ビールのおもな原料は麦芽とホップと酵母と水! 造る場所・人、使う原料で味わいは無限大に!
ビールのおもな原料は麦芽とホップ、酵母、水。これらの組み合わせや造る場所、造り手の技術などによって、味わいの幅は無限大に広がります。今回は、ビールの味わいを左右する原料ごとの特徴や種類、ビールに使われる副原料について紹介していきます。
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日本におけるビールの定義をおさらい
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ビールは家でも外でも、カジュアルにたのしめる人気のお酒ですが、その定義は意外と知られていないのではないでしょうか。
ビールの定義は国ごとに異なり、日本では酒税法によって以下のように定められています。
イ.麦芽、ホップおよび水を原料として発酵させたもの。
ロ.麦芽、ホップ、水および麦、その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの。
ハ.上の酒類にホップまたは政令で定める物品を加えて発酵させたもの。
ハ.については、その原料中麦芽の重量がホップおよび水以外の原料の重量の合計の100分の50以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限る。
以上の条件を満たした酒類のうち、アルコール分が1度以上20度未満のものが、日本では「ビール」と定められています。
この条件に当てはまらないものは、見た目や味わいがビールのようであっても、「ビール以外のお酒」ということになるのです。
ビールの個性を決める4つの原料「麦芽」「ホップ」「酵母」「水」
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ビールの個性は、麦芽とホップ、酵母、水の組み合わせで決まります。どのような組み合わせがあるのか、それぞれの特徴や種類について、解説していきます。
ビールの主原料「麦芽(モルト)」とは?
ビールを定義づける最大の特徴が、酒税法で原材料の50%以上と定められている麦芽(モルト)。麦芽の基礎知識をまとめてみました。
「麦芽」とは?
ビールの個性を決める重要な要素のひとつが麦芽です。
麦芽とは、その名のとおり、発芽した麦のこと。麦を少しだけ発芽させたものを、英語でモルトと呼びます。
なぜ麦芽の状態にするのかというと、麦に含まれる糖分をアルコールに変える「発酵」という工程を行うために、麦の主成分であるデンプンを酵母が食べられるサイズの糖に変える必要があるから。デンプンの糖化を促して発酵させやすくするためには、麦芽にする必要があります。
麦芽の元となる「大麦」の種類
麦には大麦、小麦、ライ麦、エン麦などさまざまな種類がありますが、ビールの醸造に用いられるのは、おもに「大麦」。その大麦にもまた、いくつか種類があり、代表的なものに「二条大麦」と「六条大麦」があります。このうちビール造りに使われるのはおもに「二条大麦」で、ビールの醸造用に造られた「二条大麦」は「ビール大麦」と呼ばれることもあります。
「二条大麦」の特徴は粒が大きいことで、ビール造りに必要なデンプンを多く含みます。粒の大きさや形にばらつきが少ないこと、発芽力旺盛で酵素の力が強いことも、ビール造りに適している理由です。
日本のビールに使用されている大麦は、ほとんどがヨーロッパやカナダ、オーストラリアなどから輸入したものです。ただ、近年は国産大麦にも注目が集まっていて、1割程度ではありますが、栃木県や佐賀県、福岡県、北海道、岡山県など国内で栽培された大麦も使用されています。
ビールに使われる「麦芽」の種類
ビールは大きく「淡色ビール」と「濃色ビール」に分けることができますが、これは、おもに醸造に使用する麦芽の違いによって生じるものです。
以下で、おもな麦芽の種類をみていきましょう。
◇淡色麦芽
大麦を発芽させ、5日~6日経過して根が伸びた状態の麦芽を、加熱によって乾燥させるプロセス「焙燥(ばいそう)」によって根が取り除かれ、80℃~90℃の熱風をあてて焙燥したものが「淡色麦芽」。「淡色ビール」にはこの淡色麦芽が使われます。
◇濃色麦芽
淡色麦芽を焙煎(ばいせん)することで作られたものが「濃色麦芽」です。濃色麦芽にもさまざまな種類があり、どれをどれくらいの比率で使用するかで濃色ビールの色合いなどが変わってきます。
◆カラメル麦芽(クリスタル麦芽)
120℃~160℃で焙煎。麦芽の内部がクリスタル状になった麦芽。ビールに甘みや香ばしさを付与します。
◆チョコレート麦芽
200℃~220℃で焙煎するので黒く焦げていて、ビターチョコレートのような香りのする麦芽。ベースモルトにいっしょに使用することで、ダークな色合いになります。
◆黒麦芽
220℃で麦芽を焙煎するので真っ黒に焦げています。醸造時に少量使用することでビールを真っ黒な見た目にする麦芽。濃厚な味わいをもたらします。
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ビールの苦味や香りの元となる「ホップ」とは?
