「山田錦」酒米の王者として君臨する日本酒造りに適したお米
「山田錦(やまだにしき)」という文字は、蔵元や産地を問わず、多くの日本酒のラベルでよく見られます。じつは、「山田錦」とは日本酒の原料となる米の名前。多くの日本酒に用いられる「山田錦」には、どんな特徴があるのか、歴史や味わいなどを含めて解説していきます。
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「山田錦」は日本酒造り用の「酒造好適米」の代表格
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「山田錦」は酒造好適米の“王様”と呼ばれる品種
「山田錦」は、日本酒の原料として開発された「酒造好適米」のなかでも、知名度、人気、作付面積でトップを誇る品種で、「酒造好適米の王様」とも呼ばれています。
なお、酒造好適米は略して「酒米(さかまい)」とも呼ばれますが、酒造好適米かどうかに関わらず、日本酒造りの原料米を「酒米」と総称するケースも見られるため、当サイトでは基本的に「酒米」と略さず「酒造好適米」で統一しています。
「山田錦」の酒造好適米としての優れた特性
酒造好適米は、食用米に比べて粒が大きくて吸水性がよく、粒の中心にある「心白(しんぱく)」と呼ばれる白くて不透明な部分が大きいのが特徴です。心白は醪(もろみ)に溶けやすく、麹菌が入り込んで発酵を促進するなど、日本酒造りに適した特性があります。
「山田錦」は、この「心白」が線状の形をしているため、たくさん精米しても心白が壊れにくいという特徴があります。薫り高く、味わいのバランスに優れた日本酒に仕上がるため、飲み手にも蔵元にも人気です。
「山田錦」の故郷は兵庫県
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「山田錦」のルーツは「雄町(おまち)」にあり
「山田錦」は人工的な交配によって生まれた品種で、大正12年(1923年)、兵庫県立農事試験場で誕生しました。その後、歳月を重ねて選抜が続けられ、昭和11年(1936年)に「山田錦」と命名されました。
「山田錦」は、母親の「山田穂(やまだほ)」、父親の「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」を掛け合わせて開発された品種。「短稈渡船」は岡山産の酒造好適米「雄町(おまち)」をルーツとし、倒れにくいよう丈を短くした品種であり「山田錦」は「雄町」の系譜と言えます。
「山田錦」の産地は兵庫から全国に広がる
「山田錦」で造られる日本酒は飲み手を選ばず、消費者や蔵元の人気が高いことから、その栽培は全国に広がっています。
寒冷地は「山田錦」の栽培に向かないと言われていますが、近年では秋田県や山形県などでも「山田錦」の育成をめざす生産者が登場しています。
広範囲で栽培される「山田錦」ですが、やはり品質に定評があるのが兵庫県産、それも「特A地区」と呼ばれる六甲山西部の三木市(吉川・口吉川)や加東市(東条町・社町東部)のもの。これら地域では、夏場には昼夜の気温差が10度を超え、粘土質の豊かな土壌が上質な「山田錦」を育てているのです。
「山田錦」は農家と蔵元と二人三脚で育った米
「山田錦」の特A地区が、今日まで高いクオリティを保ち続けてきた背景には、日本有数の酒処「灘五郷(なだごごう)」の存在が欠かせません。特A地区の米農家は、灘の蔵元と栽培契約を結び、そのバックアップを受けることで、育成の難しい「山田錦」を造り続けることができたのです。
近年、ワインにおけるテロワール(生産地の気候風土)と同様、日本酒でもテロワールについて語られることが増えてきました。「山田錦」を育んだ産地とのつながりを大切にしながらの日本酒造りに、これからも注目です。
「山田錦」が“酒米の王様”と呼ばれる理由は?
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「山田錦」は多くの人気銘柄に使われる“酒造好適米の王様”
山田錦は、米の粒が大きいだけに、育つのに時間がかかる「晩生(おくて)」の代表格。倒れやすく、病気にも弱いという農家泣かせの品種でありながら、“酒造好適米の王様”として人気を博しています。
その理由は、何と言っても「山田錦」で造られる日本酒の品質の高さにあります。兵庫県・剣菱酒造の「剣菱(けんびし)」、山口県・旭酒造の「獺祭(だっさい)」、山形県・酒田酒造の「上喜元(じょうきげん)」など、「山田錦」を使った日本酒銘柄は逸品ぞろい。それら銘柄の人気とともに「山田錦」の人気も不動のものとなっていったのです。
「山田錦」は米も日本酒も高級品!?
「山田錦」が“酒造好適米の王様”と呼ばれる理由には、その価格の高さもあります。
作付面積や年度ごとの気候によっても変動しますが、「山田錦」の価格は、他の酒造好適米に比べて1.2~1.5倍。最上級の「山田錦」になると2倍、3倍することもあるのだとか。
また「山田錦」は、精白しても砕けにくい特性から、高精白されることが多くなります。米を磨けば磨くほど、同量の原料米から造られる日本酒の量も少なくなり、高級な日本酒になるというわけです。
「山田錦」で造った日本酒への鑑評会での評価は?
「山田錦」は、その人気の高さで酒造業界を席巻。各種のコンクールで入賞する日本酒は「山田錦」で造った銘柄が圧倒的に多く、「全国新酒鑑評会」では、「山田錦」を使った銘柄と、それ以外の銘柄とで審査を区分していたほどです。
近年では、「山田錦」に頼らず、他の酒造好適米を使って「山田錦」を超える日本酒を造りたいという情熱を燃やす蔵元も増えてきました。もちろん「山田錦」にこだわり、その魅力をさらに引き出そうとする蔵元も多く、両者が切磋琢磨することで、日本酒のさらなる進化が期待されています。
「山田錦」をはじめとした酒造好適米について知ることで、日本酒の奥深さに改めて気づかされます。「山田錦」で醸した日本酒の飲み比べをして、その違いを体感してみるのもおもしろいかもしれませんね。