「伯楽星」で有名な「新澤醸造店」 “究極の食中酒”を目指す酒造りを大解剖

「伯楽星」で有名な「新澤醸造店」 “究極の食中酒”を目指す酒造りを大解剖
出典 : 株式会社新澤醸造店サイト

「新澤醸造(にいざわじょうぞう)店」とは、「伯楽星(はくらくせい)」や「愛宕の松/あたごのまつ」などの銘柄を醸造している宮城県の蔵元です。今回は、蔵元の歴史、受賞歴、目指している“究極の食中酒”について、酒造りに対するこだわりなどを紹介します。

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新澤醸造店は、“究極の食中酒”を醸す老舗蔵元。まずは酒造りの歴史やこだわりから紹介します。

新澤醸造(にいざわじょうぞう)店とは、「伯楽星(はくらくせい)」「愛宕の松/あたごのまつ」で知られる宮城の蔵元

新澤醸造店は、「伯楽星(はくらくせい)」「愛宕の松/あたごのまつ」を醸す宮城県の蔵元

出典:株式会社新澤醸造店サイト

新澤醸造店の歴史をみていきましょう。

新澤醸造店は明治6年(1873年)創業の老舗日本酒蔵

新澤醸造店は、今から150年ほど前の明治6年(1873年)に創業した老舗の蔵元です。

創業の地である宮城県の三本木(現・大崎市三本木)は、世界農業遺産にも認定された宮城の米処「大崎耕土」に位置しています。

新澤醸造店の主要銘柄は、現当主で5代目蔵元の新澤巖夫(にいざわいわお)氏が平成14年(2002年)に立ち上げた「伯楽星」と、地元で昔から愛飲されてきた「愛宕の松/あたごのまつ」です。

蔵の存続が危ぶまれていた平成11年(1999年)、家業を継ぐため蔵に入った新澤氏は、「伯楽星」を立ち上げてから「愛宕の松/あたごのまつ」と併せた2銘柄を柱とし、ひたすら品質の向上を目指す酒造りを続けてきました。

酒質と実績を高めてきた蔵元に大きな転機が訪れたのは、平成23年(2011年)のこと。3月11日、マグニチュード9.0の東日本大震災が発生し、創業以来、長きにわたって酒造りを行ってきた三本木の蔵は全壊。出荷を待っていた商品の8割が破損するという大損害を被ったのです。

新澤氏は悩んだ末、蔵の移転を決断。つながりの深い三本木の地には本社機能を残し、酒造りで使用できるものはすべて宮城県川崎町の新しい蔵に移して設備を整え、再び歩み始めました。

以降、新澤醸造店の酒造りは、地盤が強固で良水にも恵まれた川崎蔵で行われています。

国内外で高評価を得ている新澤醸造店の受賞歴

出典:株式会社新澤醸造店サイト

新澤醸造店の受賞歴がすごい! 国際コンペで「世界一」も獲得

新澤醸造店が造るお酒は、さまざまな日本酒コンペティションで高い評価を得ています。

令和4年(2022年)には、国際コンペティションのひとつ「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」のSAKE部門で、全出品酒が高評価を受けたことから、蔵元として「サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤー 2022(IWC Sake Brewery of the Year 2022)」を受賞。

さらには「愛宕の松 別仕込本醸造」が、優れたコストパフォーマンスを発揮しているお酒に対して部門を超えて授与される「グレートバリュー・サケ」のなかの最優秀賞「グレートバリュー・チャンピオン・サケ」に輝きました。

IWCは、イギリスのロンドンで開催される世界最大規模のワイン・コンペティション。そのSAKE部門で獲得した「世界一」の称号は、新澤醸造店の酒造りに対する、日々の研鑽の積み重ねから得られたものに違いありません。

IWC2022ではこのほか、「伯楽星 純米吟醸 ひかり」「超特選 純米大吟醸 残響2021」「零響 -Absolute 0- 2021」が金賞を獲得。

なかでも「零響 -Absolute 0- 2021」は、フランスの「Kura master 2022」やイタリアの「MILANO SAKE CHALLENGE 2022」でも受賞を果たしています。

こうした活躍を裏づけるように、国内外で開催されたコンペティションに出品している蔵の格づけを行う「2022世界酒蔵ランキング」でも、新澤醸造店は断トツの1位となっています。

新澤醸造店が目指す“究極の食中酒”とは?

