日本のビールの歴史と国内の大手ビールメーカーを知ろう!
日本のビールの歴史は、現在の大手ビールメーカー発展の歴史といっても過言ではありません。江戸時代に伝わり、明治時代には醸造所が相次ぎ設立。戦後に定着し、今も発展を続けています。今回は、日本のビールの歴史や大手ビールメーカー、クラフトビールメーカーを紹介します。
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日本ビールの歴史とは?
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日本のビールの歴史は意外に古く、その伝来は江戸時代までさかのぼります。日本にビールが伝わった当時から現代までの歴史をみていきましょう。
江戸時代:日本にビールが伝わる
日本のビールの歴史は、江戸時代から始まります。鎖国政策のもと、西洋文化は唯一海外への扉が開かれていた長崎の出島を通じてもたらされてきました。ビールもそのひとつ。そこから国内に広く浸透するには、長い時間がかかりました。
初めてビールを口にした日本人として記録に残っているのは、玉虫左太夫(たまむしさだゆう)という幕末の仙台藩士です。万延元年(1860年)にアメリカへの使節団として派遣されたメンバーの一員である左太夫は、太平洋を航海中にビールを飲んで、「苦味なれども口を湿すに足る」と評価したそう。
明治時代:日本初のビールの醸造所が誕生
日本のビール造りの歴史をたどってみましょう。日本で初めてビールの醸造を行ったのは、幕末の蘭学者である川本幸民(かわもとこうみん)だといわれています。物理・化学分野の翻訳もしていた川本が、その過程でビールの醸造実験にも取り組んだと伝えられています。
日本にビール醸造所が初めて設立されたのは明治2年(1869年)。横浜の外国人居留地で開設された「ジャパン・ヨコハマ・ブルワリー」です。その後、横浜をはじめとした港町を中心にさまざまな場所でビール醸造所が設立されていきました。
多くのビール醸造所はアメリカやドイツなどの外国人によって造られたものでしたが、明治5年(1872年)、大阪市で日本人による初のビール醸造・販売会社が設立されました。渋谷庄三郎氏による「渋谷(しぶたに)ビール」です。
続く明治9年(1876年)、日本初の本格的ブルワリーとして設立されたのが、現在のサッポロビールの前身である「札幌麦酒製造所」。以降、19世紀末期までに続々と大手資本が参入していきます。
戦後:日本にビールが定着し、消費量が伸びる
日本にビールが定着した歴史をひもといていくと、現在の大手ビールメーカーの発展の歴史そのものであることがわかります。
明治9年(1876年)に設立された「札幌麦酒製造所」はのちに「サッポロビール」に、明治18年(1885年)に設立された「ジャパン・ブルワリー」はのちに「キリンビール」に、明治22年(1889年)に設立された「大阪麦酒」はのちに「アサヒビール」に変遷していきます。
日本で爆発的にビールの消費量が増えたのは、昭和30年代から40年代(1950年代後半~1970年代)にかけての高度経済成長期です。それまでビールはビヤホールなどのお店で飲むことが主流でしたが、家庭用冷蔵庫の普及によって自宅での消費が急増しました。
時代が昭和から平成に入ると、ビールメーカーの創意工夫によってさまざまなヒット商品が誕生しました。さらに、グルメブームによる輸入ビールの人気拡大、地ビール製造の規制緩和によるクラフトビールの広がり、発泡酒や第3のビールの台頭など、ビール飲料の人気は多様化・細分化されていきます。
日本の4大ビールメーカー
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日本国内のビールメーカーというと、よく「ビール4社」という言葉を耳にします。大手4社で国内のビール類の売上高の大半を占める状態が続いているのが日本のビール業界。この大手4社を中心に、日本のビール業界の歴史と現状をみていきましょう。
アサヒグループホールディングス
「アサヒスーパードライ」を主力商品としているアサヒビール。その前身は明治22年(1889年)に設立された「大阪麦酒会社」で、明治25年(1892年)に「アサヒビール」の販売を開始しました。明治33年(1900年)にはパリ万博に出品した「アサヒビール」が最優等賞を受賞、日本初の瓶詰生ビールの発売も開始しています。
当時のアサヒビール(朝日麦酒株式会社)は、「缶ビール」「ビール券」「アルミ缶ビール」など、今ではビールのスタンダードともなっているスタイルを“日本初”として誕生させるなど、ビールの新しい形態の先駆者でもありました。
そして昭和62年(1987年)、“日本初の辛口生ビール”として「アサヒスーパードライ」が誕生。ビール業界に革命を起こす大ヒットになりました。
