鳥取に行って飲んでみたい! おすすめの日本酒(地酒)【山陰編】
鳥取県は、日本海に面しながら中国山地も擁しており、水と緑に囲まれた自然に恵まれた土地です。清らかな水と空気は良質な米を育て、おいしい日本酒を造り上げます。酒造りに適した環境が育む、鳥取県の日本酒について紹介しましょう。
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鳥取の酒を育む中国山地の軟水と良質な米
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鳥取県といえば砂丘というイメージがあるかもしれませんが、実際は緑に恵まれた土地で、中国山地からの清らかな伏流水も豊富です。水質は多くが軟水。これを仕込み水に用いることで、口当たりのよいきめ細かな日本酒ができあがります。
また、鳥取県の澄んだ水と空気は米の栽培にも適していて、良質な酒造りの原料にこと欠きません。
鳥取県で栽培される酒造好適米には、幻の酒米といわれる「強力(ごうりき)」をはじめ、「玉栄(たまさかえ)」や「山田錦」などがあります。同県を原産とする「強力」が幻の酒米とされるのは、もともと栽培が難しい品種であっただけでなく、第二次世界大戦の混乱と食糧難のなかで、いったん栽培が中止されたためです。
その後、80年代になると鳥取県内での地酒造りを強化しようとの動きが活発化。そこで、鳥取大学で保存されていた少量の「強力」の種籾を使用し、地元の米農家たちが丹精を込めて栽培、復活させたのです。県独自の酒造好適米である「強力」は、いまや、地元に根づいた日本酒造りに欠かせない存在となりました。
また、鳥取県の酒文化は、日本海で豊富に採れる松葉ガニやハタハタなど、魚介類を中心とした食文化とともに歩んできたともいわれます。この土地の地酒を味わうなら、季節ごとの海の幸と合わせるのがおすすめです。
鳥取出身の日本酒の権威は人気マンガにも登場
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鳥取県出身の酒造技術者、故・上原浩氏は“日本酒界の重鎮”として全国的な知名度があります。上原氏自らが高度な酒造技術を有するだけでなく、全国で醸造指導を行い、同県の酒造組合をはじめ、日本酒関連の多くの団体で顧問を務めました。さらに先述した酒米「強力」を復活させるため、栽培の指導を行ったのも上原氏です。
日本酒の世界を描いた人気マンガ『夏子の酒』に登場する、元広島国税局鑑定官「上田久」のモデルもじつは上原氏。これは同作の著者、尾瀬あきら氏が上原氏を顧問とする「蔵元交流会」のメンバーであったことに由来します。『夏子の酒』執筆にあたって、尾瀬氏はたびたび上原氏へ取材を行うなど、交流を深めていたようです。
上原氏は生前「水を吸っても割れにくい、線状の心白(しんぱく)をもつ米が酒造りに適している」と言及しました。日本酒の質を大きく左右する麹菌は、米を磨いて残った中心部の心白で生育します。この心白はもろく、水を吸う過程で割れてしまうことも珍しくなく、割れた心白からは良質な麹は発現しないといわれています。
こうした意見を踏まえてか、鳥取県で栽培される酒米は「強力」や「山田錦」のように線状心白をもつ品種が主体です。上原氏の豊かな見識は、酒造技術の継承とともに、日本酒における酒米品質の重要性を広める役割も果たしているのです。
鳥取の人気銘柄
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鳥取県の澄んだ水と空気、そして良質な米は、数々の人気銘柄を生みました。なかでもおすすめの日本酒を5つ紹介しましょう。
田舎酒とも評される鳥取県の代表酒【瑞泉(ずいせん)】
「瑞泉」は、1907年(明治40年)創業の高田酒造場が醸す酒。この蔵元は、創業当時こそ資金に恵まれず、「ビンボー酒屋」と呼ばれた時期もありましたが、高品質な地酒造りに徹した結果、徐々に人気を博していったといいます。その代表銘柄である「瑞泉」は、いまや鳥取県を代表する銘柄にまで成長しています。
銘柄の由来は、蔵元のほど近くにある寺院「吉祥院」の山号から取ったもの。原料となる酒米は契約農家から仕入れた、地元栽培のものだけを使用しています。地元の原料にこだわった、地酒らしい魅力にあふれていることから、愛飲家のあいだでは、愛情を込めて“田舎酒”と呼ばれることもあるのだとか。
