火落ち菌とは?酒蔵を廃業に追い込む火落ち菌の正体と対策

火落ち菌とは?酒蔵を廃業に追い込む火落ち菌の正体と対策
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朝ドラでも話題になった火落ち菌は日本酒造りの天敵。蔵元が廃業に追い込まれる原因にもなるその正体と、繁殖を防ぐ対策、家庭でできる日本酒の保存方法について詳しく解説します。

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火落ち菌とは

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火落ち菌は乳酸菌の一種

「火落ち菌」は特殊な乳酸菌の一種で、日本酒のなかで火落ち菌が繁殖する現象を「火落ち」といいます。火落ちした日本酒は大幅に品質が損なわれ、「腐造」してしまいます。

火落ち菌には、「ホモ型真性火落菌」「ヘテロ型真性火落菌」「火落性乳酸菌」といった種類があり、日本酒造りに使用されるコウジカビが生成するメバロン酸を主食として繁殖します。一般的に細菌はアルコールに弱いという特性がありますが、ホモ型真性火落菌の場合、アルコール度数が25%程度のお酒のなかでも生育できるなど、アルコールへの耐性が強いのが特徴です。

「火落ち菌」や「火落ち」という言葉が使われ始めたのは明治時代以降といわれていますが、この現象は古くから蔵元を悩ませてきました。ひとたび蔵のお酒が火落ちによって腐造すると、数年にわたって影響が続くなど被害は甚大となり、かつては火落ちが原因で廃業に追い込まれる蔵元もあったといいます。

そのため、蔵元では火落ちを防ぐために細心の注意が払われています。万が一にも火落ち菌の繁殖の原因とならないよう、蔵元で働く蔵人は日本酒造りの期間中はヨーグルトやチーズ、キムチなどの乳酸菌製品は避けるというしきたりがあります。

火落ち菌が繁殖するとどうなる?

火落ちした日本酒は白く濁り、酸化してしまいます。酢のように酸っぱい味になり、ツンとする特異臭が生じるのも火落ちの特徴です。

火落ち菌自体は人体への悪影響はなく、火落ちした日本酒を飲んでしまっても、とくに健康被害が心配されるわけではありません。しかしながら、火落ちによる味わいや香りの劣化は顕著なため、火落ちした日本酒をおいしく飲むのは難しいといえます。

なお、日本酒の品質が劣化して白濁している場合、火落ち以外に「タンパク混濁」が原因の可能性もあります。ただし、タンパク混濁は日本酒中に酵素タンパクが凝集したことによって生じるもので、お酒自体の味や香りには大きな変化は生じません。火落ちの場合は強いニオイがすることから、両者の違いは判断しやすいでしょう。

火落ち菌の見つけ方と対策

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「呑み切り(のみきり)」で品質をチェックする

昔は日本酒造りには木樽が使用されていましたが、近年はホーローやステンレスのタンクが使用されるなど、衛生面や貯蔵管理技術が大きな進歩を遂げています。そのため、蔵元での貯蔵の際に火落ち菌が繁殖することは稀ですが、昔から続いている品質チェックの工程として、現在も「呑み切り」が行われています。

「呑み切り」とは、貯蔵タンクの吞み口から少量の日本酒を採取し、きき酒をして日本酒の状態や味わい、香りの変化を調べる品質検査のことです。それぞれのタンク内の状態を確認する必要があるため、数多くあるタンクすべてから日本酒を採取し、ていねいにチェックしていきます。ただし、検査のために呑み口を開けたことで日本酒に菌が入るようなことのないよう、日本酒の採取作業は極めて慎重に行わなくてはなりません。

一般的に、気温が上がり、火落ち菌が繁殖しやすくなる6月から7月ごろに「初呑み切り」を行い、その後10月ごろまで月に一回ほどの頻度で呑み切りを行います。このほか「間呑み切り(あいのみきり)」として、酒質を確認する必要が生じたときなどに検査を実施する場合もあります。

「火入れ」で殺菌する

日本酒を火落ちから守るための重要な工程が、「火入れ」と呼ばれる加熱処理です。火入れでは日本酒を約60~65度の温度で温めることで、日本酒の酵母の働きを止めるとともに、火落ち菌などの菌を死滅させます。

日本酒の製造工程において火入れの工程は、醪を搾ってろ過をしたあとと、瓶詰め前の2回のタイミングで行われるのが一般的です。日本酒の品質が安定し、維持しやすくなることは、火入れによる大きな効果といえるでしょう。

一方で、搾りたての日本酒のフレッシュな味わいをたのしむことを目的として、通常2回の火入れが行われない日本酒もあります。代表的なもとして、火入れを一度も行わずに出荷される「生酒」、瓶詰め前に1回だけ火入れを行う「生貯蔵酒」、ろ過後に1回だけ火入れを行う「生詰酒」が挙げられます。

火入れを行わない日本酒には独自のみずみずしい魅力がありますが、品質が変化しやすいため、保存の際の温度管理などにはとくに注意が必要となります。

火落ち菌は家庭でも発生する?

