「ちろり」は日本酒のお燗に役立つ便利な酒器! 特徴や種類、使い方、おいしい飲み方を紹介
「ちろり」とは、日本酒を温めるときに使われる酒器のこと。お酒を注いでお湯に浸すだけで、すばやく手軽に燗酒を作ることができます。今回は、「ちろり」の特徴や魅力、選び方のポイント、使い方や日本酒をおいしく味わうためのコツなどを紹介します。
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「ちろり」は日本酒を湯煎で温めるのに最適な酒器ですが、その種類はさまざまです。「ちろり」選びのポイントや「ちろり」を使った燗のつけ方を知れば、日本酒のたのしみ方の幅が広がります。
「ちろり」とはどんな酒器? 「酒タンポ」との違いは?
「ちろり」とは、日本酒を温めるときに使われる酒器のこと。まずは特徴やルーツを紹介します。
「ちろり」はおいしい燗酒を簡単に作れる便利な道具
「ちろり」は日本酒のお燗に用いられる酒器の一種。取っ手と注ぎ口がついていて、日本酒を注いで鍋などで沸かしたお湯に浸けるだけで、手軽に燗酒を作ることができます。好みの温度に温まったら、お猪口(ちょこ)などに直接注ぐだけと使い方も簡単です。
「ちろり」の魅力は熱伝導率の高さと使い勝手にあり
「ちろり」と同じくお酒を湯煎で温める容器に「徳利(とっくり)」がありますが、「ちろり」には徳利とは異なるメリットがあります。ほかの燗のつけ方とも比較しながら、具体的なメリットをみていきましょう。
熱伝導率が高いので、日本酒をすばやく温められる
「ちろり」の魅力はなんといっても熱伝導率の高さです。「ちろり」にはさまざまな素材が採用されていますが、主流は銅や錫(すず)など金属製のもの。陶器製の「徳利(とっくり)」と比べると熱が伝わりやすいため、すばやく均一に日本酒を温めることができます。
熱が均一に伝わってお酒がよりおいしく!
お酒を電子レンジで温めると、加熱ムラが生じてしまい、湯煎で温めたお酒に比べて荒っぽい味わいになるといわれています。「ちろり」なら湯煎でムラなく均一に温めることができるので、味わいのカドがとれ、まろやかな味わいがたのしめます。
軽量で取っ手つきだから使い勝手も抜群
「ちろり」は取っ手がついているので、お湯への出し入れが簡単。とくにアルミ製のものは陶器製の徳利と比べて軽いのもメリットです。取っ手に籐が巻かれたものなら、湯煎中でも安心して手づかみできそうですね。
湯煎が終わったら注ぎ口からそのままお猪口に注げる
お湯から引き上げたらそのままお猪口へ注げる手軽さも「ちろり」の魅力です。ガラス製など一部の材質のものを除けば割れる心配もないため、持ち運びにも重宝しそうです。
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「ちろり」のルーツと名前の由来
「ちろり」の登場は江戸時代後期といわれていて、当時の庶民の様子を記した資料にも「ちろり」が描かれています。
「ちろり」が普及する以前は、鉄製の燗鍋(かんなべ)や鉄銚子(ちょうし)に日本酒を注いで直接火にかける「直火燗(じかびかん)」が一般的でした。その後、銅製の燗鍋で温めたものを銚子や徳利に移して飲まれるようになりますが、囲炉裏(いろり)や竈(かまど)などでは温度の調節が難しく、風味が損なわれてしまうこともあったようです。
「ちろり」が普及したことで、こうした問題は解決。「直火燗」に代わって、湯煎で燗をつける「湯煎燗」が一般的になりました。
「ちろり」は漢字で「銚釐」や「地炉裏」などと書きます。中国から伝わったといわれていますが、伝来した時期や経路は明らかになっていません。
ちなみに、「ちろり」の語源には諸説あり、囲炉裏(地炉)の灰の中で日本酒を温めていたから「地炉裏」と呼ばれたという説、ちろりと短時間でお燗できることから「ちろり」と呼ばれたという説、注ぎ口から燗酒が注がれるときに出る音から名づけられたという説、酒好きが待ちきれずに舌をちろりと出したという説など、さまざまな説が伝えられています。
「酒タンポ(たんぽ)」は京都・大阪の方言
「ちろり」は、「酒タンポ」あるいは「タンポ」と呼ばれることがあります。「タンポ」とは、京都・大阪地方の方言で、銅または真鍮(しんちゅう)製のお酒を温める筒型の酒器を指す言葉。漢字では「湯婆」と書きます。
