キルン(乾燥塔)とは? ウイスキー造りに欠かせない設備を解説【ウイスキー用語集】

キルン(乾燥塔)とは? ウイスキー造りに欠かせない設備を解説【ウイスキー用語集】
出典 : David Woods/ Shutterstock.com

伝統的なウイスキー造りで使われる「キルン」という設備を知っていますか? キルンは、その特徴的な形から蒸溜所のシンボルとされてきましたが、近年はキルンを使用する蒸溜所が減少しています。今回はキルンの役割を見直すとともに、日本で見られるキルンも紹介します。

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ウイスキー造りで使用するキルンとはどんな設備?

ウイスキー造りで使用するキルンとはどんな設備?

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キルンの特徴

「キルン(Kiln)」は英語で、「釜」や「炉」を意味する言葉です。ウイスキーの蒸溜所におけるキルンとは、発芽した大麦を乾燥させるための設備のことで、「乾燥塔」とも呼ばれます。

キルンの内部は釜のようになっていて、最下部にある炉でピート(泥炭・草灰)などの燃料を焚き、培燥床と呼ばれる網状の床に広げた大麦を熱風で燻しながら乾燥させることで麦芽(モルト)が作られます。

ウイスキー造りにおけるキルンの役割

ウイスキー造りの工程のひとつに、大麦を発芽させて麦芽を作る「製麦」という工程があります。製麦工程では、大麦を水に浸して吸水させ、発芽室に移して発芽を促し、キルンで乾燥させて麦芽が完成します。

大麦はそのままでは十分に発酵できないので、発芽させてできた酵素の働きで大麦の中のデンプンを糖に分解する必要があります。発芽した大麦をキルンで乾燥させる理由は、発芽の進行を止めるためです。発芽が進み過ぎると発酵に必要なデンプンが養分として使われて減ってしまうので、キルンで乾燥させることで発酵に適した状態の麦芽が作られます。

このように、キルンはウイスキーの原料である麦芽を作るうえで、欠くことのできない設備なのです。

キルンでピートを焚く効果

キルンで、発芽した大麦を乾燥させる際にはピートを焚きます。ピートは、大麦を乾燥させるための燃料として役立つだけでなく、ピートを燃やしたときに発生する煙で大麦が燻されることで、独特の薫香をまとった麦芽(ピーテッドモルト)ができあがります。

麦芽は、ピートを焚く量や種類(採取場所)によって、香りの強さや香りのタイプが変わってきます。このピーテッドモルトの違いにより、蒸溜所ごとにさまざまな個性を持ったウイスキーが造られています。

ウイスキーの風味を表現する言葉に、「ピート香」や「ピーティー」、「スモーキーフレーバー」などがありますが、これらはキルンでピートを焚き染めることでもたらされているのです。

スコットランドのウイスキー蒸溜所のキルン

スコットランドのウイスキー蒸溜所のキルン

Klaus Rainer Krieger/ Shutterstock.com

キルンはスコットランドのウイスキー蒸溜所のシンボル

キルンを外側から見ると、仏塔のような形の屋根に目がいきます。この屋根は「パゴダ(pagoda=仏塔)」と呼ばれるもので、キルンの中に立ち込める煙や燻香が最上部のパゴダ屋根を抜けて、換気ができるように設計されています。

パゴダ屋根は、その特徴的な形から、シングルモルト蒸溜所のシンボルとされてきました。しかし近年は、麦芽を「モルトスター」という専門業者から仕入れるのが一般的で、キルンを使用する蒸溜所は少なくなっています。

とはいえ、いまでもキルンは蒸溜所のシンボルとして多くの人に認識されているため、使用していなくても取り壊したりせず、そのまま残している蒸溜所が多いようです。

キルンが使われているスコットランドのウイスキー蒸溜所

キルンは、自家製麦を行っている蒸溜所で使われています。自家製麦を行う蒸溜所はスコットランドでも少数派ですが、たとえば、以下のような蒸溜所ではキルンが現役で稼働しています。

◇スプリングバンク
◇ボウモア
◇キルホーマン
◇バルヴェニー
◇ラフロイグ
◇ハイランドパーク


ピートは、前述のとおり採取する場所によって特性が異なり、キルンで使用するピートの量や種類によって麦芽の持ち味が変わってきます。そのため、自家製麦が行われている蒸溜所のシングルモルトには、蒸溜所の立地を反映した個性が現れやすいといわれています。

日本のウイスキー蒸溜所で見られるキルン

日本のウイスキー蒸溜所で見られるキルン

mTaira/ Shutterstock.com

ニッカウヰスキー 余市蒸溜所・宮城峡蒸溜所のキルン塔

ニッカウヰスキーでは、余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所で、パゴダ屋根が特徴的なキルンを見ることができます。蒸溜所のシンボルとなっていますが、残念ながら現在は使われていません。ただし、余市蒸溜所のキルン塔は、個人がたのしむ「マイウイスキー」を造るときのみ使われているようです。

なお、余市蒸溜所のキルン塔(第一乾燥塔)は、国の登録有形文化財(建造物)に認定されています。

サントリー 白州蒸溜所のキルン風博物館

サントリーの白州蒸溜所でも、パゴダ屋根を備えたキルン風の建物を見ることができます。こちらは、大正時代に山崎蒸溜所に造られたキルンを復元したもので、シングルモルト「白州」の誕生の歴史や世界のウイスキー文化などについて学べる「ウイスキー博物館」として利用されています。

山崎蒸溜所に現在キルンはありませんが、最後に、山崎蒸溜所とキルンにまつわるエピソードを紹介しましょう。

山崎蒸溜所が稼働を開始した当初、蒸溜所に大量の大麦が運び込まれているのに、キルンからはただ煙が立ち上るばかりで何も出荷されませんでした。そのため、周辺の村人に「蒸溜所内に大麦を食べるウスケという怪物が住んでいる」と訝しがられていたそう。当時は、ウイスキーが長い貯蔵期間を経て完成することを知られていなかったために、こんな噂が生まれたのかもしれませんね。

近年は自家製麦を行う蒸溜所が減り、キルンもほとんど使われなくなっていますが、スコットランドでは今でも蒸溜所のシンボルとして親しまれています。蒸溜所を訪れる機会があれば、キルンにもぜひ注目してみてください。

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