アイリッシュウイスキーの魅力と、その歴史を知ろう
アイリッシュウイスキーは、世界5大ウイスキーのなかでも、日本では比較的なじみが少ないかもしれません。しかし、その歴史は古く、伝統に裏打ちされた魅力が近年、再評価されています。アイリッシュウイスキーの歴史とともに、その魅力を探ってみましょう。
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アイリッシュウイスキーならではの奥深い魅力とは?
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アイリッシュウイスキーは、世界5大ウイスキーのひとつに数えられ、「ウイスキーの代名詞」とも呼ばれるスコッチウイスキーと、ウイスキーの起源を争うほど、長い歴史を誇っています。
アイリッシュウイスキーを生んだアイルランドが、ウイスキー発祥の地とされる根拠は、1172年にイングランドがアイルランドに侵攻した際に、すでに大麦から蒸溜した酒が飲まれていた、という故事によりますが、残念ながら確証はありません。
スコットランド発祥説もあり、どちらが起源かという論争に決着はつきそうにありませんが、いずれも長い歴史をもつことに間違いはありません。
アイリッシュウイスキーは、その名のとおり、アイルランドで造られるウイスキーのことですが、この場合の「アイルランド」は国名ではなく、アイルランド島全域を指します。この島は英国領北アイルランドと、南部のアイルランド共和国に別れていますが、ことウイスキーに関しては「アイリッシュウイスキー」として統一されています。
アイリッシュウイスキーには法的な定義があって、以下の5つの条件を満たして、初めてアイリッシュウイスキーを名乗ることができます。
1・穀物類を原料とすること。
2・麦芽に含まれる酵素により糖化し、酵母の働きによって発酵させていること。
3・蒸留時にアルコール度数は94.8度以下であること。
4・木製樽に詰めること。
5・アイルランド共和国、または北アイルランドの倉庫で3年以上熟成させること。
こうした条件に加えて、アイリッシュウイスキーの伝統的な特徴としては、モルト(大麦麦芽)と未発芽麦芽、そのほかの穀物を加え、大きなポットスチル(単式蒸溜器)で3回蒸溜すること。また、スコッチウイスキーのように原料をピート(泥炭)で燻製しないことから、雑味が少なく、なめらかで穏やかな味わいが特徴です。
かつては生産量世界一を誇っていたものの、近代以降はスコッチウイスキーなどに市場を奪われて衰退していたアイリッシュウイスキーですが、その奥深い味わいに、近年は、愛好家が増えて復活の兆しが見えています。これまで、あまりアイリッシュウイスキーは飲んだことがないという人も、一度は味わってみるべきでは?
アイリッシュウイスキーが生産量世界一を誇っていた時代
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アイリッシュウイスキーが全盛だった18世紀ごろ、アイルランド全域に何百という蒸溜所が存在し、その数でも、そして生産量でもスコッチウイスキーを上回り、世界一を誇っていました。
なかでもウイスキー造りが盛んだったのが、現在はアイルランド共和国の首都であるダブリンです。
ダブリンのリフィー川の左岸にある、ボウストリートという通りでは、1757年創業の「トーマス・ストリート蒸溜所」に加え、18世紀末に「ボウストリート蒸溜所」「ジョンズレーン蒸溜所」「マローボーンレーン蒸溜所」という大型蒸溜所が次々と建てられ、「ダブリンビッグ4」と呼ばれていました。
このうち、ジョンズレーン蒸溜所だけで年間の生産量が約450万リットルを超えていたという記録が残っています。当時、スコッチウイスキーの蒸溜所の生産量は、平均して年間数万から数十万リットルといわれており、いかにダブリンビッグ4が巨大な存在だったかがわかります。
一時は世界のウイスキーの覇権を握ったアイリッシュウイスキーですが、二度にわたる世界大戦や、イギリスからの独立戦争、主な輸出先であったアメリカの禁酒法、さらには飲みやすいブレンデッドを主体としたスコッチウイスキーの普及など、さまざまな影響を受けて、次第に衰退するようになります。活況を呈していた蒸溜所が次々と操業を停止し、1974年のジョンズレーン蒸溜所の閉鎖を最後に、ダブリンの蒸留所は姿を消しました。
