東京・狛江『籠屋ブルワリー|たすく』/老舗酒屋が営むレストランを併設したブルワリー
2017年秋、東京都狛江市ののどかな住宅街にスタイリッシュな建物が出現。じつは、この地で綿々と営んできた老舗酒屋が開業したブルワリーで、レストランも併設しています。誕生にいたった経緯やビールと料理のペアリングについて、4代目の秋元慈一さんに伺いました。
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明治35年創業の酒屋さんがビールを自家醸造
4代目の秋元さんは東京農業大学醸造学科卒。家業の酒屋とともに、大学の後輩たちとブルワリーとレストランを営んでいます(撮影時のみマスクを外しています)。
すぐ近くを多摩川が流れ、河川敷にはランニングや散歩をたのしむ地元の住民の姿。都心へのアクセスが便利なエリアながら、のんびりとした雰囲気を感じる一角に、目指すブルワリー&レストランはありました。
まず伺ったのは“母屋”的な存在である酒屋。年季を感じる漆喰壁という昔ながらの店舗で、「籠屋(かごや)」という名前がそこかしこに見られます。お話をお聞きするのは専務取締役の秋元慈一(あきもと・じいち)さん。いただいた名刺には『有限会社 秋元商店』の文字が。籠屋は屋号のようです。
「うちは明治35(1902)年の創業です。当時は酒を販売すると同時に、籠などを編んで売り物としていました」と秋元さん。
現在は静かな店の前の通りですが、昔はメインストリートだったようで、酒蔵や材木屋に菓子屋など数多くの商店が営んでいて、たいそう賑やかだったそう。
約120年の歴史を持つ『秋元商店 籠屋』。
創業当時は、人々の往来の激しい目抜き通りだったとか。
「当店は代が変わると大きく業態が変わるという不思議な店なんですよ(笑)」。
初代の時は籠を売り、2代目で御用聞きなどが多いいわゆる“町の酒屋さん”に専念。秋元さんのお父様で3代目の社長は地方の造り手を発掘、目利きした地酒や本格焼酎などを揃え、地元以外の愛酒家からも注目される酒屋となりました。
「私は大学で醸造を学んだこともあり、いつしかお酒を売るだけでなく造りたいと願うようになっていました。さらに私を育ててくれたこの地を盛り上げていけるような形で酒造りができないものかと。地元の人々が育てたホップなども使えると閃くなど、行き着いたのがビールの醸造だったのです」。
「社長は反対されなかったのですか?」の問いかけには?
「いいえまったく。自分の代がきたらやりたいようにやるが秋元家の伝統みたいになっているようです。現在、父は『僕がビールやろうって言いだしたんじゃなかったっけ?』と、たのしんでいますけどね」。
食事と合わせて美味しいビール造り
おそらくここだけにしかない!? 木桶で仕込んだ『和轍(わだち)』。
願いが実を結んだのは2017年のことで、7月に酒屋に隣接する敷地に建物を造成。10月に発泡酒免許を取得して、ビールの自家醸造をスタートさせることができました。創設時から秋元さんのパートナーとなり、ビール造りを支えてきたのが江上裕士(えがみ・ひろし)さん。
「江上は大学の後輩で、大手ビール会社でブルワーとしてさまざまな経験を積んできました。ヘッドブルワーをオファーし、タッグを組むことにしたのです」。
イケメン! 醸造長の江上裕士さんをタンクの前で(撮影時のみマスクを外しています)。
建物の1階で酒屋寄りの一角がブルワリー。酵母の培養設備などの醸造機器が並んでいます。ピカピカに輝く銀色のステンレス製発酵タンクが300リットルのサイズのものが5基。でもその横には、ブルワリーではあまり見かけないものの姿が…。
「これは杉の木桶なんですよ」と、ちょっと悪戯をした子どものような顔で秋元さん。
日本酒やワインのようなバレルエイジ(木桶発酵)をビールに応用してみようと考えたそうで、
「和食や日本の家庭料理に合うビールが造れるんじゃないかとトライしてみたんです」。
この話にもあるように、乾杯や“とりあえずのビール”に留まらず、“食中酒”として魅力的なビールを開発していこうというのが、秋元さんと江上さんの目標。現在醸している食事に合うビールは、木桶で仕込んだ『和轍(わだち)』など約10種類です。
こちらが杉の木桶。6つ目ということで「六」の刻印が。
取材時は煮沸が行われていました。
食との相性へこだわりは、合わせる料理にも。引き続きビールに合う料理を提供するレストラン『籠屋たすく』を紹介しましょう。
ビールに寄り添う“発酵料理”が中心
向かって左手部分がレストラン。大ケヤキの脇に入口があります。
ブルワリーと対をなすレストランの名前は、「籠屋たすく」。その由来を尋ねると、
「酒屋の右側にあるから。“右”と書いて“たすく”と読むんですよ」と教えていただきました。さらに「『籠屋の“助け”になるとも解釈できるね』と父と話しています」という縁起のよさも込められているようです。
