奄美大島の小さな蔵元・山田酒造が造る、風味豊かな黒糖焼酎【焼酎用語集】
奄美大島に蔵を構える山田酒造は、家族で営む小さな焼酎蔵です。代表銘柄である「あまみ長雲」は、黒糖らしいコクとやわらかい甘味のある味わいで評判。今回は、山田酒造の焼酎造りへのこだわりや代表銘柄について、紹介していきます。
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山田酒造が酒造りに用いるおもな原料は、奄美の環境が育んだもの
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奄美の焼酎蔵、山田酒造とは
奄美大島の大島郡龍郷町(たつごうちょう)に蔵を置く山田酒造は、黒糖焼酎の蔵元です。農協の酒造場で黒糖焼酎造りに携わっていた初代、山田嶺義氏が、昭和32年(1957年)に旧龍郷村・大勝にて創業したのが始まり。現在は、二代目の山田隆さん夫婦と三代目の山田隆博さん夫婦を含めた家族4人で、蔵を営んでいます。蔵があるのは、水と緑に恵まれた静かな山間部。焼酎造りに適した環境で、ていねいな酒造りが行われています。
黒糖のもととなるサトウキビを自社で栽培
山田酒造では、黒糖焼酎の原料である黒糖はおもに沖縄県産を使用していますが、自社栽培のサトウキビで造った黒糖も焼酎造りに用いています。
黒糖焼酎造りの要ともいえるサトウキビの栽培を始めたのは、平成21年(2009年)のこと。蔵の近くに畑を開き、春には苗の植え付け、夏には草を刈り、秋には収穫を行うという一連の工程を手作業で行っています。
収穫作業でも機械を使わず、人の手で行うのが蔵元のこだわり。手作業で収穫することでサトウキビの酸化を防ぐことができ、風味のある黒糖に仕上がるといいます。そのため、1月ころの刈り取り作業は、家族総出で行います。
肥料に焼酎かすを使って育てたサトウキビは、香ばしくて口どけのよい黒糖を生み、山田酒造の黒糖焼酎にも生かされています。
奄美の自然のなかで育まれる地下水を使用
長雲山系のふもとにある山田酒造は、仕込み水や割水に使う水にも恵まれています。創業当時から使用しているのは、長雲山脈のふもとに湧き出るという「みどりの泉」。地元でも長く愛されている代表銘柄「あまみ長雲」は、長雲山系の水を使っていることに由来しているそうです。
蔵元は、奄美の水と龍郷町で生産された米、そして自社栽培の黒糖を使った、100%地元産の黒糖焼酎造りにも励んでいます。
山田酒造の製法へのこだわり
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手作業を重視する山田酒造の麹造りと仕込み
麹造りは手間のかかる作業のため、現代的な麹造りでは、全自動の製麹機械が使われることが一般的です。しかし、手作業を大切にする山田酒造では、昔ながらの「三角棚」という装置を使って、ていねいに麹造りを行っています。
また、一次仕込みの工程も、昔ながらの「甕(かめ)」で行っています。五感を最大限に活用し、人の手をかけることで、よい酒を生み出しているのです。
山田酒造は、蒸溜・熟成も手間ひまかけて行う
山田酒造では、蒸溜に単式常圧蒸溜法を採用しています。昔ながらのこの方法で蒸溜すると、原料の風味や旨味を十分に引き出せるのだといいます。また、蒸溜で得た原酒は、豊かな味わいや幅のある風味をそのまま活かすため、冷却ろ過を行っていません。
こうしてできた原酒は、長期間貯蔵・熟成されます。貯蔵している間も蔵元は、熟成によって自然に浮いてくる油脂分を取り除く作業を繰り返し行います。手間を惜しまず、ていねいに酒造りを行うことで、香りよくまろやかな口あたりの、澄んだ焼酎が出来上がるのです。
山田酒造が造る、黒糖焼酎の代表銘柄
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山田酒造の代表銘柄
山田酒造を代表する銘柄を、いくつか紹介しましょう。
【あまみ長雲】
長年、地の酒として親しまれてきた、山田酒造の看板銘柄。黒糖の持つ自然な甘さや香り、コクのある味わいとやわらかい口あたりが特徴です。とくにお湯割りがおすすめ。
【長雲一番橋】
低温で時間をかけてじっくり溶かした黒糖を使い、とくに黒糖らしさを引き出した1本。黒糖の芳香な香りと、華やかでエレガントな印象が特徴です。初代が務めていた農協の酒造場の近くに架かっていたという、「一番橋」が名前の由来だそう。
【山田川】
年間出荷750本ほどの限定酒。自社栽培の黒糖と龍郷町秋名産の米を使った、奄美大島産原料100%の黒糖焼酎です。黒糖だけでなく、お米の香りがするのも特徴。
【花おしょろ】
銘柄名の意味は、「ご祝儀に一献差し上げましょう」という意味。地元のお祭りなどの行事や祝いごとに関わってきた、山田酒造らしいネーミングです。こちらも黒糖の香りが強く感じられます。
入手困難な長期熟成酒もおすすめ
黒糖焼酎は寝かせることでさらに旨味が増します。山田酒造の長期熟成焼酎を紹介します。
【長雲 長期熟成五年古酒】
ひとつの原酒を、5年以上貯蔵して熟成させたビンテージ黒糖焼酎。年間600本ほどと少量生産のため、入手困難ですが、ひと口飲めば、寝かせたことで生まれる繊細な甘味のとりこになるでしょう。
【大古酒長雲】
さらに希少価値が高いのが、20年以上も長期熟成させた大古酒長雲。アルコール度数約34度の原酒を瓶詰めしたもので、島内でも入手困難となっています。甘くふくらみのある黒糖の香り、まろやかできめ細やかな口あたりは、どれを取っても一級品です。
山田酒造の、ていねいな手作業で造られた黒糖焼酎は、古くから地元の人に愛されてきました。そこには、小さい蔵だからこそ守り抜いてこられた、酒造りへの想いが込められています。黒糖の豊かな風味をたのしみながら、奄美大島に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。