ビールの香りを生み出す3つの要素とは?
ビールの香りは、使用する原材料や造り方、添加する副原料などによって異なりますが、基本的には「エステル香」「モルト香」「ホップ香」の3つの香りの組み合わせからできています。今回は、そんなビールの3つの香りについて紹介します。
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ビールの香り(1)「エステル香」とは
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酵母の働きから生まれる「エステル香」
ビールの香りの代表格とされる「エステル香」とは、酵母の働きによって麦汁が発酵する際に生まれる香味成分のこと。
ビールを飲んだときに感じられる、フルーティーで芳醇な香りのもととなるもので、ビール酵母の種類や育成方法などによって、その香りも少しずつ異なります。
「エール酵母」の香りと「ラガー酵母」の香り
ビール酵母は世界中に数多く存在しますが、大きく以下の2種類に分けられ、発酵によるエステル香の特徴もそれぞれ異なります。
ひとつは「エール酵母(上面発酵酵母)」と呼ばれる、約15~25度で発酵するもの。バナナやリンゴ、プルーンなどフルーツのような香りが特徴で、これを使ったビールには「ヴァイツェン」や「ペールエール」などがあります。
もうひとつが「ラガー酵母(下面発酵酵母)」と呼ばれるもので、こちらは約5~10度の低温で発酵します。エール酵母に比べて香味成分が少なく、穏やかですっきりとした香りが特徴です。おもに「ピルスナー」や「ラガー」などのビールに使われています。
ビールの香り(2)「モルト香」とは
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麦芽の乾燥温度によって異なる「モルト香」
「モルト」とは、ビールの主原料のひとつで、大麦を発芽させてから乾燥した「麦芽」のこと。この麦芽による香りを「モルト香」と言います。
モルト香は、使用する大麦の種類によっても異なりますが、香りの違いを生む最大のポイントは、麦芽を乾燥させる際の温度の違い。それによって、パンやビスケットのような風味から、コーヒーのような香ばしい香りまで、さまざまな「モルト香」が生まれます。
「淡色麦芽」と「濃色麦芽」の違い
モルト(麦芽)は一般的に、その乾燥度合に応じて「淡色麦芽」と「濃色麦芽」の2種類に分けられます。
淡色麦芽は、約80度で乾燥させたもので、色は黄金色。多くのビールのベースになります。
濃色麦芽は、約100度以上で乾燥させ、麦芽に焦げ色をつけたもの。さらにキツネ色をした「カラメル麦芽」や、黒に近い「チョコレート麦芽」に細分化されます。淡色麦芽に比べて、香ばしさや苦味が強く、コーヒーやチョコレートの風味が特徴です。
ビールの香り(3)「ホップ香」とは
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ビール独特の苦味を生み出す「ホップ香」
ホップは、アサ科のつる性多年草の植物で、ビールの原料として使われるのは未授精の雌株の花が咲く「毬花(きゅうか)」と呼ばれる部分です。この毬花に含まれる「ルプリン」と呼ばれる成分が、ビール特有の苦味を生み出しています。
ホップ香りのもととなるのは、ホップに含まれる「精油(エッセンシャルオイル)」。これがビール独特の爽快な香りを生み出しています。品種にもよりますが、ヨーロッパ産のホップは雑味が少なく香りが上品、アメリカ産のホップは香りが華やかな傾向があると言われています。
種類によって異なるホップの香り
ホップには多くの種類がありますが、大きく「ファインアロマホップ」「アロマホップ」「ビターホップ」の3種類に分けられます。それぞれの香りの特徴を紹介しましょう。
【ファインアロマホップ】
香りが比較的穏やかで、上品な風味が特徴です。「ピルスナー」や「ベルジャンホワイト」「シュバルツ」などのビアスタイル(ビールスタイル)に用いられることが多く、日本のビールにも多く使用されています。
【アロマホップ】
グレープフルーツやオレンジなどの柑橘系の香りや、スパイシーな香りが特徴的なホップ。クラフトビールでよく使用される「カスケード」と呼ばれるホップもこのタイプです。「ペールエール」や「IPA(インディア・ペールエール)」「ボック」などに使用されています。
【ビターホップ】
その名のとおり「苦味」に特化したホップで、香りよりも苦味を重視しています。「スタウト」などによく使用されています。
ビールの香りは、その酵母、原料麦、ホップの種類の組み合わせにより、「エステル香」「モルト香」「ホップ香」が複雑に組み合わさってできたもの。ブルワー(醸造家)の工夫次第で、まさに無限とも言える多彩な香りが生まれます。ビールを飲む際に、その香りのもとを意識してみれば、より深くたのしめるかもしれませんね。