陽光がふんだんに差す中庭を囲むように、カウンター席や厨房、テーブル席が設けられています。外付けの階段をあがるとオープンエアのテラス席も。「狛江市保存樹」に指定されている大ケヤキの緑がまぶしく、枝葉がつくる影も空間にメリハリを演出しています。
厨房の様子がわかる1階のカウンター席。
こちらはテーブル席。間接照明でシックな装い。
天気がよければ、風が心地よいテラス席が特等席です。
さて気になる料理ですが、“発酵をオシャレに味わう”を掲げてオープン。オリジナルビールはもちろん、日本酒や焼酎にワインといった酒と相性が抜群の“発酵料理”をいただくことができます。
じつは、籠屋たすくの厨房やフロアを切り盛りするスタッフにも大学の後輩が。東京農業大学で学んだ発酵の知識が活用されていました。また、こうした発酵つながりの食と酒を提案する一方で、
「地元のコミュニケーションスペースとして活用してもらいたい」という考えから、カフェや居酒屋系の親しみやすい料理もラインナップ。発酵食品が苦手な人が訪れてもたのしい時間が過ごせるように配慮されていました。
秋元さんを挟んで、向かって左が佐々木健(ささき・けん)さん。右が大学の後輩の亀井貴之(かめい・たかゆき)さん(撮影時のみマスクを外しています)。
取材日のおすすめ前菜メニュー。
ビールは、「グロウラー」という容器を購入すれば、全種類量り売りで持ち帰ることもできます。
おすすめのビールと料理のペアリング
発酵料理との相性のよさを体感しました。
ここからは、お待ちかねのテイスティングとペアリングの検証。おつまみ系からメイン、締めまで提案していただきました。
小麦ビール×キッシュ
『遙風(はるかぜ)』(レギュラー600円)。
「Japan Brewers Cup2019」小麦系ビール部門4位入賞。「Japan Great Beer Awards2020」銀賞受賞という評価の高い小麦ビール。オレンジピールとコリアンダーの風味が独特で、口当たりもとても滑らかです。
料理は塩こうじで漬けたときしらず(鮭)と地元産枝豆のキッシュ。生地とビールが小麦の香りが重なります。付け合わせのキャロットラペに加えたコリアンダーシードも、ビールのコリアンダーとつながりのよい仕事をしていました。
『ときしらずと狛江産枝豆のキッシュ』(600円)。
木桶仕込みビール×ポテトサラダ
『和轍(わだち)』(レギュラー750円)。
和食に合わせるために醸した木桶仕込みのビールは、国産麦芽100%使用。上品な吉野杉の香りがほのかに立ち上り、奥行きの深さを感じる味わいです。
ポテトサラダは、酒粕で熟成させた塩豚といぶりがっこ入り。いぶりがっこのスモーキーさとビールの木の香りが、ペアリングの要。ビールと塩豚の旨味がともに味わい深く、箸が止まらなくなる組み合わせでした。
『塩豚といぶりがっこのポテトサラダ』(600円)。
定番のエール×フライドチキン
『ゴールデンエール』(レギュラー600円)。
籠屋ブルワリーの定番のエールビールは透明感にあふれ、みずみずしさが前面に出ていました。ほのかにモルトの甘味が感じられ、飲み飽きることがないという感想です。
合わせた料理は、がっつり系のフライドチキン。見た目はとてもスパイシーですが、塩こうじを効かせているため、じつはマイルド。ホップの爽やかな苦みが、口中の油分を整えてくれます。
『塩こうじのフライドチキン』(700円)。
酒米のビール×チキンカレー
『クニさんの赤磐雄町70』(レギュラー800円)。
日本酒好きにはたまらない赤磐雄町(あかいわおまち)米を55%など、日本酒用の米を使用したビールスタイルの和酒。すっきりしたキレや爽快感がありますが、柔らかいふくらみに“日本酒”が感じられます。
米には米ということで、締めのカレーとのマリアージュが絶妙。具材のタンドリーチキンと十五穀米には調理過程で酒粕を使用、体に優しい発酵料理に仕上げられていました。
『スパイスチキンカレー』(1000円)。
食前にグビグビと飲むビールが美味しいのは、誰もが認めるところ。でも食事に合わせていただくことで、今まで気づかなかったビールの魅力にふれることができました。さまざまなタイプのビールと料理とのペアリングを試しに出かけてみませんか? 体験すれば、おうちごはんにも応用できて“たのしいお酒”ライフがさらに充実することでしょう。
籠屋ブルワリー/たすく
東京都狛江市駒井町3-34-4
TEL03-3480-8931・03-5761-8101(たすく)
アクセス/ 小田急線和泉多摩川駅より徒歩15分
営業時間/火~日11:30~22:00
定休日/月
籠屋ブルワリー/たすくの詳細はこちら
※価格やデータは取材時のもの。価格はすべて消費税別となります。
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2020年9月22日現在、「籠屋ブルワリー/たすく」は通常通り営業とのことです。