自然派ワイン(ワインナチュール)とは? 定義や農法・製法、選び方やおすすめ銘柄まで紹介

「自然派ワイン(ワインナチュール/ナチュールワイン)」とはフランス語「ヴァンナチュール」の日本語訳。一般的に「できる限り自然の力を活かしてブドウを栽培・醸造したワイン」と認識されていますが、定義はあいまいです。今回は自然派ワインの概要、ビオワインやオーガニックワインとの違い、選び方などを紹介します。
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自然派ワイン(ワインナチュール)の国内外における定義や考え方からみていきます。
自然派ワイン(ワインナチュール)とは?

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「自然派ワイン」と呼ばれるジャンルがありますが、具体的にはどのようなタイプのワインを指すのでしょうか。まずは基本情報から確認していきましょう。
自然派ワインは可能な限り「自然」にこだわって造られるワイン
自然派ワインには、じつは明確な定義はありません。
日本では一般的に、人工的・化学的なものを極力排除したブドウ栽培と醸造をめざし、有機栽培のブドウを原料に、亜硫酸塩(酸化防止剤)をはじめとする化学的な添加を控えめにして造られたワインが、自然派ワインとみなされています。
日本語で「自然」というと、人の手が加わらないあるがままの姿といったニュアンスがありますが、ワイン造りにおいては、すべてを自然任せというわけにはいきません。ワインの出来は、ブドウ産地の天候や日照時間、土壌、造り手の技術など、さまざまな要素に左右されるもの。人の手が加わらない野生のブドウで上質なワインを造るのは至難のワザです。
無農薬・無添加で造るといっても、雑草や害虫からブドウの樹を守りながら良質なブドウを作り、高品質のワインを醸造し、デリケートな品質を保持したまま流通させるには、やはり人の手が入る必要があります。ブドウ作りでも醸造工程においても、しっかり手をかけるからこそ、よいワインが生まれるのです。
とはいえ、日本ではほとんど手を加えず、数値管理などもせずに自然のまま造るのがよいとする考えも根強くあります。さらに日本語の「自然」と、外国語の「Nature」という言葉のニュアンスの違いからも、自然派ワインに対する意見はさまざまに割れているのが現状です。
ちなみにフランスでは、「ヴァン・メトード・ナチュール(Vin Méthode Nature)」という自然派ワインの自主認証制度が2020年にスタート。ブドウは認証を受けているオーガニック栽培で、収穫は手摘み、野生酵母で発酵させる、発酵前・発酵中は亜硫酸塩を添加しないなどの規定を満たしたものだけが「ヴァン・メトード・ナチュール」を名乗り、認証マークをつけることができるというもので、醸造家たちは、自然の恵みを最大限に活かしながらも、厳しい規定に準じて生産しています。
国家の法律ではありませんが、これを機にあいまいだった基準を明文化する動きが加速し、注目を集めています。

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「ナチュールワイン」「ナチュラルワイン」「ヴァンナチュール」など呼び方はさまざま
「自然派ワイン」という言葉は、フランス語の「ヴァンナチュール(Vin nature)」を日本語に訳したもの。英語圏では「ナチュラルワイン(Natural wine)」と表記されますが、日本では「Vin nature」をカタカナ表記にした「ワインナチュール」や英語表記を日本語風にした「ナチュールワイン」も使われます。または単に「ナチュール」と略して呼ばれることもあります。
現状は複数通りの呼び方が存在し、表現の統一がされていませんが、どれも「自然派ワイン」を指す言葉で、基本的には同じニュアンスで使われます。

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自然派ワインの原料となるブドウの栽培方法(農法)
自然派ワインの生産者は、それぞれの考え方に基づいた農法で原料のブドウを栽培しています。栽培方法は、「ビオロジック農法(オーガニック)」「ビオディナミ農法(バイオダイナミック)」「減農薬農法(リュット・レゾネ)」の3つに大別できます。
【ビオロジック農法(オーガニック農法)】
国や地域によっては法制化が進んでいる、「オーガニック農法/有機農法」とも呼ばれる栽培方法。化学的な農薬や肥料、除草剤、殺虫剤などは一切使用できず、鶏糞などの有機肥料のみを使ってブドウを育てます。ただし病害虫予防に「ボルドー液」の使用だけは例外的に認められています。ブドウの収穫は手摘みで行われます。
【ビオディナミ農法(バイオダイナミック農法)】
オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナー氏が提唱した農法。基本的にはビオロジック農法と同じですが、月や星座など天体の動きに合わせて種まきや肥料の散布、収穫といった農作業を行うなど、より厳格な決まりが設けられています。肥料も天然由来の独自の調合剤プレパラシオンを使用します。
【減農薬農法(リュット・レゾネ)】
「サステイナブル農法」とも呼ばれる持続可能性を重んじる農法で、化学肥料や農薬などをできるだけ使わず、環境に配慮しながらブドウを栽培。認証機関がなく、法律で規定されているわけでもないため、栽培方法は生産者に委ねられています。認証に縛られることなく、よいワインを造れるというメリットがある一方で、商業目的でリュット・レゾネを謳うケースもあるようです。

