするかはとても考えましたし、悩みましたね」と苦笑い。

ワインテイスターや食のコンサルタントとして活躍している大越さんが手がけています(撮影時のみマスクを外しています)。

大越さんによると、現在、東京には約14万軒の飲食店があって、その数は世界屈指。
「これだけ数の店がしのぎを削っているので、フレンチやイタリアン、中国料理や日本料理などの定番ジャンルではなかなか競争に勝つことは難しいと思ったんです」。

差別化できる食事シーン、オーガニックなどの生産者の素材、毎月足を運んでいただけるぐらいのお手軽さなどをポイントに熟考した結果、ベトナム料理に行きついたそう。
「ペアリングは必ずと思っていたので、合わせるのが難しそうな辛い料理が多めのジャンルは外しました。ベトナム料理が野菜を多用するところも日本に合うと決めたんです」。

2020年7月20日誕生した『アンコム』は、広尾駅徒歩2分という好立地にある複合商業施設『EAT PLAY WORKS』のレストランフロア「THE RESTAURANT(ザ・レストラン)」の2階に位置。横丁スタイルで展開している17の飲食店のひとつとして営業しています。

『アンディ』は隠れ家的なダイニングですが、こちらはスタイリッシュながらカジュアルにたのしめる店。
「私たちらしいエッセンスを加えてはいますが、ベトナムローカルフードらしさもしっかりと残し、ベトナムの食文化を体感してもらえると思いますよ」。

ちなみに、料理はランチ、ディナーともコースが中心ですが、夜は横丁の飲み食べ歩きをたのしみたい人向けのアラカルトも20種ほどオンメニュー。それぞれにおすすめの日本酒などの情報も添えられているそうです。

器はベトナムの「ソンべ焼き」が中心で、現地で買い付けているそう。

テーブル席の頭上には、現地をほうふつさせるインテリアも。

「日本酒をたのしめるシーンを増やしたい」

状態をつぶさに確認する姿からも、“日本酒愛”があふれている大越さん(撮影時のみマスクを外しています)。

1号店の「アンディ」では、一部日本酒や焼酎も入ることがありますが、ワイン中心のペアリングを提供しています。一方「アンコム」では、ワインももちろん揃えているものの、力を入れているのが日本酒と焼酎という日本の国酒でのペアリング。ソムリエの大越さんが日本酒をなぜ推しているのかは、疑問に感じるところです。

「ワインの仕事が先行していましたが、もともと日本酒にも興味がありました。温度を変化させることで異なる味わいを引き出せるとか、ワインにはない日本酒ならではの魅力があります。もっとこの日本酒の奥深さを知ってもらえたらいいなといつしか考えるようになりました」。

そこで大越さんが気づいたことが、日本酒は味わえる場が和食中心と限られていること。
「近年は、フレンチレストランでもリストに日本酒を加えるところが増えているのは確かです。ただ、そうした店はたいてい高級店で、なかなか利用することができません。」
そこで『アンコム』のような敷居が低めの店で日本酒を出すことで、和でない食のシーンでもたのしめることを体験してもらおうと考えたそうです。

杉玉がぶら下がっているエスニック料理店は、おそらく世界でここだけでしょう。

日本酒は常時約30種類。マイナス5℃、5℃、16℃と個別に温度設定した3つのセラーで保管しています。

焼酎は常温保管で約10種類。酒器のバリエーションも充実しています。

さらに大越さんの“日本酒愛”がうかがい知れるアイテムをいくつか。まずは滋賀県・『冨田酒造』の『七本槍/awabuki』と『アンコム』がコラボレーションしたスパークリング日本酒。たんにラベルに名前が載っているだけではなく、その味わいにも秘密が…。こちらは次章にて触れさせていただきます。

ラベルにはしっかり、ベトナム語で「アンコム」の名前が(撮影時のみマスクを外しています)。

また、入手困難な『No.6(ナンバーシックス)』で知られる秋田県・新政酒造の『亜麻猫(あまねこ)』は袋吊り指定で絞ってもらっていて、そちらも瓶口に明記。また『亜麻猫』の魅力を最大限引き出すグラスの開発を大越さんが担当したというエピソードも、蔵元との親密な関係を裏付けています。

ここにも袋吊りの下に「アンコム」の文字。

特製グラスのプレート部分には、大越さんの名前が刻まれていました。

ペアリングコースで6組のマリアージュを満喫

ベトナムローカルフードと日本酒が国境を越えて結ばれます。

ここからは、コース5000円+ドリンクペアリング4000円で組合せのポイントなどを教えていただきます。ドリンクは、アミューズとデザートをのぞく6種の料理ごとにドリンクが提供されますが、あわせて消費税込みの9900円。1万円でお釣りがくるのは嬉しいですね。

パパイヤサラダ×スパークリング

『パパイヤサラダ』

オーソドックスな青パパイヤに加え、青パパイヤのぬか漬けと完熟したパパイヤも。酒粕と柑橘系果汁のドレッシングで複雑な味わいのサラダです。合わせるのは先に紹介した『七本槍/awabuki』。

「乾杯はやはり泡で。蔵にリクエストして酸味を強めかつドライに仕上げてもらっています。サラダのみずみずしさにフレッシュさで合わせました」。
柑橘系ドレッシングに酒の酸味が重なり軽やか。清涼感あふれるスタートです。

