杜氏(とうじ)とは? 蔵人(くらびと)との違いなど、酒造りにおける役割を徹底解説!

杜氏(とうじ)とは? 蔵人(くらびと)との違いなど、酒造りにおける役割を徹底解説!
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杜氏とは、酒造りの現場における最高責任者のことです。今回は、杜氏の役割、「杜氏」という言葉の由来、酒造りの現場で働く蔵人との違い、杜氏制度の始まり、全国の杜氏集団や現在の杜氏事情、気になる杜氏の年収などについて、図表を交えながら紹介します。

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まずは、杜氏の役割から確認していきましょう。

杜氏とは?

杜氏の役割

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杜氏(とうじ/とじ)とは、酒造りの現場を取り仕切る責任者のことです。以下でくわしくみていきましょう。

杜氏は酒造りにおける現場の最高責任者

杜氏とは、酒造りの現場の最高責任者。酒造りの作業を実際に行う蔵人(くらびと)たちを監督し、すべての工程の管理やチェックを行うだけでなく、蔵元の意向に沿うお酒を造るため、醸造方法を決定して醸造計画を立案するのも杜氏の仕事です。

醸造技術の高さはもちろん、判断力や統率力、マネジメント能力も求められる、酒造りのトップの役割を担っています。

なお、杜氏は日本酒造りに限った役割ではなく、焼酎造りや醤油造りの製造責任者も「杜氏」と呼ばれています。

杜氏の由来

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「杜氏」の由来や言葉の意味

「杜氏」の由来には、その昔、お酒を造るのは女性の仕事で、主婦などを意味する「刀自(とじ)」という言葉から転じたという説、中国で初めてお酒を造ったとされる「杜康(とこう)」の名を取ったという説など諸説があります。

室町時代の文献に「さけとうし」という表記がみられることから、長い歴史を持つ言葉と目されています。

杜氏と蔵人の違いは?

杜氏と蔵人の違い

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酒造りの現場を取り仕切る杜氏に対して、杜氏のもとで酒造りの実務に従事する人のことを「蔵人(くらびと)」といいます。

酒造りの工程はいくつかに分かれているため、蔵人もおおまかな工程ごとに責任者や担当者が決められています。

杜氏と蔵人の違いは?

蔵人の代表的な役職とおもな役割の例

杜氏の補佐役で、蔵人たちを指揮する頭(かしら)を筆頭に、麹(こうじ)造りの責任者の大師(だいし)または麹師(こうじし)、酒母造りの責任者の酛廻し(もとまわし)または酛師(もとし)を三役とし、ほかに蒸米造り全般を担う釜屋(かまや)などがいます。

なお、蔵人の役職名や役割は、蔵元ごとに異なる場合があり、ここで紹介した役職は一例となります。

蔵人について、よりくわしく知りたいときには、こちらの記事がおすすめです。

杜氏の歴史をひも解く

江戸時代に始まった杜氏制度

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杜氏という役割や杜氏制度はどのようにして生まれたのでしょうか。歴史をひも解きます。

杜氏の起源

杜氏らしき職業が初めて文献に登場するのは、奈良時代のこと。奈良時代に成立した『日本書紀』の崇神紀に、「高橋邑(たかはしのむら)の人活日(いくひ)を以て、大神の掌酒(さかびと)とす」という記述があります。この活日こそが、崇神天皇(すじんてんのう)の命で大神神社にお供えする御神酒を造った杜氏の祖と目される人物。現在も杜氏の祖神として、大神神社の摂社活日神社に祀られています。

江戸時代に始まった杜氏制度

江戸時代になり、幕府から「酒造制限令」が発令されると、冬期にのみ酒造りを行う「寒造り」が始まります。「寒造り」が定着した理由としては、農閑期を迎えた農業従事者を確保しやすかったこと、飢饉に備えて米を備蓄するために、冬場にのみ、余った米を使用しての酒造りが認められたことなどが挙げられます。

「寒造り」が始まると、日本酒造りが行われる冬から春にかけて酒蔵に住み込み、酒造りが終わると蔵を去る、いわゆる“季節労働者”が杜氏や蔵人として活躍するようになります。お米をよく知る農業従事者を杜氏や蔵人として迎え、杜氏を中心にお酒を造る制度は「杜氏制度」と呼ばれ、長きにわたって日本酒造りの基盤を支えてきました。

