大阪の日本酒【千利休(せんのりきゅう)】中世の自由都市・堺の復興を願う酒
「千利休」は、かつては酒処として知られた大阪府堺市に、40余年ぶりに誕生した蔵元が生んだ日本酒です。戦国時代に繁栄を極めた自由都市・堺の活力を取り戻すべく、この地に生まれた“茶聖”の名を冠した「千利休」の魅力を、蔵元の誕生秘話とともに紹介します。
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「千利休」は自由都市・堺の復興を願って生み出された酒
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「千利休」は堺の“黄金の日々”の再来を願う酒
「千利休」は、大阪府堺市の堺泉酒造が、かつて国際貿易の拠点として賑わった“自由都市・堺”の活力を取り戻そうとの願いを込めて、2014年に生み出した銘柄です。
堺の地が「納屋衆(なやしゅう)」「会合衆(えごうしゅう)」と呼ばれる商人たちの自治のもとに繁栄したのは、日本が中世から近世への転換期を迎えていた戦国時代のこと。織田信長や豊臣秀吉など、当時の権力者とも渡り合った堺の人々の姿は、1978年に放送されたNHKの大河ドラマ『黄金の日々』でもイキイキと描かれています。
かつての堺は灘五郷に次ぐ名醸地
「千利休」は、経済都市・堺の復興だけでなく、酒処・堺の再生も期して生み出された銘柄です。
今ではあまり知られていませんが、かつて堺の製造業の主役は日本酒でした。江戸時代初期には兵庫・灘と並ぶ酒処として名を馳せ、明治以降も日本酒業界の発展を牽引。一時は100軒近くの蔵元が軒を並べていましたが、大正期をピークに下降線をたどり、昭和46年(1971年)を最後に堺の酒造りの火は途絶えてしまいました。
それから40年余りの年月を経て、かつての酒処・堺に誕生した蔵元こそ、「千利休」を造る堺泉酒造なのです。
「千利休」の蔵元が堺の酒造りを復活させるまで
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「千利休」の蔵元の前身、「さかい銘醸」の誕生
「千利休」誕生の第一歩となったのが、2005年の有限会社さかい銘醸の設立です。堺市で40余年ぶりとなる蔵元の誕生は、同年に政令指定都市になったこととあわせて、堺の町を活気づかせました。
さかい銘醸の酒造りは、他社の酒蔵を間借りして自社ブランドを造るというものでしたが、当初から「いずれは堺市内に自らの酒蔵を」との想いを抱き、まずは酒造りのノウハウを蓄積していきました。
念願の自社蔵を設立し、「千利休」の醸造へ
それから約10年後の2014年、さかい銘醸は念願の酒造免許を取得。小規模ながらも自社の酒蔵を持つ蔵元として再スタートを切るにあたり、社名を「堺泉酒造有限会社」に改名しました。
翌2015年には、いよいよ堺市内で日本酒醸造を開始し、その酒にかつての堺の黄金時代を象徴する“茶聖”の名を取って「千利休」と名づけたのです。
「千利休」は商業と文化の都市・堺の象徴となる“茶聖”
千利休は“茶聖”として知られる茶道の大家ですが、もともとは堺の商家に生まれました。
当時の先進文化であった「茶の湯」に着目した織田信長は、その政治利用を目論み千利休に接近。信長の後を継いだ秀吉は、茶会を主催させるだけでなく、政治顧問としても千利休を重用しました。
こうした時の権力者との関係を通じて、国際貿易都市・堺の繁栄を支えるとともに、先進文化都市・堺の発展にも寄与した千利休は、堺の復興を願う日本酒の銘柄名にふさわしい存在と言えるでしょう。
「千利休」の新蔵から生まれる良質な酒
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「千利休」の酒蔵が10倍規模に拡大!
「千利休」は、堺の復興を象徴する地酒として大きな注目を集めましたが、小規模な蔵元ゆえに、当初は年間で約50石(一升瓶で約5,000本)の生産力しかありませんでした。
生産力増強への努力が実を結んだのは、2016年のこと。堺市内に10倍規模の新蔵「利休蔵」が完成。その年の秋から醸造を開始しました。
「千利休」の酒質が、新たな酒蔵で磨き抜かれる
「利休蔵」は、ただ規模が拡大したというだけではなく、日本酒の味を左右する重要工程を担う「麹室」や、鮮度を維持するための冷蔵設備を完備。さらに水回りも改善されるなど、良質な日本酒造りのための環境が整備されました。
「千利休」の酒質も格段に改善し、話題性だけでなく、その実力も認められるようになっています。今後も「千利休」のさらなる発展に期待が寄せられています。
千利休は「小さな出会いを大切にすることで、大きな出会いに育っていく」との言葉を残しています。堺泉酒造の酒造りは、地域の関係者やスタッフ、さらには家族と、多くの人々との出会いを大切にすることで生まれた酒。「千利休」という日本酒や、この銘柄が象徴する堺という町との出会いを、ぜひ、たのしんでみてください。
製造元: 株式会社 利休蔵
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