東京都・浅草橋『水新はなれ 紅』/町中華とワインのペアリングを学ぶ

東京都・浅草橋『水新はなれ 紅』/町中華とワインのペアリングを学ぶ

浅草橋駅からほど近くにある“町中華”の老舗『水新(みずしん)菜館』。2018年秋、この店に隣接する家屋で、ソムリエである跡継ぎがワインバー『水新はなれ 紅』を開業。町中華とワインの絶妙なペアリングがたのしめると評判です。その詳細のレポートに加え、家庭での中華料理とのペアリングについてコツもお聞きしました。

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母屋的存在の中華料理店は、1897年に創業

駅近の交差点で営む、昔ながらの中華料理店。

今回中華料理とワインのペアリングを披露、家庭でも活用できる術を教えてくれるのは、オープンして1年半ほどのワインバー『水新はなれ 紅』。しかしこの店についてレポートする前に、まずその母体となっている『水新菜館』について説明させていただくのがわかりやすいでしょう。

問屋街の浅草橋らしい下町の風情漂う一角で、真っ赤な看板が存在感を放っている『水新菜館』。中華料理店として営業を始めたのは1974年のことですが、「私の高祖父(=ひいひいおじいさん)にあたる寺田新次郎が、最初はフルーツショップとして1897年に創業したようで、父の代になり中華料理店に業種替えしたのです」と、『水新はなれ 紅』のオーナー寺田泰行(やすゆき)さん。

フルーツは“水菓子”。“水新”という名は、新次郎さんの水菓子屋に由来しているようです。泰行さんの父で『水新菜館』の店主である規行(のりゆき)さんは、大のワイン好き。現在では流行の町中華のジャンルで多彩なメディアの取材が引きも切らない有名店ですが、ゲストが希望すれば規行さんが目利きしたワインも味わえるという、ちょっと不思議な店なのです。

蛍光灯が走る雲が浮かんだ天井…。好奇心を刺激するノスタルジックな店内。

庶民的な献立の狭間に、「おこげ」「フカヒレ」「イベリコ」といった名称も。じつは本格的な中国料理でも食通の舌を唸らせているのです。

いつもイタリアンカラーのファッションで粋にもてなす規行さんと、ばっちりソムリエスタイルの泰行さん。

カウンターのみの隠れ家で、中華&ワインを堪能

大理石トップのL字型カウンターは9席のみで、予約が必須。

さてここからは本題の『水新はなれ 紅』に。オーナーでシェフソムリエ、点心などの調理も行う泰行さんは、フレンチの名店『トゥール・ダルジャン東京』で10年間勤務。日本屈指のグランメゾンでサービスを担当していました。まだ30歳代半ば、第一線で活躍しているのになぜ実家に戻られたのか? 疑問に感じる人は少なくないでしょう。

「私はひとりっ子だったので、店を継ぐことを決めていました。少し早かったかも知れませんが、父が70歳を迎えた節目に戻ったのです」と泰行さん。でも当初は『水新菜館』のホールや厨房に入り、手伝うことを想定していたようです。

「店に隣接する廃屋に近い物件を活用できないかと考えていたら、こぢんまりしたワインバーを造ることを閃きました。この下町にはこれまでなかった革新的なお店を開いてみたいと思うようになったのです」。
『水新菜館』の手伝いをしながら準備を進め、2018年秋のオープンに漕ぎつけました。

左端が『紅』、『水新菜館』とは裏側で繋がっています。

周辺にはあまり見かけられない、シックな外装。

視線を上げると、黒と赤のコントラストが艶やかな感じです。

店名の“紅”はHongと英字を当て、“ホン”と発音します。「中国で“赤”の意味です。赤ワインのことを紅酒と書くんですよ。中国の料理にワインを合わせる店にぴったりでしょう」。掲げた看板も店内も紅色が基調。扉を開けた瞬間から、これから始まる非日常の時間への期待が膨らんでいきます。

