知っているようで知らないビールの製造工程をわかりやすく解説します

知っているようで知らないビールの製造工程をわかりやすく解説します

ビールの原料といえば、麦やホップを思い浮かべる方が多いと思います。麦やホップが、どのような製造工程を経ておいしいビールに変わり、私たちの手もとに届くのか。麦を発芽させて麦芽を作る製麦工程から始まる、ビール造りの複雑な工程を整理してみたいと思います。

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ビールの独特な色や味わいは、原料麦芽に大きなポイントが

ビールの代表的な原料は、「麦芽」「ホップ」「水」の3つ。この3つの原料を主原料として作られるビールは、世界のビール生産国で数えきれないほどの種類が造られています。

今回は、基本的なビールの造り方の流れに焦点をあてて、ビールができるまでを整理していきます。

■ビール原料の「麦芽」とは
ビール造りに不可欠な原料の一つの「麦芽」とは、発芽した麦のこと。

ビール造りの最初の工程となる「麦芽作り」についてまずみてみましょう。

■製麦(せいばく)工程
麦芽を作る工程は「製麦(せいばく)」と呼ばれています。 
麦芽を作るには、まず、大麦の種子を15℃程度に温度を保った発芽室で水に浸します。発芽の際に発生する炭酸ガスや熱がこもらないように適宜攪拌すると、数日で根が伸びてきます。
この、麦を発芽させる工程を浸麦(しんばく)と言います。

なぜ、大麦の種子をわざわざ発芽させるかというと、この後の仕込工程で必要となる、大麦中のデンプンとタンパク質を分解する酵素が、発芽によって生成されるためです。

次の工程では、水に浸けてから5~6日経過して発芽した大麦を急速乾燥させて、発芽を止める焙燥(ばいそう)という作業を行います。

最初は、低めの温度の温風をあてて湿っている大麦を乾かします。その後、徐々に温度を上げて、酵素の働きが止まらないように80℃を超えたところで焙燥を止めます。

この時点では、まだ発芽した大麦の根が付いているので、次の工程で、この根を取る作業をします。この工程を除根(じょこん)と呼びます。

次に、除根した麦芽をロースターに入れ焙煎(ばいせん)を行います。焙煎する温度の違いで、淡い麦わら色から黒色まで、色のついた麦芽がこの工程で作られます。
85~100℃で焙煎した淡色麦芽を、ビール造りに多く使用すると黄金色のような淡い色のビールになり、160~220℃で焙煎した濃色麦芽を一部使用すると、黒っぽいビールとなります。

以上がビールを造り始める前の、麦芽を作るための製麦工程と呼ばれる工程です。

麦から麦芽へ。独特な香りや色は製麦工程から始まる

Africa Studio/shutterstock.com

ビール特有の苦みや香りのポイントはホップにあり

では次に、製麦工程で作られた麦芽が、どのようにしてビールに変わっていくのかを見てみましょう。

この時点の麦芽は、一粒一粒はまだ麦の形をしています。このままではビールの原料として使用できないので、麦芽を専用の粉砕機に入れ、細かな粒状に砕きます。
次に、温水の入った仕込み釜の中に、ビール造りに必要な量の砕かれた麦芽を投入して、おかゆ状の液体を作ります。
この時に、発芽の際に生成されたデンプンやタンパク質分解酵素が働き、麦芽中のデンプンを糖に、タンパク質をペプチド(アミノ酸が複数つながったもの)とアミノ酸に分解していきます。

デンプンが酵素で分解され、糖化が完了したあと、この液体ををろ過し、固形分を取り除きます。
ろ過後のジュース状のものは麦汁(ばくじゅう)と呼ばれます。
次の工程では、この麦汁に、ビール特有の苦味と香りを与えるホップを加えて煮沸したあと、冷却して発酵タンクに移し入れます。

特有の苦味や香りは仕込みが重要

momente/shutterstock.com

最終的なビールの味の決め手は発酵と熟成工程にあり

発酵工程は、アルコール分ゼロの麦汁がビールへと変わる大切な工程です。

麦汁は、造るビールのタイプにあわせて冷却器で温度調節され(下面発酵の場合は10℃前後、上面発酵の場合は15~20℃)、発酵タンク内に酸素を供給している状態で、麦汁に酵母を添加します。

添加された酵母は、麦汁中の糖を取り込んで発酵が始まり、糖をアルコールと二酸化炭素(炭酸ガス)に変化させていきます。
発酵にかかる期間は、下面発酵で1週間から10日、上面発酵で3~5日です。


発酵が終わった液体は「若ビール」と呼ばれます。
発酵が終わったばかりの「若ビール」は、味が粗く、香りも未熟です。そのため、「若ビール」を低温で時間をかけて熟成させます。熟成することで、気になる香りが揮発してなくなり、味わいも整ってきます。

また、熟成期間中も残った糖分などの発酵が進むことで、炭酸ガスが発生します。この炭酸ガスは、ビールの中に溶け込んでいきます。

味の決め手は発酵と熟成

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品質を保つろ過と熱処理

熟成後のビールは、一般的に品質の変化を防ぐために、ビール内の酵母を取り除くろ過をするか、ビールに熱を加える熱処理をして酵母の活動を止めます。ちなみに、日本ではこの工程で熱処理をしないものを「生ビール」と呼んでいます。

この後に、ビールは缶や瓶、樽に充填され出荷されます。ビールは酸素に触れると劣化しやすいため、ビールの充填時は二酸化炭素を吹き込んで酸素との接触を少なくし、酸化による品質の低下を防ぐように注意を払います。

このように、ビールはさまざまな工程を経て私たちの手元に届きます。
近頃は、酵母が生きたままの状態でたのしめるよう、ろ過や熱処理をせずに、低温で流通させて店頭でも冷蔵で販売しているビールも数多くみられるようになりました。
「ビール」は一つの単語ですが、世の中に流通しているビールのビアスタイルや味わいは多岐にわたっています。
様々なタイプのビールを販売するお店も街中に増えてきました。
多彩な味わいのビールがたのしめるのは、ビール好きにとっては嬉しいですね。

品質を保つろ過と熱処理

momente/shutterstock.com

監修者

伊東幸一

伊東幸一

(一社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ、きき酒師、焼酎きき酒師、日本ビール検定1級、ビアジャーナリスト、フードアナリスト。
好奇心旺盛なため、お酒であれば何でも試してきました。いま最も好きなカテゴリーはビール。時間があれば飲食店や各種お酒関係のイベントに参加。

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