新澤醸造店が目指す究極の食中酒

出典:株式会社新澤醸造店サイト

“究極の食中酒”とは、全国新酒鑑評会などでも評価の対象となっている吟醸香(ぎんじょうか)をあえて抑え、「料理の素材そのものが持つ力を引き出し、食事をよりおいしく感じさせる酒」「糖度を低めに設定し、インパクトはないものの、気がつくと2杯3杯と飲み進められる酒」を目指して造られる日本酒のこと。新澤醸造店の2大銘柄である「伯楽星」と「愛宕の松/あたごのまつ」に共通するコンセプトとなっています。

主役の料理を際立たせる脇役を目指す造りは、「伯楽星」の開発時から目標としていたものでした。しかし、宮城県産業技術センターの指導を仰いで、心血を注ぎ完成させた“究極の食中酒”「伯楽星」の味わいは、「食中酒」という言葉すら使われていなかった当時、なかなか理解されませんでした。

その後、「伯楽星」の味わいが評価を高めていくにつれ「食中酒」という概念も広まり、言葉も広く使われるようになっていきます。

新聞やテレビ、雑誌などで取り上げられるようになったり、「食中酒」という言葉を使わせてほしいと頼まれることもあるなかで、周りからのアドバイスもあり、新澤醸造店では平成28年(2016年)10月21日に「究極の食中酒」を商標登録(商標登録第5889319号)しています。

新澤醸造店の酒造りのこだわり

新澤醸造店のこだわりの酒造り

出典:株式会社新澤醸造店サイト

新澤醸造店で行われている、酒造りや商品の流通についてのさまざまな取り組みを紹介します。

全国最年少女性杜氏の起用で話題に! 年齢・経歴を問わない酒造り体制

新澤醸造店では、ベテランの杜氏に酒造りのすべてをゆだねるというような昔ながらの酒造りは行われていません。

よりよいお酒を造るため、蔵人それぞれが日々学び、考え、年齢や経歴、性別に関係なく意見をいい合って、刺激し合い助け合いながら、チームで酒造りを行うというスタイルを取っています。

その証左となるのが、渡部七海(わたなべななみ)杜氏の存在です。

就任時、「全国最年少女性杜氏(平成30年9月当時)」と話題になった渡部氏は、東京農業大学短期大学部醸造学科の酒類学研究室で醸造理論を学んだのち、平成28年(2016年)4月に新澤醸造店に入社。

知識を持ち、向上心にあふれ、同僚の信頼も高く、利き酒にも天賦の才を発揮する渡部氏は、入社2年目の冬には、蔵元杜氏だった新澤氏の不在時に代理を務めるようになりました。

そして平成30年(2018年)9月、入社3年目の22歳で新澤氏に代わって杜氏に就任。以来、麹(こうじ)を仕上げるタイミングや醪(もろみ)を搾る日時などについて最終的に判断する、新澤醸造店における杜氏の役割を担っています。

同年、渡部氏が手掛けた「あたごのまつ 鮮烈辛口」が、「ブリュッセル国際コンクール(CMB)」の「SAKE selection 2018 本醸造酒部門」でプラチナトロフィー賞を受賞。就任早々、その存在と実力が国内外に知られることとなったのです。

新澤醸造店が力を入れる精米技術の向上

出典:株式会社新澤醸造店サイト

世界最高の精米歩合0.85パーセントを実現する精米技術

新澤醸造店は、よりよいお酒を造るための設備投資を惜しまない蔵元でもあります。

とりわけ精米技術の向上には力を入れていて、1パーセント未満の精米歩合まで米を磨くことができる「ダイヤモンドロール精米機」や、雑味の原因となる成分を効率的に除去し、旨味を残すことができる「扁平精米機」を導入。現在では精米専門の会社を立ち上げ、ほかの蔵元の精米も引き受けています。

