「テロワール」とは? 意味や語源、ワインとの関係、ワイン以外に使われる例をわかりやすく紹介

「テロワール」とは? 意味や語源、ワインとの関係、ワイン以外に使われる例をわかりやすく紹介
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「テロワール」とは、ブドウなど農産物の育成に関わるあらゆる環境要因を指す言葉。その土地ならではの自然環境が産物の個性を左右するという概念を表すこともあります。今回は「テロワール」の意味やワインのテロワールが重視される理由、ワイン以外の食品とテロワールの関係について紹介します。

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テロワールの意味や語源、ワインとの関係について、お酒初心者にもわかりやすく紹介していきます。

テロワール(Terroir)の意味や語源は?

ワインのテロワールを表すイメージ

phb / PIXTA(ピクスタ)

「テロワール」とは、ワインなどの食品の原料となる農産物の栽培・育成に関わる環境要因を表す言葉。その土地ならではの自然環境や伝統的ノウハウなどの人的要素が、農産物やそこから育まれる食品の個性を左右するという概念を指す場合もあります。

テロワールとは、農産物が育つ土地の自然環境を表す言葉

「テロワール」とは、おもにワインの世界で語られる考え方で、農産物が育つ環境要因を表す言葉。環境要因には、農産物を取り巻く気候や地形、土壌などの自然条件のほかに、生産者が持つ伝統的なノウハウが加わることもあります。また、これらの要素のひとつひとつがワインなどの産品の個性を左右するという概念そのものを指すこともあります。

「テロワール」はおいしさや個性、希少性を語るキーワードとして、農産物や食品、酒類などさまざまな産品に用いられています。また、テロワールの考え方や、そこに由来する産品の個性を地域の知的財産として保護する動きは世界各地で注目されており、日本でも多彩な食品・酒類が国内外で保護の対象になっています。「GI(Geographical Indications/地理的表示)保護制度」はその一例です。

ワインの原料になるブドウ

master1305 / PIXTA(ピクスタ)

「テロワール」には明確な定義がなく、これに相当する日本語も存在しないため、説明が難しくなりがち。詳しくは後述しますが、まずはワインのテロワールを例に、かんたんにみていきましょう。

香りや味わいといったワインの個性は、以下のような要素が複雑に絡み合って生み出されています。

◇気候(気温、降水量、日照時間など)
◇地形(標高や斜面の向き、傾斜など)
◇土壌(石灰質、粘土質、腐葉土などの地質や水はけ)
◇人的要素(伝統的ノウハウなど)

同じ品種のブドウを使用したワインでも、地形や土壌が違えば、同じ個性は育まれません。また、同じ銘柄のワインであっても、気候条件が違えばワインの個性は大きく変わります。これがテロワールの考え方です。

斜面にあるブドウ畑

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テロワールの語源は「土地」「土壌」「大地」を表すフランス語の「Terre」

「テロワール(Terroir)」は「土壌」や「土地の個性」を意味するフランス語。語源は「土地」「土」「地面」「土壌」「地球」を意味するフランス語の「テール(Terre)」といわれています。

「テロワール」はフランス語ということもあり、「ワイン用ブドウ産地」の意味で使われるケースが多いのですが、実際はブドウ以外の産品に使われることもあります。

コーヒーの木とコーヒー豆

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広がる「テロワール」主義、日本酒やコーヒーにも

「テロワール」というとワインを一番に連想する人が多いかもしれませんが、チーズやコーヒー、お茶、チョコレート、畜産物や果物、ブランデー、テキーラ、日本酒など、特定の産地で育まれたさまざまな分野の食品・酒類に「テロワール」という考え方が広がっています。

いくつか例を挙げてみていきましょう。

◇チーズ
牛・羊の飼育環境や牧草の種類、伝統的なノウハウが味わいを左右。
例)ゴルゴンゾーラ(イタリア・ロンバルディア州ゴルゴンゾーラ村)、カマンベール ド ノルマンディ(フランス・ノルマンディ地方)など

