「下戸(げこ)」がお酒を飲めない人を表すようになったわけは? 「上戸」とともに由来を紹介

「下戸(げこ)」がお酒を飲めない人を表すようになったわけは? 「上戸」とともに由来を紹介
出典 : Luce / PIXTA(ピクスタ)

「下戸」は、お酒を飲めない人を表す言葉で、はるか昔の日本の法典「律令(りつりょう)」に由来するといわれています。今回は、「下戸」や対義語「上戸」の読み方や意味、由来、英語表現、類義語の数々、下戸の人と上戸の人の体質的な違いや「和らぎ水」などを紹介します。

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まずは「下戸」の読み方や意味を、改めて確認してみましょう。

「下戸」とは何を意味する言葉?

下戸と上戸の読み方と意味

Table-K / PIXTA(ピクスタ)

「下戸」と、その対義語(反意語・反対語)である「上戸」の読み方や意味、由来、それぞれの英語表現をみていきます。

「下戸」と対義語「上戸」の読み方や意味は?

「下戸」は「げこ」、その対義語の「上戸」は「じょうご」と読みます。

「下戸」はお酒が飲めない人やお酒が嫌いな人、対する「上戸」はお酒が好きな人、またはお酒が好きでたくさん飲める人を意味しています。

「下戸」「上戸」ともに古い時代から使われている言葉で、「下戸」は鎌倉時代の随筆『徒然草(つれづれぐさ)』、「上戸」は平安時代の歴史物語『大鏡(おおかがみ)』など著名な古典にも登場します。

「上戸」と「下戸」の由来とは

「上戸」「下戸」の語源には諸説があります。そのなかから、1,300年以上前の日本古代の法典「大宝律令(たいほうりつりょう)」に由来するという説を紹介します。

「上戸」と「下戸」の「戸(こ)」とは、「大宝律令」から本格的に始まった日本の律令制度の、行政上の基礎単位。いくつかの世帯が含まれる大家族的なものがベースとなっていたとみられます。

当時の男性のうち、納税に加えて使役や兵役の義務も課せられている者が多くいる戸は「上戸」、少ない戸は「下戸」とされました。また富める戸を「上戸」、貧しい戸を「下戸」ともいったようです。

税や使役・兵役の負担が大きく、禁酒令もしばしば出されていた時代、貴族以外の人々がお酒を飲める機会はおもに冠婚葬祭のときでした。

働ける男性がたくさんいて裕福な「上戸」では、婚礼などの際に多くのお酒が出た一方、貧しい「下戸」では少ないお酒しか出なかったようです。

そこから転じて、「上戸」がお酒を飲める人、「下戸」がお酒を飲めない人を表すようになったといわれています。

上戸と下戸の由来

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「下戸」を英語で表現すると?

英語で「下戸」を表現するときには、
◇non‐drinker
◇lightweight drinker

などが使われます。

英文にしたときの表現としては、体質などであまり飲めない場合の、
◇I can't drink very much alcohol.
「私はお酒を飲まない」という場合の、
◇I don't drink(alcohol).
などが挙げられます。

また「お酒はつき合い程度です」と伝える場合は、
◇I'm just a social drinker.
と表現します。

ちなみに「上戸」を英語で表現するときには、
◇drinker
◇tippler
◇boozer

などを使います。

また、
◇He drinks like a fish.
のように「大酒飲み」を魚にたとえて表現することもあるようです。

「上戸」や「下戸」と同じく、お酒が飲める人・飲めない人を表す言葉

上戸や下戸のようにお酒が飲める人・飲めない人を表す言葉

kazoka / Shutterstock.com

日本語の表現は豊か。「上戸」「下戸」のほか、お酒が飲める人・飲めない人を表す言葉の数々をみていきましょう

「左党」と「右党」の読み方と由来

「左党」は「さとう」または「ひだりとう」と読み、お酒が好きな人や酒飲み、酒飲み仲間を表します。

「左党」は洒落(しゃれ)から生まれたとされる言葉です。

木材や石材などを削るときに使う「ノミ」という工具は左手で持つことが多く、ノミを使う大工や石工、鉱夫たちの間では「ノミを持つ手」である左手を「ノミ手」と呼んでいました。

