東京『割烹 小田島』/和食とワインのマリアージュ!その極意をパイオニアに学ぶ
2013年に『和食;日本人の伝統的な食文化』がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、世界において和食はスタンダードに。和食にワインを合わせる光景も決して珍しくなくなってきました。でも実際どのように合わせたらよいのか?その極意を和食とワインのペアリングの先駆者である『割烹 小田島』さんに教えていただきます。
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40年以上、和食にワインを組み合せてきた老舗割烹
メニューはその日のおまかせのみ。“ムッシュ”ことオーナーシェフの小田島稔さん直筆の献立がカウンターの上に掲げられます。
賑やかなイメージの強い東京・六本木ですが、その喧騒から少し離れた閑静な場所で営む『割烹 小田島』。今回ご指南役をお願いしたお店です。 “ムッシュ”の愛称で家族はもちろん常連客からも親しみを込めて呼ばれているのが、主の小田島稔さん。1969年から3年間フランス・パリの和食料理店に入店。板前として腕を振うかたわら、ワインの勉強をされたそうです。
帰国した後に元麻布で割烹を開店。フランスで培ったワインの知識と経験を活かし、和食とワインのペアリングをスタートさせました。現在のお店に至るまで実に40年以上、和食とワインのマリアージュの世界を発信してきた計算になります。
40年前の日本のアルコールといえば、まだまだ日本酒オンリーの時代。どうして和食にワインを合わせようとされたのでしょうか? ムッシュ曰く、「パリで和食とワインの相性に気づきました。和食の味付けは柔らかいのが特徴で、ワインも優しい味わいものが多い。ワインと合わない和食はないと考えています」。
ランチョンマットはすべてムッシュの絵心があふれたもの。もちろん同じものはありません。
まるでギャラリーのような店内で、和食×ワインを味わうことができます。
メニューは日替わりのおまかせコース(8000円)のみ。ワインペアリングをオーダーすれば、それぞれの料理に合わせたワインをサーブしてくれます。現在ワインのセレクトを担当しているのは長男の大祐さんで、ムッシュとともにご指南役を務めていただきました。
29歳でイタリア・プーリア州、30歳でフランス・ブルゴーニュ地方と世界でワインを学んできた大祐さん。お店で扱う常時400種類以上のワインを管理しながら、ムッシュの和食をベースとした料理に合わせるワインを選んでいるのです。
ムッシュと大祐さん親子による軽快なトークも、『割烹 小田島』に欠かせないもの。
料理との相性をイメージしながら、テイスティングを重ねる大祐さん。
さて、ここから先は家庭でも手軽にワインと和食を楽しめるヒントになる組み合わせを、ムッシュの料理に大祐さんがワインを合わせる形で紹介。その基本となるのは4パターンだそうで、「“中和”“同調”“テクスチャー”“補完”という4つの方向性で考えると大変わかりやすいと思います」と大祐さん。ちなみに今回は家庭でも再現しやすいような料理をご用意いただき、ワインはポピュラーな品種を中心に選んでもらいました。
【中和】鶏のささみ和え×ピノ・ノワール
お互いの個性を“中和”するマリアージュ。
ひと品目は料理とワイン、それぞれの持つ個性を一緒にいただくことで中和させ、全体の味わいのバランスを取っていくタイプのペアリングです。用意された料理は『鶏のささみ和え』。「茹でたささみを解したところに、やはり茹でたキャベツと叩いた梅肉を和えて、醤油で味を調えています」(ムッシュ)。
ささみの代わりに、流行のサラダチキンを使うととても手軽に。
仕上げに散らした海苔も、とても大切なポイントです。
こちらに合わせたワインは、赤ワインで、品種はピノ・ノワールです。「梅肉の際立つ酸味と茹でたキャベツの甘味を、ピノ・ノワールの穏やかな酸味と心地よい苦味を感じるタンニンが中和して、全体の味わいが昇華します」。ちぎった海苔のヨードのような香りとミネラル感が土っぽいニュアンスのワインと重なることで、味わいに膨らみももたらされていました。
「フランス・ブルゴーニュ地方のピノ・ノワールを用いました。果実味が強いタイプよりは、冷涼なエリアで醸されたような、淡い色のピノ・ノワールで合わせるのがおすすめですね」。
