「エンジェルズシェア(天使の分け前)」とは何のこと?【ウイスキー用語集】
「エンジェルズシェア(エンジェルシェア)」は「天使の分け前」と訳されますが、ウイスキー造りにおいてどんな意味を持つのでしょう? エンジェルズシェアがウイスキーに何をもたらすのか、ロマンチックな言葉に込められた意味も合わせて紹介します。
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「エンジェルズシェア」はウイスキーの熟成中の“天使へのおすそ分け”
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エンジェルズシェアとは熟成中に失われる原酒のこと
「エンジェルズシェア(エンジェルシェア)」とは、ウイスキーが樽のなかで長期間、熟成する間に失われてしまった分のこと。
ウイスキーは、商品として世に出るまでの多くの時間を樽のなかで過ごしますが、その間に樽のなかの原酒が少しずつ量を減らしてしまいます。
条件にもよりますが、その比率は年間で2~4%とも言われ、数十年もの長期にわたって熟成されるウイスキーだと、樽内で大きく目減りしてしまいます。
エンジェルズシェアと呼び始めたのは、昔のウイスキー職人たち
熟成中に減った原酒のことを「エンジェルズシェア」と呼び始めたのは、昔のウイスキー職人たちだと言われています。
目減りしているウイスキーを見て、職人たちは「これはきっと天使がこっそり飲んでいるに違いない。天使に分け前を与えているからこそ、おいしいウイスキーができ上がる」と考えたのだとか。何ともロマンチックな発想ですね。
エンジェルズシェアはウイスキーだけのものではない
エンジェルズシェアは、ウイスキー造りのみに起こることではなく、樽熟成を行うすべてのお酒で起こります。
日本が誇る蒸溜酒、焼酎でもウイスキーと同様に、樽熟成によって琥珀色に仕上げたものがあります。なかでも代表的なのが、熊本の老舗蔵、山都酒造の米/麦ブレンド焼酎で、その名も「天使の分け前」。樫樽での長期熟成で生まれるウイスキーのような甘味とコクが魅力です。
エンジェルズシェアが生じるメカニズム
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エンジェルズシェアの正体は、熟成中の「蒸散」
「エンジェルズシェア」とは呼びつつも、当然ながら、本当に天使が飲んでいるわけではありません。ウイスキーが熟成中に目減りしてしまうのには理由があります。
エンジェルズシェアは「蒸散」によるもの。よく「樽が呼吸する」と言われるように、ウイスキーを熟成させる樽には、目に見えないほどの小さな孔があり、空気を通します。
液体の原酒は通さなくとも、蒸発して気体となった原酒は、樽を通過して外に逃げてしまいます。これが、エンジェルズシェアが生まれる仕組みです。
目減りするとアルコール度数が下がっていく
一般的に、アルコールは水より揮発性が高いため、エンジェルズシェアによって、アルコール度数は少しずつ低くなっていきます。
蒸溜したての原酒(ニューポット)のアルコール度数は65~70%と非常に高くなっていますが、樽に詰めて熟成が進むにつれ度数が下がっていくのは、この作用によります。
エンジェルズシェアで熟成の進行度合いを見定める
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熟成のメカニズムは完全に解明されていない
エンジェルズシェアによって、せっかくの原酒が目減りするのはもったいないと思うかもしれません。それでも変わらず樽熟成を続けているのは、ウイスキー職人にとってエンジェルズシェアが大きな意味を持つからです。
じつは、科学技術が進歩した現在でも、ウイスキーが熟成するメカニズムは完全に解明されていなくて、人が自由に熟成を制御することはできません。だからこそ、ウイスキー職人たちは自然現象であるエンジェルズシェアを大切にしているのです。
エンジェルズシェアが熟成の進み具合の目安となる
ウイスキー職人たちは、原酒の品質を確かめるため、熟成の進み具合を一樽一樽チェックします。その際、熟成の程度の目安となるのがエンジェルズシェアです。
日常的には樽を叩いた音の違いで原酒の減り具合を確認し、必要に応じて樽の中身も確認するなどして、どれだけ天使に分け与えたかを慎重に見定めているのです。言わば、ウイスキーの熟成は、職人たちと天使との共同作業だったのですね。
エンジェルズシェアは、ウイスキー職人にとってデメリットではなく、ウイスキーの味を左右する熟成に欠かせないもの。天使に分け前を与えることでウイスキーがおいしくなるという話は、あながちファンタジーではないのかもしれません。