歴史の波に翻弄され、苦難の時期を迎えたアイリッシュウイスキーですが、長い伝統をもつウイスキー造りの灯が絶えることはありませんでした。アイルランドの造り手たちは、再び脚光を浴びる日を待ちながら、より豊かな味わいのウイスキー造りを追求し続けていったのです。
アイリッシュウイスキー蒸溜所の今昔物語
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アイリッシュウイスキーが衰退期を迎えていた1920年代。アイルランドで稼働しているのは「ブッシュミルズ蒸溜所」と「ミドルトン蒸溜所」の2つだけとなっていました。
厳しい時期でもウイスキー造りを続けてきた両蒸溜所は、今もアイリッシュウイスキーを代表する存在であり、閉鎖された蒸溜所から引き継いだ銘柄も含めて、愛好家から「これぞアイリッシュウイスキー」と賞賛されるウイスキーを提供しています。
ブッシュミルズとミドルトン、2つの蒸溜所が守り抜いてきたアイリッシュウイスキー造りの伝統は、20世紀後半になって、再び大輪の花を咲かせます。
1987年には、独立資本による新鋭「クーリー蒸溜所」が誕生し、2007年には、1757年創業という歴史をもつ古豪「キルベガン蒸溜所」も復活を果たしました。さらに、2014年には「タラモア蒸溜所」、2017年には「ティーリング蒸溜所」と、伝統ある銘柄が次々と復活。再び世界のウイスキー愛好家から注目を集めるようになりました。
アイリッシュウイスキーの歴史の厚みを感じさせる蒸溜所の復活により、注目度が増すのと比例するように、アイリッシュウイスキーの生産量も回復しています。日本で目にする機会も増えていますので、ぜひ、アイリッシュウイスキーを手にとってみてください。
アイリッシュウイスキー再評価のカギはシングルポットスチル
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アイリッシュウイスキーが、近年になって再び脚光を浴びるようになった要因のひとつが、アイリッシュウイスキーの伝統である「シングルポットスチル」への回帰だといわれています。
シングルポットスチルとは、大型のポットスチル(単式蒸溜器)で3回蒸溜する製造法のこと。単式蒸溜は、近代的な連続蒸溜と比べて効率が悪く、一度の蒸溜だけではアルコール度数の高いウイスキーが造れません。そこで、3度にわたって蒸溜を繰り返すことで、アルコール度数を高めていますが、その過程で、なめらかで穏やかな味わいと、独特のオイリーなフレーバーが生み出されます。
世界でさまざまなウイスキーが作られるようになった現在、こうした伝統的な味わいが、かえって新鮮に映るためか、近年、とくに北米を中心に注目を集めています。
最近では、各蒸溜所が新たにシングルポットスチルウイスキーをリリースするようになり、伝統の味わいがさらに幅広くたのしめるようになっています。
アイリッシュウイスキーを代表する、おすすめの銘柄
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「アイリッシュウイスキーは初めて」という人におすすめするなら、やはりアイリッシュウイスキー苦難の時代を乗り越えてきた、ブッシュミルズとミドルトン、2つの蒸溜所の銘柄でしょう。
ブッシュミルズ蒸溜所を代表するのが、シングルモルトの「ブッシュミルズ10年」と、「ブラックブッシュ」「ホワイトブッシュ」という2つのブレンデッド。なかでもモルトウイスキーを主体としたブラックブッシュは、フルーツのようなここちよい甘味がたのしめる逸品です。
一方、ミドルトン蒸溜所を代表する銘柄が、アイリッシュウイスキーの代名詞ともいわれる「ジェムソン」。アイリッシュウイスキーの出荷量の7割を占める、まさにNo.1アイリッシュです。ライトな味わいと、スムーズな口当たりのバランスがよく、アイリッシュ初心者にもぴったりです。
また、新興のクーリー蒸溜所が造る「カネマラ」は、スコッチウイスキーと同様にピート(泥炭)で焚いた麦芽を二回蒸溜した、アイリッシュウイスキーとしては異色のウイスキーです。スコッチのようなスモーキーさと、アイリッシュならではのマイルドさを兼ね備えた独特の味わいがたのしめます。
このほかにも、「タラモアデュー」「ターコネル」など、アイリッシュウイスキー全盛期だった1980年代の人気銘柄を、近代的なウイスキー造りの技術で復活させたものも多く、それぞれの個性をたのしむことができます。
いろいろな味わいがたのしめるアイリッシュウイスキーですが、初心者にも飲みやすい銘柄が多いので、難しく考えず試してみてはいかがでしょう。