山口に行って飲んでみたい! おすすめの日本酒(地酒)【山陽編】
山口県の日本酒は、「獺祭」「雁木」「貴」「東洋美人」「五橋」など、全国的な知名度を持つ実力派ぞろい。国内はもちろん海外からも注目を集め、県全体の日本酒生産量が11年連続で増加しています。県独自の酵母造りに取り組むなど、挑戦的な酒造りが浸透する、山口の日本酒を紹介します。
- 更新日:
山口の日本酒出荷量は、全国で唯一11年連続増加
Nishihama / Shutterstock.com
山口県の日本酒出荷量は、2006年以降、11年連続で増加し続けています。国内全体での日本酒生産量が減少傾向にあるなか、この記録は全国で唯一の快挙。なかでも純米吟醸のような高付加価値な日本酒が、大都市や海外を中心に注目を集めています。
じつは、2000年代当初までは、山口県内の蔵元でも日本酒出荷量は減少傾向にありました。しかし行政の支援のもと、若手の蔵人への技術伝承が本格化。ブランド育成が実を結び、山口県で造られる日本酒の高付加価値化が進みました。
これにより、高級日本酒の代名詞とされる「獺祭」(旭酒造)をはじめ、入手困難になるほどの人気銘柄が輩出され、メディアで山口の日本酒造りが取り上げられる機会が急増。こうした県ぐるみの取り組みが、11年連続の出荷量増加につながっているのでしょう。
山口で開発された酵母「やまぐち・桜酵母」の誕生
Nishihama/ Shutterstock.com
山口の日本酒造りが勢いづいた裏側には、新しい価値の創造に対する酒造関係者のアグレッシブな姿勢が垣間見えます。そうした姿勢は、日本酒造りに欠かせない酵母の独自開発という取り組みにも現れています。
新しい酵母の開発は、高度な技術とノウハウに加えて、長い時間、多大なコストを要するものですが、山口県産業技術センターは「桜の花の酵母から日本酒を」という発想のもと、この難関に挑みました。宇部高等工業専門学校や、「五橋(ごきょう)」で知られる酒井酒造の協力を得て、宇部市阿知須町の桜から酒造に適した酵母を分離することに成功します。こうして2000年に誕生したのが「やまぐち・桜酵母」です。
山口県内の蔵元では、この酵母を使った日本酒がたくさん誕生しています。日本人の愛する桜が生み出す日本酒としてマスコミにも取り上げられ、瞬く間に話題となりました。
山口の日本酒、人気銘柄
kitsune05 / Shutterstock.com
山口県では、付加価値を追求した、個性豊かな味わいを持つ銘柄が数多く輩出されています。なかでも、とくに人気を集めている銘柄を紹介しましょう。
今、もっとも注目されている入手困難な酒【獺祭(だっさい)】
旭酒造は昭和23年(1948年)創業の蔵元。高付加価値な日本酒造りに特化していて、醸造する日本酒のほとんどが純米大吟醸です。代表銘柄の「獺祭」は、蔵を構える岩国市獺越(おそごえ)の地名から命名されました。
「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」をモットーとし、変革と革新のなかからより優れた日本酒を生み出していこうとする蔵元の姿勢は、「獺祭」のフルーティな味わいにも表現されています。手間暇をかけて実現させた、その圧倒的な飲みやすさが注目を集め、幅広い世代にヒット。安倍首相が当時のオバマ大統領に贈ったことで、さらに人気が爆発し、山口が誇る代表銘柄となっています。
製造元:旭酒造株式会社
公式サイトはこちら
必要なものだけを極めて造られる1本【雁木(がんぎ)】
八百新酒造の歴史は、明治10年(1877年)に始まります。当初の主要銘柄は、創業者である八百屋新三郎氏と、その妻キクの名を取った「新菊」で、かつては地元・岩国を代表する銘柄として人気を博しました。戦中戦後の混乱のなか、一時は苦難の時期もありましたが、7代目の現当主が純米無ろ過生原酒という新たな方向性を生み出した新銘柄「雁木」を開発し、脚光を浴びました。
