群馬の日本酒【巖(いわお)】日露戦争の英雄にちなんだ、力強い旨味ある日本酒
「巖」は江戸時代から続く群馬の老舗蔵、高井の代表銘柄です。その力強い銘柄名は、日露戦争の英雄、大山巖元帥に由来したもの。一時は存続が危ぶまれていた蔵元ですが、現当主によって再び返り咲きの道を歩み始めた巌の魅力を紹介します。
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「巖」の11代目当主は、異色の経歴の持ち主
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「巖」の蔵元、高井株式会社は、群馬県の南西部に位置する藤岡市において、江戸時代中期の享保4年(1719年)の歴史を誇る老舗蔵ですが、その祖先をたどると近江商人だったと言われています。
近江とは現在の滋賀県のことで、古くから酒造りの盛んな土地。江戸初期から近江商人が全国各地で酒造業を始め、「江州蔵(江州蔵)」と呼ばれていました。
高井の創業者も、そんな近江商人の一人で、緑と清流に恵まれた自然豊かな藤岡の地を、酒造りに絶好の環境と見て、この地に酒蔵を築いたのです。
以来、高井はこの地の気候を活かした酒造りを続け、明治期には現在も続く主力銘柄「巖」を立ち上げました。
最盛期には年間3,000石(一升瓶にして30万本)の規模を誇っていましたが、時代が昭和から平成へと移る頃には、その歴史にも陰りが差します。お酒の多様化とともに、日本酒の消費量が激減し、多くの老舗蔵が経営難に陥るなか、高井も例外ではありませんでした。
そんな苦境にあって、歴史ある蔵を継ぐべく酒造りの世界に飛び込んだのが、現当主の息子にして、いずれ11代目当主となる高井幹人氏。高校球児として汗を流し、京都大学を卒業後は大手商社で営業マンとして活躍していたという、酒造業界にあっては異色の経歴の持ち主です。
蔵に戻った当初は、「深刻な経営状況に廃業も覚悟した」と言いますが、やがて酒造りの面白さに目覚め、代表銘柄である「巖」の酒質改善に着手。それまで主体としていた普通酒から、無ろ過にこだわった純米酒主体の酒造りに切り替えた結果、そのキレのある力強さに地酒ファンが注目。生産量は少ないながらも着実に知名度を高め、復興への道を歩んでいます。
「巖」の由来は日露戦争の英雄、大山巖元帥
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「巖」は明治の時代、6代目当主が生み出した高井の代表銘柄。日露戦争を勝利に導いた英雄の一人、陸軍大将である大山巌元帥にちなみ名づけられました。
大山巖元帥は、大河ドラマ「西鄕どん」で知られる維新の英雄・西鄕隆盛の従兄弟にあたり、戊辰戦争から西南戦争、さらには日清戦争を経て日本陸軍の重鎮となり、日露戦争では海軍を率いた東郷平八郎元帥とともに「陸の大山、海の東郷」と称されました。
「巖」は、そんな大山巖元帥の国民的な人気にあやかったというだけでなく、実際に本人からお墨付きを得ているのだとか。
以来、100年に及ぶ歴史を重ねてきた「巖」は、11代目当主となる高井幹人氏の手で生まれ変わりながらも、そのコンセプトである力強い旨味に変わりはありません。
その実直な味わいには、茫洋な風格で知られる大山巖元帥と、ひたすらに理想の酒を追求する現当主の姿が重なるようです。
「巌」は時間が経ってもたのしめる日本酒
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「巖」のコンセプトは、造り手である高井幹人氏の言葉を借りれば「吟醸香が穏やかで、しっかりとした力強さと旨味、キレのバランスが取れた酒」だとか。
吟醸酒と言えば、香りの華やかさばかりが強調されがちですが、「巖」がめざすのは、むしろ香りは控えめで、お酒本来の旨味が飲み手に伝わる酒。自然とグラスを重ねてしまうような、飲み飽きない味わいこそが、「巖」の真骨頂と言えるでしょう。
そんな「巖」の味わいを支えているのが「無ろ過」へのこだわりです。「巖」は仕込み水に硬水を用いるため、芯の通ったキレのある味わいが特徴ですが、高井酒造では、これを熟成させることで、味わいに豊かな幅を持たせています。
ろ過しない原酒の状態で、じっくり時間をかけて熟成させることで、しっかりした旨味と、まろやかな飲み口が調和した「巖」の味わいが生まれるのです。
また、「巌」には原料米や酵母の異なる豊富なラインナップがあります。酒造好適米の最高峰とされる「山田錦」をはじめ、「五百万石」「吟風」「美山錦」「雄山錦」など、多彩な原料米を用いて、比率を変えながら少量醸造。「巌」らしい旨味とキレのよさが、原料米の個性と合わさり、日本酒ファンを魅了しています。
「巖」は11代目当主の実直な酒造りが結んだ珠玉の1本。力強い旨味とキレ、幅のある味わいは飲み飽きせず、熟成による味の変化を長くたのしむことができます。ぜひ味わってみてください。
製造元:高井株式会社
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