神奈川県・海老名市『泉橋酒造』/都心から日帰り可能、直営レストランで日本酒ペアリングもたのしめる

神奈川県・海老名市『泉橋酒造』/都心から日帰り可能、直営レストランで日本酒ペアリングもたのしめる

横浜駅から電車で約30分の海老名駅から車で5分という近さにある “都心の日本酒蔵”『泉橋酒造』へ。田んぼと醸造蔵を案内された後に、おつまみ付きの充実した試飲がある酒蔵見学ツアーに参加した後は、駅前の直営レストランへ移動。多彩な日本酒とそれぞれに合わせた料理のマリアージュを堪能してきました。

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都心のベッドタウンで、酒米栽培から手掛ける

蔵の背後には広大な自社田が。こちらは刈り取りが済んだ雄町の田んぼ。

蔵の背後には広大な自社田が。こちらは刈り取りが済んだ雄町の田んぼ。

「江戸時代の安政4(1857)年の創業。現在の社長で6代目となります」とは、酒蔵見学ツアーのガイド役・伊藤修久(いとう・のぶひさ)さん。蔵がある海老名耕地は、約1200年前から続く穀倉地帯。潤沢な米と丹沢山系の伏流水に恵まれ、160年以上清酒を醸してきました。複数のショッピングモールを有する海老名駅前や、ベッドタウンとして開発が進む周辺地区の様子から、ここに歴史の深い酒蔵があることに驚きを隠せません。

案内してくださったのは、蔵と地元のプロモーションに携わる観光事業部の伊藤修久さん。

案内してくださったのは、蔵と地元のプロモーションに携わる観光事業部の伊藤修久さん。

『泉橋酒造』の信念は、“酒造りは米作りから”。蔵元である橋場家は酒屋であるのと同時に、米を作る農家でもあったのですが、食糧管理法の下では自ら育てた米を酒造りに使用することはできませんでした。しかし1995年の食糧管理法の廃止を機に、自社の田んぼで栽培した米での醸造をスタートすることができたのです。

現在は原料米の栽培から精米、醸造まで行う“栽培醸造蔵”として、広く認知されている『泉橋酒造』。ちなみに“栽培醸造蔵”という言葉は登録商標で、「日本酒は醸造物であるだけではなく、農業副産物であると考え、米作りから酒造りを実践していく」ことを意味しているのだとか。自らブドウを育ててワインを醸すワイナリーに通じるものがありますね。

蔵のショップ『酒友館』にて、6代目の橋場友一(はしば・ゆういち)社長にご挨拶。

蔵のショップ『酒友館』にて、6代目の橋場友一(はしば・ゆういち)社長にご挨拶。

至れり尽くせり、充実した酒蔵見学ツアー

ツアーに参加する日は納豆厳禁。なぜいけないのかもわかりやすく教えてくれます。

ツアーに参加する日は納豆厳禁。なぜいけないのかもわかりやすく教えてくれます。

酒蔵見学ツアーは基本的に毎週土曜日に開催(繁忙期のため12月はお休み)。午後2時に始まり3時15分まで、1時間あまりの所要時間です。まずは蔵の裏の田んぼを巡りながら、歴史とともに米栽培の話へ。育てている品種や、無農薬・減農薬への取り組みなどについて、伊藤さんがレクチャーしてくれます。

山田錦、雄町の晩生(おくて)品種に加えて、早生(わせ)の楽風舞(らくふうまい)も。五百万石と食米「どんとこい」の交配です。

山田錦、雄町の晩生(おくて)品種に加えて、早生(わせ)の楽風舞(らくふうまい)も。五百万石と食米「どんとこい」の交配です。

すべての原料米を蔵で精米しているのも、『泉橋酒造』の特徴のひとつ。田んぼや生産者ごとに米の質に合わせて細かく分けて精米することができるそうで、「田んぼ1枚ごとに精米するイメージです。確実に酒質の向上につながっていると思いますね」。

新中野工業製の竪型精米機がフル回転。

新中野工業製の竪型精米機がフル回転。

続いて洗米や蒸きょうの説明に。現在は、ボイラーから直に甑(こしき)に蒸気を吹き込むのが主流ですが、こちらでは昔ながらの和釜を使用するスタイル。ちなみに酒造用水は前述したように丹沢山系の伏流水で、「ミネラルが豊富な中硬水」なのだそう。

重厚な和釜の上に甑が鎮座していました。

重厚な和釜の上に甑が鎮座していました。

蒸きょうが伝統的なやり方なら、製麹もしかり。自動製麹機の姿はなく、麹蓋(こうじぶた)が山積みになっていました。仕込みの量が増えているのにも関わらずこうした昔ながらの製法を採用しているのは、「米の微妙な質の違いを見分け、それぞれに応じた麹づくりを行うことができるからです」。

