マスターブレンダーは、ウイスキーの風味を整え、品質を管理する最高責任者【ウイスキー用語集】
「マスターブレンダー」を知っていますか? ウイスキーを製造するうえで重要な役割を果たしているのが、マスターブレンダーと呼ばれる熟練のウイスキー職人です。マスターブレンダーとは一体、どんな仕事を行う人たちなのでしょうか。今回は、マスターブレンダーの職務内容について紹介します。
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マスターブレンダーとは? どんな仕事をする人?
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マスターブレンダーはブレンダーの最高責任者
複数のブレンダーを抱える企業では、ブレンダーの長である最高責任者を置いています。いわゆるブレンダーを率いるリーダーが「マスターブレンダー」です。ただし企業によっては、「チーフブレンダー」が最高責任者を務める場合もあります。
日本では複数のブレンダーとともにチームで仕事を進めることが多いですが、スコッチの本場スコットランドでは、1名のマスターブレンダーのみを置き、将来のマスターブレンダー候補となるアシスタントとともに仕事を行うことが多いようです。
いずれにせよマスターブレンダーには、ウイスキーに関する幅広い経験や知識、熟練の技術、新しい味わいを生み出す創造性や想像力といった、類まれなセンスが求められます。
名マスターブレンダーとして一時代を築いたプロフェッショナルたち
名酒の裏には必ず名ブレンダーが存在します。世界的な酒類コンペティションの審査員も務める、著名なマスターブレンダー(チーフブレンダー)を紹介しましょう。
【バランタイン:ロバート・ヒックス氏】
バランタインの元マスターブレンダー、ロバート・ヒックス氏。30年を超える豊富な経験と実績を持つ、名ブレンダーです。スコットランドのあらゆるモルトに精通し、4,000種類もの香りをかぎ分けられることから、「The Nose」や「Mr. Nose」と呼ばれ、世界から賞賛されています。代表銘柄は「バランタイン17年」など。
【シーバスリーガル:コリン・スコット氏】
シーバスリーガル(ペルノ・リカール)の名誉マスターブレンダー、コリン・スコット氏。シーバスリーガルで40年以上にわたって伝統を守り続けてきた功労者で、そのブレンド技術は「Art of Blending」と呼ばれるほど創造的。代表銘柄は「シーバスリーガル18年」「シーバスリーガル25年」「シーバスリーガルミズナラ12年」などで、世界150か国以上で親しまれています。
【サントリー:輿水精一氏】
サントリーの名誉チーフブレンダー輿水精一氏は、日本を代表する名ブレンダーです。代表銘柄は「響30年」などで、世界的にも高く評価されています。大きな功績を残していることから、2015年に世界的ウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が認定する「Hall of Fame」を受賞。日本ではじめて、栄誉ある「ウイスキー殿堂入り」を果たしています。
マスターブレンダーの仕事:調合とレシピ開発
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マスターブレンダーは、ブレンドのための樽を鋭くききわける
ブレンダーは、原酒を丹念にテイスティングしてブレンドに用いる樽選びを行っています。原酒のキャラクターをききわけるには、豊富な経験が必要。そこで大きな役割を果たすのがマスターブレンダーです。
ブランドを保つには品質をキープし続けることが大切。貯蔵樽に詰められた原酒は、ひと樽ごとに仕上がりが異なるため、レシピどおりの風味を表現するには、より適したものを選ばなければなりません。マスターブレンダーにとってウイスキーの品質管理は、肝となる仕事のひとつといえるでしょう。
マスターブレンダーのブレンディングの仕事は、大きな腕の見せ所
マスターブレンダーは、卓越した技術でブレンディングを行い、ウイスキーを生み出しています。ブレンド技術が必要なウイスキーは、大きく3種類。モルト原酒とグレーン原酒をブレンドする「ブレンデッドウイスキー」、複数のモルト原酒同士をブレンドする「ブレンデッドモルト」、そして単一蒸溜所内のモルトをブレンドする「シングルモルト」です。
「シングルモルトにもブレンディングは必要なの? 」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、前述のとおり原酒はひと樽ごとに仕上がりが異なります。品質を一定に保つには複数の樽の原酒をブレンドしなければならず、ブレンダーの卓越した技術が必要です。
ちなみに、ひとつの樽だけを瓶詰めしたものを「シングルカスク」といいます。
マスターブレンダーは、新商品のレシピの開発も行う
マスターブレンダーの幅広い仕事のなかでも、花形の職務といえそうなのが新製品のレシピ開発です。近年はAI(人工知能)を使って味わいを分析する蒸溜所が増えていますが、香りの分析に関してはまだ“人間の鼻には及ばない”といわれています。そのため、訓練を重ね、熟練の技術と幅広い知識を身につけたマスターブレンダーは、レシピ開発に欠かせない存在です。
根気よく幾度も試作を繰り返した末に、思い描いたとおりの味と香りを表現できたときには、マスターブレンダー冥利に尽きることでしょう。
マスターブレンダーの仕事:品質保持と原酒選定
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マスターブレンダーは、原酒の管理を行いながら次のレシピを考える
現在貯蔵している原酒の品質管理を行うのもマスターブレンダーの仕事です。マスターブレンダーは、貯蔵庫に保管されている樽のテイスティングを定期的に行い、タイプ別に振り分けながら、どんな原酒があるのかを把握していきます。そうして熟成の最高のタイミングを計るのです。
また、原酒が将来どんな個性を持つかを見越して、ブレンディングのヒントも探っていきます。完成前の原酒からブレンド後の味を想像できるようになるまでは、長年の経験とセンスが必要です。
マスターブレンダーは、将来の需要を見越して原酒計画を立てる
マスターブレンダーは、自社の出荷計画に合わせて、その年に必要な原酒の種類と量を決定します。それと同時に、将来どれだけの原酒が必要になりそうかを予測して、蒸溜する原酒のタイプや、どの樽で何年熟成させるかといったことを検討します。
またウイスキーを安定供給するには、来年、再来年分だけでなく、5年後、10年後と長期計画も立てておかなければなりません。ときには、原酒が不足した場合にどの原酒で代用できるかを考えておく必要もあります。
ウイスキー製造において原酒計画は、豊富な経験と先見性を要する大事な仕事といえるでしょう。
マスターブレンダーは、出荷前に「ノージング」と呼ばれる最終チェックを行う
ノージングとは、ブレンダーがテイスティングをせずに香りだけで原酒を確認し、分析することを指します。蒸溜所によっては毎日数百単位の原酒をノージングすることもあるようです。
ノージングは、ウイスキーの出荷前にも行われています。最終チェックを行うのもブレンダーの重要な仕事。マスターブレンダーはウイスキーの出来を正確にかぎ分けて、判断をくださなければなりません。
このノージング技術を極めるには、最低でも10年の経験が必要だといわれています。地道な訓練を積み重ねることで、熟練のマスターブレンダーへと成長するのです。
ブレンディングやレシピ開発を担うマスターブレンダーには、ある種の“芸術的センス”が求められます。その一方で、品質を維持するために技術を継承し、伝統を守り続けることも必要とされます。マスターブレンダーは、類まれな資質を要する職種なのです。