ベンチャーが日本酒業界に新たな風を吹き込む
日本酒業界へのベンチャー企業の参入が今話題となっています。なかには、まったく異なる業界の人材が、日本酒業界の常識にとらわれない視点で挑戦するケースもあり、革新的な取り組みが注目を集めています。ベンチャー企業の参入は、老舗の蔵元や販売店が多い日本酒業界にどんな変化をもたらすのでしょうか。
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日本酒業界に異業種からのベンチャー参入
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日本酒業界にベンチャーが参入する理由
日本酒業界は、日本食ブームを背景に世界的な注目度が高まる一方で、国内では人口減少や食の多様化を背景に、出荷量も蔵元の数も減少しています。
そうした現状のなかでも、日本酒のおいしさに魅了された若い世代の人々が、日本酒の新たな未来を創ろうと参入するケースが見られます。
日本酒醸造へのベンチャー参入の難しさ
ベンチャー企業の参入は、日本酒業界に革新をもたらすことが期待されますが、じつは、日本酒の醸造免許を取得するには高いハードルがあります。
免許を取得するには最低でも年間に60キロリットル、4合瓶換算だと8万本以上製造することが条件となります。そのため、小資本での参入は厳しく、ベンチャー企業が日本酒の新しい銘柄を開発しようとする場合は、既存の蔵元への委託醸造や共同事業で行われるケースが多いようです。
日本酒ベンチャーが新たな発想で事業を展開
近年、よく見られる日本酒ベンチャーの取り組みに、Webメディアの運営があります。これは、日本酒に関する情報を幅広く、そして新しい切り口で発信することで、新たな日本酒ファンを生み出し、日本酒市場を拡大することをめざすものです。
柔軟なアイデアから生まれる企画とその広告・発信力は、これまでの日本酒業界には見られなかったもので、その効果が期待されています。
日本酒ベンチャーによる高価格マーケットの開拓
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日本酒ベンチャーの狙いは新規市場
日本酒ベンチャー企業が注目している市場のひとつに、付加価値をつけた高価格マーケットがあります。
近年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された影響もあり、香港など海外ではプレミアムな日本酒が人気を呼んでいますが、「高いと多くは売れない」という今までの日本酒業界の常識に、ベンチャーはどう挑むのでしょう。
日本酒ベンチャーが挑戦する高価格商品の市場
2013年2月に設立された株式会社Clearは、日本酒専門Webメディア「SAKETIME」の運営で知られています。同社が展開するEコマース「SAKE100(サケハンドレット)」では、各地の蔵元と共同でプレミアムな日本酒の開発に挑戦しています。
たとえば、山形県の老舗・楯の川酒造と共同開発した「百光(びゃっこう)」の価格は、なんと16,800円。高額にもかかわらず、世界最大規模のワイン品評会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2019」でゴールドメダルを獲得した、確かな品質で人気を集めています。
企画・開発元:株式会社Clear
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製造元:楯の川酒造株式会社
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※商品価格は記事執筆時点のものとなります。ご購入の際には価格が異なる場合がありますのでご注意ください。
日本酒ベンチャーが東京23区内での自社醸造に挑戦
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日本酒ベンチャーが自社醸造をめざす
日本酒ベンチャーにとって大きな壁となっているのが、先述した醸造免許の取得です。ところが、なかには株式会社WAKAZE(わかぜ)のように、既存の蔵元に委託するのでなく、自社での日本酒醸造をめざすベンチャーも登場しています。
同社は、経営コンサルタントとして活躍していた経営者が、2016年に独立・起業。新しいコンセプトの日本酒の開発をめざし、2018年に「清酒」ではなく「その他醸造酒」のカテゴリーで免許取得を果たしました。
日本酒ベンチャーが開いた三軒茶屋の自社醸造所
同社が東京都世田谷区にオープンした「WAKAZWE三軒茶屋醸造所」は、23区内ということもあって、わずか4.5坪というスペースながら、200リットルのタンク4槽を備え、どぶろくやボタニカルSAKEなど、新たな日本酒造り(酒税法上は清酒に分類されないタイプ)に取り組んでいます。
また、併設の飲食店「Whim(ウィム) SAKE & TAPS」では、日本酒と多国籍料理のペアリングも提案し、大きな話題を呼んでいます。
同社は海外での日本酒造りもめざしていて、すでにパリでの準備が進むなど、三軒茶屋から世界へ、和の風が吹こうとしています。
株式会社WAKAZE
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日本酒業界は今、大きな変化のなかにあります。日本が誇る日本酒文化を未来へつなげたいという願いは、老舗もベンチャー企業も同じです。既成概念にとらわれない新しい発想で、日本酒業界に新しい風を呼び、全体が活性化していくのを期待したいですね。