製造元:有限会社高田酒造場
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日本神話に登場する美女の名を冠した【稲田姫(いなたひめ)】
「稲田姫」を造る稲田本店は、延宝元年(1673年)創業の老舗蔵。明治初期に地ビール造りを開始したほか、「冷やで飲む酒」や精米歩合50%の純米酒を全国に先駆けて開発するなど、先駆的な取り組みで知られています。
代表銘柄である「稲田姫」の登場は、幻の酒米「強力」復活の翌年、2002年のことです。銘柄の由来は、出雲神話で“出雲美人”とうたわれる女神の名を冠したもの。「酒造りは心」という蔵元の合言葉のもとに醸される、果物のような華やかな香りを放つ女性的な酒です。
製造元:株式会社稲田本店
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燗にすると深みのある味わいに変化【辨天娘(べんてんむすめ)】
「辨天娘」は明治42年(1909年)創業、太田酒造場で造られる銘柄です。縁結びや商売繁盛の神をまつっている「若桜弁財天」を擁する若桜町に蔵を構えていることから、この若桜弁財天にあやかり「辨天娘」と名づけられました。複数ある醸造タンクには、それぞれ「〇番娘」と名づけられ、1つひとつ酒米や製法が異なります。自ら手掛ける日本酒を娘のように扱い、それぞれの個性を大切にする蔵元の姿勢から、酒造りへの深い愛情が感じられます。
「辨天娘」は常温でもたのしめますが、とくに燗にするのがおすすめです。もともとの素直な味わいが、燗にするとより深みを増します。引き立った酸味や旨味は、食中酒にぴったりです。
製造元:有限会社太田酒造場
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日本有数の名水が生み出す地元密着の酒【八郷(やごう)】
「八郷」を醸すのは、1856年(安政3年)から歴史を紡ぐ久米桜酒造。1985年(昭和60年)に大山(だいせん)のふもとに移転して以降、より水と自然に恵まれる環境で酒造りに邁進してきました。蔵元のほど近くには、「平成の名水百選」に数えられる「地蔵滝の泉」があり、「八郷」はこの名水の恩恵を受け造られています。
「八郷」の酒米には、鳥取県産の良質な「山田錦」を使用。契約農家から仕入れた地元密着の原料にこだわっています。これにより米の旨味と豊かな甘味、口当たりのよさを実現しました。蔵元では「八郷」を愛する人々を対象に、酒造り体験の場も提供しています。
製造元:くめざくら大山ブルワリー 久米桜酒造
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高品質な米を最大限活かす醸造を追求【日置桜(ひおきざくら)】
「日置桜」を造る蔵元は、明治20年(1887年)創業の山根酒造場です。そのモットーは「醸は農なり」。優れた酒を醸すためには、高品質な農産物が必須だという意味です。
その言葉どおり、山根酒造場では契約農家との連携を密にし、自ら米の栽培に携わっているほか、生産農家ごとに桶を分けて個性を引き出す「シングル醸造」を採用。質の高い日本酒を造るため、米にとことんこだわるのが蔵元の考えです。
こうして生まれる「日置桜」は、蔵元では「甘くない酒」と表現されます。これは甘口や辛口といった表現の枠におさまらない、味の広がりや深みをもっているため。さらに「甘くない酒」を追求するべく、もろみの糖分を酵母にできるだけ分解させる「完全発酵」という手法を採っています。
製造元:有限会社山根酒造場
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鳥取のそのほかの注目銘柄
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鳥取県には、上記で紹介した以外にも注目すべき酒が多数存在します。なかでも鳥取に足を運んだ際にはぜひ味わっておきたい銘柄をピックアップしました。
雄々しい鷹をイメージした辛口酒【鷹勇(たかいさみ)】
