「ラガービール」と「エールビール」の違いとは?

「ラガービール」と「エールビール」の違いとは?
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「ラガービール」と「エールビール」の大きな違いは発酵方法にあります。ラガーは下面発酵という製法で、「ピルスナー」など、すっきりとした味わいのビールが主流です。一方、エールは上面発酵という製法で香り高い芳醇な味わいのビール(IPAなど)になります。これらとは別に、自然発酵で造られるビールもあります。

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ビールは発酵方法で3つのタイプに分類される

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ビールは発酵方法によって、「ラガービール(下面発酵ビール)」「エールビール(上面発酵ビール)」、そして「自然発酵ビール」の3つに大別されます。ビールの種類(ビアスタイル)は100種類以上あるといわれていますが、製法上は基本的にこのうちのいずれかに分類されます。

「ラガービール」とは

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「ラガービール」の製法の特徴と、ラガー系のビールの種類(ビアスタイル)を確認しましょう。

「ラガービール」は低温で長時間かけて下面発酵

「ラガービール」は、下面発酵という製法で造られるすっきりした味わいのビールで、「下面発酵ビール」とも呼ばれます。

下面発酵は、低温(通常約10度前後)下で時間をかけてゆっくりと発酵させる製法で、熟成を促すために1週間ほどの貯蔵期間を設けるのが特徴です。そのためこの製法で造られるビールは、ドイツ語で「貯蔵」を意味する「ラガー」と呼ばれるようになったといわれています。

また下面発酵という製法名は、発酵が進むにつれ酵母がタンクの底のほうに沈んでいく特性に由来します。ちなみに、下面発酵に使う酵母は、「ラガー酵母」や「下面発酵酵母」と呼ばれています。

いずれにせよ、「ラガービール」も「下面発酵ビール」も、製法の特徴を反映させた名称であると覚えておくとよいでしょう。

日本のビールの主流は「ラガービール」

日本でもっとも身近な存在といえるのが「ラガービール」です。近年はクラフトビールの醸造所が増えて、日本でも多彩なビールが造られていますが、ビールといえば「ラガービール」を想像する人も多いでしょう。

この「ラガービール」にも種類があり、日本のスーパーやコンビニなどで流通しているビアスタイルの多くは「ピルスナー」に分類されます。

なお、世界には「ピルスナー」のほかにも、「シュバルツ」や「ドルトムンダー」「ドッペルボック」「ウインナーラガー」「アメリカンラガー」など、さまざまなラガー系のビアスタイルが存在します。

「ラガービール」の歴史

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「ラガービール」の原型が誕生したのは、今から600年以上も昔の15世紀ころ。いわゆる「中世」と呼ばれる時代のドイツです。それまでのビール醸造は、腐敗の少ない冬場に行われていましたが、低温すぎると発酵が進まないため、当時の醸造家は温度管理に大いに悩まされたそう。

しかし、15世紀になると低温でも発酵が進む例が発見され、秋に醸造したビールを、天然の氷とともに春まで洞窟内で貯蔵する方法が生まれます。この方法で造られたビールが、「ラガービール」の原型であるといわれています。

さらに時代が降って19世紀後半になると、有名な細菌学者ルイ・パスツールが、60~80度の熱を15~30分間加えることで雑菌を死滅させる「低温殺菌法」を発見します。この画期的な発明によって、ビールを細菌から守りつつ、一定の品質を保った、長持ちするビールが完成したのです。

そうして、冷蔵技術の普及に伴い、世界中で「ラガービール」が飲まれるようになりました。

「ラガービール」の魅力は、すっきりしたさわやかなのどごし

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「ラガービール」の大きな魅力は、すっきりとしたさわやかなのどごし。雑味のないクリアな味わいで、ホップの心地よい苦味があるのも特徴です。淡麗辛口と評されることもあるその味わいは、さまざまな料理との相性も抜群。

低温で発酵・貯蔵された「ラガービール」ならではのマイルドな口当たりで、ビール初心者でもおいしく飲むことができそうです。

「ラガービール」の種類

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一口に「ラガービール」といってもその種類はさまざまです。飲みやすく、爽快なのどごしを持つという共通点があっても、ビアスタイルによって風味は異なります。

ここでは、おもなラガー系のビアスタイルの特徴を見ていきましょう。

◇ピルスナー
「ラガービール」のなかでも代表的なビアスタイル「ピルスナー」は、1842年に現在のチェコにあるピルゼンという都市で誕生しました。世界で飲まれているビールの多くが「ピルスナー」といわれ、日本でも広く親しまれています。透明感のある黄金色で、クセのないクリアな味わいが特徴です。

◇シュバルツ
ドイツ生まれの「シュバルツ」も代表的な「ラガービール」のひとつ。「シュバルツ」はドイツ語で「黒」を意味します。ローストした麦芽を使った黒ビールで、香ばしさとコーヒーやチョコレートを想わせるアロマが特徴。「ラガービール」らしいすっきりとした味わいです。

◇アメリカンラガー
「アメリカンラガー」は、アメリカの大手ビールメーカーの多くが製造しているビアタイル。ビールに詳しくない人でも、「バドワイザー」という銘柄名に聞き覚えがあるのではないでしょうか。味わいの特徴は飲んだときの爽快感。炭酸が強い一方で、ホップ由来の苦味が弱いので、比較的飲みやすいと感じる人が多いようです。

「エールビール」とは

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「エールビール」は、上面発酵で醸造されるビールです。その特徴をかんたんに見ていきましょう。

