山梨県勝沼町『くらむぼんワイン』/体にも地球にも優しい…。古民家でサステナブルなワイン造りを実践
近年地球環境に配慮するサステナブルへの関心が高まっていますが、山梨県・勝沼町の老舗ワイナリー『くらむぼんワイン』では、15年も前から基本的にブドウ畑に肥料を与えず、 化学合成農薬を用いないブドウ栽培に取り組んでいます。“雑草の絨毯”と称される畑を実際に訪れ、醸されたワインを味わってきました。
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雑草を生やしたままの畑で、ブドウを自然栽培
垣根仕立てのブドウの樹の根元を覆うように、雑草が茂っています。
『株式会社くらむぼんワイン』のルーツは1913年まで遡ります。『田中葡萄酒醸造共同組合』『有限会社山梨ワイン醸造』を経て、2006年に株式会社化され『株式会社山梨ワイン』に。現在の社名になったのは創立100周年の2014年で、この年から原料のブドウを100%国産としています。
「『くらむぼんワイン』というユニークな社名は、「宮沢賢治さんの短編童話集『やまなし』で、蟹が話している言葉「クラムボン」に由来しています」と、四代目オーナーで栽培醸造責任者の野沢たかひこさん。
人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりを童話で伝えてきた宮沢賢治に共感して、付けられたとか。そして名前に込めた想いを実際に具現化しているのが、こちらのワイナリーなのです。
ワイナリーから歩いてすぐの自社畑:七俵地畑(シチひょうじばたけ)。
まずはブドウ畑。2007年から自社畑では基本的に肥料を与えず、化学合成農薬や殺虫剤を用いない自然に即した栽培へと転換されています。何かきっかけがあったのでしょうか?
「前年にフランス南西部ジュランソンの『ドメーヌ・ド・スーシュ』で、タンクから飲ませていただいたプティ・マンサン種の白ワインの華やかな香り、心地よい余韻が長く続く自然な味わい…。体に衝撃を受けたかのように感動してしまいました。そして私もこんなワインを造りたいと決意したんです」。
それまでは、雨が多い日本の気候下でブドウを育てるには、化学農薬や化学肥料は必要と使用してきたそう。しかし、ワイナリーの当主・イヴォンヌ女史が自然との共存を目指して、「ビオディナミ(※)」を実践していたこともあり、極力自然に任せ、微生物が土壌を作るのを見守るスタイルに切り替えたのだとか。
「不耕起、無肥料を行った最初の2年間は、腐敗が酷く収穫量も半減。でも3年目から少しずつ回復して、今では以前のレベルに戻りました。当初は周囲の反対も少なくなくて大変苦労しましたが、着実に理想へと近づいていると思います」とにっこり。
※ビオディナミ/有機農法の一種で「バイオ・ダイナミック」とも呼ばれる。肥料や農薬など化学的に合成された物質を用いないことに加えて、天体の運行などにも考慮し、自然の潜在能力を活用している。
まさに“雑草の絨毯(じゅうたん)”。畑なのにまるで森の中にいるような香りが立ちこめています。
もちろん自然に任せるといっても、まったく放置しているわけではありません。どうしても栄養を補わったほうが良ければ、腐葉土や牛糞など自然界に存在する“肥料”を。ヨーロッパの有機栽培で使用が認められているボルドー液(※)も、必要に応じて最低限の量を施しています。でも何よりも畑の手入れをこまめにすることで、風通しを良くし、病虫害の防止に努めているのです。
※ボルドー液/硫酸銅、生石灰、水の混合溶液。ブドウの花や葉そして果実に白いカビ状の胞子を作り、ダメージを与えるベト病などの予防に効果があるとされる。19世紀後半にボルドー大学の教授がその効果を確認したことから、この名がある。
微生物が造ってきた、ふかふかでしっとりとした土壌。
実ったシャルドネの上を、アリがゆっくりと歩いていました。
ワイナリーで使う電力の一定部分を、自家発電で賄う
製造所の屋根は、ソーラーパネルで覆い尽くされています。
ブドウ畑からワイナリーへ戻り、製造ラインの見学です。
畑ではブドウの樹をできるだけ自然に近い環境を創り出して育成。健全なブドウを収穫できるのとともに、土壌もまた自然に近い状態で将来に受け継がれていくように配慮されていました。その想いは製造所にも反映されています。
「同じく地球に負担をかけないという意味で、自家発電にも力を入れてきました。晴天が続く冬場はワイナリーで消費する電力のほとんどが、仕込みの時期でも一定部分を賄うことができています」と野沢さん。
最近はさらにボトルのリサイクルにも取り組んでいて、酒屋などから戻ってきた瓶の一部を再活用しているそうです。
年季の入った製造所のプレートですが、その屋根では近代的な設備で、自家発電が行われているのです。
