生一本(きいっぽん)とは?時代とともに変化した日本酒用語を解説
「生一本」という言葉をご存知でしょうか?日本酒に関わる用語ですが、以前と比べて目にする機会が少なくなってきたかもしれません。今回は、生一本の由来や定義の変化を詳しく解説します。
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「生一本」とはそもそもどんな日本酒?
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「生一本」とはウイスキーで言う「シングルモルト」
「生一本(きいっぽん)」は、酒税法で定められた日本酒(清酒)の製法品質表示基準のひとつ。「ひとつの製造場だけで醸造した純米酒」であることを指し、表示するかどうかは任意となっています。
ウイスキーの場合で、ひとつの蒸溜所で造られたモルトウイスキー原酒のみを瓶詰した商品を「シングルモルト」と呼びますが、「生一本」は日本酒におけるシングルモルトといえるでしょう。
「生一本」の逆、「桶買い」「桶売り」とは?
「生一本」という用語があることから考えると、日本酒にはひとつの蔵元だけで造っていないものもあることになります。現在では、蔵元ごとに、それぞれの銘柄で日本酒を造るのが一般的ですが、じつは、これはごく最近のことです。
1970年代までは、大手の蔵元が、小さな蔵元の日本酒を買い取ってブレンドし、自社銘柄として販売することが珍しくありませんでした。大手銘柄の需要拡大に生産が追いつかなかったためです。
その後、日本酒の需要が縮小する一方で、小規模であった蔵元でも大量生産が可能になるなど、時代の流れから「桶売り」「桶買い」と呼ばれるこの方式は急激に衰退。今ではほとんどの純米酒が「生一本」のような時代となったのです。
「生一本」と「灘(なだ)の生一本」は何が違う?
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「生一本」は、かつての「灘の生一本」のこと
「生一本」は、時代の変化とともに当たり前のこととなり、現在では、その表示の必要性も薄れてきています。
じつは、時代をさかのぼると、「生一本」の定義そのものも変化しています。もともと「生一本」とは「灘(なだ)の生一本」のことを指し、もっとも優秀な日本酒を表す言葉でした。
由来は諸説ありますが、日本屈指の酒処である兵庫・灘地域で造られた、混じりけのない生粋(きっすい)の日本酒との説がよく知られています。加えて、「男酒」とも呼ばれる灘酒の風味が、「生一本」という語感にピッタリだったことからも、「灘の生一本」との表現が定着したようです。
「灘の生一本」と名付けられた銘柄シリーズも
「灘の生一本」は、現在、灘五郷のなかでも単一の製造場のみで醸造した純米酒のことを言います。
灘五郷では、兵庫県産の原料米を使うなど、独自の条件を設けた「灘の生一本」シリーズを2011年からスタート。灘酒研究会に加盟する蔵元で統一ラベルを作成し、蔵元ごとの個性を出した銘柄を発売しています。
灘酒研究会 灘五郷9社の「灘の生一本」シリーズはこちら
「生一本」をあえて今謳う日本酒銘柄
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「生一本」に込められた思い
「生一本」の意味する「ひとつの蔵元で造る純米酒」が当たり前になった現在では、わざわざ「生一本」と表示する必要はないかもしれません。それでもなお「混じりけなし」「本物へのこだわり」などの意味を込めて「生一本」を謳う日本酒もあります。
そのなかから、代表的な銘柄を紹介しましょう。
【真澄(ますみ) 純米吟醸 辛口生一本:宮坂醸造(長野県)】
「真澄」を醸す宮坂醸造は、長野県信州諏訪の老舗で、7号酵母の発祥蔵としても有名な蔵元です。「真澄 純米吟醸 辛口生一本」は、長野大社のご宝物「真澄の鏡」の名を掲げた「真澄」シリーズの大黒柱で、国内外で高い評価を得ています。
【浦霞(うらかすみ) 特別純米酒 生一本:株式会社佐浦(宮城県)】
13代続く宮城県塩釜市の老舗蔵、佐浦は、全国的にもその名を知られる「浦霞」の醸造元です。宮城県産ササニシキを100%使用した「特別純米 生一本」は、「浦霞」のなかでもとくにゴージャスな金色ラベルの1本です。
【夜明け前(よあけまえ) 純米吟醸 生一本:小野酒造店(長野県)】
「夜明け前 生一本」を造る長野県の小野酒造、その創業は幕末1864年。5代目からはじまった島崎藤村の名作「夜明け前」の名を冠した日本酒造りは、その名に恥じない“本物を追求する精神”“味にこだわる”ことを大事にしてきました。「純米吟醸 生一本」は「夜明け前」を代表する、人気No.1の1本です。
「生一本」について紹介してきました。今では使うことが少なくなった「生一本」という言葉ですが、表示している日本酒があれば、その蔵元の自社ブランドへのこだわりの強さがわかるといえそうです。