ウイスキーの原酒ってどんなもの?スコッチやジャパニーズウイスキーの原酒の種類や特徴、原酒不足まで解説

ウイスキーの原酒ってどんなもの?スコッチやジャパニーズウイスキーの原酒の種類や特徴、原酒不足まで解説
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ウイスキーの原酒は、製品のもととなるもの。スコッチウイスキーなどでは、モルト原酒とグレーン原酒の2つに大別されます。今回はスコッチやジャパニーズウイスキーの原酒の特徴や、2つの原酒から造られるウイスキーの種類、原酒不足の理由まで紹介します。

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ウイスキーの原酒の定義とは?

ウイスキーの原酒の定義とは?

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ウイスキーの原酒とは、熟成後に手を加えていない、樽出しのままのウイスキーのこと。原酒のアルコール度数は60度前後あります。

市販されているウイスキーは、もろみを蒸溜したのち、木樽に詰めて貯蔵・熟成させてできた原酒から造られています。ブレンダーと呼ばれる職人が、製品の原型ともいえる原酒を組み合わせることで、シングルモルトウイスキーやブレンデッドウイスキーなど、蒸溜所の個性やこだわりが詰まった多様なウイスキーが生まれています。

ウイスキーの定義は国によって異なるため、数あるウイスキーのなかでも、おもにスコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーの原酒について紹介していきます。

ウイスキーの原酒には2種類ある

ウイスキーの原酒には2種類ある

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スコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーの原酒は、モルト原酒とグレーン原酒の2種類に分けられます。それぞれの特徴や製法を紹介します。

モルト原酒(モルトウイスキー原酒)

モルト原酒は、大麦を発芽させた大麦麦芽(モルト)のみを原料として造られるウイスキーです。「モルトウイスキー原酒」や単に「モルトウイスキー」と呼ぶこともあります。

原料の大麦麦芽を仕込んで糖化後、発酵させてもろみを造り、単式蒸溜機で通常2回蒸溜を繰り返してニューポット(ニュースピリッツ)と呼ばれる蒸溜液を得ます。抽出したニューポットを木樽に詰め、長期間熟成させたものがモルト原酒です。長い熟成期間の間に、無色透明の液体が琥珀色に変わり、香りや味わいに深みが増します。

近年、大麦麦芽は、モルトスターと呼ばれる製麦業者から仕入れるのが一般的ですが、伝統製法を守る蒸溜所では、手間暇かけて作った自家製の大麦麦芽を使うこともあります。

大麦をわざわざ麦芽にする理由は、大麦のままのデンプンでは酵母が糖を分解することができないため、麦芽にしてデンプンを分解する酵素を造り、酵素がデンプンの分子サイズを小さくして酵母が食べられる糖にします。 酵母はこの糖分をエサとしてアルコールを生成します。

また、ニューポットの熟成にはさまざまな種類の樽が使われます。アメリカンホワイトオーク製のバーボン樽(バーボンウイスキーの熟成に使用した古樽)を使用するのが一般的ですが、シェリー樽やワイン樽などを使用することもあります。

モルトウイスキーは、原料や製法、樽材の種類や樽のサイズ、熟成させる環境などによって、香りや味わいに違いが生まれやすいウイスキーです。香味成分が豊かで個性が強いものが多いため、「ラウド(声高な)スピリッツ」と呼ばれることもあります。

グレーン原酒(グレーンウイスキー原酒)

グレーン原酒は、トウモロコシ(コーン)やライ麦、小麦などの穀物を原料として造られるウイスキーで、「グレーンウイスキー原酒」や単に「グレーンウイスキー」と呼ばれることもあります。モルト原酒の原料が大麦麦芽だけなのに対して、グレーン原酒にはさまざまな種類の穀物が使われるのが特徴です。

