「第三のビール」の魅力を知ろう! 「ビール」や「発泡酒」との違いとは?
酒税法の改正により、2020年10月にビール類の税額が変わり、改めて「第三のビール」に注目が集まっています。そもそも「第三のビール」とはどのようなお酒なのでしょうか。 その定義や誕生の背景とともに、「ビール」「発泡酒」との違いなどを解説します。
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「第三のビール」とは何か?
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「第三のビール」の定義を知る前に、「ビール」「発泡酒」の定義を理解しよう
「第三のビール」とは、「ビール」にも「発泡酒」にも分類されない、一般的には「第三のビール」や「新ジャンル」と呼ばれるビールテイスト酒類のことで、法律上は「その他の発泡性酒類」となります。
「第三のビール」の定義
酒税法第3条3号
<その他の発泡性酒類の定義>
ビール及び発泡酒以外の酒類のうちアルコール分が10度未満で発泡性を有するもの
つまり、その他の発泡性酒類の定義を語るためには「ビールの定義」と「発泡酒の定義」を理解している必要があります。
そこで、まずはビールの定義から紹介しましょう。
一般に「麦芽・ホップ・水を原料としてに酵母を加えて発酵させたお酒」のことを「ビール」と呼んでいますが、日本では酒税法(第3条12号)により、以下のように明確に定義されています(2021年3月時点)。
<ビールの定義>
次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。
イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
少しむずかしいので、正確ではありませんが、ざっくりと覚えるなら
「ビールとは、麦芽、ホップ、水及び麦その他政令で定める物品を原料として発酵させたもの(アルコール分が20度未満)」
で、メインの原材料が麦芽で、発泡性があり、ビールの味わいのお酒のことをいいます。
上記の「ビールの定義」で定められた条件から外れたものは、酒税法上の「ビール」とは認められません。「ビール」と「第三のビール」は、原料や麦芽比率などが異なります。
次は発泡酒の定義ですね。
それは酒税法の(その他の用語の定義)第3条18号により、以下のように明確に定義されています(2021年3月時点)。
<発泡酒の定義>
発泡酒 麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(第七号から前号までに掲げる酒類及び麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が二十度未満のものに限る。)をいう。
こちらも少しむずかしいので、正確ではありませんが、ざっくりと覚えるなら
「ビールと同じように造られるが、麦芽比率が50%未満又は政令でビールに使用できない原料を一部でも使用したお酒(アルコール分が20度未満)」
で、発泡性があり、ビールのような味わいのお酒のことです。
「発泡酒」は「ビール」とは違って副原料の種類や量などに制限がなく、味や香りにさまざまなバリエーションがあるのが特徴ですが、「第三のビール」ほど自由度は高くありません。麦芽を使用しなければならないなど、一定の条件に従って造る必要があります。
ようやく「第三のビールの定義」
前半で説明したように「第三のビール」とは、「ビール」にも「発泡酒」にも分類されない、一般的には「第3のビール」や「新ジャンル」と呼ばれるビールテイスト酒類のことで、法律上は「その他の発泡性酒類」となります。
<その他の発泡性酒類の定義>
ビール及び発泡酒以外の酒類のうちアルコール分が10度未満で発泡性を有するもの
で、さらに酒税法の(その他の用語の定義)
第3条19号、21号では、その製造方法の違いによって
十九号 その他の醸造酒 穀類、糖類その他の物品を原料として発酵させた酒類(第七号から前号までに掲げる酒類その他政令で定めるものを除く。)でアルコール分が二十度未満のもの(エキス分が二度以上のものに限る。)をいう。
二十一号 リキュール 酒類と糖類その他の物品(酒類を含む。)を原料とした酒類でエキス分が二度以上のもの(第七号から第十九号までに掲げる酒類、前条第一項に規定する溶解してアルコール分一度以上の飲料とすることができる粉末状のもの及びその性状がみりんに類似する酒類として政令で定めるものを除く。)をいう。
の2品目に分類されます。
「第三のビール」が生まれた理由とメーカーのこだわり
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「第三のビール」が造られた背景
2003年、サッポロビールから「ドラフトワン」が地域限定で発売されると、ビール業界に激震が走りました。麦も麦芽も使わない革新的なビールテイストのお酒だったからです。なぜ、そのようなお酒が造られたのでしょうか。
「ドラフトワン」の主原料は糖類やエンドウタンパクです。ホップは使用していますが、麦や麦芽を原料としていないので、「その他の醸造酒」(2003年時点の酒税法では「その他の雑酒」)に分類され、税額は「ビール」や「発泡酒」よりもずっと安く抑えられたのです。