ビールならではの苦味と爽快な香りの元となるのが「ホップ」。その特徴をまとめてみました。
「ホップ」とは?
ホップはアサ科のつる性多年生植物の一種です。雄株と雌株とがあり、ビールの原料として使われるのは、受精していない雌株のみ。
ホップの成分には催眠鎮静や利尿、食欲増進、消化促進といったさまざまな効能があるとされていて、薬効の研究なども行われています。カビなどの微生物を防ぐ抗菌作用も持つと考えられています。
ホップがビールに用いられるのは、ビール特有の苦味や爽快な香りを生み出すためです。ホップの種類や投入のタイミングによって、ビールに苦味や香りといった多様な風味をもたらしているのです。
ホップにはほかにも、ビールの泡立ちをよくしたり、ビールが濁るのを防いだりする働きがあります。また、ホップの持つ殺菌作用がビールの中で雑菌が繁殖するのを抑え、ビールの腐敗を防ぐと考えられています。
ビールに使われる「ホップ」の種類
ビール造りに使われるホップの種類は、100種類以上にもおよび、その種類の多さこそがビールの奥深さにつながっています。
その種類は大きく、マイルドな香りと苦味の「ファインアロマホップ」とやや香りが強い「アロマホップ」、さらに苦味の強い「ビターホップ」に分けることができ、多くの品種が分類されています。
◇ファインアロマホップ
比較的やさしい香りを放ち、苦味が少なく上品な味わいに仕上がるホップ。なかでも気品ある香りとクリーンな苦味が特徴のチェコ原産「ザーツ」、ドイツ原産の上品な香りとマイルドな苦味が特徴の「テトナング」、同じくドイツ原産のハーブやスパイスを思わせる香りの「ヘルスブッカー」などがあります。
◇アロマホップ
ファインアロマホップより香りが強いホップ。アロマホップを使うと香りが際立つビールになります。おもな品種に、アメリカの代表的な品種の柑橘系と松やにのような香りを放つ「カスケード」、同じくアメリカ原産、シトラスとトロピカルフルーツのような香りの「シトラ」、北海道の空知でサッポロビールが開発した「ソラチエース」などがあります。
◇ビターホップ
もっとも苦味が強いのがビターホップです。ドイツ原産の高貴な香りを持つ「マグナム」や、ニュージーランドを代表するホップで、白ブドウや白ワインを思わせる香りが特徴の「ネルソン・ソーヴィン」などの品種が知られています。
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アルコール発酵に欠かせない「酵母(イースト)」とは?
麦芽、ホップとともにビール造りに欠かせないのが酵母。その働きについて、みていきましょう。
「酵母」とは?
