「ドメーヌ」とはどんなワイン生産者? 「シャトー」「ネゴシアン」との違いも確認

「ドメーヌ」とはどんなワイン生産者? 「シャトー」「ネゴシアン」との違いも確認
出典 : Labellepatine / Shutterstock.com

「ドメーヌ」とは、ブドウ畑を所有し、ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまでを一貫して行うワインの生産者のことです。ここでは、「ドメーヌ」の概要や、「シャトー」「ネゴシアン」との違いとそれぞれの特徴、近年注目されている日本のドメーヌについて紹介します。

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ワインのラベルでよく目にする「ドメーヌ」とはどのような意味なのか、「シャトー」や「ネゴシアン」などの関連ワードとともにみていきます。

「ドメーヌ(Domaine)」とは、ブドウ栽培から手がけるワイン生産者

ブドウ畑と白ワイン

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「ドメーヌ」とは、おもにフランスのブルゴーニュ地方で使われる言葉で、自分の畑で栽培したブドウだけを使ってワインを製造する生産者を指します。

畑は所有している場合と契約している場合がありますが、ブルゴーニュでは、ほかの国や地域に比べるとその規模は比較的小さく、またブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して行うためワインの生産量も少なめです。市場に出回る量が少ないだけに、人気のあるドメーヌのワインは入手困難になることもあります。

「ドメーヌ」では一連の作業をすべて同じ生産者が行うこともあり、個性あふれるワインに仕上がる傾向があります。

「ドメーヌ」と「シャトー(Château)」の違い

ブドウ園とシャトー

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「ドメーヌ」と似た言葉に、「シャトー」があります。それぞれの違いと意味を掘り下げていきましょう。

「ドメーヌ」はブルゴーニュ、「シャトー」はボルドーで使われる言葉

「ドメーヌ」と「シャトー」はいずれもブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを行うワインの生産者を指す言葉です。基本的にはどちらも同じ意味合いで使われますが、地域によって呼び名が変わってきます。

フランスの二大銘醸地といえばブルゴーニュとボルドーですが、「ドメーヌ」はブルゴーニュで、「シャトー」はボルドーで使われる呼び名です(一部の例外あり)。

「ドメーヌ」にはもともと「領域」「区画」「所有地」、「シャトー」には「城」「宮殿」といった意味があります。言葉のイメージは「ドメーヌ」にも「シャトー」にも現れていて、「ドメーヌ」は家族経営の小規模な生産者が多い一方、「シャトー」は広大な敷地にシャトー(お城)のような醸造所を構えるなど、規模が大きい生産者が多いのが特徴です。

「シャトー」は、ボルドーワインの生産者を指す言葉でもあります。「シャトー」については、以下の記事も参考にしてください。

ドメーヌ、シャトーで栽培されるブドウ

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「ドメーヌ」と「シャトー」はブドウ畑の所有の仕方も異なる

「ドメーヌ」と「シャトー」は、ブドウ畑の所有の仕方にも違いがあります。ブルゴーニュでは、ひとつの畑を区画ごとや畝(うね)ごとに複数の「ドメーヌ」が所有するのが一般的。一方、ボルドーでは、ひとつの畑をひとつの「シャトー」が所有する形でワイン造りが行われます。

ブルゴーニュでは、広大な畑の場合だと100近い「ドメーヌ」が分割して所有していることもあります。それぞれが自分の所有する区画のブドウを原料に、独立してワイン造りを行っているため、同じ畑の名を冠するワインであっても、「ドメーヌ」の数だけ異なる味わいのワインが存在するのです。

そんなブルゴーニュでも、ひとつの畑をひとつの「ドメーヌ」が単独所有しているケースがあります。そのような畑は、「モノポール」と呼ばれています。

「ドメーヌ」と「ネゴシアン(Négociant)」の違い

ワインセラーで出荷を待つワイン

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「ドメーヌ」の対義語のように使われる言葉が「ネゴシアン」。両者の違いをみていきましょう。

「ネゴシアン」はブドウ畑を所有しないワイン生産者

「ネゴシアン」はフランス語で、「交渉人」や「卸売業者」という意味を持つ言葉。ワインにおける「ネゴシアン」とは、自社でブドウ畑を所有せず、ワインの原料となるブドウやブドウ果汁、ワインなどを買いつけて熟成やブレンド、瓶詰めを行ったり、一部は醸造を行い、自社製品として出荷する生産者を表します。

「ドメーヌ」が小規模なワイン造りを行うのに対し、「ネゴシアン」は大規模な生産ラインを所有し、大量生産できる設備や体制が整っているのが特徴です。

家族経営が多い「ドメーヌ」に対して、「ネゴシアン」は大きな企業が多く、醸造は行わず、瓶詰めされたワインを仕入れてラベルを貼って出荷することもあれば、「ドメーヌ」のように自社の畑を所有しているところもあったりと、形態はさまざまです。

ブドウ栽培からこだわりのワイン造りを行う「ドメーヌ」のワインのほうが、高品質かつ個性的という見方もありますが、「ネゴシアン」ならではの長所も見逃せません。

「ネゴシアン」は複数の農家からブドウやワインを仕入れるため安定した品質を保ちやすいうえ、原料選びやブレンドなどにも優れた見識や技術を有しています。そんな卓越した「ネゴシアン」の存在にも、注目したいところです。

ワインセラーと赤ワイン

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「ドメーヌ」と「ネゴシアン」を兼ねる生産者もいる!?