「雁木」とは、船着き場の桟橋のことで、蔵近くに流れる今津川の河畔に見られた原風景に、「水際から命生まれる」という想いを託して命名したもの。米の香りがしっかりと感じられる重量感のある飲み口が特徴で、どんな和食にも合う完成された食中酒として人気です。
製造元:八百新酒造株式会社
公式サイトはこちら
日本酒のあるべき姿が感じられるような米の旨味【貴(たか)】
明治21年(1888年)創業の永山本家酒造場が蔵を構えるのは、秋吉台で知られる山口県宇部市です。この地を流れる厚東川の地下水は、カルスト台地に育まれたミネラル豊かな中硬水。永山本家酒造場では、これを仕込み水に用いて辛口の純米酒を造り上げています。
代表銘柄の「貴」は、5代目に当たる現当主にして蔵元杜氏の永山貴博氏の名を取って命名されました。そのコンセプトである「癒しと米味」が反映された、どっしりとした米の旨味を感じる深い味わいは、山口で採れる魚介との相性も抜群です。
製造元:株式会社永山本家酒造場
公式サイトはこちら
日本屈指の醸造家が醸す海外からも注目の酒【東洋美人(とうようびじん)】
「東洋美人」で知られる澄川酒造場は、大正10年(1921年)に創業した萩を代表する蔵元。現在当主である澄川宜史氏は、山形の銘酒「十四代」の醸造元である高木酒造で修行した経歴の持ち主で、蔵元杜氏として腕を振るっています。
代表銘柄「東洋美人」は、創業者が亡き妻を想って名づけたもの。その名のとおり、米が持つ旨味を引き出した、しとやかで品のある味わいは、女性からも人気を集めています。JAL国際線ビジネスクラスの機内酒や、FIFAワールドカップの公認日本酒に選ばれるなど、その実力は折り紙付き。国内だけでなく海外にもファンが多く、山口の日本酒のブランド化に貢献しています。
2013年に山口県を襲った集中豪雨で甚大な被害を受けたものの、5カ月後に仕込みを再開し、全国の地酒ファンを安心させました。
製造元:株式会社澄川酒造場
公式サイト:なし
全国に驚きをもたらした革命的な日本酒造り【五橋(ごきょう)】
明治4年(1871年)創業の酒井酒造は、山口県で最大の河川である錦川の伏流水を用いた酒造りが特徴。代表銘柄である「五橋」も、錦川に掛かる五連の反り橋「錦帯橋」に由来します。
錦川の水質はミネラル分が少なめの軟水です。酒質の多様化が進んだ現在では、軟水仕込みの日本酒も少なくありませんが、「五橋」が「全国新酒鑑評会」で1位に輝いた昭和22年(1947年)当時は、硬水仕込みが一般的。「五橋」は「軟水でもこれだけおいしい酒ができる」という驚きとともに、日本酒造りに革新をもたらした銘柄として知られています。軟水仕込みならではの、まろやかで香り高い酒質は、山口県内はもとより、全国の地酒ファンに支持されています。
製造元:酒井酒造株式会社
公式サイトはこちら
山口の日本酒、そのほかの注目銘柄
Angela Sampayo Llorente/ Shutterstock.com
山口県の日本酒には、個性豊かな銘柄がほかにもたくさんあります。注目の蔵元と銘柄をピックアップして紹介しましょう。
県下最古の蔵元は世界でも1位を獲得する実力派【金雀(きんすずめ)】
堀江酒場は、江戸時代の中期、明和元年(1764年)に創業した、山口県下に現存する最古の蔵元です。その規模はけっして大きくはありませんが、技術の高さはお墨付き。代表銘柄の「金雀」は、「全国新酒鑑評会」で入賞の常連、2017年度には「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC) 」SAKE部門で最高位のトロフィーを獲得するなど、華々しい経歴を持っています。