「エールビール」は高めの温度で上面発酵

「エールビール」は、上面発酵という昔ながらの製法で造られる、香り高く芳醇な味わいのビールで、上面発酵ビールとも呼ばれます。「エールビール」は「ラガービール」よりも歴史が古く、下面発酵が登場する以前は、ほとんどのビールが上面発酵で造られていました。

上面発酵では、下面発酵よりも高めの約15~25度で、数日ほどの短期間で発酵させます。発酵過程で下面発酵とは逆に酵母がタンクの上のほうに上昇していくのが特徴で、この特性から上面発酵と呼ばれるようになりました。

なお、上面発酵に使う酵母は、エール酵母や上面発酵酵母と呼ばれています。

イギリスでは「エールビール」が主流

「エールビール」の製造方法は、おもにイギリスで発展したものといわれています。そのため、イギリスでは「エールビール」がメジャーなビールとなっています。

イギリスはパブ文化が根づく国で、パブでは、「ペールエール」や「IPA」などのエール系ビールがたのしまれています。

もちろんイギリス以外でも、「ヴァイツェン」(ドイツ発祥)や「スタウト」(アイルランド発祥)、「ベルジャンホワイト」(ベルギー発祥)、イギリス発祥のIPAからアメリカで独自に発展した「アメリカンIPA」など、各地で特色ある「エールビール」が生み出されています。

「エールビール」の歴史

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「エールビール」の製法を発展させたのはイギリスだといわれています。そのイギリスでは中世以前から、「ビール」と「エール」の2種類が造られていました。ビールのおもな原料は麦芽とホップ、そして水ですが、イギリスではもともと、ホップの代わりにハーブを用いた「エール」が主流だったそう。

15世紀になって、ホップ入りのビールが海外から輸入されるようになると、ホップの入っているものを「ビール」、入っていないものを「エール」と区別するようになりました。

その後、「エール」にもホップを使う業者が増えてきて、次第に両者の境目があいまいになり、「エールビール」として世界各地で飲まれるようになったのです。

「エールビール」の魅力は豊かな「香り」

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「エールビール」の最大の魅力は個性的な香りにあります。ビールに鼻を近づけると、麦芽やホップの香りはもちろん、ビアスタイルによってはバナナ、リンゴ、洋ナシなどの芳醇な果実香を感じ取ることができるものもあります。

このフルーティーな香りの正体は発酵の副産物であるエステル。エステルとは発酵中にできる揮発性の香気成分のことで、上面発酵では下面発酵よりもこの成分が多く生じる傾向があります。そのため、「エールビール」は香り高いビールに仕上がることが多いようです。

もちろん、使用するホップの種類や投入タイミングなどによって、香りの個性や強さは大きく変わってきます。

「エールビール」の種類

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「エールビール」にも、「ラガービール」と同様にさまざまな種類があります。代表的なビアスタイルとそれぞれの特徴を見ていきましょう。

◇ペールエール
「エールビール」の代表格である「ペールエール」はイギリスのバートン・オン・トレント(バートン・アポン・トレント)で生まれたビアスタイル。香りが豊かでフルーティーな味わいが特徴です。

◇ポーター
「ポーター」はブラウンエールとペールエールをブレンドした黒ビール。ふくよかなコクと甘味が肉料理と合うため、イギリスでは国民的に支持されているビールのひとつです。

◇IPA(インディアペールエール)
強いホップの苦味が特徴の「IPA」は、イギリスから植民地時代のインドに船で持ち込まれた「ペールエール」がルーツ。海上輸送中に腐敗しないよう、防腐剤代わりにホップを大量投入したことで、苦味と香りが強い「IPA」が生まれたといわれています。

「自然発酵ビール」とは

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「自然発酵ビール」は、培養した人工の酵母ではなく、空気中に漂う天然酵母を利用して、自然な環境のままで発酵させて造ります。

「自然発酵ビール」は各地で造られていますが、ベルギーの「ランビック」というビアスタイルは、どこででも造れるわけではありません。冷涼な気候で、自然発酵に適した野生酵母を空気中に持っていることなどが条件とされ、ベルギーのなかでも限られた地域だけで造られています。

なお、野生酵母を使わず、フルーツから採取した天然酵母を使用して、自然に発酵させて造る「自然発酵ビール」もあります。

「自然発酵ビール」の種類

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「自然発酵ビール」のなかでも有名なのが、前述の「ランビック」というビアスタイルです。ベルギーのブリュッセル南西部に位置する「セナ渓谷」 や「パヨッテンランド」という地域のみで造られています。

ブリュッセル近郊のこの地域には、空気中に「自然発酵ビール」である「ランビック」を造るのに適した野生酵母や微生物が存在し、良質の「ランビック」を育んでいます。

「ランビック」は独特な風味と強い酸味を持ち、甘味がほとんどないのが特徴です。また「ランビック」のなかにも、「グーズ」や「ファロ」「クリーク」などの種類があり、それぞれ違った魅力や味わいを持っていて、「ラガービール」や「エールビール」とは異なる個性をたのしめます。

なお、同じ製法で造られていたとしても、ベルギーの限られた地域以外で造られたものは「ランビック」とは名乗れず、「ランビックスタイル」などと呼ばれています。


「ラガービール」「エールビール」「自然発酵ビール」は、それぞれ異なる製法で造られ、多様なビアスタイルが世界でたのしまれています。機会があればぜひ飲み比べて、ビールの奥深さを感じてみてはいかがでしょう。

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