◇コーヒー
気候や地形、土壌、栽培技術、収穫時期などによって、酸味の質や甘味、コク、アロマなどが異なる。
例)グアテマラ、コロンビアなど

◇お茶
茶葉の栽培環境によって風味が決定づけられる。
例)ダージリン(インド)、宇治茶(京都)など

◇チョコレート
カカオの栽培環境で香味が変化。
例)ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ドミニカ共和国など

◇農産物・畜産品
栽培・飼育環境や自然、農家の持つノウハウによって、その土地ならではの個性が生まれる。
例)夕張メロン(北海道)、松坂牛(三重)など

◇日本酒
米を育む自然環境や水質が日本酒の傾向を大きく左右。さらに蔵に棲む酵母や造り手の技術で唯一無二の個性が育まれる。
例)灘の酒(兵庫)、伏見の酒(京都)、西条の酒(広島)など

ワインのテロワールが重要視される理由

ワインのテロワール

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ワイン造りにおいて、テロワールが重要視されてきた理由をわかりやすく紹介します。

ワインのテロワールとは?

ワインの「テロワール」とは、ブドウ畑を取り巻く環境要因のこと。ここでいう環境要因とは、気候や地形、土壌などを指すのが一般的ですが、醸造家の技術を含む人的要因が加わることもあります。

シャルドネを例に具体例をみていきましょう。

たとえば、ブルゴーニュ地方のシャブリ地区では、ミネラル感が豊かな辛口ワインに仕上がります。これは、冷涼な気候とこの地区独特の石灰質地層に関係しているといわれています。

一方、アメリカ・カリフォルニア州のシャルドネは、トロピカルフルーツのような果実味と、濃厚な味わいが特徴。比較的温暖な気候と日照時間の長さが関係しています。

このように、同じブドウ品種でも、テロワールが異なれば、個性が異なるワインに仕上がります。ここでは、大西洋に隔てられたフランスとアメリカのシャルドネを比較しましたが、道を1本挟んで隣接する畑でも、土壌の違いから個性の異なるワインが育まれることがあります。

品種によって若干の違いはありますが、ブドウは農産物のなかでも土地の個性を反映しやすいことで知られています。ワインの製法は、粉砕。圧搾して得られたブドウ果汁を酵母の力でアルコール発酵させ、熟成・ろ過を経るだけと意外にシンプル。その分、原料の個性が反映されやすい、つまりテロワールの影響を受けやすいといえるでしょう。

ヨーロッパのワイン大国では、古くからテロワールの概念が根づいてきました。なかでもフランスでは隣接する畑ごとに異なる個性があると考えられていて、畑単位でのテロワールの個性が重視されてきました。その土地ならではの特徴を守り、消費者に品質と信頼を保証するべく整備されたのが、「A.O.C.(原産地呼称統制)」です。この制度の誕生によって、ワインは土地の個性を反映した文化的な産物として位置づけられました。

ブドウをチェックするワイン生産者

Cherries / Shutterstock.com

ワインの個性は気候や土壌、地形などのテロワールの要素で決まる

ワインのテロワールは、ブドウが育つ土地の環境要因と、そこに関わる人の営みによって形作られます。これらの要素がブドウの成熟の度合いや成分バランスに影響し、ワインに香りや酸味、糖度、果実味…といった個性をもたらします。

先述した、気候や地形、土壌、人的要素といったテロワールの構成要素がワインにどのような影響を与えるのでしょうか。詳しくみていきましょう。

◇気候
年間の気温や日照時間、昼夜の寒暖差など、気候の違いは、ブドウの成熟度や糖度、酸度などに影響します。また、降水量や気温の変動はブドウの成熟を左右し、病害リスクをもたらすことがあります。
同じ畑、同じ生産者から生まれたワインでも、ヴィンテージ(収穫年)によって味わいが変わり、気候条件に恵まれたヴィンテージは熟成ポテンシャルの高いワインに仕上がることも。