現在の主力商品は「アサヒスーパードライ」。このブランドから派生した「アサヒスーパードライ ザ・クール」「アサヒスーパードライ 瞬冷辛口」「アサヒスーパードライ ドライブラック」などがあります。
また、2021年にはフタが全開できる「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」が登場し、品薄になるほどの人気を集めています。さらに「アサヒスーパードライ」は、2022年3月から、発売36年目にして初のフルリニューアルが実施されています。
キリンホールディングス
前身は明治18年(1885年)に横浜・山手の在留外国人らによって設立された「ジャパン・ブルワリー・カンパニー」。ドイツから醸造技師を招聘(しょうへい)し、麦芽・ホップといった原料や機械設備もドイツから輸入するなど、本格的なビール造りにこだわりました。
こうして明治21年(1888年)に発売された「キリンビール」は、本格的なドイツ風ラガービールとして市場から高い評価を受けます。そして明治40年(1907年)にジャパン・ブルワリーの事業を継承し、「麒麟麦酒株式会社」が設立されました。
ブランド誕生から130年を経て現在も主力商品となっている「キリンラガービール」。平成18年(2006年)、その歴史の1ページを飾る昭和40年ごろの味わいを追求し、当時と同じ熱処理法で造られたのが、「キリン クラシックラガー」です。
もうひとつの人気ブランド「キリン一番搾り生ビール」が発売されたのは平成2年(1990年)のこと。商品名にもなっている一番搾り麦汁しか使わない製法で造られた麦芽100%ビールの味わいは、当時の辛口ブームに一石を投じ、支持層を増やしました。
2018年に発売開始した新ジャンルブランド「本麒麟」が大ヒット。ビール類の魅力化および市場の活性化を目指し、クラフトビールの普及にも注力中で、2021年に「SPRING VALLEY 豊潤<496>」を新発売、同年3月から本格展開を開始した会員制生ビールサービス「キリン ホームタップ」、飲食店向けには「Tap Marché(タップ・マルシェ)」「TAPPY(タッピー)」を提案しています。
サッポロホールディングス
サッポロビールの歴史は、明治9年(1876年)札幌に建設された「開拓使麦酒醸造所」(のちに札幌麦酒醸造所)から始まります。ドイツでビール醸造を学んだ初の日本人、中川清兵衛(なかがわせいべえ)を醸造師に迎え低温で発酵・熟成させたビールは「冷製 サッポロビール」として発売されました。ラベルに描かれた開拓使のマーク「北極星」はサッポロビール伝統のシンボルとなっています。
サッポロビールが製造・販売している「ヱビスビール」は、明治20年(1887年)設立の「日本麦酒醸造会社」から明治23年(1890年)に「恵比寿ビール」の商品名で発売されました。明治33年(1900年)のパリ万博で金賞を受賞するなど世界的に評価の高まった恵比寿ビールを輸送するための貨物駅が、現在の「恵比寿」という地名の起源になっています。
サッポロビールのシンボルである赤い星印がラベルに描かれた「サッポロラガービール」は「赤星(あかぼし)」の愛称で親しまれています。その赤星と対義的に「黒」と親しまれているのが「サッポロ生ビール黒ラベル」。日本のプレミアムビールの草分け的存在である「ヱビスビール」も含め、サッポールビールの3大ブランドです。
サントリーホールディングス
明治2年(1869年)に大阪で創業し、ワインの製造販売をはじめた「鳥井商店」は、大正10年(1921年)に「株式会社 寿屋」を創立。昭和12年(1937年)に国産ウイスキー「サントリー角瓶」を世に送り出して洋酒メーカーとしての地位を確立させました。
そして昭和38年(1963年)、2代目社長の佐治敬三氏は社名を「サントリー株式会社」に改めてビール事業に参入します。当時はキリンビール、アサヒビール、サッポロビールの3ブランドが市場を寡占する状態での挑戦でした。転換点は昭和61年(1986年)の「サントリーモルツ」の発売。「モルツ」は麦100%のワンランク上のビールとしてヒットし、サントリーのビール事業はシェア10%と黒字化目前に迫ります。平成15年(2003年)には「ザ・プレミアム・モルツ」を新発売、そして平成20年(2008年)には新ジャンル「金麦」もヒットしてサッポロを抜き、ついに業界3位に浮上しました。
現在は、プレミアムビールの「ザ・プレミアム・モルツ」ブランド、新ジャンルの「金麦」ブランド、ノンアルコールの「オールフリー」がビール系飲料の三大ブランドになっています。
第5のビールメーカー:オリオンビール