杜氏制度を軸に産業化が進むなか、出稼ぎの杜氏たちは各地で技術を発展させながら、技術者集団としての杜氏集団を形成していきます。

日本酒の原料となる米

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現代まで続いている全国の杜氏集団

江戸時代の季節労働者たちは、多くの場合、単独ではなく集団で酒蔵へ出稼ぎに行っていました。冬の間に身につけた技や知識は村ごとに伝わり、やがて全国各地の農村に杜氏を中心とした杜氏集団が生まれます。

江戸時代中期から明治時代にかけて、さまざまな流派が生まれては独自の流儀を継承し、日本酒造りの伝統を守ってきました。その後統合・解散した集団もありますが、現在も全国各地に30近い杜氏集団が存在します。なかでも高度な技術を持った“日本三大杜氏”と呼ばれるグループを、それぞれの特徴とともに紹介しましょう。

【丹波(たんば)杜氏】
兵庫県丹波篠山市周辺を出身地とする杜氏集団。江戸時代後期、灘の蔵元が多くの出稼ぎを受け入れたことが始まりで、灘の日本酒の発展を支えてきました。

【越後(えちご)杜氏】
新潟県中南部を出身地とする杜氏集団。勤勉さと技術力の高さが評価され、かつては全国各地に出稼ぎに出ていましたが、新潟が日本有数の酒処となった現在では、地元での酒造りが主体です。

【南部(なんぶ)杜氏】
かつて「南部」と呼ばれた地域にある岩手県花巻市などを拠点とする杜氏集団。杜氏の数は全国最多を誇り、各地で日本酒造りを担っています。

現代まで続いている全国の杜氏集団

おもな杜氏集団の拠点

「越後杜氏」「南部杜氏」に加えて、“日本四大杜氏”として知られているのが、「但馬杜氏」と「能登杜氏」です。「但馬杜氏」は「丹波杜氏」と同じ兵庫県の杜氏集団で、「南部杜氏」「越後杜氏」に次ぐ杜氏数を誇ります。「能登杜氏」は、石川県珠洲市の集団で、発祥の蔵が能登半島地震で被災し、奇跡的に残ったもろみで造った「復興の酒」が話題になりました。

なお、三大杜氏、四大杜氏に加えられる杜氏集団には諸説があります。

社員杜氏や蔵元杜氏が活躍する現在

江戸時代以降、「杜氏」は季節労働が一般的でしたが、高度経済成長期の影響で出稼ぎ労働者が減ったことに加え、日本酒の出荷量減少による蔵元の経営難、杜氏の高齢化といった環境変化などを背景に雇用形態が少しずつ変化。通年雇用の「社員杜氏」が増えるとともに、蔵元が自ら日本酒造りを学び、杜氏を兼任する「蔵元杜氏」も多くみられるようになりました。

最近では、他業種で多彩な経験を積んでから蔵元に戻り杜氏になるなど、慣習にとらわれない新しい感覚を持った「蔵元杜氏」も出現しています。

一方で、個々の蔵元だけでなく、地域全体で地元の日本酒造りを守り、向上させるべく、改めて地元杜氏を育てようとする動きもみられます。

栃木の「下野(しもつけ)杜氏」などがその代表格で、彼らを中心に、各地で地域の気候・風土に根差した酒造りの技術を磨いています。

杜氏の年収はどれくらい?

杜氏の年収はどれくらい?

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厚生労働省の職業情報提供サイト(日本版O-NET)「jobtag」によると、杜氏を含む清酒製造に関わる人の平均年収は341.8万円。これは経験年数や役職を問わず、令和5年賃金構造基本統計調査の結果から導かれた数字です。

一方、杜氏の平均年収は、450~550万円程度。雇用形態や経験、志望する会社の規模によっても変わってきますが、実績のあるベテラン杜氏の場合は1,000万円を超えることもあるようです。

杜氏見習いや蔵人から始める場合、最初は平均より低い年収からのスタートとなる可能性もありますが、当時としての経験を積み、おいしい日本酒を世に送り出すことで、年収は上がってきます。

杜氏は酒造りの現場の最高責任者。おいしい日本酒の陰には有能な杜氏の存在があります。蔵見学や日本酒イベントで会うチャンスがあれば、日本酒造りのこだわりやおいしい飲み方について積極的に聞いてみたいですね。

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