酵母とは、ビールをはじめ発酵食品を作るのに使われる微生物のこと。イーストとも呼ばれ、発泡性のお酒であるビールを造るうえでも重要な役割を果たしています。
酵母は糖を分解しアルコールと二酸化炭素(炭酸ガス)を生成します。同時に、味や香りに影響を与える副生成物も生み出します。酵母の種類によって糖の分解や発酵の副生成物に違いが生じ、ビールの味や香りにも変化をもたらすのです。
ビールに使われる「酵母」の種類
酵母にはさまざまな種類があり、ビールのアルコール発酵に使われる酵母は「ビール酵母」と呼ばれています。
ビール酵母は、ビールの醸造に使われ続けてきたためにビール醸造に適した性質が備わってきたもので、その種類は数千にものぼるといわれています。
ビール酵母は、19世紀にカールスバーグ研究所でエミール・クリスチャン・ハンゼンによって純粋培養法が発明されたことで、安定的に良質な酵母を生み出すことができるようになりました。それ以来世界各地の醸造所で、さまざまな酵母が研究され、それにともなってさまざまな味や香りのビールが生まれてきました。
ビール酵母の純粋培養は、ビールの醸造に適した酵母を選ぶことからスタートします。数千種類以上のビール酵母の中から1つを選び出し、作りたいビールにふさわしい酵母として培養されるのです。
私たちが日常飲んでいるビールの酵母を大きく分類すると、エールビールに使われる「上面発酵酵母」と、ラガービールでおなじみの「下面発酵酵母」のふたつに分類できます。
上面発酵酵母は「エールイースト」ともいわれ、発酵温度は15〜25度、発酵期間は3〜5日と短いのが特徴。副生成物が多く、フルーティーな香りで奥深い味のビールを生み出します。
一方、下面発酵酵母は「ラガーイースト」とも呼ばれ、発酵温度は約10度、発酵期間は6~10日と上面発酵酵母よりやや長め。シャープな飲み口を特徴に持ちます。
なお、空中に浮遊している野生酵母を使って造ったビールは自然発酵ビールと呼ばれ、主にベルギーの一部の地域で造られています。このビールの醸造はむずかしく、味わいはとても個性的で希少なビールとして珍重されています。機会があったらぜひ試してみてください。
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ビールの品質や味わいを大きく左右する水
麦芽やホップ、酵母だけでなく、じつは水もビールの味わいに深く関係しています。というのも、一般的なビールの90%は水でできているから。とくに水の硬度は、ビールの味わいに大きく影響するといわれています。
水の硬度は、水に含まれるカルシウムやマグネシウムといったミネラル成分の含有量によって決まるもの。ミネラル含有量の少ない「軟水」は、淡色系のビール造りに適しています。硬度の高い「硬水」は、しっかりとした味わいのある濃色系ビールに向いているといわれています。
水はビールの原材料となるだけでなく、さまざまな場面で重要な役割を果たしています。大麦を浸して麦芽を造るための「浸麦用水」や麦汁を造る「仕込み水」、機械や容器などの洗浄用や冷却用など、ビール造りには大量の水が必要です。
ほかの原料と違い、水だけはよその土地から運ぶわけにはいきません。ビール造りに最適な場所は、ビール造りにふさわしい水源のある土地。ビールの味わいが、造る場所によって変わる理由は、水源にも関係しています。
ビールの味わいを広げる副原料を知っておこう
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ビールは主原料である麦芽、ホップ、水、そして酵母があれば造ることができますが、副原料を使うことで、さらなる個性や独特の風味を添えることができます。
なお、ビール造りに使える副原料は、酒税法で決められています。おもな副原料は以下のとおりです。
◇麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でん粉、糖類または財務省令で定める苦味料もしくは着色料
◇果実(果実を乾燥させたもの・煮詰めたもの・濃縮させた果汁を含む)、またはコリアンダー、コリアンダーの種、その他の財務省令で定める香味料
◇ビールに香りや味をつけるために使用するもの
◆香辛料(こしょう、シナモン、クローブ、山椒など)
◆ハーブ(カモミール、セージ、バジル、レモングラスなど)
◆野菜(さつまいも、かぼちゃなど)
◆そば、ごま
◆はちみつその他の含糖質物、食塩、味噌
◆花、茶、コーヒー、ココアもしくはこれらの調整品
◆牡蠣、昆布、わかめ、かつおぶし
こうした副原料を使うことで、独特の香りや味わいをプラスすることができるのも、ビールのたのしさを広げる要因になっているのです。
日頃何げなく乾杯しているビールの成り立ちを知ると、味わう気持ちも前のめりになるというもの。原料の特徴や、種類ごとの香りや味わいの違いを掘り下げたうえで、じっくり味わってみてください。