「迎え酒(むかえざけ)」で二日酔いはラクになる? 二日酔いの正しい対処法を知っておこう
「迎え酒」とは、二日酔いの気分の悪さを緩和するために飲む酒のことですが、二日酔いの症状がラクになるという科学的根拠はありません。今回は、迎え酒が効いたと感じる理由を、二日酔いのメカニズムをもとに検証しつつ、正しい予防法や解消法を探ります。
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二日酔いには「迎え酒」が効くという説がありますが、じつは迷信です。なぜ迷信なのか、なぜ習慣化するとよくないか、順を追って解説していきます。
「迎え酒」とは?
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「迎え酒」とは、二日酔いのつらさを治すために飲むお酒を表す言葉。かつては「むかひ酒」「むかへ酒」とも表記したようで、江戸時代の書物にもたびたび登場していることから、日本でも古くから習慣として根づいていたものと考えられます。
二日酔いの状態でお酒を飲むと、一時的に症状が和らいだように感じることがあります。所用でどうしても外出しなければならないときや、片づけなければならない仕事があるときは、二日酔いによる頭痛やむかつきを少しでも緩和しようと、迎え酒にたよる人もいるようですが、はたして正しい対策といえるのでしょうか。
「迎え酒で二日酔いがラクになる」という科学的根拠はない
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古くから二日酔いの緩和に活用されてきた「迎え酒」。ビールとトマトで作るカクテル「レッドアイ」が二日酔いの特効薬といううわさを耳にしたり、「迎え酒」に該当する言葉が世界各国にも存在することを考えれば、毒をもって毒を制する迎え酒の習慣にたよりたくなる気持ちにもうなずけます。
とはいえ、「迎え酒」をすることで二日酔いの諸症状を改善するという科学的根拠は得られていません。むしろ近年の研究では、「迎え酒」が根本的な解決にはならないばかりか、それが習慣化すればアルコール依存症の危険性が高まることもわかってきました。
アルコール依存症には、二日酔いの比にならないほどの深刻な問題が潜んでいます。厚生労働省でも「お酒が強いほど要注意」と警鐘を鳴らしているので、二日酔いになるほどお酒を飲む機会がある人は、日ごろから迎え酒にたよらない二日酔い対策を講じることが大切です。
(参考資料)
厚生労働省|アルコール健康障害対策
「迎え酒」をしても二日酔いがラクにならない理由
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「迎え酒」をしても二日酔いがラクにならない理由を、二日酔いのメカニズムをもとにひも解きます。
二日酔いのメカニズム
二日酔いとは、お酒を飲みすぎた結果生じるつらい状態のこと。言葉の意味からも原因は明白ですが、以下のような症状が生じるプロセスについては、現在も解明されていません。
<二日酔いのおもな症状>
◆頭痛
◆口の渇き
◆疲労感や脱力感
◆胃のむかつきや吐き気
◆めまい
◆筋肉痛
◆音や光に対して過敏になる
◆血圧上昇
◆うつ気分
このようなつらい症状は、どのようなメカニズムで起きるのでしょうか。現時点で論じられている可能性を紹介します。
軽度の脱水や低血糖、ホルモン異常
アルコールは尿の排泄や血圧の調整、糖の代謝に関わるホルモンの分泌状態に影響をおよぼすため、軽い脱水症状になって頭痛や口の渇き、疲労感を覚えたり、低血糖状態になってだるさや不安感を覚えたりと、さまざまな症状の要因と考えられています。
睡眠や生体リズムの障害
深酒をすることで睡眠や生体リズムが乱れると、疲労や生産性の低下につながることがあります。
胃腸障害
アルコールが胃の粘膜を刺激することで、胃酸が増加し、吐き気や胃のむかつきの原因となる可能性があります。
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アセトアルデヒドの蓄積
アルコールの代謝はおもに肝臓で行われ、「アセトアルデヒド」という有害物質を産生します。アセトアルデヒドは、さらに「アセテート(酢酸)」という物質に分解されて、最後は水と二酸化炭素に分解されて汗や吐息、尿として体外に排出されますが、肝臓で分解しきれなかったアセトアルデヒドが血液中に残ってしまうと、頭痛や胃もたれ、吐き気、動悸などの症状を引き起こすおそれがあると考えられています。
もっとも、血中アセトアルデヒドが二日酔いに関係していると言い切るほどのデータは得られていないため、今後新たなメカニズムが解明される可能性はあります。
軽度の離脱症状
ほろ酔い状態のときは気持ちが落ち着いてリラックスしていますが、酔いが覚めると不安に感じることがあります。
このほか、お酒にわずかながら含まれているメタノールや不純物が原因しているという説もあるようです。
「迎え酒」をするとなぜラクになったように感じるのか
二日酔いの状態で「迎え酒」をすると、一時的に感覚が麻痺して頭痛や吐き気などのつらい症状を感じにくくなります。といっても、これはその場しのぎの対策にすぎず、一定時間が経てば再び二日酔いの気分の悪さが戻ってきます。そればかりか、迎え酒によってつらい症状が長引く可能性もあるのです。
「迎え酒」の習慣は危険?