点心など泰行さんがカウンター内で用意する料理もありますが、母屋の厨房で調理されたできたて中華が基本。バーらしくハーフサイズのオーダーも可能です。合わせるのは泰行さんが世界中から選んだワインを、バイ・ザ・グラスで。「月ごとに国やテーマを決め、希望されれば料理ごとに提供しています。もちろんボトルでもお出しできますが、いろんなワインをグラスで召し上がっていただくのが当店のスタイルですね」。

驚くのはそのグラスワインの価格。1000円~1500円が中心なのですが、「この価格でお店は大丈夫なの?」と、つい心配になってしまいそうな質の高いワインが供されます。「実家なので家賃がゼロ。ほぼ私のワンオペレーションかつ母屋の厨房でスタッフの増員もなく対応しているので、リーズナブルにお出しできるんですよ」とにこり。

多忙なかたわら、ワインスクールで講師も務め、ワインの普及にも携わっている泰行さん。思い入れの深い浅草橋の地で価格を凌駕するワインを味わってもらい、より多くの人々にワインの魅力を知ってもらいたいのだとか。ワイン好きにとって、この上ない素晴らしい店と言えるでしょう。

庶民的な中華料理とワインが織りなす甘美な世界

ワインのセレクトはもちろん、その話術にも魅了されるゲストも多い。

さてここからは、誰でも知っている町中華と泰行さんセレクトのワインペアリングの検証です。ちなみにワインは店のコンセプトを反映して世界各国から。ワールドワイドなマリアージュの世界をたのしんでいきましょう。

※紹介した料理は、ハーフサイズのオーダーも可能です。
※ワインは取材時の品揃えからチョイス。
※金額は取材時のもので、すべて税込みとなります。

餃子×スパークリングワイン(スペイン)

ジューシーな餃子(6個520円)。

格式ある料理店ならまず冷菜からとなるのでしょうが、「町中華なのですから、気取らずに餃子からでよろしいかと。餃子にはビール。やはり泡がふさわしいと思います」。
餃子はしっかり油で焼いているので、スパークリングワインの泡がその油を流してくれることで食欲が増進する効果があるそう。さらに「シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵のタイプがおすすめ。滓(おり)からワインに抽出される旨味成分が、餃子の野菜や豚肉の凝縮した味わいと調和するのです」。今回用意されたスパークリングワインは、当サイトでおなじみのスペインのカバ『セグラヴューダス』です。

瓶内二次発酵させたスパークリングワインがベター。

バンバンジー×シャルドネ(南アフリカ)

まったりした食感のバンバンジー(850円)。

ここで前菜の登場。漢字で書くと棒棒鶏、鶏肉を用いた冷菜です。さっぱりした胸肉をコクのある胡麻ダレでいただきますが、ペアリングのポイントは胡麻ダレとの相性。
「フランスだとバターやクリームソースを使った料理には、樽を効かせたり、マロラクティック発酵(MLF)させたシャルドネのワインが合います。今回は胡麻ダレのクリーミーさに注目して、ふくよかなシャルドネを。樽由来のナッツのようなフレーバーと胡麻の香ばしさが重なる感じもたのしめますよ」。

シャープではなく、厚みのあるシャルドネを。

エビのチリソース×ゲヴェルツトラミネール(イタリア)

ピリリと辛いエビのチリソース(1680円)。

「チリソースの辛さにどう合わせるかが大切です」と泰行さん。そこで選んだのがゲヴェルツトラミネール。
「甘口とまではいきませんがオフドライぐらいの甘やかなタイプが、こうした辛口の料理に合うんです。スイカと塩、カレーとラッシーが合うのと同じイメージですね」。
さらに品種ならではのボリューム感も欠かせないそう。
「エビなどの甲殻類は旨味が凝縮していて、嚙めば噛むほど味が出てきます。ライトなワインだと負けてしまうので、アルコール度数が14度ぐらいあるゲヴェルツトラミネールはまさに適役なんですよ」。