これを洒落で同じ読みの「飲み手」にかけ、左手=ノミ手≒飲み手ということで、お酒好きな人やお酒が強い人のことを「左利き」というようになりました。

さらに「仲間」という意味を持つ「党」をつけ、「酒飲み仲間」という意味もある「左党」というようになったと考えられています。

「右党」は「うとう」と読み、「左党」の逆ということでお酒が飲めない甘いもの好きの人を表します。

左党はノミ手(左手)と飲み手をかけたシャレから生まれた言葉

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大量のお酒を飲める人のことをなんと呼ぶ?

大量のお酒が飲める人や大酒を飲む様子を表す言葉もいろいろあります。

◇大戸(たいこ)
律令制度において、使役や兵役の義務が課せられている男性が「上戸」よりも多かった「大戸」は、「上戸」と同じくお酒がたくさん飲める人も意味しています。

◇蟒蛇(うわばみ)
「蟒蛇」とは大蛇のこと。多くの物を飲み込むことから、こちらも大酒飲みを表しています。

◇鯨飲(げいいん)・牛飲(ぎゅういん)
動物にたとえている言葉では、ほかに「鯨飲(げいいん)」や「牛飲(ぎゅういん)」があります。クジラや牛が大量に水を飲む様子から、お酒を一度にたくさん飲むさまを表しています。

「鯨飲」は、中国の詩人・杜甫(とほ)が「飲中八仙歌」で、李適之(りてきし)という人物の飲みっぷりを詠んだ「飲如長鯨吸百川(飲むこと長鯨が百川を吸うがごとし/クジラが100本の川を飲み込むようだ)」に由来する言葉ともいわれています。

◇ザル(ざる)
「ザル」は、流した水が落ちるザルのように、飲んだお酒が体にたまらず、いくら飲んでも酔わない人のこと。ザルの網目すらないと思えるほどの飲みっぷりの人は「ワク」と表現されることもあります。

酔っぱらった人を表す言葉

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酔っぱらった人を表す言葉とは

酔っぱらった人を表す言葉といえば「トラ」が挙げられます。

「トラ」の語源には諸説があります。

室町時代、宮中に仕える女房たちが使った「女房詞(にょうぼうことば)」でお酒を意味する「ささ」に由来するという説では、「ささ」に「笹(竹葉)」を当て、日本画などによく描かれている「竹に虎」を連想させたことが語源とされています。

このほか、酔っぱらいがトラのようによつんばいになって手がつけられない様子や、張り子のトラのように首を左右に振る様子、またトラのように暴れることなどを語源とする説もあります。

なお、ひどく酔っている泥酔者を「大トラ」、警察署内に置かれる泥酔者を保護する部屋のことを「トラ箱」ともいいます。

酔いが過ぎてトラ箱に保護されることのないよう、お酒は適量をたのしみましょう。

お酒に弱い「下戸」とお酒に強い「上戸」の違いはどこにあるの?

下戸と上戸の違い

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お酒に弱い「下戸」の人と、お酒に強い「上戸」の人は、「ALDH2型」という酵素の活性遺伝子の型に違いがあります。

おもに肝臓で行われるアルコール代謝の仕組みからみていきましょう。

体内に入ったアルコールは、まず「アセトアルデヒド」に分解されます。「アセトアルデヒド」は頭痛などを引き起こすもので、「アルデヒド脱水素酵素(ALDH)」の働きで無害な「酢酸」に分解されます。

