北海道の焼酎【サホロ】幻のそば焼酎の系譜を汲む銘柄を探して
「サホロ」は北海道産そばの代名詞ともいわれる十勝の「新得そば」を原料に製造されていた幻のそば焼酎。まろやかな味わいが人気の1本でしたが、ある出来事を機に姿を消しました。今回はこの「サホロ」の系譜をたどります。
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「サホロ」はそばの名産地で生まれた幻の焼酎
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「サホロ」は第二次焼酎ブーム後、バブル景気にわき始めた1988年に北海道で誕生したそば焼酎。まろやかな味わいに加え、本格焼酎としては比較的リーズナブルな価格で、北海道の愛飲家をはじめ多くのファンを魅了しました。
当時、「サホロ」を手がけていたのは、北海道のほぼ中央に位置する新得町の新得酒造公社。新得町と、そば焼酎「雲海」で知られる宮崎県の雲海酒造との共同出資で誕生した、いわゆる第三セクターです。
北海道そばの代名詞ともいわれる「新得そば」を原料に、老舗焼酎蔵の熟練の技術で造られていた「サホロ」は、新得町の街おこしの切り札として期待されました。しかし、1992年12月に不正経理事件が発覚。真相が明かされないまま、町の税金で補てんされることになりました。
その後も再建のめどは立たず、1997年に雲海酒造に吸収合併され、同社の北海道工場として生産が続けられましたが、2010年には操業を停止。「サホロ」は幻の焼酎となってしまいました。
「サホロ」の系譜を受け継ぐそば焼酎
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「サホロ」を手がけていた新得酒造公社は閉鎖されてしまいましたが、「サホロ」を惜しむ愛好者の声は根強いものがありました。
また、これだけのそばの産地でそば焼酎造りを行わないのはもったいないとの声もあり、2011年、地元建設業界の6社と雲海酒造北海道工場の従業員らの出資により、新会社が誕生。雲海酒造から工場を引き継ぎ、「さほろ酒造」として新たなスタートを切りました。
現在は、前工場でそば焼酎造りを手がけてきた仲鉢孝雄氏が社長に就任。20年以上にわたり築き上げてきた地元そば農家との信頼関係や、培ってきた焼酎造りの技術を大切に守りながら、新得町ならではの焼酎造りに励んでいるといいます。
過去の経緯もあって「サホロ」という銘柄の復活は難しそうですが、「サホロ」に代わる、そば焼酎の新ブランドとして注目されているのが「トムラウシのナキウサギ」。大雪山系の伏流水を仕込水に、質のよい新得産そばと道産原料で仕上げた本格そば焼酎です。
もともと、さほろ酒造が創業記念に限定販売したものですが、すっきりとしていて飲みやすいと好評だったことから、蔵のこだわり焼酎としてリニューアル復刻されました。北海道限定販売なので入手は困難ですが、チャンスがあれば逃さず手に入れてみては。
製造元:さほろ酒造株式会社
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「サホロ」を支えた素材と風土
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「サホロ」を育んできた新得町は、北海道十勝総合振興局管内の上川郡に位置する町で、日高山脈と大雪山系に抱かれた自然豊かな土地。つい数百年前までは人類未踏の地だったといわれるこのエリアには、氷河期を生き抜いたといわれるナキウサギなどの野生動物が今も生息しています。
その面積は東京都の1/2ほどで、大半は森林地帯ですが、平坦なエリアは見渡す限りの田園風景です。この地で栽培される「新得そば」は、北海道産そばの代名詞ともいわれ、町内を貫く国道38号線は「そばロード」と呼ばれているほどだとか。
そばといえば、信州を思い出す人が多いかもしれませんが、現在は北海道が国内生産量の半分以上を占めていて、なかでも新得町の生産量は年間300トン以上に達しています(2014年度)。
新得町のそばは質の高さでも知られ、全国そば生産優良経営表彰式でも数々の受賞歴を誇り、今では「日本一のそばの産地」との呼び声もあるほどです。
その背景には、日中は温かく夜間は涼しい、そば栽培に最適な気候に加え、良質の水にも恵まれた環境があります。大雪山という自然のフィルターにろ過され、ミネラルをほどよく含んだ水は、焼酎造りにも最適。これによって、透明感ある旨味をもったまろやかで飲みやすい酒質に仕上がるのだとか。
「サホロ」は不運にも販売停止となった幻のそば焼酎ですが、造り手が長年育んできた技術やこだわりは、その系譜を汲む焼酎に受け継がれています。良質なそばを原料に造り上げたそば焼酎「トムラウシのナキウサギ」をぜひ一度味わってみてください。