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保存状態が悪いと火落ち菌が繁殖する可能性も

火入れなどの対策が行われている近年では、製造工程での火落ちはあまり見られなくなりました。とはいえ、火入れをした日本酒であっても、あとから菌が混入するなどして、火落ち菌が繁殖しないとも限りません。

前述のような火入れをしない生酒タイプの日本酒はとくに、温度管理などの保存状態には気をつける必要があります。自宅で保存していたお酒が知らない間に火落ちして台無しになっていたなどということのないよう、日本酒の正しい保存の仕方を知って、適切な環境で保存しましょう。

おいしさを保つ日本酒の保存方法

火落ちなど日本酒の劣化を防いでおいしさを保つためには、温度管理に注意することに加え、紫外線を避ける、立てて保管するなどいくつかのポイントに留意することが大事です。いずれも日本酒の品質を維持するために大切な点であるため、しっかり確認しておきましょう。

【温度管理に注意する】
日本酒を保管する際、温度管理はもっとも重要なポイントのひとつです。日本酒を高温で長期間保管すると、「老香(ひねか)」と呼ばれる不快な匂いが生じます。2回の火入れを行っている一般的な日本酒は常温保存が可能であるものの、古酒のように常温熟成させる場合以外は、できるだけ暗く涼しいところで保管した方が品質を維持できます。

保管にベストな温度や環境は日本酒の種類によっても異なりますので、種類ごとの望ましい温度や環境は、以下を目安にするとよいでしょう。

◇純米酒・本醸造酒・普通酒
比較的品質が安定している日本酒。床下収納など、温度が15度以下くらいの冷暗所での保存が望ましいといわれています。冷蔵での保存も可能です。

◇吟醸酒・大吟醸酒
華やかな「吟醸香」が魅力の吟醸酒や大吟醸酒はデリケートな日本酒のため、5度以下での保存が望ましく、冷蔵保存がおすすめです。

◇生酒・生貯蔵酒・生詰酒
2回の火入れを行っていないフレッシュな日本酒のため、基本的には冷蔵で保存します。ただ銘柄によって異なるため、ラベルに記載された保存方法に従うことをおすすめします。

なお、日本酒にとっては急な温度変化も望ましくないため、できるだけ温度が一定に保てる場所で保存することもポイントです。

【紫外線を避ける】
日本酒の保存においてもうひとつの重要なポイントが、紫外線に当てないようにすることです。日光や蛍光灯から発せられる紫外線は、日本酒に「日光臭」という不快な匂いを生じさせる原因となります。
紫外線による劣化を防ぐための工夫として、日本酒の瓶を一本ずつ新聞紙で包んだり、化粧箱に入れたりして保存するのも有効です。

【横にせず立てて保存する】
日本酒の保存においては、瓶を横にせずに立てておくこともポイントです。ワインはボトルを横にして保存するのが一般的ですが、日本酒の場合は事情が異なるので注意しましょう。瓶を横にして保存すると、日本酒に金属キャップの味が移ったり、まれにキャップが錆びたりするという懸念があります。また、瓶のなかで日本酒が空気に触れる面積が広くなることで、酸化が早まることにつながります。

とはいえ、冷蔵保蔵する必要がある場合など、一升瓶を立てて入れることが難しいこともあるでしょう。そのような場合は、サイズの小さい瓶に移し替えるのも一案です。ただし、移し替えによって菌が混入することのないよう、入れ直す瓶はしっかりと煮沸消毒をするなどしておきましょう。

火落ち菌が繁殖して火落ちが生じると、日本酒の香りや味わいが大きく損なわれてしまいます。現在では日本酒の製造工程で火落ちが起こることは少なくなっているものの、保存状態によっては自宅でも火落ちは起こり得ます。せっかくの日本酒の品質を守れるよう、温度管理を徹底し、紫外線を避けて立てて保存するなど、適切な環境で保存したいですね。

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