「ちろり」には銅や真鍮以外の材質で作られたものもあるので、厳密にいうと「酒タンポ」は「ちろり」の一種ですが、同義語として使われることも多いようです。
「ちろり」は素材や形状もさまざま
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「ちろり」が登場した当初は、銅製のものが主流でした。日本では紀元前から銅が使われていましたが、江戸時代といえば、世界でも群を抜く銅の生産高を誇っていた時期。銅の加工技術が発達していたことも、「ちろり」が庶民の生活に浸透した理由といえるでしょう。
現在は、銅製のほか、アルミ製やステンレス製、錫(すず)製などの金属製のものや、耐熱ガラス製のものまで、さまざまな材質の「ちろり」が販売されています。
「ちろり」は取っ手と注ぎ口が特徴の酒器ですが、形状もさまざまです。定番は、細長い筒型の容器にフック状の取っ手がついているもので、湯煎時は鍋の縁に引っ掛けて使用します。なかにはやかんのような持ち手がついているものや、水差しに似た形状のもの、蓋(ふた)つきのものなども存在します。
蓋つきタイプは、日本酒の風味や香りを逃さずたのしめるので、吟醸酒をお燗する際はとくに重宝しそうです。
「ちろり」の容量は、1合(180ミリリットル)から5合程度までさまざま。自宅でちびちび飲む場合はSサイズ(約1合)のものを、複数人で飲む場合は大きめのものを選ぶとよいでしょう。
「ちろり」選びのポイント
「ちろり」は銅や錫などの材質の違いや、蓋の有無のような形状の違いによって、日本酒のたのしみ方が変わってきます。
サクッと温めたい派には銅製やアルミ製がおすすめ
金属製の「ちろり」は、陶器製の酒器よりも熱伝導率が高いことで知られていますが、なかでも群を抜いているのは銅製とアルミ製。すばやく温めたい派にはおすすめです。
熱伝導率で選ぶなら、だんぜん銅製のちろり。銅ならではの風合いも魅力です。
一方、コストパフォーマンスの高さで選ぶなら、アルミが一押し。銅に次いで熱伝導率が高いうえ、価格は1,000円前後とリーズナブル。もちろん、燗酒ならではの風味や香りは十分にたのしめるので、日常使いのアイテムとして気軽に活用できそうです。
なお、燗酒ビギナーには、取っ手に籐を巻いたものなど、取っ手が熱くなりにくいよう加工されたものがおすすめです。
アウトドアには直火燗も可能なステンレス製が人気
キャンプなどのアウトドアシーンで活躍するのが、丈夫でスタッキングも可能なステンレス製の「ちろり」。自然の中でいただく燗酒はまた格別です。
ステンレス製の「ちろり」は銅製やアルミ製ほど熱伝導率が高くありませんが、陶器製よりは熱伝導率が高く、何より軽くて丈夫で割れないというメリットがあります。
湯煎はもちろん、直火にもかけられるので、日本酒のお燗だけでなくコーヒーやホットミルク作りにも役立つはず。3合サイズや5合サイズなど大きめのものを選べば、用途が広がりそうです。
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日本酒の味わいを堪能するなら錫(すず)製や蓋つきをチョイス
愛飲家のあこがれのアイテムとされているのが、錫(すず)製の「ちろり」です。人気の秘密は、銅やアルミに次ぐ熱伝導率の高さと、口当たりをまろやかにする特徴にあります。
なんでも、錫には不純物を吸着させる性質があるため、温めたお酒は雑味の少ないまろやかな風味に仕上がるのだとか。焼酎造りに使う蒸溜機に錫製の管を採用しているこだわりも蔵元もあると聞くと、その性質にも期待が高まります。
錫製の「ちろり」には、機能性とデザイン性を兼ね備えた高級品が多いため、ほかの材質のものに比べて値が張りますが、錫ならではの色合いと温かみのある質感は、日本酒気分を大いに盛り立ててくれそうです。
日本酒の風味や香りを逃さずたのしみたい人には、蓋つきの「ちろり」もおすすめです。「ちろり」は熱伝導率が高い分、冷めるのも早いといわれていますが、蓋つきのものは比較的冷めにくいという利点があります。燗酒をゆっくりおいしく味わいたい人は、蓋つきの錫製「ちろり」が一押しです。
ガラス製や人気ブランドの「ちろり」はギフトにも重宝