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前述したように、「迎え酒」が習慣化すると、アルコール依存性のリスクは高まります。実際、迎え酒をする頻度については、世界保健機関(WHO)が作成した飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)にも活用されているほどで、飲酒習慣が適切か、依存症のリスクがあるかどうかなどを判定するための目安のひとつとされています。
アルコール依存症とは、お酒がないといられなくなる状態のこと。薬物依存症のひとつであり、精神疾患の一種でもあります。その影響は精神面のみならず、身体面にもさまざまな形であらわれます。
1度や2度、迎え酒をしたからといって、依存症になるわけではありませんが、深みにはまると自分の意志だけでは抜け出しにくくなくなり、専門家の支援や離脱プログラムへの参加が必要になります。迎え酒の習慣化しつつある人はもちろんですが、「迎え酒をしないと体調が整わない」という人は、なるべく早めに相談窓口や医療機関に相談しましょう。
厚生労働省 依存症の理解を深めるための普及啓発事業HP|「依存症かも」と思ったら
「迎え酒」は意味がない! 二日酔いの正しい予防・解消法を知っておこう
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「迎え酒」のほかにも、二日酔いに効果的といわれるさまざまな対策が広まっていますが、いずれにしても二日酔いを確実に完全に解消できる対策がないことは知っておくべきでしょう。
そのうえで、二日酔い対策に有効な予防法や、症状の緩和が期待できる解消法を押さえておくと、ワンランク上のお酒とのつきあい方が身につくかもしれません。
「迎え酒」にたよらない二日酔い対策とは?
「迎え酒」のほかにも、
◇ビールやワイン、ウイスキーなど種類の異なるお酒を飲む、いわゆる『チャンポン』をしなければ、二日酔いは防げる
◇飲酒後にコーヒーを飲めば二日酔いを回避できる
◇シャワーを浴びると症状を緩和できる
など、巷にはさまざまな二日酔い対策がありますが、二日酔いを本気で避けたいなら、飲酒量を減らすことが先決です。
「節度ある適度な飲酒」を心がける
21世紀の道標となる健康施策「健康日本21」において、厚生労働省は飲酒のガイドラインである「節度ある適度な飲酒」を以下のように定義しています。
出典 https://www.mhlw.go.jp通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である。
純アルコール量は、飲んだお酒の量とアルコール度数から以下の計算式で算出できます。
酒の量(ml) × 度数または% / 100 × 0.8(アルコールの比重) = 純アルコール量(g)
なお、1日20グラムは成人男性の飲酒の目安。一般的に男性よりも体が小さい女性や、若い人と比べてアルコール分解速度が下がる65歳以上の高齢者は、20グラムより少ない量を「飲酒の適量」と考えてください。
それでも、多少のリスクは覚悟でお酒を飲みたいという人は、以下のような予防策を施してみてはいかがでしょう。
空きっ腹にお酒を入れない/食事と一緒に飲む
空腹の状態で飲んだり一気飲みをしたりすると、肝臓でアルコールの分解が追いつかず、血中アルコール濃度が急速に上がってしまいます。急性アルコール中毒のおそれもあるので、あらかじめ小腹を満たしておくか、食べ物と一緒にゆっくり味わって。「とりあえずビール」からの一気飲みも、極力控えましょう。
このほか、飲酒する日は前日から良質の睡眠や休息を心がけて体調を整えておくことも大切です。
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二日酔い対策におすすめの食べ物や飲み物
飲む前にしっかり対策をしておきたいなら、肝臓の働きを助けるといわれる発酵ウコン入りのドリンク剤を飲んでおくのも一手です。
また、空腹時におすすめしたいのが、チーズなどの乳製品や、豆腐や枝豆、肉、魚などのタンパク質を含む食べ物。飲む前に食べておくことで、胃壁を保護したり、肝臓のアルコール分解力を高める効果が期待できます。
また、飲酒中は野菜を一緒に摂取すると、アルコールによって失われがちなビタミンやミネラル類を補給できるのでおすすめです。
お酒を飲んだあとは、アルコールの利尿作用によって体内の水分が失われがち。二日酔いの症状を軽減するためにも、水分補給は不可欠です。体内の電解質バランスを保つためには、スポーツドリンクがおすすめですが、飲酒で失われがちなビタミンやミネラルを補給するには野菜ジュースでもよいでしょう。
なお、二日酔いの症状を抑えるために市販の鎮痛剤や吐き気止め、胃粘膜保護薬などを用いる人がいるかもしれませんが、薬の成分のなかには、鎮痛剤に使われるアセトアミノフェンのように、アルコールと併用することで肝臓や腎臓の機能に害をおよぼすものも存在します。薬で二日酔いに対処する場合は、説明書に明記された使用上の注意に必ず目を通すようにしてください。
「迎え酒」が二日酔いに効くというのは迷信で、一般的に、飲酒量が増えれば二日酔いはひどくなるといわれています。お酒はたのしく適量で。正しい対策を講じてお酒をおいしく味わいながら、快適な朝を迎えられるとよいですね。