第二次大戦後、アメリカ統治下の沖縄で、経済復興のための第二次産業を興さなければならないという志から昭和32年(1957年)「沖縄ビール株式会社」として設立。一般公募で決まった商品名に合わせ、生産を開始した昭和34年(1959年)に社名を「オリオンビール株式会社」に改めました。そして、国内メーカーの主流であったドイツ風ビールよりも沖縄の風土に合ったアメリカ風に切り替えたのを機に、「沖縄のビール」としての地位を不動のものにしたのです。
主力は生ビール「オリオンオン・ザ・ドラフト」。季節商品として「ザ・ドラフトいちばん桜」などがあるほか、「78BEER」「75BEER」「41BEER」などのプレミアムクラフトビールがあります。
日本のクラフトビール(地ビール)
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クラフトビールの明確な定義は存在しませんが、大手メーカーが量産するビールに対して、「小規模な醸造所で職人が手塩にかけた」ビールといったイメージでしょうか。「地ビール」という呼称もあり、日本酒の「地酒」と同様にこだわりの原料や製法、造り手の思いが込められ、ブームとなっています。そのなかで、話題の2社を紹介します。
ヤッホーブルーイング
「ビールに味を!人生に幸せを!」をキャッチフレーズに、「日本のビール市場にバラエティを提供し、新たなビール文化を創出することでビールファンにささやかな幸せをお届けしたい」(公式HPより)をミッションとした「株式会社ヤッホーブルーイング」。
長野県軽井沢で平成8年(1996年)に設立したエールビール専門のクラフトビールメーカーで、ビールメーカーとしては大手4社、オリオンビールに次ぐ第6位という、クラフトビール業界の最大手です。
そんなヤッホーブルーイングは、社名もユニークなら商品名もユニークです。
◇よなよなエール
アロマホップ「カスケード」の放つ、柑橘系を想わせる鮮やかな香りが特徴のエールビール。その香りとコクを味わうためには、少しぬるめの13℃くらいで飲むのがおすすめです。
◇インドの青鬼
アルコール度数高め、大量のホップを使用した「インディア・ペールエール(IPA)」というスタイル。グレープフルーツのような香りと同時に、強烈なホップの苦味が効いたクセになる味わい。適温は13℃です。
◇水曜日のネコ
ベルギー生まれの「ベルジャン・ホワイトエール」というスタイルで、風味づけにオレンジピールとコリアンダーシードを使用。さわやかな香りとほのかなハーブ感、ホップの苦味を抑えたやさしい味わいです。適温は10℃です。
◇東京ブラック
ローストした麦芽を使用した黒ビールで、スタイルは「ロブスト・ポーター」。強くローストした麦芽の黒さと香ばしさ、深いコクが特徴です。ぬるめの13℃が適温です。
このほか、軽快な飲み口の「僕ビール君ビール」、軽井沢限定の「軽井沢ビール クラフトザウルス」、長野県・山梨県のセブンイレブンとヤッホーブルーイング公式通販サイト「よなよなの里」限定販売の「山の上ニューイ」、そして「ワイルドフォレスト」や「ナショナルトラスト」の定番とその年限定の3種からなる「軽井沢高原ビール」などがあります。
常陸野(ひたちの)ネストビール
茨城県にある日本酒の蔵元・木内酒造合資会社が、平成6年(1994年)の規制緩和によりヨーロッパの本格的ビールを目指して製造に着手、平成8年(1996年)に誕生したのが「常陸野ネストビール」。
英国産の麦芽とホップを原料にした伝統的なエールスタイル。“ネスト”とは“巣”の意味で、茨城県那珂市鴻巣という醸造所のある地名と「ビールを愛する私たちの巣」という意味が込められています。
◇ペールエール
エールの本場である英国産のモルトとホップをふんだんに使い、伝統的醸造法で仕込んだペールエール。アロマホップの華やかな香りが特徴です。
◇アンバーエール
アメリカンアンバーエールスタイルの特徴である赤褐色の色合いに、モルトの芳醇な味わいとホップの香り。絶妙なバランスの香りと旨味とコクが人気です。
◇ホワイトエール
小麦のビールにコリアンダー、オレンジピール、ナツメグなどを加えたベルジャンホワイトエールスタイル。さわやかな香りとやわらかい味わいが特徴です。
◇ヴァイツエン
小麦麦芽を材料に仕込み、バナナのような甘い香りを醸す酵母を使用。酵母をろ過していない、にごりタイプのヘーフェヴァイツェンスタイルで、華やかな香りと爽快な味わいが特徴です。
このほか、ラガースタイルの「常陸野ネストラガー」、米麹を使用したセゾンスタイルの「セゾン・ドゥ・ジャポン」、赤米を使用した「レッドライスエール」、地元産のみかんを使用した「だいだいエール」など、造り手がこだわりぬいた多彩なラインナップがあります。
代表的なビールメーカーの歴史を中心に、日本のビール業界の流れをみてきました。これまでと少し違った見方ができるのではないでしょうか。そして、ビールの奥深い世界をたのしみたいものです。