酸味とキレのバランスがよい酒造りに定評があり、その上品な味わいは国内だけでなく海外でも人気です。仕込み水には銘水百選にも選出された錦川の水、原料米には酒造好適米の代表格「山田錦」を採用し、地元の素材を活かした日本酒の品質向上に励んでいます。
製造元:有限会社堀江酒場
公式サイトはこちら
再び醸造の灯りをともした復活の酒【原田(はらだ)】
ひらがな表記が印象的な「はつもみぢ」は、文政2年(1819年)創業という県内でも屈指の歴史を持つ蔵元。もともとは経営者の名を取った原田酒場を名乗り、蔵を構える周南の地が紅葉の名所であることから命名した「初紅葉」を主力銘柄としていました。戦後になって生野酒造と合併して初紅葉酒造に改組し、2003年に周南市の合併を機にひらがな表記に改名しました。
日本酒消費量の減少や杜氏の高齢化を背景に、一時は醸造業を停止して卸販売をメインに行っていましたが、2005年、約25年ぶりに醸造を再開。全量純米酒にこだわった新銘柄「原田」を立ち上げました。「山田錦」や「西都の雫」など山口県産の酒造好適米を用いて、錦川の伏流水を汲み上げて仕込んだ「原田」は、米の香りをたっぷりと引き出した、和食に合う食中酒。キリリと澄んだ辛さと、軽快な口当たりが愛されています。
製造元: 株式会社はつもみぢ
公式サイトはこちら
味のバランスに優れた飲み飽きない酒【中島屋(なかじまや)】
中島屋酒造場は、江戸時代後期の文政6年(1823年)に創業した老舗蔵。代表銘柄である「中島屋」は、屋号を冠しているだけに、蔵と同様の長い歴史を持つ銘柄と思われがちですが、じつは、11代目となる現当主が蔵元杜氏として造り出した新しい銘柄です。
その特徴は、濃厚で米の香りが高く、甘味と酸味のバランスがとれたどっしりとした味わい。フレッシュな生原酒から、熟成させた純米熟酒まで幅広いラインナップを持ち、それぞれ独特の個性を持った味わいで人気を集めています。
製造元:株式会社中島屋酒造場
公式サイト:なし
34年ぶりに復活した将来が期待される蔵元【三好(みよし)】
阿武の鶴酒造は、山口県北部の阿武(あぶ)町において大正4年(1915年)に創業しました。日本酒の消費低迷を受けて、昭和58年(1983年)には酒造りを休止していましたが、6代目となる三好隆太郎氏が蔵に戻ったことで、2014年に酒造りを再開しました。
34年ぶりの再開は容易ではありませんでしたが、「東洋美人」で知られる澄川酒造場の協力も得て、代表銘柄「阿武の鶴」を復興。あわせて自身の名を冠した新銘柄「三好」を生み出しました。
「三好」は、三好氏の元内装デザイナーという異色の経歴を活かした、スタイリッシュなラベルデザインが印象的。「Tokyo TDC Annual Awards 2017」でパッケージ、ロゴ、広告の各部門で入選、「SAKE COMPETITION 2017」ラベルデザイン部門で表彰されるなど、注目を集めています。
製造元: 阿武の鶴酒造合資会社
公式サイトはこちら
山口県産米で山口ならではの酒造りを極める【山頭火(さんとうか)】
金光(かねみつ)酒造は、かつて山陽道の宿場町して栄えた山口市嘉川に蔵を構える、大正15年(1926年)創業の蔵元です。代表銘柄である「山頭火」は、言わずと知れた山口の俳人・種田山頭火に由来します。ただ地元の偉人にちなんだというわけではありません。若き日の山頭火が営んでいた種田酒造場が、金光酒造の防府工場の前身だったという縁があるのです。
「山頭火」は、「山田錦」や「西都の雫」など、地元・山口産の酒造好適米を用いて醸す、まさに山口の地酒。控えめながら、どっしりとした苦味、渋味、辛味のバランスが堪能でき、濃いめの料理にも負けない食中酒として人気を集めています。
製造元:金光酒造株式会社
公式サイトはこちら
技術の追求に余念がない山口の日本酒は、都市部や海外からも注目を浴び、今後の動きからも目が離せません。蔵元の個性が活きた山口の日本酒の数々を、ぜひ味わってみてください。
山口県酒造組合/山口県酒造協同組合