特別に見せていただいた製麹室。のぞくだけでも緊張します。

特別に見せていただいた製麹室。のぞくだけでも緊張します。

麹蓋にも蔵のシンボルマークの“とんぼ”の刻印が。

麹蓋にも蔵のシンボルマークの“とんぼ”の刻印が。

酒母、仕込みと伊藤さんのわかりやすい説明が続きますが、特徴的なところを記していくと、「生酛づくりに積極的に取り組んでいる」「すべて純米酒」「搾りはすべて槽(ふね)を使用」など。丹精込めて育てた米と真摯に向き合い、良質の日本酒を造りたいという想いがひしひしと伝わってきました。

施設の見学が済んだら、最後はセミナー室でお待ちかねの試飲。定番の酒に加えて、その季節でしか味わえないものもいただくことができました。おつまみのレベルが高いのも嬉しい限り。これで1名1500円(税込)は納得です。

酒蔵見学ツアーの詳細はこちら

仕込みにはサーマルタンクⓇ。伝統的手法をリスペクトしながら、最先端技術も採りいれています。

仕込みにはサーマルタンクⓇ。伝統的手法をリスペクトしながら、最先端技術も採りいれています。

試飲時のおつまみは乾きもの程度かと思っていたら、とてもゴージャス。

試飲時のおつまみは乾きもの程度かと思っていたら、とてもゴージャス。

海老名駅前で、おもてなしの空間を運営

純和風の空間という予想に反し、モダンでスタイリッシュな店内。

純和風の空間という予想に反し、モダンでスタイリッシュな店内。

蔵での試飲はセーブして訪れたのは、海老名駅から徒歩5分という便利な立地にある蔵直営のレストラン。蔵元の「蔵周辺の田んぼまで足を運んでくださった方、蔵の酒造りを見学に来てくださった方――そんな方々をご案内して、一緒にたのしめる場所が欲しい」という想いから、2016年に誕生しました。『蔵元佳肴(くらもとかこう) いづみ橋』の名が表しているのは、“佳き酒と佳き肴”。そう、美味しい日本酒と美味しい料理のペアリングがたのしめるダイニングなのです。

腕をふるうのは、店長兼料理長の根本真(ねもと・しん)さん。宮城県仙台市の出身で、蔵元とは仙台で自ら営んでいた店で出会ってのお付き合い。その料理に惚れ込んだ蔵元から料理長にとスカウトされ、2015年春に海老名の地に赴任。「自蔵の酒と料理をペアリングさせたいという試みを聞き、ぜひ挑戦してみたいと決意しました」(根本さん)。

料理に用いるのは、「地元で採れた旬菜」「相模湾で水揚げされた旬魚」「神奈川県産の牛肉・豚肉・鶏肉」「蔵で造った味噌・醤油・米・麹などの品々」。地産地消が徹底されていますが、ここにさらに根本さんが慣れ親しんだ「宮城、三陸の旬魚旬菜」が加わります。

ペアリングと聞くと、「この料理にどんなお酒を合わせるのだろう?」と思いますが、このお店では逆。「この酒に何を合わせるのかを考え、そこに特化した料理を創ります」。百聞は一見に如かず。まず味わってみることにしました。

路地のようなアプローチを辿った先に、杉玉が現れます。

路地のようなアプローチを辿った先に、杉玉が現れます。

エントランスに並んだ『泉橋酒造』の日本酒も購入することが可能。

エントランスに並んだ『泉橋酒造』の日本酒も購入することが可能。

日本酒ありきのペアリングに舌鼓

“酒を飲むこと”を前提にした料理を創りだす根本料理長。

“酒を飲むこと”を前提にした料理を創りだす根本料理長。

『蔵元佳肴 いづみ橋』の料理は、『季節のおまかせコース』(6000円~8000円)の1種類のみで、価格は季節ごとに内容によって変わります。そのコース料理に合わせて、おまかせで日本酒が出る『酒のペアリング(7~8種)コース』は、3000円(メインコース/合計約600ml)と2000円(ハーフコース/約360ml)の2コースの設定が。どちらも出される日本酒の種類は同じです。