「ドメーヌ」と「ネゴシアン」は、それぞれのやり方でワイン造りを行っていますが、なかには「ドメーヌ」と「ネゴシアン」、両方を兼ねたワイン生産者もいます。

たとえば、ブルゴーニュで活躍する日本人醸造家、仲田晃司氏による「ルー・デュモン」は、ネゴシアンとしてワイン造りをスタートしました。その後、自社畑を所有する「ドメーヌ」としてのワイン造りにも着手しています。

ほかにも有名どころでは「ドメーヌ・ルロワ」や「フェヴレ」、「ルイ・ジャド」「オリヴェイ・ルフレーヴ」「アルベール・ビショー」「ルイ・ラトゥール」なども、「ドメーヌ」と「ネゴシアン」、両方の顔を持つ生産者として知られています。

ワインのテイスティング

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【番外編】「ドメーヌ」と「メゾン(Maison)」の違いは?

「ドメーヌ」がブルゴーニュで使われるのに対し、フランス語で「家」を意味する「メゾン」は、おもにシャンパーニュ地方の生産者を指します。

「メゾン」には、以下の3つの形態が存在します。

◇レコルタン・マニピュラン(RM)
「ドメーヌ」のようにブドウ栽培から醸造までを一貫して行う生産者。

◇ネゴシアン・マニピュラン(NM)
栽培農家からブドウを買い取り、シャンパンを造る生産者のこと。なかには自社でブドウ畑を所有しているケースもあります。

◇コーポレート・マニピュラン(CM)
ブドウ農家が協同組合を作り、それぞれが卸したブドウを原料に組合でシャンパーニュを造る醸造形態。

日本の「ドメーヌ」にも注目

ワインとワイングラス、ボトル

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ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまで行う「ドメーヌ」は、ブルゴーニュだけでなく、日本にも存在しています。ワイン好きから注目を集めている日本の「ドメーヌ」を紹介します。

Domaine Takahiko(ドメーヌ タカヒコ)|ピノ・ノワールにこだわる北海道の生産者

ドメーヌ タカヒコは、国内外で注目される北海道余市町の自然派ワイナリー。北海道のなかでは比較的温暖で降水量が少なく、ブドウの栽培にも適した土地に、曽我貴彦氏がドメーヌ タカヒコを設立したのは、2010年のことです。

ドメーヌ タカヒコでは、ピノ・ノワール一筋にビオロジック(有機栽培)で栽培管理を行い、農業従事者にしか造れないワインの個性を追求。野生酵母や全房発酵といった特長を活かし、余韻が長く旨味のある香味でファンを魅了し続けています。

ちなみに、曽我氏の実兄は、日本のワイン造りに新風を吹き込んだ小布施ワイナリー(長野県)の当主、曽我彰彦氏。小布施ワイナリーも日本を代表するドメーヌとして知られています。興味がある人は、以下の記事もぜひ読んでみてください。

ブドウ園と赤ワイン

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Domaine Mie Ikeno(ドメーヌ ミエ・イケノ)|八ヶ岳の麓でこだわりワインを生産

醸造家、池野美映氏が「自社畑100%のブドウで高品質なワインを造りたい」という思いを抱き、2007年の春、八ヶ岳山麓の小高い丘陵地にてワイン用のブドウ栽培をスタート。4年後に醸造所を建設し、ドメーヌ ミエ・イケノが誕生しました。

耕作放棄地を少しずつ開拓し、「猫の足跡畑」と名づけた自社畑で栽培するのはシャルドネ、ピノ・ノワール、メルローの3品種。除草剤や化学肥料、殺虫剤を使用せず、粒の一つひとつをていねいに育てています。

醸造には、国内初となる重力を利用した「グラビティ・フロー・システム」という手法を採用。機械による人工的な作業に比べてブドウやワインへの衝撃を軽減でき、ブドウの繊細な個性を活かしたエレガントで個性的なワイン造りが可能になるといいます。

ドメーヌ ミエ・イケノが目指すのは、八ヶ岳の自然をそのまま詰め込んだような、凛として優雅なワイン。機会があったらぜひ味わって、雄大な自然の営みを感じ取ってみてください。

「ドメーヌ化」とは? 日本酒や焼酎の蔵元が目指すこだわりの酒造り

日本の酒蔵

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「ドメーヌ」の生産形態をほかのお酒に置き換え、原料の栽培から製造までを一貫して手がけるお酒造りを「ドメーヌ化」と表現することがあります。近年では、自社のブランディングに「ドメーヌ化」を掲げる蔵元も登場するなど、その波は広がりを見せつつあります。

大量生産ではなく、手造りの質にこだわった酒造りのドメーヌ化は、日本酒や焼酎の世界にも広がっています。その代表的な例として挙げられるのが、「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」で知られる愛知県の蔵元、萬乗醸造です。

萬乗醸造の15代目当主・久野九平氏は、自社田で収穫された米を原材料とし、機械ではなく職人の手で日本酒を造り上げることにこだわっています。萬乗醸造が酒米用の田んぼを購入したのは2010年のこと。その後、隣接する土地に酒蔵を建造し、ドメーヌ化を実現しました。

久野氏が栽培方法や土壌にとことんこだわり、黒田庄の山田錦を原料に造り上げたのが、「醸し人九平次」という日本酒銘柄。現在は、フランス・パリの三ツ星レストランのワインリストにも載るほど、評判となっています。

多くの「ドメーヌ」では、生産者である醸造家が、土地造りやブドウ栽培、醸造、瓶詰めまでの工程に深く関わり、ワイン造りを行っています。「ドメーヌ」によるワインを飲む際は、その特徴やこだわりを知っておくと、より深くたのしめそうですね。

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