『七本槍/awabuki』(滋賀県『冨田酒造』)。

サーモンのエゴマ巻き×焼酎麹の日本酒

『サーモンのエゴマ巻き 焼きなすとココナッツ』

ビーツのピクルスをトッピングしたサーモンのタルタルをエゴマで巻き、ディップに付けていただきます。ディップは焼きなすをなめらかなペーストにし、ココナッツミルクを加えていて、南国の香りが鼻腔をくすぐります。

合わせたのは、こちらも先述した特別に袋吊りした『亜麻猫』。焼酎に使用する白麹も使って醸造しているため、クエン酸を多く生成していて酸味が際立っています。
「生酛造りなので乳製品のニュアンスがあり、それがディップのココナッツミルクとなめらかな食感に重なります。キレのいい酸味は魚介の生臭さを抑えてくれるんですよ」。

『亜麻猫』(秋田県『新政酒造』)。大越さんデザインのグラスで。

エビの生春巻き×自然派日本酒

『エビの生春巻き しょっつる』。

ベトナム料理の定番・生春巻き。野菜がふんだんに使われているのが特徴で、この日の中身はエビのほかに、オクラ、キュウリ、ニンジンにシバ漬け、さらにパイナップルも。ソースはナンプラーでなく日本の魚醤「しょっつる」にスダチを絞り、オーガニックの黒糖を加えています。

米・米麹・水のみ、酵母を添加せず天然蔵付き酵母で醸した完全無添加の“超自然派”日本酒がパートナー。使用している酒米はオーガニックの「亀の尾」です。
「お酒のナッティーなフレーバーと複雑性が、しょっつるの背中をそっと押すイメージ。ワインの場合は食べた後に口に含みますが、こちらは食べながらお酒を飲み口中でのマリアージュをたのしんでいただきたいです」。

『仙禽(せんきん) オーガニック ナチュール』(栃木県『せんきん』)。

揚げ春巻き×麦焼酎

『揚げ春巻き 筑前煮』。

続いての揚げ春巻きの中身は、何と筑前煮。網目のライスペーパーでくるんで揚げています。葉野菜でミントなどのフレッシュハーブとともに包んで。レモングラスの風味を移したポン酢でいただきます。

「麦焼酎を同量の炭酸で割ったものを用意しました。キレのいい泡が口中の油分をすっきり整えてくれます。麦焼酎ならではの香ばしさも揚げ物にぴったりです」。
さらにこの焼酎は無濾過なのがポイント。ややねっとりとしているところと豊かな余韻が、具材の筑前煮の広がるような旨味と同調しています。

『青鹿毛』(宮崎県『柳田酒造』)。

ラムのつくね×熱燗

『レモングラス ラムつくね』。

メインで登場したのはラム。羊肉は粗目に挽いてあり、細かく刻んだレモングラスとアジアンスパイスと混ぜつくねに仕上げています。噛んでみると、歯ごたえがしっかり、温もりをともなったジューシーさが口の中に広がっていきます。

ここで燗酒が登場。「60℃ぐらいとかなり熱め」ということですから、“飛び切り燗”に近い熱燗です。この『山形正宗』、酒米には愛好家を唸らせる赤磐(あかいわ)雄町を使用。温度を上げることで、輪郭がしっかりし味わいにスパイシーさも現れています。

「料理の噛み応えとお酒のしっかりしたテクスチャー、ともに香りにあるスパイシーさで繋がります。あと、温かい料理には温かいお酒のコンビは、やはり外れがないですね」。

『山形正宗』(山形県『水戸部酒造』)。

フォー×ぬる燗

『チキンフォー』。

大越さんは締めのフォーにも日本酒を合わせます。やさしい味のスープに、米粉の麺とボイルしたチキン。別盛りのハーブとライムを自分で入れるという典型的なフォーですが、本枯節のかつお節を途中で投入して味変できるのがアンコム流です。

「こちらは豊かな旨味を持った優しい味わいで有名な悦凱陣の純米吟醸を40℃ぐらいのぬる燗に。旨味が更にふくよかに広がり、スープのコクに奥深さを与えてくれます。“追いがつお”するとお互いの旨味がさらに引き上げられるというマリアージュです」。

確かに口の中が穏やかでやさしくなり、気づいたらボウルはすっかり空っぽに! ごちそうさまでした。

『悦凱陣(よろこびがいじん) 純米吟醸 金毘羅大芝居』(香川県『丸尾本店』)。

日本酒とエスニックのマリアージュは斬新な体験でした。日本酒をたのしむシーンとなると、お鮨や天ぷらなどの和食しか思いつかなかったのですが、これからは先入観にとらわれずいろいろな料理と合わせてみたいと思います。とくに印象的だったのは、つくねとフォーのようにそれぞれの味の様相に合わせて温度を上げた組合せ。家庭でも温かな料理に燗酒をぜひ試してみてください。

アンコム
東京都渋谷区広尾5-4-16
TEL/03-6409-6386
アクセス/東京メトロ広尾駅より徒歩2分。
営業時間/火~日11:30~15:00(ラストオーダー14:00)、17:30~23:00(ラストオーダー22:00)
定休日/月

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※価格やデータ、料理や酒の内容は取材時のもの。価格はすべて消費税別となります。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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