もろみは、原料に大麦麦芽を加えて糖化・発酵させて造ります。大麦麦芽を加える理由は、穀物の糖化に大麦麦芽の糖化酵素を利用するためです。

蒸溜には、もろみを連続的に投入して蒸溜できる連続式蒸溜機を使います。短時間で大量に蒸溜液を抽出できるのが利点で、アルコール度数は95%近くまで濃縮されます。ただし、各国の法律で蒸溜時のアルコール度数の上限が定められていて、スコッチウイスキーでは94.8%以下、ジャパニーズウイスキーでは95%未満で蒸溜することと規定されています。

蒸溜して得た蒸溜液は、モルト原酒と同じように、加水してアルコール度数を下げてから貯蔵・熟成させます。とはいえ、おもにブレンデッドウイスキーのブレンド用に使われるグレーン原酒は、樽熟成による効果は期待されておらず、モルト原酒のように樽にこだわることは少ないようです。

なお、一般的に連続式蒸溜機で蒸溜すると、雑味などが取り除かれてクリアな味わいに仕上がります。穏やかでクリーンな酒質から、グレーンウイスキーは「サイレント(静かな)スピリッツ」と呼ばれることもあります。

原酒の組み合わせで生まれるウイスキーの種類と特徴

原酒の組み合わせで生まれるウイスキーの種類と特徴

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モルト原酒とグレーン原酒を組み合わせて造られるウイスキーの種類と、それぞれのおもな特徴を紹介します。

原酒の組み合わせ方~ブレンディングとヴァッティング

スコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーでは、原酒を組み合わせる際に、「ブレンディング」と「ヴァッティング」と呼ばれる2つの技術が用いられます。

ブレンディングは2つの原酒を混ぜ合わせること、ヴァッティングはモルト原酒同士、またはグレーン原酒同士を混ぜ合わせることを指します。この2つの技術を用いて、以下のようなウイスキーが造られています。

◇ブレンデッドウイスキー
複数の蒸溜所の複数のモルト原酒とグレーン原酒をブレンディングしたウイスキー。

◇シングルモルトウイスキー
単一蒸溜所の複数のモルト原酒をヴァッティングしたウイスキー。

◇ブレンデッドモルトウイスキー
複数の蒸溜所の複数のモルト原酒をヴァッティングしたウイスキー。

◇シングルグレーンウイスキー
単一蒸溜所の複数のグレーン原酒をヴァッティングしたウイスキー。

シングルモルトウイスキーとブレンデッドウイスキーの違い

モルト原酒のみで造られるシングルモルトウイスキーは、蒸溜所ごとに異なる多彩な個性をたのしめるのが魅力です。「シングル」は、1種類の原酒を指すのではなく、単一(1カ所)の蒸溜所で造られていることを意味します。

シングルモルトウイスキーにヴァッティング技術が用いられるのは、品質を均一に保つため。熟成期間や樽の置かれている場所などによって仕上がりが異なるので、複数のモルト原酒をヴァッティングして、ブランドが追求している味わいに調整されるのです。といっても、同じ蒸溜所で造られた原酒同士を混ぜ合わせているため、蒸溜所の個性やこだわりをしっかりと堪能できます。

一方、ブレンデッドウイスキーは、ブレンダーのブレンディング技術を存分に味わえるウイスキーです。ブレンデッドウイスキーでは、複数のモルト原酒とグレーン原酒を絶妙に組み合わせて、バランスのとれた理想の香りや味わいを表現するためにブレンディング技術が用いられます。

通常、1~2種類のグレーン原酒をベースに、10種類程度のモルト原酒がブレンディングされますが、多い銘柄では40種類、50種類にのぼることもあり、ブレンダーの卓越した技術力が求められます。「シングルモルトウイスキーは風土が造る、ブレンデッドウイスキーは人が造る」といわれるのはこのためです。

