「青酎(あおちゅう)」東京都の青ヶ島の青ヶ島酒造で造られる個性派芋焼酎【東京の焼酎】
「青酎(あおちゅう、AO-CHU)」という焼酎を知っていますか? 伊豆諸島の南に位置する絶海の諸島・青ヶ島に伝わる幻の焼酎「青酎」には、妻が夫のために醸したという稀有な歴史がありました。ここでは、日本一人口の少ない村で生まれた焼酎の製法や特徴、魅力に迫ります。
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「青酎」は女性が男性のために造ってきた愛のお酒
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「青ヶ島」ってどんな島?
「青酎」のふるさと「青ヶ島」は、東京から358キロメートル、八丈島から68キロメートル南の洋上に浮かぶ小さな火山島。緯度は宮崎県とほぼ同じですが、東京都に属します。年間を通じて10~25度と気候は比較的温暖ですが、集落は標高250メートル以上の土地に広がっているため、緯度のわりに涼しく感じられるかもしれません。
青ヶ島にいつから人が住むようになったかは定かではありませんが、記録が確認できるのは15世紀以降のこと。その多くは海難事故や災害のもので、1785年(天明5年)の天明の大噴火では、200人あまりの島民が八丈島へ避難したとの記録も残されています。
明治時代には750人超に達した人口も、令和の時代には170人(令和元年8月1日現在)ほどに減少。日本一人口の少ない村として知られるようになりました。
「青酎」とは、妻が夫のために醸した焼酎
「青酎」とは、豊かな自然に囲まれた「青ヶ島」で造られる焼酎の総称です。人口わずか170人の島に、杜氏が10人。それぞれが独自の製法で引き出す風味は、まさに十人十色です。原料も、さつまいもだったり麦だったり、さつまいも+麦麹、あるいは、芋焼酎と麦焼酎をブレンドしていたりと、じつにさまざま。
総面積6平方キロメートルに満たない小さな島で、このような個性の異なる焼酎がいくつも生まれた背景を知るには、青ヶ島特有の歴史を紐解かなければなりません。
その昔、青ヶ島の男性は、島外に出稼ぎに行くのが常でした。家に残った妻たちは、夫の帰りを待ちながら、庭先で焼酎を造ります。こうして生まれたのが、世帯単位で進化を遂げた「青酎」です。妻たちが愛情を込めて磨き上げた製法と味は、その息子たちに受け継がれ、今もなお家伝の焼酎として親しまれているのです。
「青酎」造りは、青ヶ島の文化
「青ヶ島」の杜氏は全員が兼業杜氏。焼酎を造りながら、食料品店やガソリンスタンド、民宿などを営んでいたり、農業や建設業に従事していたりと、二足のわらじはあたりまえ。
とはいえ、原料の栽培まで手掛ける杜氏も少なくないのだとか。そんな杜氏たちがていねいに醸す焼酎は、おのずと生産量が限られ、また、年によって味にブレが生じることもあるため、これまで一般の流通に乗せることができませんでした。
青酎は、村の住民や一部の焼酎通の間で愛飲されてきた、まさに幻の焼酎。青酎造りは、この島に脈々と受け継がれる文化であり、島の誇りといっても過言ではないでしょう。
「青酎」の特徴と魅力を知ろう
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「青酎」の原料と製法
「青酎」の主原料は、さつまいもと麦。使用する原料や製法は杜氏によって異なりますが、地元産の青ヶ島の気候風土に育まれた自然麹や自然酵母を使うケースが多く、それらがほかにはない風味を特徴づけています。
仕込みの主流は、麹だけで造った一次もろみに主原料を投入して二次もろみを取る「二段仕込み」ですが、麹と主原料を同時に投入し、一度で仕込みを終える昔ながらの「どんぶり仕込み」で造る銘柄もあります。
「青酎」の魅力は、鼻腔をくすぐる香ばしさにあり
「青酎」の特徴といえば、麦麹。ほとんどの銘柄は、さつまいもと麦麹で造る芋焼酎、麦100%の麦焼酎のどちらかに相当します。
その魅力は、なんといっても焦がし麦の香ばしい香りにあります。初夏に収穫した麦は、乾燥させて鍋でていねいに炒ります。このひと手間が、鼻腔をくすぐる香ばしさの秘密。さつまいもと麦麹なら独特の風味に、麦100%なら豊かな香りの麦焼酎に仕上がります。
「青酎」のラインナップをチェック
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「青酎」のラインナップ
杜氏の数だけ存在する「青酎」の銘柄。そのラインナップを紹介します。
【青酎(あおちゅう)】
「二段仕込み」製法で造る「青酎」ブランドは、6年以上寝かせた35度の麦焼酎、35度に加水した25度の麦焼酎、芋焼酎と麦焼酎をバランスよくブレンドした芋麦焼酎の3種類展開。杜氏・荒井清氏が造るすっきりと洗練された味わいには定評があります。
【伝承(でんしょう)】
主原料のさつまいもや麦麹用の大麦、麹菌や酵母まですべて青ヶ島産。炒った麦に自然麹を付着させる際にはオオタニワタリという島の植物を加え、昔ながらの「どんぶり仕込み」で個性豊かな焼酎に仕上げられています。杜氏・浅沼寿氏が手がけた通好みの「青酎 伝承」、島の母・奥山ミチ代氏が醸す「伝承 喜久一」からチョイスできます。
【あおちゅう】
自家生産のさつまいも、国産麦、青ヶ島産の自然麹と自然酵母を原料に、「どんぶり仕込み」製法で造られる「あおちゅう」。同じ原料と製法を用いても、麹菌と酵母のバランスや杜氏の個性によって、異なる味に仕上がります。6人の杜氏が思い思いに醸す味覚をたのしんでみてはいかがでしょう。
【青宝(せいほう)】
杜氏・菊池松太郎氏が手掛ける銘柄。青ヶ島の自然麹は黄麹と黒麹の2種類ですが、「青宝」では黒麹が使用されています。自家生産の芋と麦を原料に二段仕込み製法で仕上げ、5年以上熟成させたその味わいは、すっきりまろやか。
【恋ヶ奥(こいがおく)】
杜氏の広江氏夫婦が、自然麹と自然酵母を使って麦100%の麦焼酎を造ったところ、驚くほど深みのある香り高い焼酎が完成。炒った麦の香ばしさが口いっぱいに広がる、旨味たっぷりの麦焼酎です。銘柄名は、恋が成就するといわれる青ヶ島のパワースポットから命名したそう。
「青酎」の入手方法
「青酎」は、かつては青ヶ島村無番地にある青ヶ島酒造でしか試飲・購入できないお酒でしたが、近年は取扱店も増え、八丈島を含む東京都内の酒店やアンテナショップなどでも手に入るようになりました。
青ヶ島酒造では通販も行っていて、公式サイトからダウンロードした注文用紙を使ってFAXで注文することができます。詳しくは、青ヶ島酒造のホームページにてご確認ください。
製造元:青ヶ島酒造合資会社
公式サイトはこちら
ご参考:青ヶ島村役場
「青酎」のふるさと青ヶ島は絶海の孤島ですが、現地で飲む「青酎」は格別です。羽田発の航空便に乗り、八丈島でヘリコプターに乗り換えれば最短で2時間。旅の疲れなど一瞬で吹き飛ぶほど美しい島なので、チャンスがあったらぜひ「青酎」を飲みに青ヶ島を訪れてみてください。