フルーティーな日本酒の特徴と人気銘柄
「フルーティーな日本酒」という表現を、耳にしたことはありませんか? 果実を使っていないのに、どうしてフルーティーな香りや味を感じるのでしょうか。ここでは、フルーティーな日本酒の秘密について、紐解いていきます。
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フルーティーな日本酒ってどんなお酒?
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フルーティーな日本酒の香りの種類
日本酒は銘柄ごとにさまざまな香りを有しています。原料由来のものや発酵、熟成などの製造工程によって生まれる香りが、じつに100種類以上あるといわれています。
数ある香りのなかでも、果実のように甘く華やかな芳香を持つお酒は、「フルーティーな日本酒」と呼ばれます。この香りのフルーティーさは、リンゴやパイナップル、バナナ、メロン、ぶとう、白桃、洋ナシといったフルーツにたとえられます。
フルーティーな日本酒は飲みやすいものが多いので、ビギナーが日本酒の入り口としてたのしむときにもオススメです。
フルーティーな日本酒は吟醸酒系のお酒に多い
リンゴやバナナのようなフルーティーな香りは、「吟醸造り」という製法で造られる吟醸酒系のお酒に多く見られます。吟醸酒系のお酒は、「吟醸酒」「大吟醸酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」の4種類で、いずれも「特定名称酒」に分類されます。
なお、特定名称酒を名乗るには、いくつかの条件を満たす必要があります。たとえば、純米を冠する日本酒を造る場合は、醸造アルコールを添加せずに米と米麹と水だけで造ることや、吟醸酒は精米歩合60%以下、大吟醸酒は精米歩合50%以下にすることなどが規定されています。
日本酒は米が原料なのにフルーティーに感じるのはなぜ?
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フルーティーな日本酒を生み出す吟醸造りとは?
「吟醸造り」とは、高度に磨き上げた米を長期低温発酵させる製法のこと。吟醸造りで醸すと、華やかでフルーティーな「吟醸香」を持つお酒が生まれます。
この「吟醸香」のもととなっているのは、酵母の力で米が発酵する際に生まれる「エステル」という化合物です。エステルは、おもに熟したフルーツや植物が有する香気成分でもあるのです。
エステルを代表する香気成分には、バナナのような香りを放つ「酢酸イソアミル」や、パイナップルのような香りを放つ「カプロン酸エチル」などがあります。吟醸酒系のお酒には、果実に特有の香気成分と同じ成分が豊富に含まれているうえ、アルコールやほかの成分との相乗効果によって、フルーティーに感じるんですね。
フルーティーな日本酒を造る「酵母」の役割
フルーティーな日本酒を造るのに、大きな役割を果たしているのが「酵母」です。酵母は、糖をアルコールに分解する際、とくに吟醸造りをすると、一緒に香気成分(エステル香)を作り出します。その代表的な成分が、前述した「カプロン酸エチル」や「酢酸イソアミル」です。
日本醸造協会が頒布している「きょうかい酵母」のなかには、吟醸香のもとになる成分を高生産できるように開発された酵母が多数存在します。なかでも「きょうかい1801号」は、「カプロン酸エチル」の高生産酵母として知られ、鑑評会用の出品酒などに多く用いられています。また「きょうかい7号(真澄酵母)」や「きょうかい6号(新政酵母)」は、「酢酸イソアミル」由来の吟醸香を生産する酵母として知られています。
近年では、福島県の「うつくしま煌酵母」や、高知県の「CEL-24酵母」、月桂冠の「ヒーロー酵母」のように、華やかな吟醸香を高生産する酵母を独自に研究開発する組合や蔵元なども増えてきています。
フルーティーな日本酒の人気銘柄4選
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フルーティーな日本酒の人気銘柄:「獺祭(だっさい)」
フルーティーな日本酒の代表銘柄といえば、世界的にも有名な「獺祭」です。山口県岩国にある旭酒造のブランドで、ラインナップすべてが純米大吟醸酒。メロンやマスカットのような華やかな香りが特徴で、口に含んだときに蜂蜜のようなきれいな甘味も感じられます。酒造好適米の「山田錦」を二割三分、三割九分などと、精米歩合を変えて醸したものを多数揃えているので、磨きによる味の違いを堪能できます。米を磨いたものほど、軽やかですっきりした味わいを強く感じられるでしょう。
製造元:旭酒造株式会社
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フルーティーな日本酒の人気銘柄:「醸し人九平次(かもしびとくへいじ) ル・カー ボヤージ」
日本酒でありながら、フルーティーな味わいや洗練されたボトルがワインを彷彿とさせる「醸し人九平次」。この酒を醸すのは、愛知県名古屋市に蔵を構える、創業1647年の由緒ある老舗蔵・萬乗醸造です。
「醸し人九平次 ル・カー ボヤージ」は、前菜とのペアリングを想定して造られた日本酒で、桜桃や洋ナシのようなしっかりとした香りが感じられます。調和した厚みのある甘味と酸味、そしてかすかな苦味に、熟成した果実感があり、長く続くやわらかい余韻をたのしめます。
製造元:株式会社萬乗醸造
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フルーティーな日本酒の人気銘柄:「風の森 秋津穂(あきつほ)」
フルーティーでフレッシュな香味が特徴の「風の森」は、奈良県・油長酒造の代表的なブランドです。生酒にこだわった独特の風味や味わいで、一躍人気銘柄の仲間入りを果たしました。
創業300年以上の歴史を持つ老舗蔵ですが、この銘柄が誕生したのは平成10年(1998年)と最近のこと。蔵からほど近い、風の森峠で収穫された酒米「秋津穂」で造る「風の森」シリーズには、洋ナシのようなさわやかな香りと、ふくらみのあるキレのよい味わいが備わっています。
製造元:油長酒造株式会社
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フルーティーな日本酒の人気銘柄:「一ノ蔵 ひめぜん」
「一ノ蔵」は1973年(昭和48年)に、宮城県内の4つの蔵元が集まって設立した会社で、伝統を守りながら未来を見据える酒造りを行っています。そんな蔵が醸す注目銘柄のひとつが、フルーティーな低アルコール日本酒で、とくに女性に人気の「ひめぜん」です。
大きな特徴は、アルコール度数8%の軽やかな飲み心地。極甘口ながら清々しい飲み口と、すだちやかぼすを思わせる爽快な香りも魅力です。冷やしても熱燗にしてもおいしくいただけます。
また、スパークリングタイプの「すず音」も、フルーティーな味わいで人気があります。
製造元:株式会社一ノ蔵
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フルーティーな日本酒は、酵母などの原料や、吟醸造りなどの製法、米の精米歩合など、さまざまな要素を掛け合わせることで育まれます。また、吟醸酒に限らず、造りの工夫によって、フルーティーに感じられるお酒もあります。お店の人に聞きながら、華やかに香る銘柄を探してみてはいかがでしょう。