日本酒造りの「火入れ」とは? 火入れの目的や生酒との違いをわかりやすく紹介

日本酒造りの「火入れ」とは? 火入れの目的や生酒との違いをわかりやすく紹介
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「火入れ」とは、日本酒造りにおける加熱処理の工程のこと。今回は、火入れの意味や目的、火入れによって日本酒造りの天敵「火落ち菌」を死滅させるときの温度、「火入れ酒」と生酒などとの違い、火入れの具体的な方法、火入れの英語表現などを紹介します。

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「火入れ」の意味や目的からチェックしていきましょう。

日本酒造りの「火入れ(火入/ひいれ)」とは?

火入れの意味

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「火入れ」とは、日本酒造りの一工程で、もろみ(醪)を搾ったあとに行う加熱処理を指します。発酵を止めて酒質を安定させることと、殺菌がおもな目的です。

「火入れ」の概要を詳しくみていきましょう。

「火入れ」とは加熱処理の工程のこと

「火入れ」とは、もろみ(醪)を搾ってできた日本酒に、文字どおり「火を入れる」、加熱処理の工程のことです。

日本酒造りにおいて火入れは通常、貯蔵前と瓶詰め前の2回行われます。

火入れは加熱処理の工程

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「火入れ」を行う2つの目的とは?

火入れの目的は、おもに2つあります。

ひとつは、糖化酵素や酵母の失活です。

火入れをしないまま、お酒を瓶に詰めると、瓶内でデンプンの糖化が進むため、甘味が強くなりすぎるおそれがあります。火入れをすることで糖化酵素の働きを止め、味わいを安定させることができます。

同様に、火入れによって酵母の働きも止まるため、再発酵による酒質の変化も防ぎます。

火入れのもうひとつの目的は、日本酒を劣化させる「火落ち菌(ひおちきん)」の殺菌です。

火落ち菌は乳酸菌の一種で、日本酒に混入し繁殖すると、お酒の色を白くにごらせ、不快な香味を生じさせます。生命力、繁殖力とも非常に強く、日本酒に含まれるアルコールでは失活しないという、日本酒の天敵ともいえる菌ですが、熱に弱いという特徴があります。

火入れの目的と温度

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火落ち菌を死滅させる「火入れ」の温度は?

火入れは、60~65度くらいの温度で、10分程度行われるのが一般的です。

日本酒を飲めなくしてしまうため、蔵を廃業に追い込むこともあったという火落ち菌。現在では、火入れをはじめとする技術や衛生管理の進歩などにより、火落ち菌による日本酒の変質はかなり減ったといわれています。

「火入れ」をした日本酒と生酒は何が違うの?

火入れの日本酒と生酒の違い

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火入れの日本酒と生酒の違いをみていきましょう。

火入れの日本酒の特徴は?

貯蔵前と瓶詰め前の2回にわたり火入れを行った日本酒は酒質が安定しているため、流通・配送、店舗での陳列、家庭での保管などを経ても、蔵元がベストだと思った味に近い状態で味わうことができます。

2回火入れの日本酒は飲み口がなめらかで、落ち着いた味わいのものが多い一方、火入れを行うことで、搾ったままの日本酒が持つフレッシュさが失われてしまうという側面もあります。

火入れの日本酒の特徴

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火入れをまったく行わない「生酒」

「生酒」は、加熱処理である火入れをまったく行わないで造られる日本酒です。

みずみずしくフレッシュな味わいがたのしめる一方、糖化酵素はもとより、もろみを搾る上槽(じょうそう)の工程で取り除ききれなかった酵母も活性状態で残っているため、酒質や香味が変化しやすいという特性があります。

なお、デリケートな生酒は、冷蔵庫での保存・保管が必須となります。
月桂冠 生酒のように、ごく一部の例外があります。

火入れを行わない生酒の特徴

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火入れを一度だけ行う日本酒もある

火入れを一度だけ行う日本酒には、「生貯蔵酒」と「生詰め酒」があります。
生貯蔵酒は、生のまま貯蔵し瓶詰め前に一度だけ火入れを行う日本酒です。
一方の生詰め酒は、貯蔵前に一度だけ火入れを行います。