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自然派ワインの製造方法の特徴
自然派ワインは、ブドウの栽培だけでなく醸造方法についても、認証機関の規定に従って、または生産者のこだわりに基づいて造られています。
具体的には、人工の培養酵母ではなく天然酵母を使用する、亜硫酸塩の使用はごく少量か無添加、加熱殺菌やろ過をしない、香料の使用を控えるなどといった醸造上のルールが挙げられます。一般的に、人工的、化学的なものが極力排除されているのが自然派ワインの特徴です。
「自然派ワイン(ナチュールワイン)はまずい」という声も耳にしますが、これは自然酵母で発酵させるため、酸味や香りが際立つことが多いから。熟成不足で未完成な味と感じられてしまうことも、味わいへの違和感の原因になるのかもしれません。また自然派ワインでは保存料や防腐剤の使用も最小限に抑えられるため、保存状態によっては味に影響することもありえます。
自然派ワインとビオワインやオーガニックワインとの違いは?

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ワインには「オーガニックワイン」や「ビオワイン」と呼ばれる種類があり、日本ではいずれも自然派ワインの一種と認識されています。しかし海外と日本では事情が異なるため、おいしくたのしむには、それぞれの概要を確認しておく必要があります。
自然派ワインとビオワインの違い
「ビオワイン」自体は和製英語(造語)で、海外では「ビオ(BIO)」呼ぶのが一般的。「ビオ」とは「有機」「オーガニック」を意味するフランス語の「biologique(ビオロジック)」やイタリア語の「biologico(ビオロジコ)」などを略した言葉です。なお、EU圏などでは「ビオ」と「オーガニック」はほぼ同じ意味で使われていて区別されていません。
「ビオワイン」も自然派ワインの一種で、どちらも環境に配慮して造られるワインですが、哲学(考え方)や農法などに若干の違いがあります。
おもな違いをみていきましょう。

ビオワインについては、さらに詳しく知りたい人は、以下の記事もチェックしてみてください。

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自然派ワインとオーガニックワインの違い
「オーガニックワイン」とは、ビオワインの農法のひとつである「ビオロジック農法」で造られたワインのこと。オーガニックワインはビオワインの一種であり、広義では自然派ワインの仲間ということになります。
ちなみに「オーガニックワイン」の「オーガニック(Organic)」は英語で「有機」の意味。「オーガニックワイン」を一言でいうと、「有機栽培のブドウから造られたワイン」を指します。
自然派ワインとオーガニックワインは、以下のような違いがあります。

なお、日本においても、JAS認証を取得すれば有機JASマークの貼付が可能になります。有機JASマークについては、農林水産省のプレスリリースを確認してみてください。

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自然派ワインと普通のワインの違い
自然派ワインは人の手を極力加えず自然の力を重視した農法や製法が採用されるため、一般的な醸造方法で造られる普通のワインとはさまざまな違いがあります。以下、かんたんにまとめてみました。
◇ブドウを栽培するうえでの違い
自然派ワインは化学肥料や農薬を使わない有機栽培のブドウのみを使用するのに対して、普通のワインは必要に応じて農薬や化学肥料も用いたブドウを使う。
◇醸造法の違い
自然派ワインは野生酵母のみを使用し、発酵もなるべく手を加えず自然に行い、亜硫酸塩(酸化防止剤)も極力使わない。ろ過なども最小限にとどめるため、澱やにごりが生じることがある。
普通のワインは培養したワイン酵母も使用。発酵をコントロールして品質を画一化することもある。亜硫酸塩を添加し、清澄・ろ過を行うのが一般的。
◇保存性
自然派ワインは酸化しやすく保存が難しい。
普通のワインは酸化防止剤を使うため保存性が高く、品質が変化しづらい。
◇その他の特徴
自然派ワインは環境に左右されるため、味にばらつきが生じやすい。
普通のワインは味が比較的均一で安定している。
自然派ワインは二日酔いしにくいって本当?