つまり、酒税が大幅に低いぶん、価格の安いビールテイストのお酒を消費者にたのしんでもらうことを目的に、あえて麦や麦芽を使わずに造ったわけです。
2004年に「ドラフトワン」が全国で発売されると、メーカーの期待どおりにその年の大ヒット商品になりました。これを受けてほかのメーカーも追従し、次々と「第三のビール」の新製品をリリース。現在も開発競争が繰り広げられています。
大手ビールメーカーがしのぎを削る「第三のビール」の銘柄
ここでは、「第三のビール」の味わいに対する大手メーカーのこだわりを、代表的な銘柄とともに紹介しましょう。
【本麒麟(キリン)】
ビール類の売上が伸び悩むなか、ヒットを飛ばしている銘柄。ドイツ産の「ヘルスブルッカーホップ」を一部使用することで、上質な苦味のある味わいに仕上げられています。仕込過程でも新技術を採用し、深いコクを実現。「ビール」と比べても遜色のない味わいをたのしめます。
製造元:キリンビール
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【ザ・リッチ(アサヒ)】
プレミアビールを目指して造られた「第三のビール」。麦汁の濃度を高め、「ビール」に限りなく近いコク深さを実現しています。チェコ産のファインアロマホップ「ザーツ」を用いることでさわやかな香りを付加。アルコール度数も6%と高めで、「リッチ」な気分を味わえます。
製造元:アサヒビール
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【「金麦」(サントリー)】
四季に合わせた味わいで商品を展開しているシリーズ。旨味成分を多く含む麦芽と国産麦芽をブレンドした「贅沢麦芽」を原料とし、サントリー独自の「本格二段仕込製法」によって、「飲みごたえと心地良い後味」を実現しています。2021年2月に新ラインナップの「金麦 ザ・ラガー」が登場しました。
製造元:サントリー
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【麦とホップ(サッポロ)】
麦のうまみがたっぷりつまった、ビール好きのための確かなうまさを目指し、うまみが凝縮された麦汁を作り出す「うまみ麦汁製法」を採用。本物の「ビール」に近い味わいを実現しています。
製造元:サッポロビール
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【ゴールドスター(サッポロ)】
サッポロが「麦とホップ」に続けて、「麦とホップとGOLD STARのツートップ戦略」として2020年4月に発売した「第三のビール」。「サッポロ生ビール 黒ラベル」に使われている旨さ長持ち麦芽と、「ヱビスビール」に使われているドイツ産アロマホップを一部使用し、「力強く飲み飽きないうまさ」を実現しています。
製造元:サッポロビール
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「第三のビール」の将来は?
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「第三のビール」は将来的にはなくなる!?
最後に、酒税法改正による税額の変遷とともに「第三のビール」の将来について押さえておきましょう。
財務省による「平成29年度税制改正」を受け、2020年、2023年、2026年と段階的にビール類の税額が変わることが決まっています。
2020年10月以前は「第三のビール」の税額は350ミリリットルあたり28円でしたが、2020年10月に約38円に引き上げられました。
さらに、2023年10月には約47円に税額がアップ。しかも、「第三のビール」「新ジャンル」と呼ばれているものは、「発泡酒」に統合されます。価格の安さを特長として新しく生み出された「第三のビール」ですが、税額が上がるとともに、2023年には「発泡酒」の一部となるのです。
この時点でビール類は、酒税法上は「ビール」と「発泡酒」の2種類だけになるわけです。
そして、2026年10月には、「ビール」と「発泡酒」の税額は一本化され、350ミリリットルあたり約54円に統一されます。
「第三のビール」は税額が上がってもまだまだ安い
2020年10月に「第三のビール」の税額が引き上げられた一方で、「ビール」の税額は引き下げられました。「ビールのほうがお得になったの? 」と考える人もいるかもしれませんが、現時点(2021年2月時点)では、「第三のビール」のほうが手ごろに飲めることに変わりはありません。
「第三のビール」「ビール」「発泡酒」の2020年10月以降の税額を比較して見てみましょう。
◇第三のビール:約38円
◇ビール:70円
◇発泡酒(麦芽比率50%以上):70円
◇発泡酒(麦芽比率25%以上50%未満):約58円
◇発泡酒(麦芽比率25%未満):約47円
ビール類の価格は税額だけで決まるものではありませんが、税額は多少なりとも価格に反映されます。つまり、「価格の安さ」という「第三のビール」の魅力は失われていないといえそうです。
もちろん、2023年10月には「発泡酒」の一部になりますが、個性豊かで品質のよい「第三のビール」の魅力は受け継がれていくことでしょう。
「第三のビール」にはメーカー各社が注力していて、今後も発展が予想されます。いろいろな銘柄を飲み比べてみるのもたのしそうですね。