カフェスチルは世界でも稀少となった伝統的な蒸溜機【ウイスキー用語集】

カフェスチルは世界でも稀少となった伝統的な蒸溜機【ウイスキー用語集】
出典 : ニッカウヰスキー公式サイト

「カフェスチル」とは連続式蒸溜機の一種で、「パテントスチル」とも呼ばれます。カフェスチルとは、どんな仕組みの蒸溜機なのでしょうか。またいつごろ生まれたのでしょうか。今回は、カフェスチルの特徴や歴史などについて詳しく紹介します。

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カフェスチルとは? 蒸溜の仕組みや特徴

カフェスチルとは? 蒸溜の仕組みや特徴

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カフェスチルという名称は、発明者の名前に由来

カフェスチルは、アイルランド人のイーニアス・カフェ(イーニアス・コフィー)が1830年ころに発明し、特許(パテント)を取得した連続式蒸溜機の一種です。連続式蒸溜機が最初に登場したのは1826年で、考案したのはスコットランドのロバート・スタインですが、それを改良し実用化したのがカフェだったのです。

「カフェスチル(コフィースチル)」という名称は、特許を取得したカフェの名前に由来していて、「カフェ式(コフィー式)」や「カフェ式(コフィー式)連続式蒸溜機」などということもあります。また、特許のある蒸溜機ということで、「パテントスチル」とも呼ばれています。

そもそも連続式蒸溜機とは?

連続式蒸溜機は、おもにグレーンウイスキーを造る際に使われます。現在の連続式蒸溜機は、モロミ塔、抽出塔、清溜塔、メチル塔の最低4塔から成る多塔式が一般的。背の高い塔の内側は穴の空いたトレイで棚のように何段かに仕切られ、一つひとつの棚を通過するたびにアルコール成分が分離される仕組みになっています。かんたんにいうと、1回ずつ蒸溜するタイプの単式蒸溜機(ポットスチル)がいくつも並んでいるのが連続式蒸溜機です。

連続式蒸溜機は連続的に蒸溜を繰り返す構造になっているので、単式蒸溜機で蒸溜するよりも雑味などが取り除かれ、アルコール濃度が凝縮されます。そのため、アルコール度数90度前後の、すっきりクリアなスピリッツが生成されるのが特徴です。

カフェスチルの特徴

一般的な連続式蒸溜機が複数の塔で形成されているのに対して、カフェスチルは、モロミ塔と清溜塔の2つの塔から成ります。通常の連続式蒸溜機よりも塔が少ない分、蒸溜回数が減るため、スピリッツに原料由来の風味や成分が残りやすいのが特徴です。

現在主流の連続式蒸溜機と比べて香味あふれるスピリッツを製造できることから、あえてカフェスチルを採用する蒸溜所もあります。しかし、現代的な連続式蒸溜機よりも操作が難しく、蒸溜効率も悪いため、世界的にカフェスチルを使用する蒸溜所は少ない傾向にあります。

カフェスチルの登場がウイスキーにもたらしたものとは?

カフェスチルの登場がウイスキーにもたらしたものとは?

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カフェスチルが誕生した当時の、スコットランドの時代背景

カフェスチルが登場した1800年代前半、スコットランドのウイスキー業界は、変革の時代を迎えていました。この時期、ウイスキーの密造時代が終わって不平等だったウイスキー税が見直され、妥当な税額の「ウイスキー製造許可料」が導入されたのです。1824年になると、ザ・グレンリベット蒸溜所が第1号となるイギリス政府公認のライセンスを取得。それから約10年でスコットランドのほとんどの蒸溜所が合法化して、正式にスコッチ造りができるようになりました。そのような背景のなかで誕生したのが、連続式蒸溜機のカフェスチルだったのです。

カフェスチルなど連続式蒸溜機の登場で、ブレンデッドが誕生

カフェスチルは、発明者であるカフェの母国・アイルランドでは受け入れられませんでしたが、お隣のスコットランドのウイスキーに大きな影響を与えました。穀物を原料とするグレーンウイスキーを大量生産できるようになったことで、ブレンデッドウイスキーが生まれ、市場を席捲するようになっていったのです。

スコッチにおけるブレンデッドウイスキーは、1860年ころに誕生したといわれています。個性の強いモルト原酒に穏やかなグレーンウイスキーをバランスよく調合すると、ライトで飲みやすい味わいになります。こうして開発されたブレンデッドウイスキーは高評価を得て、「スコッチ=ブレンデッドウイスキー」として、世界中で愛されるお酒へと成長していきました。