原酒を組み合わせずに瓶詰めされるウイスキーもある

ウイスキーのなかには、ブレンディングやヴァッティングを行わず、原酒のまま瓶詰めされる種類もあります。

「シングルカスク」は、ひとつの樽の原酒のみが瓶詰めされたウイスキーで、アルコール度数が高く、樽の個性をそのままたのしめるのが魅力です。ただし、銘柄によっては加水してアルコール度数が調整されている場合もあります。

「シングルカスクストレングス」は、ひとつの樽の原酒が加水されずに瓶詰めされたウイスキーで、高いアルコール度数と凝縮された味わいを堪能できます。なお、ボトルラベルに「カスクストレングス」とだけ表記されている場合は、複数のモルト原酒をヴァッティングしていることもあります。

いずれも生産量が少ないため値の張るものが多いですが、原酒に近い味わいをたのしめることから、入手困難なほど人気があります。

日本のウイスキー原酒不足の問題とは?

日本のウイスキー原酒不足の問題とは?

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近年、スコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーでは、原酒不足が問題となっています。なかでも日本でウイスキーの原酒が不足している理由としては、おもに3つの理由が考えられています。

ウイスキーの需要の低迷で原酒の製造量が減少

1970年代のオイルショックを契機に世界経済が混乱し、それまで好調だったウイスキーの需要も減少して、造り手が余剰在庫を抱えるようになりました。日本でも90年代初頭にバブルが弾けてから、ウイスキーの売れ行きが悪くなり、ウイスキー業界の低迷期が20年ほども続くことに。この間、蒸溜所やメーカーが原酒の製造量を減らしていたことが、近年の原酒不足の一因となっています。

ウイスキーは長期間熟成させることで完成するお酒なので、一朝一夕には造ることができません。とくに、12年や15年、18年などとエイジング(熟成期間)が表示されるシングルモルトウイスキーの原酒不足は深刻です。とはいえ、近年は「ノンエイジ」や「NAS(ナス)」と呼ばれる熟成期間を表示しないウイスキーも増えていて、新しいたのしみが広がっています。

ウイスキーブームで原酒不足に

日本では2008年(平成20年)ころに起こったウイスキーブームに乗って、ウイスキーの需要が回復していきました。そのきっかけを作ったのが、サントリー。ハイボールのたのしみ方を大々的に提案したところ、お店や家飲みでの人気が高まり定着していきました。

また、2014年(平成26年)9月に放送開始したNHKの連続テレビ小説『マッサン』の影響で、ジャパニーズウイスキーが脚光を浴びるように。生産量が少なかったところに予測を超える需要増となり、ウイスキーの原酒不足が進みました。

ジャパニーズウイスキーが世界的な評価を獲得したことで、原酒不足が深刻化

さらに原酒不足に拍車をかけたのが、世界的なウイスキー評論家、ジム・マーレイ氏による高評価でした。マーレイ氏が編纂(へんさん)する『ワールド・ウイスキー・バイブル』2015年版にて、サントリーの「山崎シェリーカスク2013」が、世界最高のウイスキーの称号である「ワールド・ウイスキー・オブ・ザ・イヤー」を獲得したのです。これによりジャパニーズウイスキーの評価は格段に高まりました。

その後も、サントリーやニッカ、キリン、イチローズモルトなどの銘柄が続々と高い評価を得たことで、世界的にジャパニーズウイスキー人気が過熱。今も深刻な原酒不足の状態が続いていて、注目度の高い銘柄のなかには、オークションなどで高額取引されているものもあります。

このようなプレミア銘柄は入手困難ですが、ジャパニーズウイスキーには、前述のノンエイジのような新しい魅力を持った製品も登場しています。原酒不足が解消されるまで、身近なボトルをたのしみつつ、気長に待ちたいものですね。



スコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーは、基本的にモルト原酒とグレーン原酒をブレンディングまたはヴァッティングすることで造られます。ウイスキーに込められた造り手の想いを感じ取りながら、じっくりと堪能してみてくださいね。

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