【同調】ずわいがに白和え×シャルドネ
料理の味わいとワインを“同調”させるマリアージュ。
続いては“同調”。料理の食材や用いた調味料に共通する要素を持つワインを選びことで、味わいの特徴をより引き立たせていきます。『ずわいがにの白和え』は、豆腐とかにの持つほんのりとした甘味に、「ペースト状に崩した豆腐のクリーミーさに、散らした胡麻の香ばしさがアクセント」になっています。
冷製の料理なので、スピーディーに身を解していきます。
最後に振った煎り胡麻にも、もちろん意図があります。
同じ味わいの方向性を持つという視点で大祐さんがチョイスしたのは、シャルドネ種の白ワインです。「シャルドネといっても、シャブリのようにシャープなタイプではなく、しっかり木樽で熟成したものが合いますね。豊かな果実味は料理の甘味とぴったり。マロラクティック発酵が行われていることが多く、そこに起因するクリーミーさは白和えの口当たりと重なります」。さらに煎った胡麻ならではの香ばしさは、木樽からワインに移ったスモーキーな印象と同調。隙を見つけるのが難しいパーフェクトな組み合わせといえそうです。
「こちらもピノ・ノワール同様ブルゴーニュですが、スーパーなどでリーズナブルに買えるシャルドネで十分です。樽の効いた色味が強めのワインを選んでください」。
【テクスチャー】旨味カキフライ×シャンパーニュ
共通した“食感”で合わせるマリアージュ。
「“テクスチャー”という言葉はちょっとわかりづらいかも知れませんが、食感、質感、舌触りといった言葉を総称するものとイメージしてください」と大祐さん。登場した料理は、『旨味カキフライ』。「カキはさっと熱湯をかけ霜降りにした後、海水濃度の塩水につけることで旨味を閉じ込めています」(ムッシュ)。このひと手間で味にコクが増すようです。
高めの温度でカリッと揚げるのがコツ。
ソースでなく塩でいただくのも、マリアージュのため。
フライならではのサクサクとしたクリスピーなテクスチャーには、「口の中で細かく泡が弾けるシャンパーニュ」ですね。互いのパチパチっとした感じがポイントなので、衣がしっとりしてしまうソースではなく塩を添えると聞いて納得。ちなみに瓶内二次発酵で旨味成分の多いシャンパーニュとは、旨味という点では“同調”。より絆の強いマリアージュとなっています。
「もちろんシャンパーニュでなく、スパークリングワインでもOK。旨味でも合わせたいなら、スペインのカバやフランスのクレマンといった瓶内二次発酵タイプにしましょう」。
【補完】フォワグラ大根×貴腐ワイン
料理をワインが“補う”マリアージュ。
料理に用いた食材や調味料にはない味わいの要素を、ワインで “補完”。「焼き魚にレモンを添える代わりに、柑橘系の香りのあるワインを合わせるといったイメージです」と大祐さん。ここまでは家庭で作りやすい料理でお願いしてきたのですが、やはり最後は『割烹 小田島』のスペシャリテ『フォワグラ大根』で。フライパンでソテーしたフォワグラと付け合せのアスパラガスを盛り付けたところに、かつおと昆布の一番出汁を注いで仕上げます。
淡いゴールドの出汁を静かに注ぎます。
フォワグラのねっとりとした食感が持ち味。
「当店の定番で、フランス・ボルドー地方ソーテルヌ地区の貴腐ワインをペアリングしています」。貴腐ワインとは完熟したブドウにカビが付着して腐ることで水分が抜け、より糖度の高まった貴腐ブドウを醸した甘口ワイン。フランスなどではフォワグラに甘味を補うために蜂蜜ソースを添えることがあるのですが、ここではソースの代わりに甘口ワインを合わせることで、味わいを完成させているのです。
「高価なソーテルヌでなくても、甘口のデザートワインなら大丈夫です。ただ出汁との相性を考えればタンニンやポリフェノールのある赤ワインは避け、白の甘口ワインを選ぶのが賢明ですね」。
以上4つのパターンでご紹介させていただきましたが、いかがでしょう。ちなみに、ムッシュと大祐さんはワインペアリングをテーマに『割烹 小田島流 ワインがすすむ やせつまみ』(誠文堂新光社)なる本も出されています。今回興味を持たれた方は求めてみては。少し知恵を絞るだけで、ワインと料理が引き立てあっていっそう美味しくなる――ぜひ自宅でも和食とワインのマリアージュにトライしてみてください。
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