「貴醸酒(きじょうしゅ)」がどんなお酒か知っていますか?【日本酒用語集】

「貴醸酒(きじょうしゅ)」がどんなお酒か知っていますか?【日本酒用語集】
出典 : Nomad_Soul

「貴醸酒(きじょうしゅ)」は、濃厚な甘味と琥珀色の見た目を持つ日本酒の一種です。見た目からブランデーベースの梅酒などと間違えられることもあります。ここでは、独特かつ贅沢な製法で造られる「貴醸酒」の製法や特徴、ペアリングまでわかりやすく解説します。

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「貴醸酒」は贅沢な日本酒?

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「貴醸酒」とはどんなお酒なのか、その特徴を見ていきましょう。

「貴醸酒」とは何?

「貴醸酒」とは、水の代わりに日本酒(清酒)で仕込んだ日本酒のこと。一般的な日本酒は醪(もろみ)を仕込む際、培養された酒母に米と麹、仕込み水を加えていきますが、「貴醸酒」は、三段仕込みの最終段階だけ、仕込み水の代わりに日本酒を使用します。コストがかかっている分、贅沢なお酒といえるでしょう。

仕込みに日本酒を使用した「貴醸酒」は、独特なとろみと甘くて濃厚な味わいが特徴のお酒。熟成すると琥珀色に変化し、まろやかさに磨きがかかります。その上品な味わいや口当たりは、シェリー酒や貴腐ワインのように食前酒や食後酒として味わうのにぴったり。

長期熟成した商品が多い「貴醸酒」ですが、フレッシュな味わいがたのしめる新酒タイプも存在します。熟成期間が短いと、長期熟成のものほど色づかず、さっぱりとした味に仕上がる傾向があります。

「貴醸酒」はどうやって生まれたの?

「貴醸酒」その名前や特徴などから、古くから伝わる日本酒だと考える人もいるかもしれませんが、その歴史は意外にも浅く、1973年(昭和48)年に国税庁醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)で誕生しました。きっかけは、国賓をもてなす晩餐会のお酒が伝統的な日本酒ではなく、フランス産のワインやシャンパンだったことにあります。

「晩餐会で提供できるような日本酒」を造るため、伝統的な古い製法をもとに研究・開発されたのが「貴醸酒」でした。つまり「貴醸酒」は、貴賓をもてなすために生まれた高級で特別な日本酒だったのです。ちなみに「貴醸酒」の名前には、「貴腐ワインにも匹敵するお酒」という意味が込められています。
こうして「貴醸酒」の製法が編み出された後、広島県呉市の榎酒造が商品化に取り組み、「華鳩(はなはと)」を世に送り出しました。

「貴醸酒」という日本酒の種類が誕生したのは昭和の時代のことですが、じつはお酒でお酒を仕込むという「貴醸酒」の製法自体は、平安時代から用いられていたという記録が当時の古文書「延喜式」(西暦927年)に残されています。つまり、先人の知恵から生まれた伝統的な製法をブラッシュアップさせ、海外に誇れる日本酒として造り上げたのが「貴醸酒」なのです。

「貴醸酒」が希少なワケ

「貴醸酒」は、なかなかお目にかかることのない日本酒です。その理由は、2つ考えられます。

ひとつは、一般的な日本酒に比べて製造に手間やコストがかかるため、生産量そのものが少ないからです。もうひとつの理由としては、貴醸酒を手掛ける蔵元が限られていることが挙げられます。「貴醸酒」の製造特許はすでに失効していますが、「華鳩」の造り手である榎酒造が「貴醸酒」を商標登録していて、同社が所属する貴醸酒協会に加盟している蔵元しか「貴醸酒」という名称を使用することができません。協会未加盟の蔵元は、貴醸酒と同じ製法で造ったとしても、異なる名称で販売するしかないのです。

じつは、こうした未加入の蔵元が「貴醸酒」の製法で造った日本酒は、「再醸仕込み」や「醸醸」、「三累醸酒」などの名前をつけて販売されています。いずれも貴醸酒のように濃厚な味わいを持つ甘口の酒に仕上がっているので、機会があったら味わってみてください。

「貴醸酒」の甘味はどうやって造られる?

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「貴醸酒」と一般的な日本酒との違いや、「貴醸酒」が甘い理由を確認しましょう。

「貴醸酒」と一般的な日本酒の製法の違い

「貴醸酒」の製造工程において、一般的な日本酒と異なる方法が用いられるのは、もろみ造りの段階です。

多くの場合、もろみの仕込みは「三段仕込み」という方法で行われます。三段仕込みとは、酒母の入ったタンクに、蒸米・麹・水を3回に分けて投入し、発酵させる伝統的な製法で、段階ごとに「初添(はつぞえ)」「仲添(なかぞえ)」「留添(とめぞえ)」と呼ばれています。

「貴醸酒」は、「初添」「仲添」までは一般的な日本酒と同じく、蒸米や麹とともに仕込み水を加えますが、最終段階の「留添」のときのみ、仕込み水の代わりに日本酒を用います。

「貴醸酒」が甘くなる理由とは?