◇地形
標高や斜面の向き、風向き、川や湖の有無といった地形の違いは、日照時間や風通し、水はけといったブドウの生育環境に影響を与えます。

◇土壌
粘土質、石灰質、砂質、岩石といった土壌の質や成分は、ブドウの根に影響を与え、ワインの味わいやミネラル感に違いをもたらします。

◇人的要素
造り手の持つ伝統的ノウハウや技術も、ワインの味わいを左右する要素のひとつ。同じ土地で、品種もヴィンテージも同じブドウで造ったとしても、造り手が変われば個性の異なるワインに仕上がる可能性があります。

古くからテロワールの概念が根づいたブルゴーニュ地方では、数メートルしか離れていない畑でも、土壌や日当たりがわずかに異なるだけでワインの味わいが劇的に変わることがあります。隣接する土地でも、表土の厚さや土壌に含まれる成分、日照時間、水はけなどが微妙に異なるため、最終的にワインの個性や品質にも違いをもたらすからです。

テロワールと高級ワインの関係

Wilm Ihlenfeld / Shutterstock.com

テロワールと高級ワインの密接な関係

高級ワインは、テロワールと切っても切れない関係にあります。

高級ワインというと、ブランド力や歴史的価値、希少性を兼ね備えた価格の高いワインをイメージしますが、その多くは厳選されたブドウと卓越した醸造技術で造られた、時間の経過とともに価値が高まる長期熟成能力を備えたワインです。

こうした高級ワインと密接な関係にあるのが、ブドウの個性を育むテロワールです。すぐれたテロワールを持つ畑で栽培された良質なブドウは希少で、生産数も限定されるため、ワインはおのずと高価になります。気候条件に恵まれた年などは、唯一無二の個性が生まれることもあります。

ワインとチーズ

Igor Normann / Shutterstock.com

ワインのテロワールと料理のおいしい関係

テロワールは、ワインと料理のマリアージュとも深い関わりがあります。

ワインと料理のペアリングには、「色を合わせる」「風味を合わせる」「重さを合わせる」「各を合わせる」などいくつかの方程式が存在します。「同じ土地のものを合わせる(産地を合わせる)」というのも、そのひとつです。

日本酒や焼酎が郷土料理に合うのと同じように、ワインもまた、同じ土地、同じ気候、同じ文化のなかで育まれた食材や料理に調和しやすいといわれています。

近年注目が高まるテロワールと日本酒の関係

日本酒が注がれたグラスと伏流水

eps / PIXTA(ピクスタ)

ワインの世界では「テロワール」の概念が古くから定着していましたが、近年この考え方は、ワイン以外のお酒にも広がりつつあります。

たとえば、日本酒の世界では、米の品種や産地、水の質、気候風土、杜氏の技などが一体となってお酒の個性を形作るという考えのもと、「テロワール」という言葉が用いられるようになってきました。

日本酒独特の風味や口当たりを与える水は、その土地ごとにミネラルの含有量が違います。硬水か軟水かによっても酒質は大きく左右されます。主原料の米も、気候や土壌などの環境要因によって品質や風味が変わってきます。また、日本酒の発酵プロセスも気候風土の影響を受け、雑味の有無など酒質を左右します。

近年では、地域の共有財産としての産地名を保護する日本酒の地理的表示(GI)の仕組みが整備されたこともあり、「テロワール」という言葉を使って地域の個性を発信する動きもみられるようになりました。日本酒造りにテロワールを生かすべく、地元で栽培されたお米にこだわったり、自家栽培に取り組む蔵元も少しずつ増えてきました。

日本酒と同じく日本の國酒である焼酎のなかにも、地元の原料や水を生かし、その地域だけで生産を完結する地域ブランドが存在します。長崎の「壱岐焼酎」、熊本の「球磨焼酎」、鹿児島の「薩摩焼酎」、沖縄の「琉球泡盛」はいずれも地理的表示(GI)の指定を受けており、土地と人の結びつき、つまりテロワールの考え方を基盤にしています。

地理的表示焼酎については、以下の記事で詳しく紹介しているので、こちらも参考にしてください。

近年日本でも「テロワール」という考え方にスポットを当てた商品展開やイベント、ツーリズム、地域活性化に向けた取り組みなどに熱い視線が注がれています。おいしいワインを飲みながら、テロワールという壮大なパワーを秘めた概念に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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