「鷹勇」を造る大谷酒造が蔵を構える琴浦町は、日本海に面する一方、すぐ南方には中国山地を臨む風光明媚な地。「日本の滝百選」に数えられる大山滝、後醍醐天皇ゆかりの天皇水など名水の地でもあります。なかでも「鷹勇」が仕込み水に使うのは、中国地方有数の名峰・大山の伏流水。雄々しく涼やかに空を飛ぶ鷹をイメージした「鷹勇」の銘柄名は、この名水を利用しているからこその清々しい味わいを表現しているのでしょう。
「鷹勇」の魅力である、キリリとした辛口を守り続けてきた大谷酒造の相談役・坂本俊氏は、「現代の名工」に選ばれ、黄綬褒章も受章した鳥取酒造界の重鎮。坂本氏をはじめとした蔵人の熱意がこもった「鷹勇」は、鳥取の地酒を語るうえで欠かせない1本です。
製造元:大谷酒造株式会社
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味わいはもちろん、安心と健康にこだわる【千代むすび(ちよむすび)】
「千代むすび」は慶応元年(1865年)に創業した老舗蔵元、千代むすび酒造の代表銘柄。伝統の醸造技術を大切にしながら、酒をたのしむ人々との「環」をむすびたいという蔵元の想いを、そのまま名前に冠しています。
千代むすび酒造の特徴は、酒の味わいはもちろん“安心”や“健康”を重視していること。地元産の米と清らかな水を使用することで安心を約束し、日本酒がもつ発酵の力で飲む人の健康を祈ります。
千代むすびの醸造にあたっては、いくつかの酒米が使用されていますが、なかでも“幻の酒米”といわれた「強力」を使った純米吟醸は、惚れ込むファンも多数。ほどよい酸味や芯の強さをもちながら、すっきりとしたのどごしが飲み心地のよさを叶えています。
製造元:千代むすび酒造株式会社
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有機栽培の原料米で醸すオーガニック日本酒【八潮(やしお)】
「八潮」を醸す中井酒造は、1877年(明治10年)に酒造業を始めて以降、大山の伏流水を活かした酒造りを続けてきました。加えて、近年では原料に有機米を使用した「オーガニック日本酒」をテーマに掲げるなど、時代のニーズを見据えた酒造りにも定評があります。
代表銘柄である「八潮」は、地域の氏神が住まう小鴨(おがも)神社の祝詞の一節から命名されたもの。キリッとした辛味の酒ながら、口当たりはまろやか、お米本来の芳醇な香りやコクが活きた1本です。
製造元:中井酒造株式会社
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応援の気持ちを込めた名前が印象的【冨玲(ふれー)】
「冨玲」は慶応元年(1865年)の創業以来、150年以上にわたって酒造りを続けてきた梅津酒造の定番酒です。印象的な銘柄名は、3代目当主がテニスプレーヤーであったときに受けた声援「フレー」から名づけられたもの。そこには縁起をかつぐ意味と、酒を愛する人々への応援が込められています。
梅津酒造では2005年から醸造用アルコールの添加を廃止し、すべてのお酒を米と米麹だけで製造。「冨玲」も同様で、醸造法も伝統の酒槽を使用した昔ながらのもの。じっくりともろみを絞っていくことで、米の旨味や芳醇な香りを引き出しています。
製造元:梅津酒造有限会社
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地元の旬の食材と一緒に味わいたい【諏訪泉(すわいずみ)】
「諏訪泉」は町の大半を山林が占める智頭(ちず)町に蔵を構える、諏訪酒造の代表銘柄です。諏訪酒造は安政6年(1859年)の創業以来、豊かな自然に囲まれた土地で、この地が育む良質な水と米を用いて酒造りを続けてきました。酒造りのコンセプトは、おいしい食べ物と一緒に味わうこと。地元の旬の食材や毎日の食卓に並ぶ料理を引き立てる、名脇役となる酒を追求しています。
蔵の裏手にある諏訪神社の名を冠した「諏訪泉」は、おもに酒造好適米「山田錦」を使用。契約農家から仕入れた有機栽培のもののみを厳選しており、自家井戸から汲み上げた口当たりのよい軟水と相まって、素材が活きたストレートな味わいをたのしめます。
製造元:諏訪酒造株式会社
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鳥取県は、清冽な水と澄んだ空気に恵まれていることから、良質な酒米が育つ地として知られています。だからこそ、良質な地酒も豊富な土地。鳥取を訪れた際には、砂丘や大山といった名所だけでなく、地酒の数々もたのしんでくださいね。
鳥取県酒造組合