山梨の日本酒【春鶯囀(しゅんのうてん)】文人墨客に愛された酒
「春鶯囀」を醸すのは、江戸中期の創業以来、地元産米を使った純米酒にこだわった日本酒造りを続ける萬屋醸造店です。明治の歌人・与謝野晶子にちなんで命名された「春鶯囀」の魅力や、誕生の背景を紹介します。
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「春鶯囀」の名は、与謝野晶子の歌に由来
出典:萬屋醸造店サイト
「春鶯囀(しゅんのうてん)」を造るのは、寛政2年(1790年)創業という歴史をもつ蔵元、萬屋(よろずや)醸造店。蔵を構える巨摩郡富士川町は、南アルプス巨摩自然公園に指定され、豊かな自然が美しい名水の里として知られています。
萬屋醸造店では、もともと「萬=万」の字を分解した「一」と「力」を組み合わせて、「一力正宗(いちりきまさむね)」という銘柄で酒造りを行っていました。それが「春鶯囀」という名に改められた背景には、蔵元と明治の歌人、与謝野鉄幹・晶子夫妻との交流がありました。
六代目当主の弟が、与謝野夫妻の愛弟子であったことから、当主の母親も含めた家族ぐるみの交流があり、そうした縁から甲州路の旅が実現。その際に飲んだ酒を与謝野晶子が大いに気に入り「法隆寺など行く如(ごと)し 甲斐の御酒(みき) 春鶯囀のかもさるゝ蔵」と詠みました。
この歌に感銘を受けた蔵元が、酒銘を「春鶯囀」へと変更。風流な名にふさわしい上品な飲み口で、今も多くの人を、鶯の鳴き声のように心躍らせているのです。
「春鶯囀」は、原料米へのこだわりから生まれる酒
出典:萬屋醸造店サイト
「春鶯囀」を造る萬屋醸造店は、生産量の約8割を純米酒が占めるという“純米主義”の蔵元です。そうした米へのこだわりを象徴する取り組みが、「春鶯囀 酒米づくり協議会」。地元農家と酒造りの方針を共有し、その方針に合った米作りをともに行うことで、米の旨味を活かした日本酒ができあがります。
さらに、丹精込めて育てた米の魅力を最大限に引き出すため、自社精米により納得いくまで米を磨き、麹造りのための蒸米にあたっても、水に浸す時間や米の吸水具合には神経をとがらせます。
とくに、萬屋醸造店が原料米の主力とする酒造好適米「玉栄(たまざかえ)」は、キレのある味わいを引き出すには適していますが、柔らかくてもろみに溶けやすい性質があり、細心の注意が必要とされるのだとか。
あえて扱いの難しい酒米を用いてでも、個性ある良質な酒造りを追求する姿勢は業界内外から高く評価されており、日本酒の受託製造の依頼を受けることも。三菱食品のオリジナル清酒「生冷(きれい)あまくち、するする」も萬屋醸造店が造っています。
三菱食品「生冷(キレイ)」
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「春鶯囀」の純米酒「鷹座巣」はキレのある男酒
出典:萬屋醸造店サイト
「春鶯囀」という銘柄の魅力のひとつに、そのラインナップの豊富さがあります。「玉栄」だけでなく「山田錦」や「美山錦」など酒造好適米を使い分け、精米歩合を変えることで、しっかりした米の旨味という特徴はそのままに、多様な個性を発揮しています。
なかでも、辛口の日本酒好きから人気を集めているのが純米酒「鷹座巣(たかざす)」。アルコール度数は15~16度で、キレのあるのどごしが特徴的な辛口の男酒です。
グルメマンガ「美味しんぼ」にも登場し、和食の味わいを引き立て、食中酒としてたのしむことで、さらに日本酒そのもののよさを感じられる味わいだと評価されています。
「鷹座巣」は、地酒らしい個性をもった、山梨の日本酒文化に幅を生み出す貴重な1本といえます。
歌人・与謝野晶子も舌鼓を打ったとされる「春鶯囀」は、地域を大切にし、この土地ならではの日本酒造りを極めた1本です。その味わいには純米酒にこだわり続けた蔵元の想いが込められています。
株式会社萬屋醸造店
公式サイトはこちら
有名歌人も愛飲した酒を醸す、山梨・萬屋醸造店が生み出した 「生冷 KIREI あまくち、するする」