それでは伺った初冬にいただいた日本酒と料理のペアリングを、根本さんのコメントと合わせていくつか紹介していきましょう。

純米大吟醸×真鱈のしらこ

『特選 純米大吟醸 いづみ橋』(生酛仕込み/40%精米/海老名産山田錦/2017年醸造)とのペアリング

『特選 純米大吟醸 いづみ橋』(生酛仕込み/40%精米/海老名産山田錦/2017年醸造)とのペアリング

大根おろしに菊花を散らしたポン酢でいただく真鱈のしらこ。花冷え(10℃)の酒の吟醸香とすだちの香りが重なります。「40%精米ならではのきれいな酸味が、しらこのクリーミーな甘さに寄り添うイメージです。花冷えで提供することで料理と酒の温度も同調し、バランスよくまとまっているのではないでしょうか」。

純米酒×さんま

『秋とんぼ 山田錦』(生酛仕込み/80%精米/海老名産山田錦/2018年醸造)とのペアリング

『秋とんぼ 山田錦』(生酛仕込み/80%精米/海老名産山田錦/2018年醸造)とのペアリング

頭も干して煮込んでいるさんまの黄金煮は、丸ごと一尾余すところなくいただけます。お供は秋あがりの熱燗(50℃)。「さんまと言えば、ごはんですよね。熱燗の日本酒はまさに炊き立てごはん、王道の組み合せでしょう」。温度の変化に合わせて、身、はらわたと部位を変えて味わってみるのも、日本酒ならではのたのしみ方です。

純米酒×かつお

『秋とんぼ 雄町』(生酛仕込み/65%精米/自社田栽培米雄町/2018年醸造)とのペアリング

『秋とんぼ 雄町』(生酛仕込み/65%精米/自社田栽培米雄町/2018年醸造)とのペアリング

南三陸気仙沼直送の戻りかつおは、「脂ののりがよいところを堪能してもらえるようにタタキでなく、そのままお造りで」。先ほどさんまに合わせた秋あがりは山田錦でしたが、こちらは雄町。温度も料理に近づけるために、冷や(常温)で提供されます。かつおらしい旨味と鉄っぽさを、雄町ならではの懐の深い酸味が、抱くように優しく包み込んでいるという感想でした。

純米酒×牛ランプ

『茜 黒とんぼ』(生酛仕込み/70%精米/海老名産亀の尾/2016年醸造)とのペアリング

『茜 黒とんぼ』(生酛仕込み/70%精米/海老名産亀の尾/2016年醸造)とのペアリング

黒とんぼシリーズは、2年以上蔵内で寝かせてから出荷する生酛造りの純米酒で、濃厚な旨口タイプ。今宵のメイン料理はやまゆり牛のランプで、低温でローストし山椒醤油でいただきます。「酒のキレのいい酸味と山椒のピリッとした辛さ、同じく奥深い旨みにじっくりローストした肉の甘味がそれぞれ調和して、全体として昇華していると思います」。リーデルグラスでスワリングしながら、旨味にまろやかさを加えることもポイントのようです。

美酒美味はもちろん、器まで美しい…。ごちそう様でした。

一緒に登場したのが、宮城の根っこ付きのせりとポークの煮物椀。こちらの滋味と酒の旨味も見事に合いました。

一緒に登場したのが、宮城の根っこ付きのせりとポークの煮物椀。こちらの滋味と酒の旨味も見事に合いました。

やまゆり牛とは地元神奈川産の和牛と乳牛の交雑種で、引き締まった赤身の肉です。

やまゆり牛とは地元神奈川産の和牛と乳牛の交雑種で、引き締まった赤身の肉です。

泉橋酒造
神奈川県海老名市下今泉5-5-1
TEL/046-231-1338
アクセス/海老名駅東口よりタクシーで約5分。徒歩なら約25分。
酒蔵SHOP営業時間/10:00~18:00
定休日/日・祝・お盆・年末年始


泉橋酒造の詳細はこちら

直営レストラン『蔵元佳肴 いづみ橋』
海老名市扇町12-33 フィールズ三幸 1階
TEL/046-205-0128(予約専用電話)
営業時間/17:30~22:30(火~金)
16:00~22:30(土)
14:00~20:30(日・祝)
定休日/基本的に月曜日(ひと月6日の定休日)
アクセス/海老名駅より徒歩で約5分。

※お店の性質上、未成年の方は10歳以上より。また、お子様メニューの用意はありません(未成年の方も同一コースでの提供)。

蔵元佳肴 いづみ橋の詳細はこちら

米作り(1次産業)、酒造り(2次産業)に加えて、サービス業であるレストラン運営も手掛けたことで、6次産業化を果たした『泉橋酒造』。田んぼ歩き、酒蔵見学、ペアリングディナーを1日でたのしみ、余裕をもって帰宅することができました。今度の休日は日帰りできる酒蔵へ出かけ、日本酒三昧の幸せ時間を過ごしてみませんか?

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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