保管倉庫の屋根にもソーラーパネルの姿。このほか車庫の上にも施されており、徹底されているのが伺えました。
国の登録有形文化財に認定された施設も
元々は養蚕農家の家屋。2階の窓が低いのが特徴です。
そして、くらむぼんワインのシンボル的存在である母屋もまた、サステナブルの証し。現在の山梨市内、かつての牧丘町にあった築130年超の古民家を移築したものだとか。
「今は売店や試飲スペースなどに使用していますが、幼少の頃はここで暮らしていたんですよ。これからも大切に使用して、後世に遺していければと考えています」。
ちなみにこちらの建物は「くらむぼんワイン旧主屋(きゅうしゅおく)」の名称で、2019年に国の登録有形文化財に認定されています。
玄関には長い歴史を感じさせる看板に、登録有形文化財であることを示すプレートも。
現在は座敷の見学はできませんが、新型コロナウイルスが落ち着いたら、試飲会などのイベントが開催されることでしょう。
じつは母屋と同じタイミングで、ワイン貯蔵庫も「くらむぼんワインセラー」として、国の登録有形財に。1階はもちろん、地下にも多くのワインが保管されていました。
「地下は、昔ブドウの貯蔵に使用していたんですよ。ひんやりとした温度のもと、ゆっくりとワインの熟成が進んでいく環境です」。
地下へと続く通路の両壁は石垣という、独特な造り。
専用のサーバーを導入して、試飲を再開
常時6種類の試飲ができるようになりました。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ワイナリーツアーと試飲は休止していましたが、試飲は専用サーバーを活用するスタイルで再開。勝沼のワイナリー巡りをたのしみにしてきたワイン好きを喜ばせています。
専用サーバーに並ぶ6種のワインは、どれも一杯100円。テイスティングしたいボトルのノズルに自らプラカップをセットし、100円硬貨を投入してボタンを押すというシステムです。
適切な温度に保たれたワインを味わうことができます(撮影用にグラスをお借りしましたが、実際はプラカップとなります)。
試飲スペースには、大正時代に使用されていた貴重な醸造用具も展示されています。
ここからはラインナップの紹介ですが、その前に野沢さんにどんなコンセプトでワインを造られているのかをお聞きすることに。
「ブドウの風味をできるだけ多く残すように醸すことを心がけています。濾過は最小限、ワインによっては無濾過の場合も。樽の風味はあくまで味わいに奥行きを与える存在として、果実の風味を補う程度に留めています」。
試飲すると、ラインナップごとに特徴があるものの、共通していたのは“穏やかで優しい”味わい。まるで陽だまりの縁側で過ごしているような温かい気持ちにさせられる、自然体のワインばかりでした。
古民家のショップで、すべてのワインが購入できます。※在庫切れのアイテムを除く。
野沢さんと、フラッグシップワインの『N』の甲州(3,005円)。自社畑のブドウのみで醸したワインで、名前は野沢家の頭文字から(撮影のためマスクを外しています)。
社名をブランド名にした『KURAMBON(くらむぼん)』(1,680円~)は、単一品種で構成。写真のロゼはマスカット・ベーリーAで、1,782円。スパークリングワインもあります。
『蔵』は長年愛されてきたデイリーワインを元に誕生したスタンダードシリーズ(1,507円~)。日常で飲むのにお得な一升瓶があるのは嬉しいですね。
『KURAMBONBON(くらむボンボン)』(1,620円~)。キュートなラベルが女性受けしそうな、キャンディのような甘口タイプ。
ちょっと遊び心のある『Tのきまぐれ 甲州2020』(2,550円)は、期間と数量限定販売。現地訪問ならではのたのしみです。
さてサステナブルな活動に取り組みながら、ワイン造りに精を出しているワイナリーのレポートはいかがでしたか?
造り手だけでなく私たち消費者も、日々飲んでいるワインが地球環境にどのような影響を もたらしているのか考えることも大切だと実感しました。ぜひ雑草の絨毯を見る機会をつくっていただければと思います。
※価格は取材時のもの(税込み)。
※紹介した商品情報は記事執筆時点のものです。購入・サービス利用時に変更になっている場合がありますのでご注意ください。
くらむぼんワイン
山梨県甲州市勝沼町下岩崎835
TEL/0553-44-0111
営業時間/平日13:00~16:00(試飲受付15:30まで)、土日祝10:00~12:00(試飲受付11:30まで)・13:00~16:00(試飲受付15:30まで)
定休日/水曜、年末年始 ※醸造時期などは臨時休業あり。醸造時期は事前に確認して訪問するのが望ましい。
アクセス/JR勝沼ぶどう郷駅よりタクシーで8分
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