ライチのような香りが特徴的なゲヴェルツトラミネール。

酢豚×オロロソ(スペイン)

イベリコ豚を使用した酢豚(1680円)。

“紅”の代名詞的な組合せ。オロロソはスペインの酒精強化ワイン・シェリーの一種で、より熟成させた古酒にあたります。「一般的なシェリーでなく、酸化熟成させたオロロソというのがミソですね」と悪戯っ子のような笑いを浮かべる泰行さん。
香りを取ってみて、その意図がすぐ理解できました。まさにこれは紹興酒、合わないはずがないのです。ちなみにスペインはオムレツにトマトソースをかけるように、トマトをふんだんに消費する国。ケチャップが利いた酢豚が、スペイン固有のワインと相性が良いというロジックも腑に落ちました。

外観も紹興酒に似ているオロロソ。

餡かけ焼きそば×ピノ・ノワール(フランス)

『水新菜館』名物の餡かけ焼きそば(950円)。

締めのごはんものは“スペシャリテ”の餡かけ焼きそば。訪れるゲストはほぼオーダーするという看板メニューです。
「何と言っても特徴は麺です。一度麺を茹でて冷まし水気を飛ばします」と惜しげもなく、企業秘密? を公開。
さらに油を回してほぐした麺を、毛糸玉を作るようにボール状に巻いていきます。こちらを焼くと、外はカリカリ中は蒸されてしっとりと、2種類の食感がたのしめるのです。

持ち上げてみると、外カリ、中フワが一目瞭然。

餡は8品目の具材を、煮干しと鶏ガラに豚も加えたスープで炒めて最後はオイスターソースで仕上げ。
「これだけ食材が豊かで味付けが複雑だと、料理にどのワインとも重なる要素があるので、お好きなワインで召し上がっていただけるんです」。
選択肢が多々ある中で登場したのは締めにふさわしい、優美なフランスのピノ・ノワール。マリアージュポイントは、「オイスターソースの濃厚な甘さに、ピノ・ノワールの樽由来のジャムのようなニュアンスを合わせてみました」。
最後を飾る優雅な組合せに脱帽です。

心地よい甘さをもつピノ・ノワール

今回は惣菜屋さんで購入できたり、わが家で作りやすい料理を中心に紹介してきたので、もし可能なら家でペアリングをするコツを教えていただきたいもの。「ご家庭では何本もワインを開けるのは難しいでしょうから、1本に絞ってみましょう」と推薦されたのは、餃子と合わせた瓶内二次発酵のスパークリングワインです。

「中華料理には旨味のあるものが多いので、ボトルの中で滓(おり)と接してきた旨味のあるワインは外さないんです」。
さらに「ワインの温度変化に料理を合わせていくのがポイントで、6~8℃で餃子や冷菜、12℃で酢豚などの温かい料理、もう少し上げれば、デザートの杏仁豆腐にもぴったりです。もし泡で通すのが苦手なら、エビチリに合わせたゲヴェルツトラミネールでもいいですね」。
ゲヴェルツトラミネールの場合もスパークリングワイン同様、温度には配慮して合わせましょう。

水新はなれ 紅
東京都台東区浅草橋2-1-1
TEL/ 03-5839-2077
※昼間の予約や問い合わせは水新菜館(03-3861-0577)へ。
アクセス/ JR浅草橋駅東口より徒歩3分または、都営浅草線A4出口より徒歩1分。
営業時間/18:00~23:00※金曜日は~24:00
定休日/日、第2・4土


水新はなれ 紅の詳細はこちら

フレンチのグランメゾンでの経験が存分に活かされた、中華とのワインペアリングはいかがでしたか? ビールと紹興酒も確かに美味しいのですが、スパークリングワインやオロロソをホームパーティーなどで提案すると、その意外性とオシャレ感にきっと場が盛り上がることでしょう。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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