以下では、高い精米技術を活かして前人未到の精米歩合を実現した2商品、「超特選 純米大吟醸 残響 Super7」と「零響 -Absolute 0-」を紹介します。

超特選 純米大吟醸 残響 Super7(ざんきょう スーパーセブン)

宮城県の新澤醸造店が造る「超特選 純米大吟醸 残響 Super7」

出典:株式会社新澤醸造店サイト

「米の芯の味わいを試してみたい」という想いから生まれた「残響」は、新設されたダイヤモンドロール精米機を使い、精米歩合1桁を実現させたプレミアム酒。地元・宮城で生まれた酒造好適米「蔵の華」を使用。平成21年(2009年)に初登場した際に9パーセントだった精米歩合は、現在7パーセントまで進化しています。

でき上がってすぐ、ほかの蔵から「味わってみたい」という連絡が舞い込み「プロも興味を示すお酒ならば」と商品化。どこまでもきれいな酒質の透明感を味わうことができる純米大吟醸酒です。

零響 -Absolute 0-(れいきょう アブソルート ゼロ)

宮城県の新澤醸造店が造る「零響 -Absolute 0-」

出典:株式会社新澤醸造店サイト

平成30年(2018年)、契約栽培された地元産の酒造好適米「蔵の華」を5,297時間(220日以上)という時間をかけて99パーセント以上削り、「精米歩合0.85パーセント」を達成。日本国内、アジア、欧米でそれぞれ333本、世界で合計999本しか流通しない超プレミアムな1本です。

透明感のなかに、極限まで磨いた米の真ん中の甘味と余韻、キレが感じられるこの逸品は、伝統工芸・組子細工の技術を用いた土佐組子制作の箱に収められています。職人の手で、1日で3点しか作ることができない特注品で、プレミアム感を高めています。

利き酒能力など品質向上に欠かせない技術を日々研鑽

新澤醸造店は、昨日より今日、今日より明日、少しでもおいしいお酒を造ることができるよう、蔵人が酒造りの技術を高めるための機会を、積極的に設けています。

なかでも力を注いでいるのが、お酒の味わいを見極める利き酒能力の向上。利き酒で同一銘柄を当てる「マッチング」や、100種類ほどのお酒の利き酒を速いペースで3周行う「サーキット」といった訓練を行い、日本酒の造り手として非常に大切な「舌(味覚)」を日々磨いています。

利き酒能力の向上に力を注ぐ新澤醸造店

出典:株式会社新澤醸造店サイト

「おいしい状態で飲んでほしい」という想いが根底にあるさまざまな取り組み

新澤醸造店の日本酒は、加熱殺菌処理である火入れを1回しか行わないものか、1回も行わない「生酒」。一般的な2回火入れを行う日本酒に比べると品質が変化しやすいことから、マイナス5度の冷蔵庫ですべての商品を保管しています。

新澤醸造店の商品は、信頼関係にある特約店をとおして販売されています。フレッシュさを長く保ち、おいしい状態でお酒を届けるため、自社はもとより特約店にも徹底した温度管理をお願いし、おいしく飲める期間が少しでも持続するよう努めています。

また、年に1回、全国の特約店や飲食店を回る「フレッシュローテーション」という取り組みも行っています。通年販売している商品は「夏はすっきり」「冬はしっかり」など味わいを変えて出荷をしているため、季節違いの商品が陳列されている場合に、回収と交換を行うことが目的です。

北は北海道から南は九州まで、約2週間にわたって車で回り、特約店や飲食店に直接赴く。そうしたフレッシュローテーションは、品質の向上に集中するため営業部を持たない蔵元が、市場の生の声を集めて蔵に持ち帰る大切な機会ともなっています。
※2023年1月現在、コロナ禍にあるため、フレッシュローテーションは休止しています。

さまざまな取り組みを行い、品質を向上させてきた新澤醸造店。地道な歩みの結実ともいえる「伯楽星」「愛宕の松/あたごのまつ」ですが、その一部は高値で転売されていて、入手困難になっている商品もあります。転売品は温度管理などがされていない可能性もあるため、おいしい状態で飲める特約店での購入をおすすめします。

製造元:株式会社新澤醸造店
公式サイトはこちら

※2023年1月時点の情報です。最新の情報は各ホームページなどでご確認ください。

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