どちらも、生酒のフレッシュさを感じさせつつ、貯蔵・熟成させたことで生まれる、まろやかな口当たりや、ふくよかな旨味もたのしめるお酒が多い傾向があります。

生貯蔵酒、生詰め酒とも、一度だけとはいえ火入れを行っているので、生酒と比べると品質は安定しています。

とはいえ、2回火入れの日本酒に比べると、酒質が変化しやすいため、可能なかぎり冷蔵庫で保存しましょう。

なお、秋に登場する「ひやおろし」は、春先に搾ったお酒に1回火入れを行って貯蔵し、夏の間に熟成させたお酒で、生詰め酒の一種です。

「ひやおろし」については、こちらの記事に詳しい情報が載っています。

「火入れ」の方法には種類がある!?

種類がある火入れの方法

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火入れの方法は、大きく分けて「蛇管(じゃかん)式」と「瓶火入れ(瓶燗火入れ)」の2種類があります。

蛇管式は、熱湯を張ったタンクなどのなかに、「蛇管」と呼ばれるコイル状に巻いた管を入れ、蛇管のなかにお酒をとおして熱を加え、別のタンクに送って冷却するという方法です。

また近年では、ごく短時間で火入れが行える「プレートヒーター」という機器も登場し、蛇管式に代わる形で広く使われるようになっています。

もうひとつの「瓶火入れ」は、お酒を瓶に詰めた状態で湯煎し火入れをする方法で、以下のような特徴があります。

◇火入れは1回のみ、瓶詰め後に行う。
◇貯蔵は火入れ後、瓶に詰めた状態のまま冷蔵庫で冷やす「瓶囲い」と呼ばれる方法で行う。

瓶火入れには、酸化を極力防ぐことができるという利点がある一方、次のようなデメリットもあります。

◆大量生産できない
◆手間がかかる
◆エネルギーコストがかかる

なお、一度に多くの瓶が扱える「パストライザー」という機器を使って火入れを行ったあと、冷蔵庫で貯蔵した瓶囲いの日本酒も増えてきています。

室町時代から続く歴史も表現!? 「火入れ」を英語で伝えるには?

ルイ・パスツール

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独立行政法人酒類総合研究所作成の「清酒の専門用語の標準的英語表現リスト」では、火入れの英語表現として「heat sterilization」「pasteurization」の2つを挙げています。

「heat」は熱、「sterilization」は殺菌を意味する英語。「heat sterilization」は直訳すると熱殺菌、加熱滅菌となります。

「pasteurization」は、フランスの科学者、ルイ・パスツールが開発した「低温加熱殺菌法(パスチャライゼーション / パスツリゼーション)」の英語表記です。

パスツールは19世紀の後半に顕微鏡などを活用して、ワインやビールの異常発酵についての研究を進め、微生物を発見して低温加熱殺菌法を提案しました。

一方、この低温加熱殺菌法と同じ原理を用いた日本酒の火入れは、パスツールが研究していた300年ほども前となる、室町時代の1560年ごろから行われていたことが記録に残されています。

パスツールの名を冠した「pasteurization」ですが、歴史をひも解けば、日本の酒造りの先駆性をひそかに示すものといえるかもしれません。

(参考文献)
独立行政法人酒類総合研究所「清酒の専門用語の標準的英語表現リスト(Sake Terms 試行版 ver.7)」(令和4年3月31日改訂)

450年以上も前から行われている日本酒の火入れは、日本酒の味わいにも影響を与えるもの。火入れを2回行った日本酒とそのほかの日本酒との飲み比べはもちろん、瓶火入れの日本酒とそのほかの日本酒の飲み比べもおすすめです。それぞれの味わいの違いを試してみてくださいね。

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