「モルトウイスキー」の「モルト」ってそもそも何? 【ウイスキー用語集】
「モルト」と言えば、ウイスキーの世界では「モルトウイスキー」の原料としてお馴染みですが、そもそも「モルト」とは何でしょうか? ここでは、いまさら人には聞きづらいモルトの意味や、モルトで造られるモルトウイスキーについて説明します。
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モルトはモルトウイスキーの原材料「大麦麦芽」
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「モルト」は大麦を発芽させた「麦芽」のこと
「モルトウイスキーの原料は何か?」と質問されて「麦」または「大麦」と答える人もいるかもしれませんが、正確ではありません。正しくは、「大麦の麦芽」、英語では「モルト」です。
モルトすなわち麦芽とは、大麦の種子を発芽させたもの。では、なぜ大麦そのままではなく、わざわざ発芽させるのでしょう? その答えを知るには、ウイスキーの製造工程を理解する必要があります。
「モルト」を造る工程「モルティング(精麦)」とは?
モルトウイスキーに限らず、ウイスキーの製造工程は、原料となる穀物に含まれるデンプンを糖化させ、この糖をアルコール発酵させた後、蒸溜、熟成と進みます。
じつは、大麦のままではデンプンを糖化できません。ところが大麦を発芽させると糖化酵素が生成され、糖化・発酵が可能になります。このため、モルトウイスキーの製造には、大麦を発芽させてモルトを造る「モルティング(製麦)」と呼ばれる工程が必要になります。
「モルト」はグレーンウイスキーでも重要な役割を担う
スコッチウイスキーで、モルトウイスキーと対比されるのが「グレーンウイスキー」です。
グレーンウイスキーの主原料は、トウモロコシや小麦、ライ麦などの穀類(グレーン)ですが、糖化のため一部にモルトを用いるのは、モルトウイスキーと同様です。ただし、モルトが中心のモルトウイスキーに比べて、クセが少なくて飲みやすいウイスキーになる傾向があります。
同じくモルトを原料とするビールとの違いは?
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モルト(麦芽)はビールの原料にも
「モルト」と聞いて、ウイスキーではなくビールを思い浮かべる人もいるかもしれません。
ビールもまた、モルトウイスキーと同じくモルト(麦芽)を主原料にしていますが、なぜ風味もアルコール度数もまったく違うお酒になるのでしょう? ごく単純に言えば、同じ原料から造られるお酒でも、造り方が大きく異なるからです。
モルトウイスキーは「蒸溜酒」で、ビールは「醸造酒」
モルトウイスキーとビールの製造工程を比較すると、大きな違いが蒸溜工程の有無です。モルトウイスキーなどウイスキーは、蒸溜して造られる「蒸溜酒」ですが、蒸溜しないビールは「醸造酒」に分類されます。
両者の製造方法は、前半はほぼ同様。大麦を発芽させてモルトを造る製麦から始まり、糖化、発酵と進みます。ビールの場合、発酵した液体をろ過して瓶詰めしますが、ウイスキーはここから蒸溜によってアルコール濃度を高めるという工程を経て、さらに樽熟成した上で完成となります。
同じモルトを使っても、ウイスキーの味わいが異なる理由
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モルトウイスキーの魅力は豊かな個性
モルトウイスキーの本場・スコットランドには、100以上もの蒸溜所があるとされますが、造られるモルトウイスキーは、「同じ味わいのものはひとつもない」と言われほど個性的。蒸溜所ごとの豊かな個性もまた、モルトウイスキーの大きな魅力です。
モルトウイスキーの味わいを決めるのは?
同じモルトを原料に、同じような工程で造っていても、モルトの発芽状態や、発酵、蒸溜などのタイミングを調整することで、できあがるウイスキーの味わいは変わってきます。
また、モルト以外にも、大麦を発芽させる前に含ませる仕込み水や、発芽したモルトを乾燥させる際に焚きしめるピート(泥炭)、さらには熟成させる樽なども、ウイスキーの味わいを左右します。
これら多彩な要素が合わさって個性的なモルトウイスキーが誕生し、世界中のウイスキーファンを魅了しているのです。
モルトはモルトウイスキー造りに欠かせない存在ですが、モルトウイスキーの味や品質は、モルトだけで決まるわけではりません。モルトを扱う造り手の創造力によって、それぞれ異なる個性が生まれます。モルトウイスキーの奥深い魅力を、ぜひ、味わってみてください。