「ちろり」は、日本酒を温める道具であるのと同時に、テーブルウェアとしての側面も持ち合わせた酒器です。2つの魅力を最大限に発揮する「ちろり」は、日本酒好きな人に贈るギフトにも適しています。
中身が見える耐熱ガラス製の「ちろり」や、人気ブランドが手掛ける錫製「ちろり」などは、日本酒の風味や香りとともに食卓を美しく彩ってくれるでしょう。
なかでもおすすめは、富山県高岡市の鋳物メーカー「能作」が作る錫製「ちろり」です。
能作「蓋付ちろり - S」
株式会社 能作提供
日本酒ファンのあこがれの的といえば、テーブルウェアを中心に、ハイセンス&ハイクオリティなアイテムを作る人気ブランド「能作」の「ちろり」。錫100%のちろりに注ぐことでお酒の雑味が抜け、いっそうおいしく味わえると評判の逸品です。蓋なしと蓋つきがありますが、お酒の香りを逃さずたのしみたい人には、蓋つきがおすすめです。
名入れも可能で、プレゼントにも最適。
製造元:株式会社 能作
公式サイトはこちら
公式オンラインショップはこちら
「ちろり」の使い方と日本酒をおいしく味わうコツ
最後に、「ちろり」を使ったお燗のつけ方と日本酒をおいしく味わうコツをみていきましょう。
「ちろり」を使った日本酒の温め方
「ちろり」で日本酒を温める手順を紹介します。
<「ちろり」で日本酒を温める手順>
(1)「ちろり」に日本酒を注ぎ、湯煎するための鍋ややかん、酒燗器などに水を入れます。「ちろり」に入れたお酒の高さと鍋に入れた水の高さが同等、または鍋の水のラインが上になるよう調節します。
(2)量を調整したら、鍋またはやかんから「ちろり」を引き上げ、お湯を沸かします。
(3)沸騰する直前で火を止めて、日本酒の入った「ちろり」を湯に浸します。好みの温度になったら、「ちろり」を引き上げます。
「ちろり」で日本酒をお燗するときのポイント
火を止める温度は90度程度がおすすめです。ぬるめが好みだからと低い温度で湯煎すると、温まるまでに時間がかかってアルコール分が飛んでしまうこともあるので注意が必要です。
また、「ちろり」で温めた日本酒は徳利に比べて冷めやすいので、冷めてしまう前に飲み切れる量をその都度お燗するようにしてください。
燗酒の温度は、「ちろり」を湯に浸す時間の長さで調節が可能です。湯煎にかける時間と温度の関係は、「ちろり」の材質や大きさ、鍋のサイズや深さ、湯量などによって異なるので温度計を使うのも一手ですね。
なお、燗酒の飲み頃は、飲む人の好みで異なります。蓋の有無や日本酒の種類、温度帯によっても香りや味わいが変わってくるので、いろんな組み合わせを試してお気に入りを探してみてください。
燗酒の温度と味わいの関係については、以下の記事もお読みください。
燗酒におすすめの日本酒は?
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日本酒は「純米酒」や「吟醸酒」、「本醸造酒」などの種類や造り、使用した酵母などによって、飲むときに適した温度が異なります。したがって、「ちろり」でおいしく味わうには、燗酒に向いている日本酒を選ぶことが大切です。
日本酒は一般的に、温めると旨味がふくらみ、香りは豊かになり、口当たりはまろやかになります。一方で、アルコールの刺激は温度が上がるごとに強くなるため、より辛口に感じられるといわれています。
こうした変化をもっともたのしめるのは、米の旨味とコクが強く感じられる純米酒や本醸造酒(あまり精米していないタイプ)です。また、生酛造りや山廃仕込みのお酒も温めることで旨味とコクが増し、冷酒とは一味違った芳醇な味わいが生まれるのでおすすめです。
なお、とくに香り高いタイプの大吟醸酒や吟醸酒は、温めすぎると香りが変化し、魅力が損なわれてしまうため、お燗には不向きと考えられています。もちろん、吟醸酒のなかにも燗をつけることでおいしくなるものがありますが、温めすぎは禁物。蓋つきの「ちろり」を使い、人肌燗からぬる燗くらいまでの温度で味わってみてください。
「ちろり」は選択肢が豊富な酒器。お猪口やぐい呑み、卓上酒燗器(しゅかんき)などとのセット商品も人気です。自分にぴったりの「ちろり」を厳選したら、燗酒にぴったりのお酒や理想の温度帯を探してみてくださいね。