カフェスチルなど連続式蒸溜機は、安定供給も可能にした

カフェスチルなどの連続式蒸溜機が導入されるまで、スコッチの大半を占めていたのはシングルモルトでした。しかし、樽ごとに味わいが異なるため、安定的に供給できないのが悩みの種だったようです。そこへ連続式蒸溜機が登場したことで、ウイスキーの安定供給が可能になります。つまり、シングルモルトと大量生産できるグレーンウイスキーをブレンドすることで、安価で品質の安定したウイスキーを供給できるようになったのです。

「ブレンデッドはスコッチではない」とする「ウイスキー論争」も起こりましたが、最終的にブレンデッド派が勝利して、ブレンデッドウイスキーが盛んに造られるようになっていったといわれています。

ニッカの「カフェ式連続式蒸溜機」は竹鶴政孝のこだわり

ニッカの「カフェ式連続式蒸溜機」は竹鶴政孝のこだわり

出典:ニッカウヰスキー公式サイト

ニッカは世界的にも稀少なカフェスチルを保有

日本で初めてカフェスチルを導入したのは、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝です。1962年にスコットランドのグラスゴーに自ら出向いて発注し、翌年の1963年に念願のカフェスチルが日本に上陸しました。

しかし、実際に設置されたのは朝日麦酒(現アサヒビール)の子会社である朝日酒造の西宮工場で、正式にニッカウヰスキーのものになったのは1969年のこと。導入当初は資金繰りなどの理由から朝日麦酒の援助を受けていて、朝日酒造で造ったグレーンウイスキーを買い取っていたそうです。1999年になってカフェスチルは、ニッカウヰスキーの宮城峡蒸溜所に移転。偉大な創業者の遺産であるカフェスチルは、香味豊かなグレーンウイスキーを造るために今も稼働を続けています。

ちなみに、ニッカウヰスキーでは、カフェスチルのことを「カフェ式連続式蒸溜機」と呼んでいます。

カフェスチルは竹鶴政孝のこだわり

竹鶴政孝がカフェスチルにこだわった理由は、ブレンデッドウイスキーを重視していたからだといわれています。

1962年の購入当時、スコットランドでは連続式蒸溜機の改良が進み、2塔式のカフェスチルはすでに希少な存在でした。しかし竹鶴氏は、本格的なブレンデッドウイスキーを造るには、香味豊かなグレーンウイスキーを製造できるカフェスチルが不可欠だと考えていたのです。これには、自身がスコットランドのボーネス蒸溜所で研修を受けた際、カフェスチルが採用されていたことも影響しているのかもしれません。

いずれにせよ竹鶴氏は、香味成分がしっかり残るグレーンウイスキーを伝統製法で生み出すため、あえて最新設備ではない旧式のカフェスチルを導入し、「本物のおいしさ」をとことん追求することにこだわったのです。

カフェスチルの魅力が満載の、カフェグレーンとカフェモルト

ここではカフェスチルらしい味わいをより堪能できる2銘柄を紹介します。

【ニッカ カフェグレーン】

ブレンデッドウイスキーのベースとしても活躍している、奥深い味わいのカフェグレーン。伝統的なカフェスチルで蒸溜しているため、一般的なグレーンウイスキーよりも原料由来の甘味を感じられるのが特徴です。インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2016でゴールドを受賞するなど、世界的にも高い評価を得ています。

【ニッカ カフェモルト】

インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2017で最高賞のトロフィーを受賞した銘柄です。カフェスチルで造られるグレーンウイスキーは、おもにトウモロコシなどを原料にしたものが一般的。しかし、「ニッカ カフェモルト」は、モルト(大麦麦芽)を主原料にしてカフェスチルで蒸溜されています。しっかりとしたモルトの甘味や芳しさは、カフェスチルならでは。香味豊かなカフェモルトをぜひ味わってください。

製造元:ニッカウヰスキー株式会社
公式サイトはこちら

現在、カフェスチルを使用している蒸溜所は少数ですが、甘く芳しいウイスキーを生み出すカフェスチルはとても魅力的です。世界的にも稀少なカフェスチルで蒸溜したウイスキーを、じっくりたのしんでみてはいかがでしょう。

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