お酒に弱いか強いかの大枠を決めるのは、この「ALDH」のひとつ「ALDH2型」です。「ALDH2型」の活性遺伝子の型には以下の3種類があります。

◇NN型:正常活性遺伝子型⇒お酒に強い人
◇ND型:NN型の1/16の活性しかない遺伝子型⇒ある程度飲める人
◇DD型:活性のない遺伝子型⇒ほとんど飲めない人


ヨーロッパ系やアフリカ系の人種は、そのほとんどがNN型なのに対し、日本人や中国人などのモンゴロイド系にはND型やDD型が含まれます。

少量のお酒でも顔が赤くなったり気分が悪くなったりするDD型の人はもちろん、NN型、ND型の人も無理な飲酒、過度な飲酒は絶対に避けましょう。

(参考資料)
東京国税局|お酒に関する情報 テーマ02「あなたはお酒が強い人?弱い人?」

お酒は好き! でも量は飲めないという人におすすめの「和らぎ(やわらぎ)水」とは

お酒を飲むときにおすすめの和らぎ水

crucma / PIXTA(ピクスタ)

「和らぎ水(やわらぎみず)」とともに、一般的な飲酒量の目安なども紹介します。

「和らぎ水」ってどんなもの?

「和らぎ水」とは、日本酒をたのしむ間にときどき飲む水のこと。洋酒の場合の「チェイサー」と同じ意味合いのもので、体への負担を文字どおり和らげるため、お酒は好きだけどあまり飲めないという人はもちろん、量を飲める人にもおすすめです。

お酒の合間に水を飲むことでアルコール分が下がるため、酔いのスピードが緩やかになり、なによりお酒をゆっくり味わうことができます。

また「和らぎ水」を飲むたび、飲酒のペースがひと呼吸置けることから、深酒予防にも役立ちます。

「和らぎ水」の効果としてもうひとつ挙げられるのが、口のなかをリフレッシュさせること。次のお酒や料理の味わいがよりいっそう鮮やかに感じられることでしょう。

「和らぎ水」は浄水器で処理した水やおいしい水道水、お気に入りのミネラルウォーターなど、飲んでおいしい水を選びましょう。めったにないシチュエーションだとは思いますが、飲んでいる日本酒の仕込み水を入手できる機会があれば、「和らぎ水」として飲むのもおすすめです。

たのしく飲むために知っておきたい日本酒などのアルコールの適量

JADE / PIXTA(ピクスタ)

日本酒をはじめとするアルコールは適量を知っておいしくたのしく飲もう

アルコールの適量とはどのくらいなのでしょう。

個人差があり、飲酒時の体調や環境などによっても異なりますが、爽快な気分やほろ酔い気分がたのしめるとされる純アルコール量20~25グラム程度が一般的な目安とされています。

酔いなどアルコールの心身への影響は、摂取した純アルコール量を基準として考えます。

とはいえ純アルコール量といわれてもイメージしにくいものです。どのくらいなら純アルコール量20~25グラムに収まるのか、各お酒の酒量に対するおおよその総アルコール量をみていきましょう。

◇日本酒 1合(アルコール度数15パーセント/180ミリリットル):22グラム
◇ビール 中瓶またはロング缶(500ミリリットル):20グラム
◇ビール 大瓶(633ミリリットル):25グラム
◇チューハイ レギュラー缶(アルコール度数7パーセント/350ミリリットル):20グラム
◇チューハイ レギュラー缶(アルコール度数9パーセント/350ミリリットル):25グラム
◇ワイン ワイングラス2杯(アルコール度数12パーセント/240ミリリットル):24グラム
◇ウイスキー 水割りダブル(アルコール度数40パーセント/原酒で60ミリリットル):20グラム

なお、厚生労働省が推進する「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」では、通常のアルコール代謝能を有する日本人の「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで20グラム程度を推奨しています。

日本酒でいえば、近ごろはアルコール度数が低いタイプのお酒も売り出されています。お酒は好きだけどたくさんは飲めないという人にもおすすめですが、飲みやすいからといって多く飲んでしまうのは禁物です。飲みすぎには十分気をつけましょう。

各蔵元が心を込めて醸したお酒を暴飲してしまうのはもったいないことともいえます。おいしいお酒を長くたのしむためにも、過度な飲酒は控え、飲む人それぞれの適量の範囲で味わいましょう。

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