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「自然派ワイン(ワインナチュール/ナチュラルワイン)は二日酔いしにくい」といわれることがあります。理由として、「自然酵母の使用」「亜硫酸塩などの添加物は使用しないかごく少量にとどめる」という点が挙げられますが、この風説には科学的根拠がありません。
二日酔いのメカニズムは現在も解明されていませんが、ほとんどの場合、原因はお酒の飲みすぎ。自然派ワインも、たくさん飲めば二日酔いのリスクは高まります。なかには、遺伝的にお酒に弱い人もいるので、適正な飲酒を心がけつつ、予防に努めたいものです。
自然派ワインはなぜ高い?

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自然派ワインは普通のワインに比べて価格がやや高めなのは、農薬を使わない、手摘みで収穫するなど、手間暇をかけて造っているから。人の手を加えず、添加物の使用も制限するとなると、菌の増殖や酸化などのリスクがともなううえ、生産量も限られてきます。機械化された大量生産ではないからこそコストがかかり、必然的に単価が上がってしまうのです。
自然派ワインの選び方

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自分で自然派ワインを選ぼうと思っても、種類が多いため初心者にはハードルが高く感じられるかもしれません。そんなときは、自然派ワインのなかでもオーガニックワインやビオワインに付与された認証マークをたよりにするのがおすすめ。EU諸国をはじめ、各地にオーガニックを意味する認証マークがあるので、自然派ワインが気になる人はぜひチェックしてみてください。
ここでは、おもな認証機関を紹介します。
【ビオロジック農法で造られたオーガニックワインを選ぶ場合】
◇ユーロリーフ(EURO LEAF)
EUオーガニック認証マーク。ブドウ栽培や亜硫酸塩についても規定。
◇エコセール/エコサート(ECOCERT)
フランスで設立された世界最大級の国際有機認定機関が認証。
◇AB(Agriculture Biologique)
フランス農務省によるオーガニック、およびビオの認証マーク。基準が厳しく、抜き打ち検査なども行われている。
◇USDAオーガニック認証
アメリカ農務省によるオーガニック認証マーク。
◇ビオシーゲル(Bio-Siegel)
ドイツ政府によるオーガニック認証の統一規格。ユーロリーフと一緒に貼付可能。
◇有機JASマーク
日本の農林水産省が有機食品や有機酒類の検査認証制度に基づいて認証。「オーガニック」「有機」の表記も可能に。
【ビオディナミ農法で造られたワインを選ぶ場合】
◇デメテール/デメター(Demeter)
ドイツ発の国際的なビオディナミ農法の認証ラベル。ブドウの栽培や製法について厳しく規定。
◇ビオディヴァン(Biodyvin)
エコセールに認証されたワインのみに表記。
認証マークをたよりに選んだものの、とっておきをチョイスできない、認証マークのないリュット・レゾネなどの自然派ワインも飲んでみたい、という人には、ワインのプロに相談するのもおすすめです。
自然派ワインのおすすめ

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自然派ワインのなかから、おすすめしたい赤ワイン・白ワイン・スパークリングワインの銘柄を1本ずつ紹介します。
◆シャトー・デュ・シャン・デ・トレイユ
フランス・ボルドーで造られている自然派ワイン。ビオディナミ農法に近い栽培方法を採用していますが、あえてビオディナミの認証を取得していません。芳醇な果実の香りと、洗練されたタンニンが魅力の赤ワインです。
◆プローダー・ローゼンベルグ ヴィヴァイス
オーストリア産の自然派ワイン。ビオディナミ農法で造られていて、ドイツのデメテールの認証を受けています。無ろ過で、亜硫酸塩は不使用です。華やかな香りとやさしい味わいが特長の白ワインです。
◆クロ・テ・レ・ソレレス チャレッロ
スペイン産の自然派ワイン。ビオロジック農法で造られていて、スペイン・カタルーニャのオーガニック認証「CCPAE」を受けています。優美で華やかな香りと、熟成感のある微発泡のスパークリングワインです。
自然派ワインの定義はあいまいですが、フランスで自主認証制度がスタートして以来、基準の整備が進み、今後ますます注目度が高まりそうです。日本でも人気のジャンルなので、機会があれば手間暇かけて造られたワインの味わいをたのしんで、新たなワインの扉を開いてみてはいかがでしょうか。