「貴醸酒」の特徴は濃厚な甘さにありますが、この甘味はどこから生まれるのでしょうか。その秘密は、「麹の酵素」と「酵母菌(酒母)」にあります。

麹に含まれる酵素には、お米のデンプンを分解して糖に変える働きがあります。酵母菌は、その糖を分解してアルコールを生み出しますが、アルコール度数がおよそ22度を超えると、弱まり死滅してしまうという性質があります。この性質を利用したのが、貴醸酒の製造方法です。

「留添」の段階で日本酒を入れてアルコール度数を上げ、酵母菌を意図的に弱らせると、もろみの中に仕込み水を使ったときよりも多くの糖が残ることになります。これが「貴醸酒」が甘くなる理由です。

「貴醸酒」のたのしみ方

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「貴醸酒」のたのしみ方は多彩。スイーツや料理とのペアリングについても紹介します。

「貴醸酒」そのものをたのしむ

「貴醸酒」は、多彩な飲み方がたのしめるお酒ですが、まずは常温で少量を口に含んでみてください。貴醸酒特有の、ビロードのように上品で濃密な甘味が堪能できます。
食前酒や食後のデザート酒としてたのしむ場合は、冷蔵庫で冷やして飲むのがおすすめ。オン・ザ・ロックで、氷が溶けるごとに変化する風味をたのしみながら、熟成で得られた複雑で深みのある味わいを満喫するもよし。コクと甘味の強いお酒なので、ソーダ割にしてスパークリングワインのような爽やかなのどごしをたのしむのもおすすめです。

貴醸酒は、さまざまな温度帯でたのしめるお酒。燗をつければ豊かな香りが立ち上がり、より深いコクを満喫できます。おすすめは、雪冷え(5度前後)からぬる燗(40度前後)の温度帯。多彩な温度で味わって、風味や香りの変化をたのしんでみてはいかがでしょう。

「貴醸酒」とスイーツのペアリング

「貴醸酒」は、スイーツとの相性が抜群のお酒です。なかでもビター・チョコレートの苦味と「貴醸酒」の甘味の組み合わせは、まさに奇跡のマリアージュ。合わせていただけば、コクのある奥深い味わいをたのしめるので、ぜひ一度試してみてください。

バニラアイスとのペアリングも見逃せません。エスプレッソをアイスクリームにかけてたのしむ「アフォガード」のように、「貴醸酒」をアイスクリームに回しかければ、華やかな香りと上品な甘味が広がる大人の味わいをたのしめます。

「貴醸酒」と料理の意外なペアリング

「貴醸酒」が醸し出す独特の存在感を生かすには、料理の引き立て役にするよりも、味覚の相乗効果を引き出せる組み合わせをチョイスしたいものです。

おすすめは、しっかりとした味つけのサーロインステーキや、脂がのった秋刀魚の梅煮、フォアグラなど。「貴醸酒」に負けない、味にパンチのある料理と組み合わせてみましょう。

おつまみと合わせるなら、レーズンバターや、ドライフルーツ入りのクリームチーズなど、やはり濃厚なものがおすすめです。

おすすめの貴醸酒

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「貴醸酒」のおすすめ3銘柄を紹介します。ぜひ味わってみてください。

榎酒造 華鳩(はなはと) 貴醸酒

「貴醸酒」が開発された翌年の昭和49年(1974年)、国税庁醸造試験所の製造特許をもとに、全国に先駆けて商品化されたのが「華鳩 貴醸酒」です。

造り手は、瀬戸内海に浮かぶ広島県呉市の倉橋島で明治32年(1899年)から酒造りを営む榎酒造。日本初の「貴醸酒」を発売した当初は、「こんな色のついた甘い酒は日本酒ではない」と酷評もされたそうですが、製法を磨くうち、また食文化が多様化するにつれて人気が高まったといいます。その味は、濃厚にしてまろやか。甘口ながら、後味は意外にさっぱりとしています。レーズンやナッツのような香味と豊かなコクもたのしめます。

「華鳩 貴醸酒」はラインナップも豊富で、フレッシュな新酒から、じっくりと熟成させた長期貯蔵酒、シャンパンのような発泡日本酒、生にごり酒、50%精米したブランド米で造る極上の逸品まで、さまざまなタイプがあります。まずは、「華鳩 貴醸酒8年貯蔵」で、元祖「貴醸酒」の魅力を堪能してみてはいかがでしょう。

製造元:榎酒造株式会社
公式サイトはこちら

華鳩 貴醸酒

八海醸造 八海山 貴醸酒

新潟の代表的な清酒「八海山」で知られる八海醸造の「貴醸酒」は、熟成前に瓶詰めしたフレッシュな一品。「貴醸酒」ならではのやわらかで上品な甘さと、できたてのさわやかな口当たりが特徴です。購入後、すぐに飲まずに冷暗所に保存して熟成を進めることで、琥珀色へと色づく過程や味の変化がたのしめます。

製造元:八海醸造株式会社
公式サイトはこちら

八海山 貴醸酒

新政酒造 陽乃鳥(ひのとり)

150年以上受け継いできた伝統を守りながらも、チャレンジングな酒造りに挑み続ける嘉永5年(1852年)創業の老舗蔵、新政酒造の「貴醸酒」は、三段仕込みの最終段階で加える日本酒にこだわって造られた個性派。仕込み水の代わりに、オークの一種であるミズナラの樽で1年間追熟させた日本酒を使用することで、甘味をいっそう引き立てた、唯一無二の「貴醸酒」に仕上げられています。

製造元:新政酒造株式会社
公式サイトはこちら

貴醸酒 陽乃鳥 第13世代

「貴醸酒」は日本酒のなかではちょっと異色の存在ですが、1度飲むとその味わいにハマる人が多いお酒。機会があったら手に取って、「日本独自の高級酒」と名高い「貴醸酒」の魅力を心ゆくまで味わってください。

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